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17 後は野となれ山となれ②

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 なんで・・?
 どうして?
 オレは生きているのかな?
 お母さんが・・お父さん・・お兄ちゃん・・お姉ちゃんがいたけど・・顔なんか覚えていない。
 村の近くの樹林で遊んでいただけなのに。
 急に真っ黒な煙に、鼻が効かなくて・・。
 気がついたら手足に鎖をはめられていた。
 何度も逃げ出そうとしたけど・・何度も殴られて。
 白い砂が何処までも続く。
 奴隷達は鎖に繋がれて歩く。

 大きな大きな白い国。
 奴隷達が、競り落とされる。
 隙を見てオレはまた脱走した。
 走って走って走ってーーーー。

「大丈夫? お水よ」

 柔らかな腕の中でオレは目を開けたんだ。
 真っ赤な髪にココナッツ色の綺麗な肌。
 緑色の宝石のような目の女が、オレに水を飲ませてくれる。

「この鎖を外してあげたいけど・・私には無理・・ね」

 女の力で切れるものではない。

「名前は?」
「39番」
「・・・・。」

 それはオレを、そう呼ぶ奴隷商人達が付けた番号。

「ごめんね・・。連れ去られたのでしょう? 生きて・・って残酷な言葉よね。だけど生きて。私の赤ちゃんの分も・・」

 身体の痛みが消えていく。
 この女が奴隷のオレに癒し魔法をかけてくれている。

「サフルール様! またこの様な場所に」
「すみません・・。」

 女は憲兵だろう男達に連れられて行った。
 オレはまた奴隷商人達に捕まった。
 いくつもいくつも街を移動した神国のプラトーで、オレはあの女に似た子供を見た気がした。
 売れ残ったオレはこの街で、冒険者の荷物持ちとして買われる。
 まだ子供だけど、人族よりは力が強い。
 獣人達は八歳ごろから大人と一緒に働く。
 だけどオレは奴隷だから・・。
 冒険者が奴隷を荷物持ちに選ぶのは、最悪の場合餌にし、その間に退却すると聞いた。
 奴隷は物で、者じゃない。
 オレも仲間達と狩りをしたり、したかった・・な。

『生きて・・って残酷な言葉よね』

 あの女の言葉を思い出す。
 本当にそうだよ。




===================

 プラトーダンジョンの地下は広く、そして複雑な地形が続く。
 石の柱が所々にあるが、どれも、これも同じ様に見え、どろどろしたゾンビ君やら、ホネ助君に、ふわふわ漂うゴーストさん。
 
「私ってこのフロアーは、絶対に来たくない! ええ、アイアンカードになる為なら他の街のダンジョンって方法もあるし! もう、ここは封印されるべき。カーラの訳の分からない詠唱も怖いわ!」
「私は好きかも~」

 ホネ助君もどろどろゾンビ君も、ドローシパーンチやレージングルチョップに、浄化魔法を乗っけると、気持ちよいくらいに消えていく。
 お経を唱えながらだから、いつもの狩りと違い彼等(魔物ちゃん達ね)のお役に立つ感が半端ないのだ。
 ふわふわ漂うゴーストさんに、一つ思いついた方法を試す。

「渦巻きレージングル」

 それは浄化魔法と言う甘いお砂糖を乗せた渦巻きレーズンパンのように、ぐるぐると左手のレージングルを振り回す。
 面白いくらいにゴーストさん達が、渦に巻き込まれて消えてしまった。

「いいわ!それを続けて~ぇ。もうぐるぐるぐるって。無事に帰ってカリンちゃんに、渦巻きレーズンパンと胡桃パンを焼いてもらおう。」
「お腹が空いたね~」

 ぐぎゅ~とお腹がなる。
 ノアが、カリンちゃんの焼き立てパンの話をしたからだ。

「やめないでーーーーぇ! 続けてーーーぇ!」

 せっせと魔石を拾いながらノアの懇願する声が響く。

「でもお腹が空いて・・」
「何か片手間で食べながらよ。絶対に左手は止めないで」

 何かって・・。
 今日は森狼を狩るだけだと思っていたからな。
 森狼は解体しないと食べれないし、そもそもクエスト達成の獲物だから、手を付けたらダメ。

「シグルーンが入れてくれた干し肉があった!」

 右手で、ウエストポーチを漁る。

 大きな干し肉が出てきた。
 スパイシーな香りが食欲をそそる。
 ノアにも一つ渡すと、何やら驚愕しているのだ。

「おひしいよ。あらひの大好物」
「食べながら話さない」
「は~ひ」

 一口ノアは干し肉にかぶりつく。

「これってやっぱり、スパイシーケルウス」
「そうなんだ~。」

 ヴェルジュが大きな鹿を持ち帰った鹿肉ジャーキーなのだが、食べるとスパイシーで、とても美味しい。
 ロイ爺さんが干し肉にしたら長持ちすると、教えてくれた。
 生も良いが、干し肉にするとまた風味が増すんだな。
 それは、シグルーンと私の好物になったのです。

