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変怪

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その夜、教えてもらった宿に泊まったがカメリアはなかなか寝付けなかった。

「ヘルム様……」

愛する人との別れを思い出してしまい、涙が溢れてきた。

「……大丈夫か?」

横になっているとサリサが声をかけてくれた。

「ええ……すいません……」

泣き顔を見られたくなくて布団を頭から被った。

「あたい達、帰るために遠回りしてるよな」

「…………」

「でも、あのとんでもねー病院から逃げ出せたんだぜ。洞窟のこともなんとかなるって!元気だせよ!」

「……でも住んでいる人達が洞窟を捨てるほどに強力な魔物と戦えるでしょうか?」

「そ、それは分かんねーけどさぁ」

一度は酒場を出たもののもう一度酒場に戻ってバーテンダーを問いただすと本当はもっと前から産卵は始まっていて、すでに魔物は羽化しており魔物の幼体によって洞窟はじわじわと征服が始まりだしていた。
運が悪いことに羽化後の幼体を食べる強い魔物が集まっており、今は魔物同士で食い合いが始まっている状態。
ココは魔物たちがいる場所と真反対のため魔物達がたどり着くまで時間がかかっていた。残っている住人は強い魔物達が洞窟の中央に来た時に洞窟を潰して魔物達とともに埋まる覚悟をした者だけだった。

『対抗手段がないからって被害を最小限にするため洞窟を爆破して埋まるなんて馬鹿みたいだろ。でも俺達みたいな奴は他所で生きていけないんだ。ここで生まれてここで死ぬ。ちょっと死ぬ日が早まっただけさ』
四人に事情を話すと男は自嘲気味に笑っていた。

「でもあたいらは巫女だし、すげー力を持ってるしよ。その辺りの魔物はあたいらにビビって襲って来ないし、敵は盗賊とか人間くらいっていうのも変だけどよ。まあ、そんな感じで上手くいくって」

「……もしかして洞窟の魔物達が私達を恐れて逃げるとおっしゃりたいのですね?」

「そうそう。魔物が怖がってくれたら洞窟を潰さないでいいから皆も死ななくていいだろ」

以前、夢の中で会った最強の生物だと名乗っていた白ドラゴンはサリサを避け会いたがろうとしなかった。カメリハは自分も魔物に恐れられるレベルの存在だと理解しているが、サリサは自分には持っていない魔物が嫌う別の要素をもっているのかもしれないと思った。

「……案外、貴方が一番恐ろしい存在なのかもしれませんね」

「は?なんだよそれ。」

カメリアはサリサを褒めたつもりだったが彼女は頬を膨らませて機嫌を悪くした。

「……ふふっ、冗談ですよ。サリサさんの言う通りですね。洞窟の魔物達が恐がって出ていってくれれば私達は通れますもの」

「だろ?へへん」

サリサの笑顔を見てカメリアも微笑み返した。
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