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*53 教えてほしい、君のこと *

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「今日も一日、がんばった俺~……ったぁ……」
 自画自賛をしつつ、ベッドにダイブしたのはいいが、ベッドのマットレスはかたかったんだった。ちょっと厚めの布団って感じ。自分で部屋を借りるようになったら、マットレスはいいものを選ぼうと思う。
 鼻の頭をさすりつつ、うつ伏せから仰向けに。
 タリーの台所の伝票整理もあらかた片付いたし、店のドアと窓も直った。とはいえ、マートルさんが帰ってくるまでは、営業はしない。
 彼が帰って来たら、タリーの台所のこれからについてを話し合う。ダンジョンに逃げられないうちに、しっかり捕まえられるかが重要だ。
 その間は、出店場所が決まるまでの間にやるつもりでいる屋台のメニューを考えるつもり。タリーの台所がどうなるかによっては、コシードを封印しなくちゃならないか。だとしたら、どんなメニューがいいだろう?
 天井を眺めながら、ぼんやり考えていると、
 コンコン
「スバルいるか?」
 部屋のドアをノックする音とともに、エルの声が。彼だとは思うけど、チェーンロックがかかっているのを確認してから、慎重にドアを開ける。
「良かった、エルだった」
 見知った狼さんの姿だったので、一安心。チェーンロックを外して、彼を部屋の中へ招き入れる。エルは部屋に入って来るなり、
「スバル。ハグしていいか?」
「え? あ、う、うん。どうぞ?」
 これが異世界流かと戸惑いつつ、許可を出せばぎゅーっと抱きしめられる。エルは、俺よりも背が高いからちょっと覆いかぶさられる感じ。うあ、このモフモフ感、たまんねえ。夏だから、暑いけど。でも、この毛ざわり最高。至高のモフモフじゃあ。思わずすりすりと頬を寄せれば、上からくすっと笑い声が。
「人族が獣人の毛並が好きだっていうのは、本当らしいな」
「暑いけど、このモフモフがたまりません。暑いけど」
「そうか。スマンな」
 ちっとも悪いと思ってないだろ。ま、こればっかりはどうしようもないもんな。
「エルはこの毛皮、暑くないの?」
「暑いけど、生まれてこの方ずっとこうだからな。慣れた」
 それもそうか。
「スバル、ワインは飲めるか?」
「ワイン? 付き合い程度には飲めるけど、なんで?」
 少し体を離してエルの顔を見れば、
「そりゃあ、持ってきたからな。店の親父に、飲みやすいものを選んでもらった」
 そう言って、エルは腰のポーチからワインボトルを一本。
「おぉ。スパークリングワイン」
 ちょっとイイやつっぽい。ワイングラスもエルのポーチから出てきた。スマホが入るくらいの大きさしかないのに、色々と出てくるのはマジックバッグだからだろう。
「そのポーチはマジックバッグ?」
「あぁ。大した量は入らねえけど、町中で使うにはこれで十分だからな」
 ダンジョンに行くときは、もっと大容量のマジックバッグを貸してもらえるのだそう。
「へえ。クランって、そういうサポートもしてくれるのか。あ、おつまみは俺が用意する」
 街歩き用のサコッシュには、作り置きおかずやおつまみが入っているのだ。ちょっと小腹が空いたときにとか、部屋飲みをしたいときとかに重宝している。ワインだから、チーズとハムのミルフィーユサンドでいいかな。ピンチョス風にピックをさしているので、手軽に食べられる。大皿に並べた状態のものをさっとサコッシュから取り出す。
「スバルもマジックバッグを持ってるのか?」
「あ、うん。そう」
 これの便利なところって、蓋をせずにお皿のまま入れても、皿の上の料理はぐちゃぐちゃになったりしない、っていうところ。入れたままの状態で出てくるんだよ。素敵すぎる。
「美味そうだな」
 皿の上のおつまみをのぞき込み、エルがペロリと舌なめずりをした。ワインの栓を抜いて、グラスに注いでくれる。ソファーなんてものはないので、ベッドに並んで座って、乾杯。
「あ、おいしい」
「ああ、ちょっと甘いが、美味いな」
 エルが持って来てくれたのは、白の甘口。まるでマスカットを食べたみたいで、ワインを飲みなれない俺でも飲みやすい。エルはちょっと甘いって言ってたから、好みの味ではないんだろう。次は、彼の好きなお酒を飲んでみたい。
 ワインとおつまみのおかげか、話が弾む。お互いに知らないことばっかりだからな。好きな食べ物とか色とか、趣味とか……。知りたいことはいっぱいある。
それに、探索者っていう職業自体、興味がつきない。ダンジョンに行けない間はどうしてるのかとか、クラン直営店舗って何なの? とか。ダンジョンの中はどんな感じなのかとか、探索中のエピソードとか、パーティメンバーはどんな人なのか、とか。
 ちなみにパラソル市場でエルを引きずって行った角ありアマゾネスは、見た目通りの前衛でパワーファイターなんだそう。小さな子供くらいの重さがあるバトルアックスを軽々と振り回しちゃうらしい。すげえな。
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