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*34 やらかし星人、マッキーさん *
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「は~っ」
大きく息を吐き出したのは、チャールズさんだ。顔を上げてよし、と一言。気持ちを切り替えることにしたらしい。
「どちらの魔道具も身を守るためには有効なので、貸してくれるというのであれば、貸してもらいましょう。お礼は食事のリクエストを受けるとか、そのへんで」
「そうそう。うどんとか蕎麦とかラーメンとか。落ち着いてからでいいからね」
「麺類ばっかりですね」
どれも日本の国民食。過去の移住者が開業していそうな気もするのだが、俺が知る範囲ではまだ見たことがない。
「分かりました。作りましょうっ!」
俺がうなずくと、マッキーさんは「やった」と嬉しそうに笑った。
「それから、このキューブは僕が持って帰っていいかな? たぶんだけど、回収に来そうな気がするんだよね。だから、これを改造して罠をはってみたいんだ」
「回収に来そうという点は同意しますが、マッキーさんが改造すると、匂いが付きませんか? 回収に来たのが獣人なら、警戒して回収を諦める可能性があります」
「ぼくもそう思う」
おずおずとオルレアが言うものの、マッキーさんは「ダメで元々だよ」
「っていうか、大事な遺留品を勝手にそういうことに使っちゃっていいの?」
「え~? でもぉ、騎士サマは酔っ払いの仕業だって言ってるんでしょ? だったら、これは店を荒らした犯人の物であるはずがないよねえ?」
「……それって屁理屈……いや、屁理屈になって、ない? どうなんだろう?」
オルレアの質問をへらっと笑ってかわすマッキーさん。俺が唸れば、チャールズさんは
「いいんじゃないですか、別に。少なくともあれはダメです」
だからと言って他の騎士に渡せば、また面倒くさいことになるだろうとのこと。それもそうなので、マッキーさんの提案は採用されることになってしまった。
「じゃあ、僕、帰るね! すぐに改造しなきゃ、すれ違っちゃう!」
机の上の物を慌ただしく片付けたマッキーさんは、バタバタと店から出て行ってしまった。ポカーンと見送る、俺とオルレア。チャールズさんはひっくり返ったままだった椅子を元に戻して、
「では、俺もそろそろお暇します」
「あ! いや、待ってください。ランチにはちょっと早いけど、コシードを作ったんで、食べて行ってください」
帰ろうとしていたチャールズさんをオルレアが引き留める。そういえば、お礼になればって作ってたな、コシード。すっかり忘れてた。
「え? いいんですか?」
「もちろんです! すぐに仕上げてくるので、ちょっと待っててください。スバルも食べるよね?」
「ぜひ」
力いっぱい頷くと、オルレアは「待ってて」と言って、厨房へ向かった。彼を見送り、コシードが出てくるのを待つ間、俺はチャールズさんに質問。
「もしかして、マッキーさんもご指名者ってやつですか? 俺のタグにもありましたけど」
「ええ、そうです。ただ、ご指名者の中でも特に変わっています。異色と言ってもいい」
それって、どういうこと? っていう俺の疑問はそのまま顔に出ていたようで、
「あの人が移住の希望を出したのは、前回の募集の時で……移住の準備に五年以上かけたのは、今のところ世界でもあの人だけです」
「は?」準備に五年以上?
「ご存知の通り、先進国からは毎年移住希望者を募っているわけではありません。五年に一回のペースで行われていて、日本はスバルの年で三回目となります」
マッキーさんは二回目の募集の時に応募してきて、錬金術師になりたいと希望を出したそうだ。そこまでは良かったものの、そこからマッキー節が炸裂。
「投資で工房の開設資金を貯める、と言い出したらしいです。ある程度、まとまったお金ができると、それを使って向こうから錬金術の本を取り寄せてほしいと言われたらしく……」
チャールズさんがマッキーさんの担当になったのは、三回目の募集が始まってしばらく経ってから。はじめは別の相談員が担当していたそうだが、あれは手におえないとチャールズさんにお鉢が回ってきたらしい。
普通は素人が投資に手を出しても、そんなに簡単に儲かったりしないんだろうが、そこはご指名者特典なんだろう。二年くらいで億単位の儲けをたたき出したそうだ。そうすると、移住はキャンセルすると言ってきてもおかしくないが、彼はそうしなかったらしい。
「金さえあれば、たいていのことは何とかなるものです。マッキーさんもそのクチで、魔道具、調薬、魔法関係の本も何十冊と取り寄せて、独学で勉強。さらに、地球のオカルト関連の書籍も買いあさって向こうの本の内容と比較して、俺が担当になった頃は、独自の見解を持ってましたね。スキルにも興味があると言って、それの本も取り寄せていましたし……」
家電製品を魔道具で再現できないか、自分で設計図を引いたり、ハンドクラフトに挑戦したり、こちらでできそうな準備は思いつく限りやっていたらしい。
「……そりゃーレベルが違いますわ……」
