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ディナヴィア
セレネー・アスクレピオス2
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ある日、いつものように木陰で本を読んでいると、うとうとして眠ってしまった。日が沈みかけたころ、シモスに起こされた。
「おい。いつまで寝ているんだよ」
「あ……。もう日が沈んでいるじゃない。……どうして起こしてくれなかったのよ」
私は、ぷくっと頬を膨らませて八つ当たりした。
「俺は声をかけたけれど、お前が寝ていたんだ」
「嘘よ!シモスは、セレネーがぐっすり寝ているから、そっとしていたのよ」
コイネーもそう反論した。
「今日は、父さんが夕食に参加する日なのに遅れたら怒られる」
「いいだろう。あんな親父のことなんて気にしないで。どうせ血はつながっていないんだから」
「そういう問題じゃないの!」
ふと背後から声をかけられてハッとする。
「やっぱり君は……精霊が見えるの?」
しまった……。精霊と会話をしているところをまた人に見られてしまった。
また頭がおかしい子だと思われるはずだ。
声をかけてきた男の子は、マッド・ブレンドだ。赤毛にそばかすがある冴えない男の子で、キッドや、ロンドによくパシリにされていた。
マッドからバカにされると心配していたが、彼は、焦げ茶色の瞳を星屑を散りばめたようにきらめかせた。
「すごいね。本当に、聖霊が見えているんだね。君って神様に愛されているんだね」
そんな風に言われてると、照れくさくなった。
「信じるの?」
「だって、君、きれいだもの」
同世代の男の子にそんな風に言われたことがなかったため、嬉しさのあまり頬がポッと赤くなった。
それから、マッドと私は、その木陰でしょちゅう会うようになった。マッドは、私を変な子ではなく、精霊と会話できる子として認めてくれた。そんなマッドと過ごす時間が好きだった。
けれども、マッドはアスクレピオス家とハバード家の間で戦争が起きた時、招集された。
魔力も、剣の技量もなかった彼は、死ぬかもしれないと怯えていた。
そんな彼を絶対に死なせたくなかった。だから、「私の魔力を使って。私、あなたに死んでほしくないの」と提案した。どういうわけか、私は、他人の魔力を吸い取ったり、他人に魔力を与えたりすることができたのだ。特殊な能力であったため、他の人には隠していたが、マッドにだけは打ち明けた。
マッドは、戸惑いながらも、私の提案を受け入れてくれた。
マッドが好きだった。彼は、私を一人の女の子として扱ってくれる。彼といるとありのままの自分でいられる。彼の役に立てていることが嬉しかった。
白黒でしかなかった世界が色づいていた。
彼の声が聞きたい。たわいもないことを話して、笑いあいたい。
彼からもっと必要とされたい。彼にもっと喜んでもらいたい。
そんな思いで満ちていた。
私の魔力によって活躍したマッドは、戦争で名をあげた。勲章まで授与された。
知名度のあがったマッドは、軍で地位も上がった。彼は、更に周囲の期待を背負い、私の魔力を欲しがった。私は、もちろんマッドに魔力を与えた。
マッドが活躍していくことが、私の幸せだった。みんなから褒められるマッドが誇らしくてたまらなかった。
けれども、ある日、義理の弟であるエレボスから「お前はマッドに利用されているだけだ」と言われた。
彼の言葉は、全く信じられなかった。
「そんなことないわ。それに、彼に魔力を与えることは私が好きでやっていることなのよ」
「違う。マッドは、お前を殺そうとしている」
「どうしてそんなひどいことをいうの?そんなに私のことが嫌いなの?そんなわけないでしょう」
「奴は、エミリー・ワイズという女に惚れている。だから、お前が邪魔なんだよ。そして、自分の名声がお前のおかげだってばれることが怖いんだよ」
「そんなの嘘よ」
「嘘だと思うなら、精霊に調べさせればいい」
