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飛び立つ時

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「よし、スライムだ。二人とも頑張れよー」

エイトの声にハイビビスとテン、カメリアとサリサが馬車から降りた。

「おっしゃ、あたいもズバーンって切り倒すぞ!」

「私も頑張ります」

二人とも口では強気だ。しかしカメリアは手が出るような喧嘩は妹とすら何年もしたことがない。サリサの方は口が悪いし、力も強く手が出るのも早いがモンスターと戦うの初めてだ。
それぞれ武器を握る手に汗をかいていた。だが、それ以上に汗をかいていたのは対峙したスライムの方だろう。
モンスターが本能的に感じるLV999の力。一人はホワイトドラゴンの魔力を帯びた体。もう一人はそれを打ち倒す力を持つであろう女。

(こいつら……やべぇ)と人間の言葉が喋れていたらスライムは言っていただろう。

さすがにそこまでは分からなくとも何かしら危険を感じるのは間違いない。だが逃げようとしても後衛の二人に比べればLVが劣るが前衛の二人はこの辺りにいないほどの強さ。逃がしてくれないだろう。そもそも逃げることも出来ない。そんなことをすれば一瞬で死ぬ。

「ほら、二人ともがんばりなさい!まずはカメリアは防御、サリサが攻撃ね」

ハイビビスの掛け声に二人が前に出た。スライムが震えながら後ろへ下がる。

「カメリア、MPの回復薬はお祖父ちゃんが用意しているから気にせずヒールを使いなさい。魔法の使い方に慣れて熟練度をあげるのが大事よ!」

「はい、お母様」

「しっかり敵を見ろ。一対一だ。戸惑わず剣を振れ」

テンは格闘家だが格闘術は戦闘の基礎だと幼い頃から父に鍛えられていた。冒険にはルールが無い。格闘術を駆使して武器持ちと戦うことも多い。その経験からのアドバイスだ。

「わかったぜ。スライム如きでビビッてねーよ。あたいが叩き潰してやる」

サリサがスライムに向けてショートソードを振った。だがスライムは素早く後ろに下がったため当たらない。スライムはそのまま体を伸ばしたがすぐに引っ込めた。無闇矢鱈にサリサがショートソードを振ってくるからだ。
めちゃくちゃな攻撃だが(当たると死ぬ。)とスライムは避ける。


カメリアは必要ないヒールをサリサに何度もかける。

「むぅ……これで良いのかしら」

怪我をしていない相手にヒールをしても回復している自覚がないのでつまらなくなる。それでもハイビビスの指示だからとカメリアはヒールを続けた。

スライムもこの状況になれてくると(こいつら、ほんとうは弱い?)と思うようになった。

本来の前衛である中年男女は防御のみ。後衛はなにもしてこない。襲ってくる奴はレベルが高すぎるが命中率が低い。

(こいつは魔法使えんのか?攻撃手段がねぇなら俺でも勝てるぞ!)

スライムは体を縮こまらせて攻撃を避けるように大きく迂回するとカメリアに向かって突撃した。

「わっ!?」

カメリアは驚いて一歩下がり、さらにヒールを使った。するとスライ厶は大きく伸び上がってカメリアに向かってジャンプしてきた。

「ひっ!」

カメリアは小さく悲鳴を上げて目を瞑る。そこにテンが飛び込み、スライムに掌底を叩き込んだ。

「大丈夫か?」

「え……ええ。ありがとうございます」

スライムは地面にバウンドし、そのまま横になって動かない。

「くっそぉ……攻撃が当たらなかった」

サリサは悔しがり、カメリアは襲われた恐さで顔を青くしていた。

「あ~、ハイビビスの娘って聞いたから期待したけど普通の町娘ね。でもMPが多いみたいだし連発できるのは強みね。攻撃魔法タイプになればすごく優秀な子になるわよ。今からでも魔法使いに転職したらいいのに」

ツーが魔法使いの視点で評価をエイトに漏らした。

「もう一人の子は攻撃が素人過ぎてスライ厶の動きが変になっていたな」

「まだモンスターとの実戦経験が少ないから仕方がないわ。私達も旅をした頃はあんな感じだったのよねえ」

ツーは懐かしげに目を細めて笑った。
こうしてカメリアとサリサの初戦闘は幕を降ろしたのだった。

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