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初めての反抗期

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「あの、ヘルム様。わたくしたちはどこに向かっておりますの?」

「私の自宅です。ここでは人目についてしまうので」

「……」

ヘルムがカメリアの手を引いて連れてきたのは彼の仕事の間の仮住まいの家。異世界の文化を取り入れた「アパート」だった。

「そんなに緊張しないで椅子に座って下さい。使用人もいない家なので散らかっていますけど……」

小さな机と椅子が二脚。ベッドが一台。散らかっていると言われても物はほとんどない。

「ごめんなさい。そういうわけでは……」

自分が家を出て平民になってしまったことに後悔はない。ただ平民になったために婚約破棄をされる怖さはのこっていた。
今は二人っきりでヘルムの家の中にいる。そしてテーブルを挟んで二人で向かい合うと余計に緊張感が高まった。

「貴女からの手紙を読みました。祖母から結婚に反対されて、平民になってでも私といてくれる気持は嬉しいのですが……」

(フィルンさんがおっしゃっていた通り、貴族の身分を捨てたとなったら婚約を破棄されるのでしょうか)

「家を捨ててまで結婚をしたい相手は本当に私でいいのですか?平民になるということは自由が得られることじゃない。家族や友人と二度と会えなくなるんですよ」

両親や姉妹の顔と長い間、友達として傍にいた人形たちが一つずつ浮かんでは消えていく。

(あの子達とももう会えないのですね。ずっと支えてくれた私の心の中の友。お別れは寂しいですが、今の私にはクラウディアさんやダリア達がいます。)

「ヘルム様……。私は貴族の娘という生き方ではなく自分で選んだ道を進みたいと思ったから家を出ました。ですから、ヘルム様との結婚も私自身が望んだ道です」

お互いの視線が絡まりあい、カメリアは立ち上がってヘルムの前に歩み寄る。

「私はヘルム様が平民になってもあなたのお傍にいたいとお伝えしました。ヘルム様は私が平民になったら結婚してくださらないのですか」

そう言ってカメリアは目を閉じた。答えを聞くのが怖くて身体が震えてくる。

「家族や友人と離れるのは辛いことです。だから迷われるのであれば貴女の幸せのために家に戻っていただくつもりでした。そして遠く離れてもいつか必ず貴女を手に入れるために何だってして生きていくつもりでした。でも一緒にいてくれる選択をしてくれた。貴女のような素晴らしい女性を手放すはずがないでしょう。……愛していますよ」

ヘルムはカメリアを抱きしめて彼女の唇を奪った。

「わたくしもあなたをお慕いしております」

二人はしばらく抱き合ったまま離れなかった。

だが幸せな時間を壊すためにドアが乱暴な音をたてて破り開かれた。

「ヘルム・グランフォード!婦女子誘拐・監禁の容疑者として逮捕する!」

踏み込んできた自警団達の後ろに見えた祖母の姿。彼女は怒りの形相で杖を振りかざしていた。

「早く犯罪者を捕まえなさい!私の孫が傷物になったらどうするんだい!?」

「お願い!やめて!私は自分の意思でここにいるのよ!誘拐なんてされてないわ!」

「私は誘拐も監禁もしていない!彼女は私の恋人だ!」

自警団に引き離されてもお互いに手を伸ばし合い、叫び続けた。

「この期に及んでしらばっくれるつもりかい。お前が娘を無理やり自分の家に連れ込んで暴行しようとしたことはわかっているんだよ!」

「違うのよ!お願い!私の話しを聞いて!やめて!ヘルム様を連れて行かないで!」

「カメリア!待っていてくれ!真実の愛で必ず私が無実だと証明される!」

引きずられるように連れて行かれるヘルム。必死に手を伸ばすカメリア。

「カメリア!犯罪者に騙されてはいけないよ!」

伸ばした手を杖で叩かれ、カメリアは痛みに涙を浮かべた。

「痛いっ……どうしてこんな酷いことをなさるの?」

「カメリアは洗脳されているんだ。早く治療をしてあげないと」

祖母の言葉を聞いたカメリアは目を見開き、呆然とした表情で祖母を見た。
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