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*39 牛野郎の暴走 *

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 片付けなどは明日に回すことにして、今日はもう休むことにしたので、マッキーさんが置いて行った防犯用のランタン型魔道具のスイッチを入れて、軒先に吊るしてみたんだが……
「……すごいな。本当に分からなくなった……」
 本当に効果があるんだろうか? と半信半疑だったので、護身用魔道具であるバングルをつけずに動かしてみた。これをつけていないと、魔道具の影響を受けて店が分からなくなるって話だったんだが……結論、マジだった。
「なんだろう。すーって薄くなっていって気が付いたら消えてたって感じ」
「そうだな。存在感が薄くなっていった、って感じだな。じゃあ、バングルをつけてみるか」
「うん。──って……うわ、あるよ。ある。今度はすーっと浮かび上がってきた」
「うわ、すっげえな。これなら、これ以上店が荒らされる心配はなさそうだな」
「うん。大丈夫だと思う。一応、裏口は閉めてきたし」
 誰も通ってなくてよかった。そこにあった店が突然消えたら、驚くもんな。一応、ご近所さんには防犯用の魔道具を使って、店が見えなくなっていることを伝えておいた。
「じゃあ、また明日」
「うん。明日のお昼、楽しみにしてるね」
「美味しいって言ってもらえるよう、がんばる」

********************************

 翌日。商業ギルドへの申請は終了。タリーの台所があるあたりで屋台営業をしたいと申請。
 あの地区には仕切り役もいないので、出店場所の周辺店舗から許可があれば出店していいとのことだった。ラッキー。
「よしよし。あとは何を売るかだけど、隣にパン屋があるからパン系は避けるべき」
 何がいいかを考えながら、俺はお昼に使う食材を買うため、ギルド近くの商店街へ。
 必要な物をそろえて、タリーの台所へ向かったのだが……
「あれ? なんか揉めてる?」
 店の前に騎士が三人もいた。ただし、昨日の騎士とは違う方たちである。鳥でも獣頭って言うのか? 鷹か鷲か、猛禽類っぽい顔の騎士と女性の騎士。それと、あの縞模様は虎? 色が白いからホワイトタイガーか。
 それから、後ろ姿しか見えないけど、あれはたぶん牛野郎だな。パン屋のおかみさんもいる。実に不思議な組み合わせだ。オルレアはいないのか? 冷蔵庫の食材は、捨てるのも勿体ないから、近くの神殿付属の孤児院に寄付してくるって言ってたしな。
「あの~、すみません。何かあったんですか?」
「あぁ、スバル! ちょうどよかった。あんた、オリーから店の修理をどうするか聞いてるかい?」
「へ? 店の修理ですか? 昨日、オリーの幼馴染で大工をしてるって人が様子を見に来てくれて、そのついでで修理を依頼してましたけど? 名前までは聞いてないですけど、背が低い人でしたよ。たぶん、小人族だと思うんですが……」
「イサークだね」
 おかみさんが言うと、きっと目じりを吊り上げ、牛野郎を睨みつける。
「聞いたね、ロゲン! もう、修理は依頼済だってさ! 何が修理は俺に任された、だよ!」
 うん? どういうこと? 訳が分からない。でも、怒っているおかみさんに聞くのは怖いので、「何があったんですか?」と、騎士たちに聞いてみた。
「原因は、これだ」
 猛禽類顔の騎士が大きなため息をついて、店の入り口を指さした。
「え? 何、この趣味の悪いドア」
 銅に金ラメが入ってる感じの色で、建物の雰囲気に合ってない。近代的なビルとかならまだしも、なんだってこのレトロな建物にこれをつけようと思った?
「っな?! しゅ、趣味が悪いだと!?」
「誰が見たってそう言うだろうよ。どこに目玉つけてんだい。バカロゲン」
 おかみさんは言いたい放題だな。その通りなんで、フォローはしない。
「この店のドアを修理している男に、店の者はいるか声をかけたのがきっかけだ」
「すると、店の者はいないと言うじゃないか! だったら、お前がしているその修理は店長の許可をもらってやっているのか、という話になるだろう!?」
 声を荒げたのは女性騎士。まあ、確かにそうなると思う。すると、牛野郎は
「だから! 俺はこのままじゃ困るだろうと思って、親切でドアを修理してただけだッ!」
 ガルガルと唸るように声を荒げる。
「いや、もう修理は依頼してあるんで、逆に迷惑なんですけど」
 特にドアのセンス。建物の雰囲気には合ってないけど、でも、それなりにいい値段しそうな気がするぞ、これ。
「昨日、この店の事件を担当したガルベス隊の対応について、市民から苦情があったのだ。改めて話を聞きに来てみたら、彼がドアの修理をしていたので声をかけたんだが──!」
 牛野郎をキッと睨みつける女性騎士。ちょっとした言い争いになりかけたところ、
「店の前が騒がしいから、気になってね」
 おかみさんが登場。彼女は、オリーから留守にしている間に修理が来るかも知れないから、来たら作業を進めてくれるように言ってほしいと頼まれていたので、そう証言したのだが
「これだろう? これを見て、本当にオリーはロゲンに修理を頼んだんだろうか? って思ってね。オリーに修理を頼まれたのかって、問い詰めてたところさ」
 なるほど。事情は理解した。けど、なんだってこんな勝手なことをするかな、牛野郎……。
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