「スパイシーケルウスは超偏食な鹿で、自分の好きな香草しか食べない。だから、食べる香草により、味が違うんだよ。警戒心が強くて逃げ足が早いから中々狩るのが、難しいんだ。高貴な人しか食べれない高級食材。」

 この世界には偏食鹿までいるんだね。
 
「カーラはやっぱり、お嬢様でしょう?」
「ちがうよ。ヴェルジュのお土産ですよ。」
「なるほど! だったら納得。きっと高貴な人を癒してさしあげたんだわ。そのお礼がスパイシーケルウス。」

 ノアは、一人で納得していますが、ヴェルジュは「私も狩りくらいはできるのですよ~えっへん!」とか言っていたけどな。
 シグルーンが鹿肉ジャーキーを気に入り、珍しく、ヴェルジュを褒めて運ばせていたことは秘密だ。

「ねぇ、完全に見失ったよね」
「うん。見失うと言うか迷子だけど」

 お腹も落ち着き、アンデットの襲撃も落ち着いた頃、私達は、現実に戻りました。
 心を落ち着かせ、目を閉じる。
 すると、前世の目が見えない時の感覚。
 全神経が、敏感になり、気配を感知できる。
 これができるのに、気配を消せないってどーよ!?

「かなり奥の方・・だけど異常に強い気配もするよ」
「強い気配? 今だってソードスケルトンとかシャーマンスケルトンにアンデットだらけなのにーーーっ!キングとかシャレにならないよ? 違うよね?」

 剣を持ちのホネ助君はソードスケルトンって言うんだ~。
 キングって王様だよね。
 もう一度確認します。

「キングってのはわからないけど、かなりの数と、強そうなのがいるよ」

 だけど、シグルーンに比べると・・キングじゃないかも。

「早く行かなきゃ!囲まれています」
「じゃ、私達じゃ無理ーーーーっ!」

 ノアを背に乗せ、レージングルを振り回しながら、全力疾走した。

「じぬーーーーっ!」

 ノアが、叫ぶが止まりません。
 私達が行っても役に立たないかもしれないけど、あの子を見殺しにはしたくない。
 冒険者は自分の意志で、危険なダンジョンに挑む。
 それは報酬の為、自身の為。
 だけど、あの子は違います。
 冒険者仲間じゃなくて、奴隷として、嫌なのに行かされる。

 どれだけ走った?
 あっという間のよう。

「・・・むむり・・」

 ガクッとノアが、失神しました。

「白玉ピュリフィケイション」

 丸い物を思い浮かべたら白玉団子が浮かび上がる。
 スパイシーな干し肉を食べたら、甘いものが欲しくなるのです。
 ただ、分厚い浄化魔法の球体をと思っただけなんだけど。
 ノアを包む浄化魔法の球体。
 潜伏って思い込んでいたヤツよ。
 

「これで良し!」

 近づくアンデットは触れると昇天するでしょう。

 アイアンカードの人達は、各々に光の魔石を所持し、ウィザードとプリーストが攻撃して、剣士と闘士が彼女達を守る。
 だけど荷物持ちの子供はーーーー!

「やめてぇぇーーーー!」

 叫んで飛び出す。
 巨大なスケルトが、今まさに子供を踏みつぶそうとしていた。

「誰だ!?」
「私達を助けてくれるの?」

 聞こえる声よりも早く、私は、巨大なスケルトンの足裏に滑り込み、子供をノアと同じく球体に入れて投げた。

 べっしゃぁぁぁーー!

「踏まれた」
「潰されたわ」
「奴隷をかばったぞ! それにあの球体は?」
「魔物が触れると浄化しているわ」

 誰がホネ助親分に潰されたです?
 私ですか?
 骨の癖に重いが、だが持ち上げられない重さじゃない。

「あいつを出して、俺達が入るんだ!奴隷を捨てて脱出するぞ」

 その声で何かが、ぷっりと切れました。

「捨てる・・ねぇ? 捨てるって今言ったよね?」

 巨大なスケルトンを払いのけ、リーダーの男に聞きました。

「・・あぁ・・お・・おま・・」
「捨てるなら・・ちょうだい? 私にちょうだい・・な」
「「「「ひぃぃぃぃーーーーっ!」」」」

 怯えた顔で私を、見る。

 うぉぉぉぉぉーーーっと巨大なスケルトンがうるさい!
 今交渉中なんです!

