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ヒーラーの手
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翌日、翌々日と指名する依頼の数が増え、指名でのヒールを頼まれるのは稼ぎが必要な今はありがたいものの現場に行くと最初に予定していた人数が終わるころに実際に何人したか数えてみれば人数が増えていたりする。
ヒールをかけて終わりならいいのだが、
「ありがとねー。これ、うちの野菜なんだけど」
とわざわざ家にとりに帰ってお礼を渡してくれる人も現れ、両手で抱えなくてはいけない「ビッグキャベツ」などは持ち帰るのに難儀をした。
さらにまったく関係のない話に発展することが多かった。
「体だけじゃなくて家系も癒してくれる魔法無いかしら」
「うちの娘は結婚相手を見つけるのに困ってんだよ。ちょちょいって魔法で鼻を高くして美人にしてやってくんない?」
と相談されてもカメリアは答えることはできないのだ。美容の方は肌を良くしたり、脂肪を減らす助けになるマッサージはヴィーナスの経験があるものの顔の造形を変えることはできない。
しかしカメリアもせっかく依頼してくれたのだから、少しでも役に立てないかと考えてしまい、一日が終わると精神的に疲れてしまった。
サリサの方は列の整理や待ち時間に起きた喧嘩の仲裁などであっちこっちを駆け回り、いくら体力自慢とはいえ彼女はベッドに入るとすぐに眠るほどだった。
四日目が終わり、宿に戻ったカメリアとサリサ。
「明日の予定ですけど依頼はお断りして、ギルドで今日一日の報酬をもらったら装備を整えましょう」
カメリアはやっとガストラが心配した意味が分かり、親切からなんでも気軽に受けてはいけないと今回のことで学んだ。
「町の頼みを聞いていたらいつまでもキリがない。それにおれ達の目的は聖樹を植えること。最初の木を植えないと先に進めない」
「だなぁ。あたいも列整理とか気を使ってヘトヘトだよ。もう木を植えて次に行こうぜ」
「今日のお二人の帰りに怪しい者が跡をつけてきましたし、安全を優先するのがよろしいかと」
カメリアはツキカゲの言葉に何か違和感を感じたのだが、それがハッキリせずすぐに忘れてしまった。
カメリアとサリサは早々に食堂から部屋に戻ってベッドに入り、ガストラとツキカゲは食堂に残って話をしていた。
「本当に育ちが良い二人だな。優しくて、おれみたいなのでも疑いなく助けちまうくらいだもんな」
「サリサさんのことは詳しく分かりませんが、カメリア様は女姉妹で父君も声を荒げるような方ではありませんでした。この旅で世間を知る良き機会なので見守るようにと強く言われました。しばらくは私達が守るべきでしょう」
ツキカゲは自分よりカメリアと長く見守ってきたダリアの言葉を口にした。そして今まで見聞きした主人の姿を思い出す。
カメリアが同年代の親族達と金銭バトルをしているときも正直に申告をしたり、平民の友人と仕事をしたりと貴族らしくない姿ばかりだ。当時は言葉を習いたてで分からなかったが、言葉が分からない分、自分と意思疎通をしようとして何度も同じ動作をしたり、家計を助けるため働く様子から実直で信用できる人間だと思っていた。ただ、そこが悪い面でもあり、適当にあしらえばいいところまで真面目に考えたり、人を助けようとする。その性格から今回のように損をすることもあるだろうが、刀を下賜されたあの日から彼はカメリアを主人としている。何があろうと守るつもりだった。
「だけどおれもツキカゲも強さで言えば見習いだ。俺たちより強い奴がでたときが怖い」
ギルドで受けた仕事の合間にカメリア達の様子を見ていた二人。噂になっている力を見るためだろうが、ツキカゲとガストラ以外にも冒険者らしき者や見るからに不審な者もいた。そんな状況でもカメリアが無事に宿に帰れているのはサリサがいるからだ。彼女もカメリアと同じく良い意味で純粋だ。
「ですが戦闘経験がないサリサさんが喧嘩を止めようとする方法が人を殴るという手段なので、人が青空に飛んでいく光景を見て誰も声をかけようとしませんでしたね」
感情表現がはっきりしているため喧嘩になると仲裁しようとしているサリサが誰より手が早い。殴られた人はカメリアがヒールをかけ、集まっていた農民の結束的な空気で喧嘩した者達に圧がかかりその場は収まってしまった。
「でもカメリアもサリサも自分達が危ないことも狙われていることも自覚がなさそうだ。やっぱり危ない」
「私もこの国の言葉が急にしっかりと分かるようになりだしましたが、曖昧な部分も多いです。言葉が分からないこともあります。ただカメリア様のために刀を振るうことしかできません」
「おれは呪いが解けたらそれで良い。でも、カメリア達はおれを森から出してくれたから恩がある。だから皆の傍にいる。そうすればきっとあいつらも変なことはしない」
「私一人では外見で侮られるので、呪いのせいでそのお姿になっている方に失礼ではあるのですが助かっております」
「へへ、これでこの姿でも良かったことがもう三つもできた」
