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チャンスを掴み続ける勇気
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カメリアが学校で学び、マッサージ店に努めている間、ツキカゲのことはダリアが面倒をみていた。
「ダリアさん、雨がふってきました」
読み書きの練習中だが窓に目をやるとたしかに雨が降っていた。
「そうね。雨が降っているわ」
(初めて会ったときに比べれば言葉を覚えたわ。それに自分から話すようになったし、背も少し高くなったけどあの時と変わらず同じ髪型ね。相変わらず無表情だわ)
「ダリアさん?」
「なんでもないわ。ベンキョウをつづけましょう」
「はい。がんばります」
「その調子よ。わからないところがあったら 聞いてちょうだい」
「はい!前におしえていただいた―――」
雨音を聞きながら、彼女は真剣な表情で知識を吸収していくツキカゲを見て微笑む。
始めはお互いに言葉も分からず、ダリアは彼に人や物の名前から教えていくことから始めた。それからツキカゲ自身のやる気もあって早いうちに子供が読む本も自力で読めるようになった。
「ただいま帰りました。ダリア、ツキカゲ」
「お疲れ様でございます。カメリア様」
「おつかれさまでございます。カメリアさま」
ヴィーナスでの仕事を終えたカメリアが帰ってきた。
「今日もツキカゲは勉強を頑張ってくれていますね。何かありましたか?」
「いいえ何もございませんでした。いつも通りです」
「そう。良かったわ。学校の先生が授業で航海術が発展しているから今後さらに輸出入が発展していくだろうって言っていたの。だからツキカゲの国の言葉を話す人達と会うこともあるかもしれないわ。
その時はよろしくお願いしますね」
まだ聞き取りは難しく、ツキカゲはダリアの方をみた。
「『これからも がんばって べんきょうを つづけてください』とおっしゃりました」
「わかりました」
カメリアは空いている椅子に座ってツキカゲの頭をじっとみた。
「ツキカゲは髪型を変えたほうが格好いいとおもうのだけど変えたりしないのですか?」
「つきかげの かみを切る。しましょうか?」
ダリアが言葉を簡単なものに言い換えながら自分の髪を一房掴んで右手をハサミの形にして切る仕草をした。
するとツキカゲは真顔で首を横に振った。
「いいえ。しません」
「どうして?流行りの髪型にすればツキカゲも素敵な殿方になるはずですよ」
ツキカゲの銀杏髷という髪型は彼の国では一般的なのだというが、この国では唯一無二といってもいい。
変わった髪型の彼を連れて自転車で走るカメリアは彼女自身の髪色もあって目立っている。
そのおかげでカメリアがダイエットをしていて成功した理由がヴィーナスの痩身マッサージのおかげだと話しは広まり店も繁盛している。ただこれからずっと暮らしていくことになるだろうツキカゲのことを考えるともう少しこの国の文化に慣れてほしかった。
「わたしの国の、ほこり、というものです」
「そう……それなら仕方がないですね」
(本人が嫌だというなら無理強いはできないですね)
ダリアの方を見ると困った笑みを浮かべていた。
「私も何度か伝えたのですが、彼は自国に誇りをもっており髪型はその象徴のようです。でも前に言っておりましたよ。ツキカゲはもう自国に籍がないのに国を慕う考えを捨てさせないカメリア様には感謝していると。」
「フィルンさんが言っていたのよ。ツキカゲさんは多くを語らないけど自分の故郷が好きだって。家族が好きで友達も好きだから帰らないんだろうって」
「そうなのですか」
ツキカゲは聞き取る練習も兼ねてペンを握ったまま二人の話に耳を傾けていた。その様子を見ながらダリアが返事をした。
「それにしてもフィルンさんって不思議な人なのよね。ツキカゲの国の言葉を話せますし、言語以外のことも詳しいのですよ。庶民とは思えないくらいですわ」
「たしかにフィルン様とは何度かお会いするたびに気品のある方だと思いました。妹であられるクラウディア様も明るく優しいお方ですし、お二人はきっと良きご両親がおられるのでしょうね」
カメリアが招待してあの双子の姉妹が何度か遊びに来たことがある。二人とも礼儀作法を身につけており自然な振る舞い方をする。クラウディアとの初対面には驚かされたカメリアだが、あれ以降は店でも接客をきちんとしていて店では大胆な態度は鳴りを潜めていた。
「ええ、きっとそうね。ご両親にお会いしたことはないけど私もそう想うわ。あ、そろそろ私も宿題をしなやきゃ。ダリア、仕事の合間にツキカゲを見てくれてありがとう」
「いえ、私も気分転換になります。カメリア様は宿題に励んでください」
「わかったわ。また明日よろしくお願いね」
「はい。承知しております」
