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ヒロインよ、王太子ルートを選べ!~結婚編~
悪役令嬢は婚約者と対峙する②
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王宮に入り、控室をお借りして身支度をととのえます。
アランによると王妃様はかなり容体が安定してきて、数日後に控えた誕生日パーティーにも参加できそうなご様子だそうです。
お優しい王妃様。新年のご挨拶の時に目の前で倒れられてからずっと心配していたので、お元気になられたと聞いて一安心です。看病をなさっていた国王陛下も少しずつ公務に戻られているんだとか。
そしていよいよ五カ月ぶりのレオ様との再会。少し前までは、会いたくて会いたくてたまらなかったレオ様。
でも、今は会える嬉しさよりも、怖さの方が大きい。拒絶されたらどうしよう、冷たい目で見られたらどうしよう、側妃の方とご一緒にいらっしゃったらどうしよう。
いいえ、コレット。どんな状況でも強くあるのが悪役令嬢よ。
私の不安な気持ちがレオ様に伝わってしまったら、レオ様が思い切り断罪できないものね。
部屋に通されて、レオ様の到着を待ちます。
しばらくすると、バタバタという大きな足音が聞こえ、ノックもなしに部屋の扉が大きく開きました。
「……コレット!」
五カ月ぶりのレオ様です。
公務がよほどお忙しかったのか、少し顔が痩せてしまったような……? 目の下のクマもひどいです。レオ様の頬に触れたい気持ちを押さえて、私はその場でカーテシー。私に近づいて触れようとしたレオ様が驚いて、伸ばした手の動きを止めます。
「ご無沙汰しています、殿下」
「殿下って……コレット、エアトンで大変な目にあったと聞いた。大丈夫か? ケガはないか?」
距離を狭めてくるレオ様から一歩引き、私は悪役令嬢らしい完璧な笑顔で返します。
「ご心配には及びません。アランが助けてくれましたので」
私の態度に困惑したのか、二人の間にしばらく沈黙が流れます。レオ様が人払いをし、二人でテーブルに付きました。
「えっと……何から話せばいいかな。まずは、最近コレットと会う時間が取れなくて申し訳なかった。心配をかけたが母上もやっと体調がよくなってきて、陛下も公務に戻るから。これからは時間ができると思う」
私は無言で頷き、笑顔を返します。
「その態度は……もしかしてアランから聞いた事を気にしてる?」
「アランから話は聞きましたが、特に気にしておりません」
「……懐妊のことも知っているのか?」
「……はい、存じております」
よく存じております。週一のお通い妻、チョメ令嬢のことを。
私は持ってきていたプレゼントの包みをレオ様に渡します。エアトンで作ったレオ様の誕生日プレゼントのハンカチと、赤ちゃん用の手ぶくろと帽子の入った包み。
「少し早いですが、殿下への誕生日のお祝いと、生まれてくるお子様への贈り物です」
別に、爆発物や毒薬が入っているわけではないのでご安心くださいね。いくら悪役令嬢だからと言って、嫉妬に狂って心中したりは致しませんよ。ちゃんとレオ様の幸せを想って、心をこめて作ったものです。
レオ様はその場で深々と頭を下げます。王太子ともあろうお方が、なぜただの悪役令嬢に頭を下げるのですか?
「こんな素敵なものを……ありがとう……そして、すまなかった! 本当は俺の家族の事なんだから、直接俺からコレットに言うべきだった。噂で聞くなんて、嫌な思いをしただろう。本当に申し訳なかった」
……二コリ。私は再び笑顔で返します。
「コレット……怒っているのか?」
「怒っているか……ですって? 私に怒る権利などございません。王家の皆様のご繁栄につながるならば、私にとっても吉報でございます」
「そうか……そう言ってくれると俺も救われる。確かに王家の血筋の事を考えれば、良い話でしかないと思う。ただ、国民の反応はそうもいかない。俺も、ちょっと恥ずかしくてしばらく外を歩けないかもしれないと思った……」
恥ずかしくて外を歩けない? それはこちらのセリフです。十三年も婚約していたにも関わらず、正式な婚約者よりも先に側妃と子を為されてしまった私の身にもなってください。
今更ながら、ディラン様の言葉が私の心をえぐるのです。
ーー『昨日の晩に側妃を抱いた腕で抱かれる自分を想像してよ』
目の前にいるレオ様のあの腕、あの手、あの指が、私以外の女性に触れたのかと想像して、思わず私はレオ様から目を逸らします。
「懐妊のことは、俺の誕生日パーティーで発表しようと思っている。それと……俺とコレットのことも……発表するけど、大丈夫か?」
ああ、やっぱり。
レオ様の誕生日パーティーが私の断罪の場。側妃の懐妊と、私との婚約破棄を同時に発表するのですね。
「……分かりました。私の、その後のことも考えて頂いているのですよね?」
「……ちゃんと考えてる。コレット、本当に長い間婚約者のままで引き留めてしまってすまなかった」
「……いいえ」
「今まで本当にありがとう」
「……いいえ」
「……ごめん、エアトンから戻ったばかりで疲れてるよな? 明後日、王宮で待ってるから。ゆっくり休んで」
私は無表情のままで一礼し、レオ様とお話した部屋を後にします。
