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33 一石二鳥

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 サンド・フラワー
 人間をダメにする私の大きなクッションの中身。
 必ず物にしてやると心で誓う。

 憧れのアサシンであるサーシャと合流した日に聞いた話だ。
 手触り最高のトワンティーレプスの毛皮で作ったクッションカバーを抱きしめた。

「娘っ子、ここに材木を置いてくれ」
「はい!」
「こっちにレンガを」
「はい!」
「おーい! 漆喰がたらねー」
「は~い!」

 職人達からの要望ある物資を、ロイ印のウエストポーチから、ポイポイと出した。

「この瓦礫をのけてくれるか?」
「は~い!」
「あっちのも頼む」
「はいは~い!」

 雪はチラチラと降ってはいるが、吹雪いていないだけ良いです。

 あちこちにある瓦礫を、ロイ印のウエストポーチに入れて行く。

「って! これってゴミよね? ゴミ箱じゃないってーの」

 物資を出して、不要物を入れるってどーよ?

「ほらほら娘っ子、ちゃっちゃと片付けろよ」

 職人達が簡単に言うし。
 でも職人のおっちゃん達はいかつくて怖い。
 だから不本意ながらも瓦礫をロイ印のウエストポーチに入れた。

「どうしたの? 凄く嫌そうな顔をしているじゃない」

 声をかけてくれたのは、プリースト見習いのシシリーだった。

「私のウエストポーチはゴミ箱じゃないよ」

 ブツブツと言うと、シシリーは気の毒そうに私を見る。

「そうそう! 皆、魔力が上がって見習いから昇格しそうよ。私も魔力が上がったんだ」
「・・・・私って初日くらいしか、まともに治癒師見習いのお仕事をしていないかも?」
「かもじゃなくて、していないよね」

 なんか・・
 血の気が引いていった。
 だって今回は治癒師見習いとして参加している。
 なのに、初日くらいしか、それらしき事をしていない。

「まぁ、今出来る事をするって事ね」

 シシリーはポンっと私の肩に手を置いて去った。
 これはヤバいのではなかろうか?
 私の予定では、ここでの活躍して、治癒師としてブロンズカードに上がる予定だった。
 トワンティーレプスの討伐は、花丸ものだ。
 だけどその後は裁縫に没頭してしまったし。

