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最後のフライドポテト
しおりを挟む「それで、ライリーをどうやって殺そうか考えているんですね」
牢屋番のハンスは冷め切った目をしながら、呆れたようにそう告げた。
「もっと人の話を真剣に聞きなさいよ!!!そして、このパンまずすぎるっていつも言っているでしょう。もっと高級な食パンを持ってきなさいよ!」
「あなたは自分がどんな立場なのかわかっているんですか」
「当然よ。そして、あなたじゃなくて、ユリア様でしょうが!!」
「はいはい」
ハンスは、適当そうにそう返事をした。
あの死刑宣告からすぐに私は、地下牢にいれられた。薄汚れたじめじめした空間に閉じ込められ、一日一回だけ硬いパンが与えられた。死刑施行は一年後と言われ、その時がちゃくちゃくと近づいていた。
ハンスは、牢屋番と食事番をかねているボサボサに伸びた黒髪を束ねている冴えない青年で、私の唯一の話し相手であった。
「あなたがライリーを暗殺してくれたら、私があなたを側近にしてあげるわ」
「無理ですって。ライリーは、剣大会の優勝者です。僕は、騎士にすらなれなかった落ちこぼれです」
「あれ?あなた騎士を目指していたの?」
「昔の話ですよ。お金も才能もなかったから、もう諦めたんです」
ハンスは、ヘラヘラと笑いながらそう応えた。
「諦めるなんて早いわ。ライリーさえ殺してくれれば、クライシス国の名誉国民賞もあげるわよ」
鼻息を荒くし拳を握り締めながら力説する。
おそらく彼が実行したところで、99%ライリーに返り討ちにされ殺される未来しか見えてこないが気にしない。
「……地下牢に閉じ込められ死刑宣告されても諦めないあなたの根性を少しくらいわけて欲しいくらいです」
「ふんっ。この甲斐性なし」
「そんなことより、渡したいものがあるんです」
「何?」
「実は、今日はこれも持ってきたんです」
「何よ?これ」
そして、紙袋を開いた途端、思わず息を飲んだ。
そこにあったのは、フライドポテトだった。
黄金色の皮付きのポテトがぐしゃぐしゃの紙袋で光り輝いていた。
かつて私の大好物だったものだ。
すっかり冷めてへたっているが、どんな料理よりも美味しそうに見えた。
「どうして……これを?」
「えっと……」
ハンスは黙りこくった。彼は、バカで嘘がつけない性格なのである。
それで、全てを悟った。
「私の死刑が明日なのね」
哀れみに満ちた視線が送られた。その視線に耐え切れず、顔をそらした。
「助けられなくてごめんなさい」
「そうよ。私まだ、23歳なのよ。この若さで死ぬなんて、かわいそうすぎるわ」
必死で強がって笑った。
けれども、近くでハンスの笑顔が崩れすすり泣く声がしてしまうと積み上げたものが崩れそうになって、だめだった。
涙がこぼれないように必死でフライドポテトを国押し込んだ。
大好きなフライドポテトは絶望のあまり、味はしなかった。けれども、冷め切ったはずのポテトは、何故か温かい気がした。
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