エレボスの言葉は、信じられなかった。
けれども、彼の言葉は真っ白い紙にたらされた一滴の墨汁のようにこびりついて消えなかった。
「おい。いつまで寝ているんだよ」
「あ……。もう日が沈んでいるじゃない。……どうして起こしてくれなかったのよ」
私は、ぷくっと頬を膨らませて八つ当たりした。
「俺は声をかけたけれど、お前が寝ていたんだ」
「嘘よ!シモスは、セレネーがぐっすり寝ているから、そっとしていたのよ」
コイネーもそう反論した。
「今日は、父さんが夕食に参加する日なのに遅れたら怒られる」
「いいだろう。あんな親父のことなんて気にしないで。どうせ血はつながっていないんだから」
「そういう問題じゃないの!」
ふと背後から声をかけられてハッとする。
「やっぱり君は……精霊が見えるの?」
しまった……。精霊と会話をしているところをまた人に見られてしまった。
また頭がおかしい子だと思われるはずだ。
声をかけてきた男の子は、マッド・ブレンドだ。赤毛にそばかすがある冴えない男の子で、キッドや、ロンドによくパシリにされていた。
マッドからバカにされると心配していたが、彼は、焦げ茶色の瞳を星屑を散りばめたようにきらめかせた。
「すごいね。本当に、聖霊が見えているんだね。君って神様に愛されているんだね」
そんな風に言われてると、照れくさくなった。
「信じるの?」
「だって、君、きれいだもの」
同世代の男の子にそんな風に言われたことがなかったため、嬉しさのあまり頬がポッと赤くなった。
それから、マッドと私は、その木陰でしょちゅう会うようになった。マッドは、私を変な子ではなく、精霊と会話できる子として認めてくれた。そんなマッドと過ごす時間が好きだった。
けれども、マッドはアスクレピオス家とハバード家の間で戦争が起きた時、招集された。
魔力も、剣の技量もなかった彼は、死ぬかもしれないと怯えていた。
そんな彼を絶対に死なせたくなかった。だから、「私の魔力を使って。私、あなたに死んでほしくないの」と提案した。どういうわけか、私は、他人の魔力を吸い取ったり、他人に魔力を与えたりすることができたのだ。特殊な能力であったため、他の人には隠していたが、マッドにだけは打ち明けた。
マッドは、戸惑いながらも、私の提案を受け入れてくれた。
マッドが好きだった。彼は、私を一人の女の子として扱ってくれる。彼といるとありのままの自分でいられる。彼の役に立てていることが嬉しかった。
白黒でしかなかった世界が色づいていた。
彼の声が聞きたい。たわいもないことを話して、笑いあいたい。
彼からもっと必要とされたい。彼にもっと喜んでもらいたい。
そんな思いで満ちていた。
私の魔力によって活躍したマッドは、戦争で名をあげた。勲章まで授与された。
知名度のあがったマッドは、軍で地位も上がった。彼は、更に周囲の期待を背負い、私の魔力を欲しがった。私は、もちろんマッドに魔力を与えた。
マッドが活躍していくことが、私の幸せだった。みんなから褒められるマッドが誇らしくてたまらなかった。
けれども、ある日、義理の弟であるエレボスから「お前はマッドに利用されているだけだ」と言われた。
彼の言葉は、全く信じられなかった。
「そんなことないわ。それに、彼に魔力を与えることは私が好きでやっていることなのよ」
「違う。マッドは、お前を殺そうとしている」
「どうしてそんなひどいことをいうの?そんなに私のことが嫌いなの?そんなわけないでしょう」
「奴は、エミリー・ワイズという女に惚れている。だから、お前が邪魔なんだよ。そして、自分の名声がお前のおかげだってばれることが怖いんだよ」
「そんなの嘘よ」
「嘘だと思うなら、精霊に調べさせればいい」
エレボスの言葉は、信じられなかった。
けれども、彼の言葉は真っ白い紙にたらされた一滴の墨汁のようにこびりついて消えなかった。
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