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*18 市場調査兼就職活動 *
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自分で歩いて、色々と見て回るのも大事だけど、地元の人に話を聞くことも大事だ。
俺の好きな味と地元の人が好む味は違うかも知れないからな。ユニライズホテルのバーテンダーと話をしたり、入ったバールで地元の人と話をしたり。ありがたいことに、地元の人が「美味い」とおすすめしてくれた店は、たいていが俺も「美味い」と思えるもので、味覚に大きな違いはないと安心することができた。
彼らが勧めてくれた店の中で、特に多かったのがペンシオン・バールだ。これは、二階から上が宿屋兼下宿屋になっていて、一階が食堂兼酒場という経営状態の一階部分を指している。
宿屋兼下宿屋は、ペンシオンと言う。このペンシオンに併設されている食堂兼酒場は宿泊者しか利用できないが、ペンシオン・バールの場合は宿泊者以外も利用できるのだ。
もちろん、ただのバールやレストラン、カフェもある。また、トゥリーアンはティキも大好きなんだそうだ。
地元の言葉ばっかりで、は? ってなったが、トゥーリアンはクァンベトゥーリアっ子を略したもので、江戸っ子とかニューヨーカーとかそんなニュアンスの意味。ティキは、はしご酒って意味らしい。一晩で五軒、六軒は当たり前。一軒あたり、三十分くらいしかいないそうで、それなら五軒、六軒は回れるなと感心した。
これは単にのん兵衛が多い、というだけではない。こっちでは、口コミが一番の情報収集ツール。客層や雰囲気の違う店をいくつか回ることによって、世間の動向を知るという目的もあるのだ。
そうなると、店の雰囲気というのはより重要になって来る。探索者はもちろん、一般の人も入りやすそうな雰囲気の店にしないと、すぐに経営が成り立たなくなりそうだ。
「両方の客層にアピールできる立地となると、この辺なんだけど……」
はあ~っ。大問題が発生した。というのも、メインコンセプトである「地球の料理が食べられる店」という部分に暗雲が立ち込めてきたのである。
トゥーリアンってば、食に関しては保守的だったんだ。いや、ビックリ。
ほとんどの人が、挑戦しない、工夫しない、(知らないものは)存在しない。──と、まあこんな感じ。
どこに行っても似たようなメニューしかないので、
「外国の料理を食べられる店ってある?」とホテルのコンシェルジュに聞いてみたら、貿易港の近くなら、船乗りを相手にした外国料理の店があるはずだと教えてくれた。しかし、
「ですが、地元の美味しい料理がたくさんあるのに、わざわざよその国の料理を召し上がったりなさらなくてもよろしいのでは?」
と、きたもんだ。そういう彼は、心底不思議だ、あなたがなぜそんなことを言うのか分からない、って顔をしていた。俺のほうこそ、なぜそんなことを言われるのか分からん。
と、いうようなこともあって俺のコンセプトはピンチなのだ。店をオープンすることはできるけど、スピード閉店しそうな予感しかない。そんなの、何の意味もないじゃないか。
と、いう訳で。コンセプトを修正。「地球の料理『が』食べられる店」ではなく、「地球の料理『も』食べられる店」にした。この『が』と『も』の差は大きい。
町に来てから、早くも一か月半が経過している。ユニライズホテル滞在期間も、残り半分を切った。滞在期間を延長することはできるが、その場合の宿泊費は自腹である。
自腹で、このホテルに滞在し続けるのはちょっと……快適なだけあって、お高い。今後のことを考えたら、懐に優しくないので、滞在期間が終了したら、別の宿に移るつもりだ。近々、移住局へ次の滞在先を相談しに行く。
