上 下
22 / 102
ディナヴィア

セレネーの魔力  エリュシオン視点

しおりを挟む
 エリュシオンがスクルータを倒してから急いで戻ると、視界に入ったのは、ボロボロになって全身から血を流すハデスの姿だった。


「ハデス様!!!!」


 そう呼びかけると、彼は、血だらけの唇を開き、口を開いた。

「エリュ……シオン……」

 今にも死にそうなか弱い声が、響き渡る。

「に……げろ……。おま……え……は……、い……きろ……」

 何で、あんたがそんなことをいうんだよ……。

 だけど、どうしてだろう。

 心臓を締め付けられる感覚がする。手のひらから、砂がこぼれ落ちていくかのように、大切なものがなくなりそうな感覚が押し寄せてくる。これは、焦燥感だろうか。

 感情なんて、とっくの昔に枯渇したと思っていたのに……。

 血だらけのハデスがあの日のジギルの姿と重なる。あの時、感じた絶望と、同じ絶望が押し寄せてくる。

 まるであの時のジギルみたいだ。

 俺が殺した血を流し地面で動かなくなったジギルだ。

 俺は、頭でもおかしくなったのだろうか。

 いや、もうどうだっていい。
 あそこにいるハデスを守りたい。命に代えても、ハデスを助けたい。ついに頭がおかしくなったのかもしれない。

 剣をセレネーに向けて、構える。

 距離は、およそ30メートルほど。ここから、どうやって彼女を殺すか。

「スクルータを殺したの?」

「ああ、そうだ」

「そう……。そうか……。彼は、死んだのね」

 彼女は、そう呟いて、事実を嚙み締めるように黙りこむ。そして、胸に手を深呼吸をする。

「怒らないんだな」

「もちろん怒っているわ。彼は、私の大切なペットだったのよ。でも……彼は、喧嘩してばかりだから、早死にすることはわかっていたわ。狂犬を自分の手で処分することにならなくてよかったわ」

「……そうか」

 少女と彼は、どういう関係だったのだろうか。

 少なくとも、スクルータは、好きな人を守るために戦えたから幸せだったに違いない。……俺と違って。

 そう考えると、先ほど自分が殺した男を羨ましく感じた。

「私は、あなたと違って優しいからハデスを殺さないわ。だって、彼は、魔力があるもの」

「……」

「両手両足を切り落とし、一生、植物人間にして魔力を吸い取り続けてやるわ。父親を殺されても、ハデスを生かす
なんて、私は何て優しいのかしら」

 鈴の音を転がすようなかわいらしい声で、残酷な言葉を奏でていく。

「……それはダメだ」

 脳裏が真っ赤に染まり、頭を焼け焦がしていくような激しい怒りで満たされていく。

「悪いな。その計画を阻止するため、お前を殺す」

「あなたごときに、この私が殺されるわけないでしょう!!魔力も使えないような失敗作が!」

 セレネーがドンっと、ハイヒールで足元を踏んだ。


『フローズン!!』


 セレネーの足元が凍り付いていく。大理石の床、絨毯、柱、王座、天井、窓……全てがピキピキと音を立てて氷に姿を変えていく。エリュシオンの足元にも到達したが、エリュシオンの靴や衣服は氷に変わることはなかった。ハデスの周りは氷っているが、ハデスも氷にはなっていない。

「あら、あなたはどうして凍らないの?おかしいわね」

 不可解そうに眉をひそめた。

「……魔力量が多い?それとも、氷の魔力があるのかしら。使わないなんて宝の持ち腐れね。まあ、いいわ」

 今度は、いくつものナイフのように鋭い氷柱が、何百個も放たれる。それらを剣で弾き飛ばすが、ハデスに当たらないようにしようと思うと、よけられなくて、腕や足に突き刺さり真紅の血が流れていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

叛逆王子は二度目は堅実に生きたい

黒月禊
BL
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫ 激しく燃え上がる炎が二人を包んでいる 血と煤が互いの惨状と激しさがわかる 視線が交差し最後の瞬間が訪れた 胸に刺さった剣と口から溢れてた夥しい血が 勝敗の結果を表している あぁ、ここまで来たのに死んでしまうのか 自分なりに努力をしてきた 間違いを犯し気づいた時には遅かった だから過去は変えられなくても目的のため それだけの為に生きてきた 視界が霞む中暖かいものが頬に触れた 自分を倒した黒騎士は安堵するわけでもなく 喜ぶでもなくその顔はひどく悲しげで刺された自分より 痛々しかった 思わずその顔に手を添え彼の涙を拭った そこで俺は暗闇にのまれていった 俺の記憶はそこまでだ なぜか気づいたら目の前に 幼い黒騎士に押し倒されていた!? ≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫ ◆そんな感じで始まります。 ゆるく書いてくのでお手柔らかに 宿敵の英雄黒騎士と二度目の人生は平和に堅実に生きたい第二王子の攻防恋愛です ※ファンタジーとBLとシリアスとギャグが等分されております 誤字脱字多いです サイレント修正するのでごめんなさい

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生! しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!? モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....? ゆっくり更新です。

処理中です...