「良いことがみっつですか」
「ああ、森を出れたことと仲間ができたこと。あと森にいる間、のめなかった酒が飲める」
ガストラはグッと一気に酒を煽った。
ヒールをかけて終わりならいいのだが、
「ありがとねー。これ、うちの野菜なんだけど」
とわざわざ家にとりに帰ってお礼を渡してくれる人も現れ、両手で抱えなくてはいけない「ビッグキャベツ」などは持ち帰るのに難儀をした。
さらにまったく関係のない話に発展することが多かった。
「体だけじゃなくて家系も癒してくれる魔法無いかしら」
「うちの娘は結婚相手を見つけるのに困ってんだよ。ちょちょいって魔法で鼻を高くして美人にしてやってくんない?」
と相談されてもカメリアは答えることはできないのだ。美容の方は肌を良くしたり、脂肪を減らす助けになるマッサージはヴィーナスの経験があるものの顔の造形を変えることはできない。
しかしカメリアもせっかく依頼してくれたのだから、少しでも役に立てないかと考えてしまい、一日が終わると精神的に疲れてしまった。
サリサの方は列の整理や待ち時間に起きた喧嘩の仲裁などであっちこっちを駆け回り、いくら体力自慢とはいえ彼女はベッドに入るとすぐに眠るほどだった。
四日目が終わり、宿に戻ったカメリアとサリサ。
「明日の予定ですけど依頼はお断りして、ギルドで今日一日の報酬をもらったら装備を整えましょう」
カメリアはやっとガストラが心配した意味が分かり、親切からなんでも気軽に受けてはいけないと今回のことで学んだ。
「町の頼みを聞いていたらいつまでもキリがない。それにおれ達の目的は聖樹を植えること。最初の木を植えないと先に進めない」
「だなぁ。あたいも列整理とか気を使ってヘトヘトだよ。もう木を植えて次に行こうぜ」
「今日のお二人の帰りに怪しい者が跡をつけてきましたし、安全を優先するのがよろしいかと」
カメリアはツキカゲの言葉に何か違和感を感じたのだが、それがハッキリせずすぐに忘れてしまった。
カメリアとサリサは早々に食堂から部屋に戻ってベッドに入り、ガストラとツキカゲは食堂に残って話をしていた。
「本当に育ちが良い二人だな。優しくて、おれみたいなのでも疑いなく助けちまうくらいだもんな」
「サリサさんのことは詳しく分かりませんが、カメリア様は女姉妹で父君も声を荒げるような方ではありませんでした。この旅で世間を知る良き機会なので見守るようにと強く言われました。しばらくは私達が守るべきでしょう」
ツキカゲは自分よりカメリアと長く見守ってきたダリアの言葉を口にした。そして今まで見聞きした主人の姿を思い出す。
カメリアが同年代の親族達と金銭バトルをしているときも正直に申告をしたり、平民の友人と仕事をしたりと貴族らしくない姿ばかりだ。当時は言葉を習いたてで分からなかったが、言葉が分からない分、自分と意思疎通をしようとして何度も同じ動作をしたり、家計を助けるため働く様子から実直で信用できる人間だと思っていた。ただ、そこが悪い面でもあり、適当にあしらえばいいところまで真面目に考えたり、人を助けようとする。その性格から今回のように損をすることもあるだろうが、刀を下賜されたあの日から彼はカメリアを主人としている。何があろうと守るつもりだった。
「だけどおれもツキカゲも強さで言えば見習いだ。俺たちより強い奴がでたときが怖い」
ギルドで受けた仕事の合間にカメリア達の様子を見ていた二人。噂になっている力を見るためだろうが、ツキカゲとガストラ以外にも冒険者らしき者や見るからに不審な者もいた。そんな状況でもカメリアが無事に宿に帰れているのはサリサがいるからだ。彼女もカメリアと同じく良い意味で純粋だ。
「ですが戦闘経験がないサリサさんが喧嘩を止めようとする方法が人を殴るという手段なので、人が青空に飛んでいく光景を見て誰も声をかけようとしませんでしたね」
感情表現がはっきりしているため喧嘩になると仲裁しようとしているサリサが誰より手が早い。殴られた人はカメリアがヒールをかけ、集まっていた農民の結束的な空気で喧嘩した者達に圧がかかりその場は収まってしまった。
「でもカメリアもサリサも自分達が危ないことも狙われていることも自覚がなさそうだ。やっぱり危ない」
「私もこの国の言葉が急にしっかりと分かるようになりだしましたが、曖昧な部分も多いです。言葉が分からないこともあります。ただカメリア様のために刀を振るうことしかできません」
「おれは呪いが解けたらそれで良い。でも、カメリア達はおれを森から出してくれたから恩がある。だから皆の傍にいる。そうすればきっとあいつらも変なことはしない」
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「へへ、これでこの姿でも良かったことがもう三つもできた」
「良いことがみっつですか」
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ガストラはグッと一気に酒を煽った。
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