三人が席をたつ。カメリアは自室に戻って宿題を、ダリアは自分の仕事に戻り、ツキカゲは水汲みなど単純だが必要な仕事をするためそれぞれの場所に別れた。
「ダリアさん、雨がふってきました」
読み書きの練習中だが窓に目をやるとたしかに雨が降っていた。
「そうね。雨が降っているわ」
(初めて会ったときに比べれば言葉を覚えたわ。それに自分から話すようになったし、背も少し高くなったけどあの時と変わらず同じ髪型ね。相変わらず無表情だわ)
「ダリアさん?」
「なんでもないわ。ベンキョウをつづけましょう」
「はい。がんばります」
「その調子よ。わからないところがあったら 聞いてちょうだい」
「はい!前におしえていただいた―――」
雨音を聞きながら、彼女は真剣な表情で知識を吸収していくツキカゲを見て微笑む。
始めはお互いに言葉も分からず、ダリアは彼に人や物の名前から教えていくことから始めた。それからツキカゲ自身のやる気もあって早いうちに子供が読む本も自力で読めるようになった。
「ただいま帰りました。ダリア、ツキカゲ」
「お疲れ様でございます。カメリア様」
「おつかれさまでございます。カメリアさま」
ヴィーナスでの仕事を終えたカメリアが帰ってきた。
「今日もツキカゲは勉強を頑張ってくれていますね。何かありましたか?」
「いいえ何もございませんでした。いつも通りです」
「そう。良かったわ。学校の先生が授業で航海術が発展しているから今後さらに輸出入が発展していくだろうって言っていたの。だからツキカゲの国の言葉を話す人達と会うこともあるかもしれないわ。
その時はよろしくお願いしますね」
まだ聞き取りは難しく、ツキカゲはダリアの方をみた。
「『これからも がんばって べんきょうを つづけてください』とおっしゃりました」
「わかりました」
カメリアは空いている椅子に座ってツキカゲの頭をじっとみた。
「ツキカゲは髪型を変えたほうが格好いいとおもうのだけど変えたりしないのですか?」
「つきかげの かみを切る。しましょうか?」
ダリアが言葉を簡単なものに言い換えながら自分の髪を一房掴んで右手をハサミの形にして切る仕草をした。
するとツキカゲは真顔で首を横に振った。
「いいえ。しません」
「どうして?流行りの髪型にすればツキカゲも素敵な殿方になるはずですよ」
ツキカゲの銀杏髷という髪型は彼の国では一般的なのだというが、この国では唯一無二といってもいい。
変わった髪型の彼を連れて自転車で走るカメリアは彼女自身の髪色もあって目立っている。
そのおかげでカメリアがダイエットをしていて成功した理由がヴィーナスの痩身マッサージのおかげだと話しは広まり店も繁盛している。ただこれからずっと暮らしていくことになるだろうツキカゲのことを考えるともう少しこの国の文化に慣れてほしかった。
「わたしの国の、ほこり、というものです」
「そう……それなら仕方がないですね」
(本人が嫌だというなら無理強いはできないですね)
ダリアの方を見ると困った笑みを浮かべていた。
「私も何度か伝えたのですが、彼は自国に誇りをもっており髪型はその象徴のようです。でも前に言っておりましたよ。ツキカゲはもう自国に籍がないのに国を慕う考えを捨てさせないカメリア様には感謝していると。」
「フィルンさんが言っていたのよ。ツキカゲさんは多くを語らないけど自分の故郷が好きだって。家族が好きで友達も好きだから帰らないんだろうって」
「そうなのですか」
ツキカゲは聞き取る練習も兼ねてペンを握ったまま二人の話に耳を傾けていた。その様子を見ながらダリアが返事をした。
「それにしてもフィルンさんって不思議な人なのよね。ツキカゲの国の言葉を話せますし、言語以外のことも詳しいのですよ。庶民とは思えないくらいですわ」
「たしかにフィルン様とは何度かお会いするたびに気品のある方だと思いました。妹であられるクラウディア様も明るく優しいお方ですし、お二人はきっと良きご両親がおられるのでしょうね」
カメリアが招待してあの双子の姉妹が何度か遊びに来たことがある。二人とも礼儀作法を身につけており自然な振る舞い方をする。クラウディアとの初対面には驚かされたカメリアだが、あれ以降は店でも接客をきちんとしていて店では大胆な態度は鳴りを潜めていた。
「ええ、きっとそうね。ご両親にお会いしたことはないけど私もそう想うわ。あ、そろそろ私も宿題をしなやきゃ。ダリア、仕事の合間にツキカゲを見てくれてありがとう」
「いえ、私も気分転換になります。カメリア様は宿題に励んでください」
「わかったわ。また明日よろしくお願いね」
「はい。承知しております」
三人が席をたつ。カメリアは自室に戻って宿題を、ダリアは自分の仕事に戻り、ツキカゲは水汲みなど単純だが必要な仕事をするためそれぞれの場所に別れた。
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