まだです、まだ泣いてはいけません。
私の本番の舞台はこれから。パーティーの場での断罪なのですから。
アランによると王妃様はかなり容体が安定してきて、数日後に控えた誕生日パーティーにも参加できそうなご様子だそうです。
お優しい王妃様。新年のご挨拶の時に目の前で倒れられてからずっと心配していたので、お元気になられたと聞いて一安心です。看病をなさっていた国王陛下も少しずつ公務に戻られているんだとか。
そしていよいよ五カ月ぶりのレオ様との再会。少し前までは、会いたくて会いたくてたまらなかったレオ様。
でも、今は会える嬉しさよりも、怖さの方が大きい。拒絶されたらどうしよう、冷たい目で見られたらどうしよう、側妃の方とご一緒にいらっしゃったらどうしよう。
いいえ、コレット。どんな状況でも強くあるのが悪役令嬢よ。
私の不安な気持ちがレオ様に伝わってしまったら、レオ様が思い切り断罪できないものね。
部屋に通されて、レオ様の到着を待ちます。
しばらくすると、バタバタという大きな足音が聞こえ、ノックもなしに部屋の扉が大きく開きました。
「……コレット!」
五カ月ぶりのレオ様です。
公務がよほどお忙しかったのか、少し顔が痩せてしまったような……? 目の下のクマもひどいです。レオ様の頬に触れたい気持ちを押さえて、私はその場でカーテシー。私に近づいて触れようとしたレオ様が驚いて、伸ばした手の動きを止めます。
「ご無沙汰しています、殿下」
「殿下って……コレット、エアトンで大変な目にあったと聞いた。大丈夫か? ケガはないか?」
距離を狭めてくるレオ様から一歩引き、私は悪役令嬢らしい完璧な笑顔で返します。
「ご心配には及びません。アランが助けてくれましたので」
私の態度に困惑したのか、二人の間にしばらく沈黙が流れます。レオ様が人払いをし、二人でテーブルに付きました。
「えっと……何から話せばいいかな。まずは、最近コレットと会う時間が取れなくて申し訳なかった。心配をかけたが母上もやっと体調がよくなってきて、陛下も公務に戻るから。これからは時間ができると思う」
私は無言で頷き、笑顔を返します。
「その態度は……もしかしてアランから聞いた事を気にしてる?」
「アランから話は聞きましたが、特に気にしておりません」
「……懐妊のことも知っているのか?」
「……はい、存じております」
よく存じております。週一のお通い妻、チョメ令嬢のことを。
私は持ってきていたプレゼントの包みをレオ様に渡します。エアトンで作ったレオ様の誕生日プレゼントのハンカチと、赤ちゃん用の手ぶくろと帽子の入った包み。
「少し早いですが、殿下への誕生日のお祝いと、生まれてくるお子様への贈り物です」
別に、爆発物や毒薬が入っているわけではないのでご安心くださいね。いくら悪役令嬢だからと言って、嫉妬に狂って心中したりは致しませんよ。ちゃんとレオ様の幸せを想って、心をこめて作ったものです。
レオ様はその場で深々と頭を下げます。王太子ともあろうお方が、なぜただの悪役令嬢に頭を下げるのですか?
「こんな素敵なものを……ありがとう……そして、すまなかった! 本当は俺の家族の事なんだから、直接俺からコレットに言うべきだった。噂で聞くなんて、嫌な思いをしただろう。本当に申し訳なかった」
……二コリ。私は再び笑顔で返します。
「コレット……怒っているのか?」
「怒っているか……ですって? 私に怒る権利などございません。王家の皆様のご繁栄につながるならば、私にとっても吉報でございます」
「そうか……そう言ってくれると俺も救われる。確かに王家の血筋の事を考えれば、良い話でしかないと思う。ただ、国民の反応はそうもいかない。俺も、ちょっと恥ずかしくてしばらく外を歩けないかもしれないと思った……」
恥ずかしくて外を歩けない? それはこちらのセリフです。十三年も婚約していたにも関わらず、正式な婚約者よりも先に側妃と子を為されてしまった私の身にもなってください。
今更ながら、ディラン様の言葉が私の心をえぐるのです。
ーー『昨日の晩に側妃を抱いた腕で抱かれる自分を想像してよ』
目の前にいるレオ様のあの腕、あの手、あの指が、私以外の女性に触れたのかと想像して、思わず私はレオ様から目を逸らします。
「懐妊のことは、俺の誕生日パーティーで発表しようと思っている。それと……俺とコレットのことも……発表するけど、大丈夫か?」
ああ、やっぱり。
レオ様の誕生日パーティーが私の断罪の場。側妃の懐妊と、私との婚約破棄を同時に発表するのですね。
「……分かりました。私の、その後のことも考えて頂いているのですよね?」
「……ちゃんと考えてる。コレット、本当に長い間婚約者のままで引き留めてしまってすまなかった」
「……いいえ」
「今まで本当にありがとう」
「……いいえ」
「……ごめん、エアトンから戻ったばかりで疲れてるよな? 明後日、王宮で待ってるから。ゆっくり休んで」
私は無表情のままで一礼し、レオ様とお話した部屋を後にします。
まだです、まだ泣いてはいけません。
私の本番の舞台はこれから。パーティーの場での断罪なのですから。
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