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第一章 再会、そして日常
2.再会-2
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ソータの家はおひとり様用1Kで、二人が入るだけで既に狭く感じる。
「よく補導されなかったな」
「そんなヘマはしないって」
吸血鬼は総じて若々しいものだが、特にレオは高校生、なんなら中学生でも通用しそうなほど幼い容姿をしている。同い年のソータは二十歳くらいに見られることが多く、それでも同年代に比べれば若々しい方だ。ソータは勝手にベッドの上に寝転がったレオを一旦放置して、タバコの吸い殻を水で濡らして二重のビニール袋で縛りベランダに放り出した。それからレオの服もはぎとる。それに素直に従ったレオが少し面白そうに言う。
「えー、そんなに臭う?」
「当たり前だ。 分かってやってるだろ」
図星なのかケラケラと笑ったレオはそのまま浴室に蹴られて入っていった。
吸血鬼は人間よりも五感が優れているものだが、ソータは嗅覚が、レオは聴覚が吸血鬼仲間と付き合う上でも不便なまでに突出している。一人暮らし用の狭い脱衣場で、ソータはスラックスの後ろポケットに入っていたタバコの空き箱を抜き出してから値段は気にせず洗濯機に投げ込む。浴室からシャワーの音が聞こえ始めたがソータは構わず声をかけた。十分に小さい声だった。
「元気だったか」
『それさっき俺が聞いたやつ!!』
浴室でレオが声を張る。ソータは洗濯機に体を預けながらすり加工の入った扉越しに中をぼんやりと眺めて、質問の返事を待つ。その手が洗濯機のボタンに触れてピッと鳴った。
『……さすがにこんな辺境地にいるお前でも聞いてるだろ。 オウサマのご乱心』
「ああ」
『ああって、お前』
レオがシャワーを止めたかと思えば浴室の扉を少しだけ開けて顔を出す。その髪から雫が垂れていくので、ソータはなんとなくそれを右手の手のひらで受け止めた。
「お前髪どうしたんだ」
レオの長い髪の美しさはアカデミーで知らないものはいなかったが、今は自分でナイフでも使って切ったかのように不ぞろいで不格好な頭をしている。永く生きる吸血鬼にとって髪の長さはその生きた年数と力を誇示するための象徴となっていて、ソータのように短く切りそろえている者は少数派だ。
アカデミーでの思い出に少し思いを馳せ、振り切るように現実に戻ってくるとソータはレオと目が合った。そうしたらレオの口は堰が外れたかのように動き出す。
「お前、なんで日本になんか住んでんの? しかもさ、なんか人間みたいに働いて、飯なんて買ってさ」
レオの目は責めているようにも、懇願しているようにも見えた。だから、ソータはその手のひらに溜まった雫をその目にめがけてパッパッと飛ばした。
「んアッ!」
「さっさと洗って出てこい。 それからだ話は」
口を尖らせたレオの頭をソータが掴み、有無を言わせず浴室へと押し戻す。一瞬ソータの指がレオの頬をなぞるように滑って、少しだけ時の流れが揺らいだけれど、レオの視界が開けたときにはもうソータは目の前にいなかった。
「よく補導されなかったな」
「そんなヘマはしないって」
吸血鬼は総じて若々しいものだが、特にレオは高校生、なんなら中学生でも通用しそうなほど幼い容姿をしている。同い年のソータは二十歳くらいに見られることが多く、それでも同年代に比べれば若々しい方だ。ソータは勝手にベッドの上に寝転がったレオを一旦放置して、タバコの吸い殻を水で濡らして二重のビニール袋で縛りベランダに放り出した。それからレオの服もはぎとる。それに素直に従ったレオが少し面白そうに言う。
「えー、そんなに臭う?」
「当たり前だ。 分かってやってるだろ」
図星なのかケラケラと笑ったレオはそのまま浴室に蹴られて入っていった。
吸血鬼は人間よりも五感が優れているものだが、ソータは嗅覚が、レオは聴覚が吸血鬼仲間と付き合う上でも不便なまでに突出している。一人暮らし用の狭い脱衣場で、ソータはスラックスの後ろポケットに入っていたタバコの空き箱を抜き出してから値段は気にせず洗濯機に投げ込む。浴室からシャワーの音が聞こえ始めたがソータは構わず声をかけた。十分に小さい声だった。
「元気だったか」
『それさっき俺が聞いたやつ!!』
浴室でレオが声を張る。ソータは洗濯機に体を預けながらすり加工の入った扉越しに中をぼんやりと眺めて、質問の返事を待つ。その手が洗濯機のボタンに触れてピッと鳴った。
『……さすがにこんな辺境地にいるお前でも聞いてるだろ。 オウサマのご乱心』
「ああ」
『ああって、お前』
レオがシャワーを止めたかと思えば浴室の扉を少しだけ開けて顔を出す。その髪から雫が垂れていくので、ソータはなんとなくそれを右手の手のひらで受け止めた。
「お前髪どうしたんだ」
レオの長い髪の美しさはアカデミーで知らないものはいなかったが、今は自分でナイフでも使って切ったかのように不ぞろいで不格好な頭をしている。永く生きる吸血鬼にとって髪の長さはその生きた年数と力を誇示するための象徴となっていて、ソータのように短く切りそろえている者は少数派だ。
アカデミーでの思い出に少し思いを馳せ、振り切るように現実に戻ってくるとソータはレオと目が合った。そうしたらレオの口は堰が外れたかのように動き出す。
「お前、なんで日本になんか住んでんの? しかもさ、なんか人間みたいに働いて、飯なんて買ってさ」
レオの目は責めているようにも、懇願しているようにも見えた。だから、ソータはその手のひらに溜まった雫をその目にめがけてパッパッと飛ばした。
「んアッ!」
「さっさと洗って出てこい。 それからだ話は」
口を尖らせたレオの頭をソータが掴み、有無を言わせず浴室へと押し戻す。一瞬ソータの指がレオの頬をなぞるように滑って、少しだけ時の流れが揺らいだけれど、レオの視界が開けたときにはもうソータは目の前にいなかった。
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