「うん! 瓦礫を片付けよう。あははぁ・・」

 乾いた笑い。
 これもまた大切な、私だけができるお仕事だと思う。

 かなり私なりに頑張りゴミ回収をしていると、鼻ピアスのガイルとダニエルが、町の人と何やら困り顔で話し込んでいる。

「どうしたのですか?」

 また魔獣かもしれないし、それなら討伐に参加しないとと、声をかけた。

「薪が足らないんだよ。」
「ミラーにもせかされてな」

 困ったと鼻ピアスのガイルは言う。
 材木はあるが、それは壊れた家屋の為だ。
 この時期に薪がないのは凍える。
 助かった命が凍死になりかねないよ。

「森に行ってもな・・」
「炭とかもたらねー」
「炭焼きが盛んな村々がやられたしな」

 あぁ・・こんなところでもサングリーズルの被害が連鎖しているんだ。

「カーラ! 狩りに行こう」

 元気よくノアが走って来る。
 トワンティーレプスの毛皮で作った帽子がよく似合う。

「狩りもいいけど、薪不足なんだって」
「だったら壊れた家の材木を使ったら?」
「それだ!」

 ノアの発想に大賛成です。

 壊れた家の廃材処分にもなるし、皆が凍えずにすむ。
 これは一石二鳥。
 一つ石をなげたら、鳥が二羽ゲットってね。

 そうとなれば、うってつけの人がいるではありませんか。
 私はヘルヴォルを探した。
 彼の肩の上で、可愛いウサギ耳が見える。

「カーラよ。そろそろスパイシーケルウスが恋しいのじゃが」
「中々いないよね。いたら必ずリズさんにあげるのにね」
「探しにいくのがよいぞ」

 リズとお喋りはここまで。

「ヘルヴォルさん、武器は斧ですよね」
「・・・あぁ」

 ジッとヘルヴォルの大きな斧を見た。

「では私と来てください」
「なんじゃ? スパイシーケルウスを探しに行く気になったのかえ?」

 リズはどれだけ食欲があるのか?
 まぁ、本来はどデカいサングリーズルと言う魔獣だからな。
 人や家畜を襲わないでいてくれるだけありがたいよね。

 広い場所を探す。
 そこに、ゴミ箱化したロイ印のウエストポーチから、瓦礫の木材を取り出した。
 ロイ印のウエストポーチ、初の分別出しだろう。
 これは凄いです。
 積み上げられたばらばらの大きさの材木だ。

「斧って木を切るのが本来の姿だと思います。ヘルヴォルさんの武器ですが、それで薪の大きさくらいにやっちゃってください」
「・・・・・。」
「お願いします。」

 大事な武器で木材をカットしてくれって、やはり無茶苦茶言っているのは承知だ。
 マジに彼の沈黙が恐ろしい。

「カーラよ、こやつの斧は神武器じゃぞ」
「この量だし、神武器ならばよけいに人の為に必要な事。薪がなければ、凍えるし、お料理だってできないのです」

 頭を下げる。

「ヘルヴォルよ! 旨いのが作れないのはいやじゃ」
「・・・うむ。仕方ない」

 大きな斧を見つめていた。
 って食事は大事。
 うん! 大事です。
 ヘルヴォルもリズみたく食欲旺盛ですものね。
 本来は大きな狼なのだから。

 これで薪の問題は片付いた。
 私のウエストポーチから、大量の木材は消える。
 しか~し!
 レンガやら生活道具やらも、たくさん残っている。

 生活用品とかは、町の人の物だ。
 必要な物や、思い出のあるものもあるだろう。
 広場に行こう。
 分別できるのならば、出せるかもしれないし。

「ミラーさん、薪は今、ヘルヴォルさんが用意しています。」
「良かったわ。今夜も温かな料理が作れる」

 人って変われるんだな~と思った。
 そりゃ、変われない人もいると思う。
 だけど良い方に変われたら素敵な事だよね。

「ミラーさん、壊れた家の人って集めれるかな?」
「食事の時は、かなり来るわよ。この前のトワンティーレプスのバーベキューの時は、ほとんどの人が来たんじゃないかな」
「なるほど!」

 でも残り少ないトワンティーレプスはロイ爺さんに、解体用のナイフと交換してもらいたいしな。
 皆を集められるお料理。
 勿論、私は作れないが、完成形は知っている。
 この世界で食べたことのない物は、たくさんあるしね。

「ミラーさん、食料を見てもいいですか?」
「いいわよ。まだたくさんあるし、その内、他の街からの支援物資も来るはず」

 空き家に置いている大量の食料。
 寒いから冷蔵庫みたいだ。

「へぇ~こんなのもあるんだ」

 手にしたのは乾燥させた昆布。
 そこで色々な調味料を、嗅いだり、なめたりする。

「これなら、私にも出来る・・かもしれない」

 強く言いたいが、マジに料理には自信がない。
 だが、出来る物もあるのよ。

 ミラーに、食材のカットやら、調理の用意を頼む。
 そしてできるだけ皆が食べに来て欲しいと伝えた。


  
 私はノアを探す。
 彼女は、動かぬ的で矢の練習中だった。
 彼女の矢は真ん中に当たる。
 それが動く的に当たれば表情はもっとはれるだろうが、真ん中に当たっているのにため息をついていた。

