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でこぼこコンビ

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 結局、店の迷惑ということで、僕と銀髪男は店から放り出された。ちなみに僕は、レモンハイを飲む前だった。

 冷たい風がビュービュー吹いてくる。くそっ、なんて最悪な日だ。

「酔いは冷めたか」

「おかげさまで」

「僕に対する謝罪の言葉は?」

「すいませんでした。だけど、こんなイケメンとキスをできたことを光栄に思ってください」

 男は悪びれもせずそう答えた。

「男相手にそんなこと思えるか!だいたいそのナルシストっぷりは何だよ……。お前って自分のことを何様だと思っているんだ?」

「人類が生んだ奇跡です」

 間髪入れず真顔で即答された。

「いやいや、自意識過剰すぎるだろう!お前は、一体どんな育て方をされたんだよ!もっと自分の内面とかを含めて客観的に見ろ!!」

「それなら、クールビューティーだと思います」

「自分で言うなよ!」

 会話が成立しなさすぎて頭が痛くなっていた。

「とにかくお前は、僕に迷惑をかけた罰として、人探しに協力しろ。ああ、まったく。あの酒場に出現するというのが唯一の手がかりだったのに」

 これからどうやって奴を探していこう。住んでいる場所とか知らないんだよな。

「誰を探しているんですか」

「エンデュミオン・アーレンスって男を探している。探すのを手伝って欲しい」

 それを聞いた男は、考え込むように少し黙ってから、口を開いた。

「その人に会ってどうするつもりですか?」

「ちょっと協力して欲しいことがあるんだよ。そいつは、この辺りでは有名人らしいし、すぐに見つかるだろうな」

「……そうですか。その人について知っていることは?」

「国家最大の組織で働き、国一番のイケメンとか言われている奴だって聞いたな。モテまくって調子こいている奴だろうな。ああ、そんな奴に罰が当たればいいのに」

「……」

 銀髪の男が、感情を押し殺したような顔をした。

「ん?どうかしたのか」

「いえ、何でも。続けてください」

「だいたい、エンデュミオンは、あのギル・ノイルラーを庇って死のうとしたらしいけど、バカじゃないのか?一回死ねばいいのに」

「俺がそのエンデュミオン・アーレンスですが、何か」

 男は、サラリと白状した。

「じぇじぇじぇええええええええええええええ!」

 乾いた夜空に、悲鳴のような声が響き渡った。 



 とりあえず、冷静になった僕はスライディング土下座をすることにした。

「あ、はい、その、すいませんでした。本人に向かって本人の悪口を言うつもりは、なかったんです」

「そんな薄っぺらい言葉じゃ、俺の傷ついた心は元に戻りませんね」

 ちっ。めんどくさい奴だ。絶対、傷ついていないだろう。でも、エンデュミオンの機嫌を損ねるわけにはいかないし黙っておこう。

「はい、申し訳ありませんでした」

「もう一声です」

「すいませんでした」

「土下座はもっと深く。地面に頭がつくくらい。ほら、こんな風に」

「ぐはあ」

 頭の上に靴を乗せられ、力をかけられる。

「ちょ、ちょっとやりすぎだろう」

「ただ個人的にあなたが気に食わないんです」

 ただの八つ当たりじゃねぇか!

 しかし、僕には心当たりがある。今までアティスの弟というだけで、アティスに恨みを持つ男から散々八つ当たりをされ続けたのだ。

「そ、そんなにアティスに嫌な目にあわされたのか……。かわいそうに。兄がお前に悪いことをしたな」

「いえ、そういうわけじゃなくて、あなたという存在が気持ち悪いです」

「僕にどうしろと!?」

「性格を変えて欲しいです。あなたは……ギル様に似ていて気持ち悪いです」

「ええええええええええええええ!僕があの極悪非道なギル・ノイルラーに似ているだって!似ている要素とか微塵もないから。何かの間違いじゃないか」

 僕とギルの共通点なんてあるはずないだろうに。名誉棄損で訴えてやりたい。こいつバカじゃないのか。運動神経はいいらしいけれど、脳みそは筋肉で構成されていたりして。

「もういいです。それで、どうして俺に会いたがっていたんですか」

 ようやく土下座から解放されて、砂ぼこりを払いながら立ち上がる。

「ああ。お前にメシアを殺すのを手伝って欲しんだ」

「メシアを殺す……」

「メシアには、力がある。けれども、どう考えてもやりすぎだ。一緒にメシアを倒すために、力を貸して欲しい」

 アメジスト色の瞳が鈍く光り輝いた。

「わかりました。その人が俺の仇だと思うので協力しましょう」

「本当か。よかった」

 こんな最悪な出会いをしたから、どうなるかと思ったぜ。

「ただし条件があります」

 クールなはずのこいつが、悪人づらをしているように見えるのは気のせいだろうか。

「じゃあ、俺が協力したら一つ言うことを聞いてください」

「わ、わかった、わかった」

 とりあえず適当に返事をしておこう。

「約束ですよ」

 そして、芸術作品のような顔を近づけてくる。

「な、何だよ」

「逃げたらあなたのケツに剣をぶち込みますから」

 ブラックチョコレートのように低く滑らかな声で耳元にそう囁かれた。
 とんだ変態だ。怖えええええええええええ。
 絶対に逃げよう!
 これが終わったら二度と関わらないことを祈ろう。

「ひっ……。わ、わかったよ」

「わかりました。契約成立です」

 エンデュミオンは、薄昏い瞳をしながら、嬉しそうにニッコリとした不気味な笑顔を浮かべる。
 悪魔と契約したような気分になった。
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