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13話 スカーレットの駆け引き

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「これからシャルロットは王宮に住み、妃教育を受けることになりますが、わたくしが一緒では妹もつらいと思うのです。それにオーエン様もわたくしに気を使って、シャルロットに会うことを遠慮なさるでしょう。そんな深く愛し合う二人の邪魔になってしてしまうのが申し訳なくて……っ!」


 もう耐えられないといった表情で嗚咽を漏らし、私はぎゅっと目をつむった。


(今しかない。私がこの王宮を出るには、今しかないの! ここで逃げなくては、私は一生、王家に縛られて生きなくてはならない……。頑張るのよ! スカーレット! あとひと押しよ!)


 瞼の裏で逃げられなかった場合の未来を思い描く。十歳から必死に頑張ってきた王妃教育も、聖女としての苦労もすべてが無になり、搾取される日々。決められた場所以外歩くこともできず、ただ二人の尻拭いをするのだ……。


 シャルロットとオーエン様の嘲笑。陛下と王妃様のしたり顔。父親のにんまりと満足気な表情。


 それらが頭の中に浮かんだ瞬間、私は奥歯にギリッと力をこめ陛下を見上げる。目の奥がツンと痛み、瞳からは自然と涙が一粒こぼれた。


 さすがの陛下も初めて見る私の涙にたじろいでいる。仮面をかぶったような微笑みしか浮かべない私が、感情をあらわにして訴えているのだ。きっと陛下はこう考えるだろう。


 ――厳しくしすぎて、私が教会側に寝返ったら困ると。


 圧倒的に王家の権力のほうが強いけれど、教会だって信者がたくさんいるのだ。そして見えなくても結界を信じている国民は大勢いる。私をないがしろにしたら、どんな天罰が下されるか恐れた国民がなにをするかわからない。


 特に私が聖女として結界に魔力を注ぐようになってからというもの、他国が苦しむ疫病や災害から守られたことが何度もあった。そのせいで、ここ数年教会側が力を持つようになったのだけど。


(司教様が私腹を肥やそうと、王家にいろいろと無理難題を言ってるのが問題なのよね。それに陛下は苛立って、この機会につぶしたいみたいだけど、さあどうするのかしら?)


 そんな二つの勢力の思惑を考えながら、私は潤んだ瞳で陛下を見つめる。陛下はしばし上を向き、何か考えた後、ふうっとため息をついた。


「ふむ……たしかに三人には少し冷静になる時間が必要かもしれんな」
「そうですわね。侍女や教育係も戸惑うでしょうし……」


 王妃様も私の意見に賛同してくれ、二人は顔を見合わせうなずいている。


(どうやら私の泣き落としが効いたようね……)


 もちろんオーエン様たちが私に遠慮するなど、これっぽっちも思っていない。だいたい最初からそんな思いやりの気持ちがあれば、王宮で堂々と盛らないだろう。それに侍女たちだって今さらだ。


 ちらりと横を見てみると、オーエン様もシャルロットも黙って陛下の話を聞いている。父は私が陛下の怒りを買わなかったことに安心したようだ。妹の肩を抱き「良かったな」と声をかけている。


(これで王宮から出られるわ。まずは一歩前進ね。後はこの国で唯一の味方である、叔母様のお屋敷に行かなくては……)


 心配事がひとつ減り、私は小さく息を吐く。でも油断しては駄目だ。それに気になるのはオーエン様だわ。なぜかさっきから私の顔を見つめ、ニヤニヤと笑っている。馬鹿にした笑いでもなく、どこか私を見定めているような、ねっとりとした視線だ。


(どこかで見たような視線だけど、いつだったかしら……?)


「しかし、スカーレットが急に王宮から出て、シャルロットの妃教育が始まれば、教会側が感づくのではないか?」


 陛下のその疑問に、私はハッと顔を上げる。そしてすぐさま解決策を思いつき、陛下に向き合った。

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