「ノア、もし手が空いていたら手伝ってください」
「いいわよ~」

 心良く了解してくれる。
 私達は町の外に出た。

「何々?」
「ここに瓦礫の花壇を作りたいのです」
「瓦礫の花壇? この雪原に?」
「そこだよね」

 真っ白な雪が降り積もっている。

「こんな時こそレグルスじゃない」
「レグルス?」
「一応仲間になったし」
「そうみたいだね~」

 私の知らない間にリズがイエスと言ったらしい。
 一応カード上、仲間登録はした。
 アイアンカードの聖騎士様だ。
 物好きな方だと思うわ。

 でもさ、彼が仲間ならば、フォレスタの街にも、サハラーァ王国にだって行けちゃうんだよね。

「よし! レグルスを呼んで来よう」
「僕に何か?」
「はぁ!」

 思わず飛び上がった。
 いかんいかん!
 シグルーンが見ていたら、拳骨ものだ。
 それくらい危機感なしの察知スキルも使っていなかったわ。

「ここの雪を一掃できる?」
「あ、はい。それならこの剣で」

 何という便利な剣。
 聞けば魔力ある剣。
 魔剣だそうです。
 光と炎の魔力を高め、魔物や魔獣を一掃する。
 彼の剣も名前持ち。
 私の鎖と同じだ。

 彼は言った通りに雪をひと払いした。
 そこにたくさんのレンガや漆喰や瓦の残骸をだした。

「これで花壇ですか?」
「はい。ある程度、小さく粉砕して、花壇の枠にしたらどうかな~って。」
「良いですね」

 レグルスは笑顔で肯定してくれた。

「作っても雪で埋もれるわ」
「はい。種とか球根とか、この時期に植えるものがあったら、春には花が咲いたら良いのですが」
「お楽しみって感じ?」
「はい。皆さんビックリかもです」

 種も球根もなければ、ただのミステリーサークルになるかもしれない。

「あの・・。僕に時間をくれませんか? 球根の手配を進めさせていただきます。」
「あ、はい。だったらそれまでに花壇の枠を作っても・・いけますか?」

 雪で見えなくなったら困る。

「あ、はい。吹き飛ばさないで雪を溶かしてみますから。」

 なんと器用なと尊敬の眼差しを向けると、レグルスは目をそらせる。
 ジッと見過ぎたかも。
 これまた失礼いたしました。

 ドローシとレージングルで、廃材を粉砕だ。
 
「私っている?」

 ノアは暇そう。

「ある程度の大きさのを運んで並べる。」
「なるほどね。形は?」

 言われて悩む。
 花壇なんて作った事はないです。

「丸いの? 四角? 」
「ここは町に入る道ですから、両脇に真っ直ぐに花壇を作るのはどうでしょう?」

 レグルスが示す先に大木がある。
 雪が邪魔だが、門から大木までの花壇か・・。
 道幅は馬車が行き来する事を考えて、広くだね。
 いいかも!

「じゃ、ここから真っ直ぐに置いて行けばいいんだね。かんた~ん!」

 ノアはレンガくらいの大きさの瓦礫をホイホイと置いていく。
 それはただ不格好な瓦礫を連ねただけだった。

 う~ん・・。
 何かイメージと違う。
 しかしそれでも、一メートル幅の枠とは言えないが、出来る。

「ねぇ、今日はここまでにしない? お腹もすいたしさ」

 これは中々ハードな作業だと思います。
 でもやるからには完成はしたいと思うんだ。

「そうだね。ミラーの所に行かなきゃ。ありがとうノア。レグルスも」

 レグルスも瓦礫粉砕を手伝ってくれたしね。






 ミラーの所に行くと、大きな鍋に野菜やらお肉やらが、ぐつぐつと煮えている。

「言われた通りに昆布だし? で煮えているわ。この米? これはどうする?」

 そう、私が失敗しない料理は、鍋!
 それとおにぎりだ。
 だが、ここに来て、炊飯器がない事に気付く。
 当たり前にあるはずがない。
 お粥しかできないよ。
 お鍋でご飯を炊いたことがないのです。
 大きな鍋は、味噌味だ。
 具だくさんの味噌汁とも言えよう。
 めんつゆもなければ、ポン酢もない。
 調味料があっても、できません。
 前世の私に文句を言いたいです。
 母も祖母もいたのに。
 料理を教えてもらう機会はあったのにさ。

「お粥にします。鶏がらスープで炊く。ショウガも入れます。」
「鶏がらスープで炊くのね」
「はい」

 まぁ、ミラーがいるからできるでしょう。
 ショウガの薄切りはまかして。
 ナイフで、ショウガを薄く細く切る。
 解体の応用だ。

「じゃ、いれますね」
「ええ、お願い」

 丸ごと鶏をポイポイと鍋に入れたら、ミラーがぶっ飛んで来た。

「まって! 丸ごと? 鶏がらスープじゃなかった?」
「はい。鶏がらです。丸ごと入れたら、お肉も骨からもダシが出るよね?」
「・・・まぁ出るけどさ」

 いけなかったのか?
 