「静かにして」

 レージングルをぐるぐると回して、巨大なスケルトンを拘束する。

「ねぇ? いらないなら・・」
「わ、わかった! だが、ここのアンデットをお前が倒したならな」

 言霊は取りました。
 埋め尽くすくらいに湧き出るアンデットモンスター

「どけっ!」

 その声に振り向くと、男の子が大きな荷物と共に放り出された、変わりに光の竜メンバーがその中に入ったのだ。

 ぶちぶちと何かが切れた。
 おぞましいくらいに、気持ちが悪い。

「あっちに女の子が、気絶しています。その子と一緒にいてあげてください」

 背負う荷物を片手で、奪い、獣人の男の子を、ノアの方へと促した。
 彼が、ノアを包む球体に入った事を確認しましたし・・・。

「私・・とても気持ち悪いです。本当に気持ち悪い・・のよぉぉぉぉーーーーー!」

 ドローシパーンチで、骨軍団をボコります。
 骨の親分は、レージングルで、ぼきぼきにしたあと、昇天させた。
 ゾンビ君達はドローシで突き刺して振り回す。
 はい! もう暴れ狂うってのはこのことかしら。

「 カーラって暴れ狂う者って事なんだからねーーー!」

 球体の中で、青ざめる先輩冒険者達。
 怯えろ!
 そう、あの子はもっと怖かったのだから。

 私は、笑っていた。
 なんだろう・・。
 身体の細胞が、凄く高揚しているような。

「はーい! そこまでね」

 耳のそばで声がした。

「・・・!?」
「マリアンヌが心配しているから。お姫様」

 トンと首の後ろに衝撃を受けた。
 そのまま意識が遠くなりました。






===============

 冒険者ギルドの三階。
 ギルドマスターの執務室。

「カーラが一人でスケルトンキングをか」
「そうよ! あの子のレベルが青銅のカードってどうなの? ゴールドカードは行き過ぎでもシルバーカードはいくんじゃない。全滅させていたしね。それにあれは小さなベルセルク。」
「さすが、筋肉凶暴女の弟子でしょうか・・はぁ!」
 
 マリアンヌは慌てて口をふさいだ。
 それは秘密だった。

「ふ~ん・・。ウール様の弟子ね~大樽追加」
「ふぇ~ん」

 給料三か月分なんて無理だとマリアンヌは泣いた。

「ダンジョンで、拾った魔石がたくさんあるし、チャラでいいわ」
「ミィーシャ~」

 大好きとマリアンヌはミィーシャに抱きついた。

「お前さんはちゃっかりと」
「当たり前。ちゃんとC級達も、ハーフエルフとお姫様に奴隷の獣人まで、連れ帰ったんだから、それくらいあいつらに払わせなきゃさ。世の中、タダより高い物はないんだ」

 ミィーシャは、そう言うと執務室を出ていった。

「勝手をし、申し訳ございません。」
「いや、青銅のカードの者を気遣い、いち早く判断した事だ。万が一何かあったら・・」

 二人の顔色が変わった。

「白の聖女様に合わせる顔がない! 」
「筋肉凶暴女の逆襲ーーーーっ!」

 同時に叫び顔を見合わせ、ほっと息をはいた。

「カーラを青銅のカードから、ブロンズカードへ」
「はい、マスター」
「それと、引き続き君がカーラの担当でいてくれ」
「げっ!」
「げっ!?」

 マリアンヌは一つ咳をした。

「サブ職の事や、どう言った方向性で戦うかを、アドバイスして欲しい。優秀な君だから任せる」

 優秀なと言う言葉にマリアンヌは、姿勢を正す。

「はい、マスター。あと、ミィーシャの報告で、チーム光の竜が所有していた奴隷を、カーラが譲り受けた事ですが・・」
「本当だ。ケインらから聞いた。何やら凄く怯えて返却は無しでと言っていたがな」

 マリアンヌが、執務室を出たあと、ランドグリスは、大きく息をはく。
 今、北の国境付近に出没した厄災級のモンスター討伐に、シグルーンを行かせた。
 もちろんヴェルジュもだ。
 そしてもう一人のS級冒険者。
 ただそれでも勝利の確率は低い。
 国も、軍を動かすが、単独で移動できる冒険者達が、先発したのだ。
 北の国境付近の村や街の被害は相当大きい。
 今回プラトーダンジョンの地下にスケルトンキングが現れた。
 キングの確認は今まで無かったのだ。
 厄災級の魔獣の出現。
 何か・・・。

「カーラが無事で良かった。ヴェルジュ様が留守中に何かあったら・・俺は生きていけねーよ。それにあの筋肉凶暴女が、体をはり、厄災と戦っている。憎ったらしいが、命をかけた任務に向かってくれたのだ。他のA級冒険者達を巻き込まないように、悪態をついてな」

 ランドグリスの独り言だ。

 
 
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