やらかすには、やらかせるだけの下地があるってことか。すごいな、マッキーさん。
大きく息を吐き出したのは、チャールズさんだ。顔を上げてよし、と一言。気持ちを切り替えることにしたらしい。
「どちらの魔道具も身を守るためには有効なので、貸してくれるというのであれば、貸してもらいましょう。お礼は食事のリクエストを受けるとか、そのへんで」
「そうそう。うどんとか蕎麦とかラーメンとか。落ち着いてからでいいからね」
「麺類ばっかりですね」
どれも日本の国民食。過去の移住者が開業していそうな気もするのだが、俺が知る範囲ではまだ見たことがない。
「分かりました。作りましょうっ!」
俺がうなずくと、マッキーさんは「やった」と嬉しそうに笑った。
「それから、このキューブは僕が持って帰っていいかな? たぶんだけど、回収に来そうな気がするんだよね。だから、これを改造して罠をはってみたいんだ」
「回収に来そうという点は同意しますが、マッキーさんが改造すると、匂いが付きませんか? 回収に来たのが獣人なら、警戒して回収を諦める可能性があります」
「ぼくもそう思う」
おずおずとオルレアが言うものの、マッキーさんは「ダメで元々だよ」
「っていうか、大事な遺留品を勝手にそういうことに使っちゃっていいの?」
「え~? でもぉ、騎士サマは酔っ払いの仕業だって言ってるんでしょ? だったら、これは店を荒らした犯人の物であるはずがないよねえ?」
「……それって屁理屈……いや、屁理屈になって、ない? どうなんだろう?」
オルレアの質問をへらっと笑ってかわすマッキーさん。俺が唸れば、チャールズさんは
「いいんじゃないですか、別に。少なくともあれはダメです」
だからと言って他の騎士に渡せば、また面倒くさいことになるだろうとのこと。それもそうなので、マッキーさんの提案は採用されることになってしまった。
「じゃあ、僕、帰るね! すぐに改造しなきゃ、すれ違っちゃう!」
机の上の物を慌ただしく片付けたマッキーさんは、バタバタと店から出て行ってしまった。ポカーンと見送る、俺とオルレア。チャールズさんはひっくり返ったままだった椅子を元に戻して、
「では、俺もそろそろお暇します」
「あ! いや、待ってください。ランチにはちょっと早いけど、コシードを作ったんで、食べて行ってください」
帰ろうとしていたチャールズさんをオルレアが引き留める。そういえば、お礼になればって作ってたな、コシード。すっかり忘れてた。
「え? いいんですか?」
「もちろんです! すぐに仕上げてくるので、ちょっと待っててください。スバルも食べるよね?」
「ぜひ」
力いっぱい頷くと、オルレアは「待ってて」と言って、厨房へ向かった。彼を見送り、コシードが出てくるのを待つ間、俺はチャールズさんに質問。
「もしかして、マッキーさんもご指名者ってやつですか? 俺のタグにもありましたけど」
「ええ、そうです。ただ、ご指名者の中でも特に変わっています。異色と言ってもいい」
それって、どういうこと? っていう俺の疑問はそのまま顔に出ていたようで、
「あの人が移住の希望を出したのは、前回の募集の時で……移住の準備に五年以上かけたのは、今のところ世界でもあの人だけです」
「は?」準備に五年以上?
「ご存知の通り、先進国からは毎年移住希望者を募っているわけではありません。五年に一回のペースで行われていて、日本はスバルの年で三回目となります」
マッキーさんは二回目の募集の時に応募してきて、錬金術師になりたいと希望を出したそうだ。そこまでは良かったものの、そこからマッキー節が炸裂。
「投資で工房の開設資金を貯める、と言い出したらしいです。ある程度、まとまったお金ができると、それを使って向こうから錬金術の本を取り寄せてほしいと言われたらしく……」
チャールズさんがマッキーさんの担当になったのは、三回目の募集が始まってしばらく経ってから。はじめは別の相談員が担当していたそうだが、あれは手におえないとチャールズさんにお鉢が回ってきたらしい。
普通は素人が投資に手を出しても、そんなに簡単に儲かったりしないんだろうが、そこはご指名者特典なんだろう。二年くらいで億単位の儲けをたたき出したそうだ。そうすると、移住はキャンセルすると言ってきてもおかしくないが、彼はそうしなかったらしい。
「金さえあれば、たいていのことは何とかなるものです。マッキーさんもそのクチで、魔道具、調薬、魔法関係の本も何十冊と取り寄せて、独学で勉強。さらに、地球のオカルト関連の書籍も買いあさって向こうの本の内容と比較して、俺が担当になった頃は、独自の見解を持ってましたね。スキルにも興味があると言って、それの本も取り寄せていましたし……」
家電製品を魔道具で再現できないか、自分で設計図を引いたり、ハンドクラフトに挑戦したり、こちらでできそうな準備は思いつく限りやっていたらしい。
「……そりゃーレベルが違いますわ……」
やらかすには、やらかせるだけの下地があるってことか。すごいな、マッキーさん。
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