「最後に、身をほぐして骨を取る。どうかな?」
「はい! それでいきます。美味しそうですね」
「塩で味を調えるのはするわ。カーラがやるって言ったんだから自分でやってみたら。」
「はい!」

 具だくさんの味噌汁は、成功といえる。
 味噌を、といて入れるだけだし。
 鶏のお粥は初挑戦さ。
 米が大きな鍋の中で、丸ごとの鶏肉と踊っている。
 焦げないようにだけ注意した。
 そして、ミラーが鶏肉を取り出し、身をほぐす。
 これが、熱いし、小さな骨を忘れずに取り除く作業に苦戦しました。
 ショウガを入れると、それだけで出来たかのように思えるが、ミラーが塩や胡椒で味を調えてくれました。

  

 いよいよ夕食の時間だ。
 
「カーラが作ったの? 大丈夫かな」

 失礼だぞ! ノア。
 
「これは初めての味付けよの。まぁ、これはこれで、わらわはおかわりかの~」

 もう既に二杯目のリズ。

「・・・あっさりだが、暖まる」

 何気にこれまた二杯目のヘルヴォルです。

「僕も初めて食べる味付けですね」

 領主様の息子さんも、ちゃっかり食べていた。

 壊れた家の人々も、お味噌の味には、それぞれに感想をのべつつも、温かな具だくさんにほっこりした表情。
 まぁ、成功だね。
 懐かしい味噌の味に、私は、懐かしさで、二杯も食べてしまったわ。
 鶏お粥は、これもあっさりしつつも、鶏のコクが旨味を出して、ショウガがなんとも良い。
 ってミラーがちゃんと味を調えてくれたからだけどさ。
 ただ、具だくさんの味噌汁と鶏のお粥は、お腹がちゃぷちゃぷになっちゃうね。

 お腹も満たされて、暖まった所で、壊れた家の人々に明日の朝、もう一度ここに集まって欲しいとお願いします。
 破壊された家にあった物を見て、必要な物を回収してもらう為だ。

「おねぇちゃん・・ぼくの宝物もあるかな?」

 それは、レグルスのそばで泣いていた男の子だった。

「あったらいいね。明日の朝、明るくなってから探そうね」
「うん!」

 男の子は母親と教会へ帰って行く。
 早く家の修復が出来たらいいのに・・。







 早起きして、広場へ行くと、既に人が集まりつつあった。
 
「母親が大事にしていたタペストリーがあったらいいけどな」
「夫の形見が何か残っていて欲しい」

 そんな言葉が聞こえました。

 ロイ印のウエストポーチから、分類して出していく。
 家具や小物類。
 衣服や生活道具など。
 後は貴重品。
 それはサーシャさんが来てから頼みます。
 お金とか宝石類だから。
 
「おねぇちゃん! ありがとう」

 昨夜の男の子の手には木の枝?
 ブーメランのような物が握られている。

「大事な物が見つかったんだね」

 同じ目線になるように、座り込むと、男の子の顔がぱぁ~とと輝くようだ。

「うん! これはね、お父さんが作ってくれた、ぼくの宝物」

 お父さんはサングリーズルの被害で亡くなったそうだ。
 男の子は宝物を取りに行く途中で、レグルスに助けられた。

 ぽんぽんと男の子の頭をなでなでした。

「よかったね。」
「うん!」

 思い出という大切なもの。
 それは一人一人違う。
 本当に大切な者は戻らないけど、せめて・・ね。

 まぁ、これで私のウエストポーチもやっとスッキリですよ。
 後はやりかけた瓦礫の花壇を完成あるのみかしら?
 
 
 


 
 
 
 
 


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