コンセプトを修正したので、店のメニューとして出せるよう、地元飯を作れるようにならなくては。調理師ギルドでレシピは教えてもらえるけど、それはあくまで基本。ここから工夫をしなくては、他の店に負けてしまう。
というわけで、コネ作りだけでなく、その店の味付け的なども学ぶべく、本格的に就職活動を始めたわけだが……思いのほか難航している。
俺が開きたいと思っている店の雰囲気に近い店に就職したいと思うのだが、ギルドに紹介してもらった店は、どこもピンとこない。ここでもいいんだけど~とか、悪くないんだけど~、という感じ。決め手にかけるのだ。
どうしたものか。
どうせ、二~三年のことだし、割り切って面接を受けに行くか? そんなことを思いながら歩いていたとき、ふと美味しそうな良い匂いがした。
スンスンと鼻を鳴らして、ふらふらと匂いのする方へ。このおふくろの味って感じがする良い匂いは、タリーの台所っていう小さな食堂から漂ってくるようだった。
「こんな店あったんだ」
町の賑わいからはちょっと外れたところにあるから、気づかなかった。窓から店の外を覗くと、数人の客が座っている。お昼時だということもあって、俺はこの店に入ることにした。
店のドアを開けると、カランカランとベルの音。同時に、店内にいた客の視線が俺に集中する。え? なに? 貸し切りかなんかだった? 俺がかたまっていると、
「なんだ、テメエ。見ねえ顔だな」
俺よりは年がいってそうな、オーバーオールのマッチョが登場。頭に角が二本あることと、後ろでゆらゆら揺れてる尻尾の形から、牛族の人かなあ? とあたりをつける。他の客は、もう我関せず、という感じだ。
何なんだ、この店。明らかに店員ではない、オーバーオールマッチョは、俺を値踏みするようにジロジロ見たあと、
「この店ははじめてか?」
「えぇ、まあ」
「そうか。なら、適当に空いてる席に座れよ。今、この店は一人でやってるからよ、何もかもが遅ぇんだ」
なんか、嫌な感じ。このマッチョ、なんでこんな言い方をするんだ? 空いてる席は、確かにあるけど、食器が下げられてないし。どうしたもんかなと思う俺の横で、
「おい! オルレア! 客が来たぞー」
副音声で、さっさと来い、ノロマって聞こえたように思うのは、俺だけか? 厨房から「分かってる~」という返事があったが……う~ん、なんだかなあ。
俺の好きな味と地元の人が好む味は違うかも知れないからな。ユニライズホテルのバーテンダーと話をしたり、入ったバールで地元の人と話をしたり。ありがたいことに、地元の人が「美味い」とおすすめしてくれた店は、たいていが俺も「美味い」と思えるもので、味覚に大きな違いはないと安心することができた。
彼らが勧めてくれた店の中で、特に多かったのがペンシオン・バールだ。これは、二階から上が宿屋兼下宿屋になっていて、一階が食堂兼酒場という経営状態の一階部分を指している。
宿屋兼下宿屋は、ペンシオンと言う。このペンシオンに併設されている食堂兼酒場は宿泊者しか利用できないが、ペンシオン・バールの場合は宿泊者以外も利用できるのだ。
もちろん、ただのバールやレストラン、カフェもある。また、トゥリーアンはティキも大好きなんだそうだ。
地元の言葉ばっかりで、は? ってなったが、トゥーリアンはクァンベトゥーリアっ子を略したもので、江戸っ子とかニューヨーカーとかそんなニュアンスの意味。ティキは、はしご酒って意味らしい。一晩で五軒、六軒は当たり前。一軒あたり、三十分くらいしかいないそうで、それなら五軒、六軒は回れるなと感心した。
これは単にのん兵衛が多い、というだけではない。こっちでは、口コミが一番の情報収集ツール。客層や雰囲気の違う店をいくつか回ることによって、世間の動向を知るという目的もあるのだ。
そうなると、店の雰囲気というのはより重要になって来る。探索者はもちろん、一般の人も入りやすそうな雰囲気の店にしないと、すぐに経営が成り立たなくなりそうだ。
「両方の客層にアピールできる立地となると、この辺なんだけど……」
はあ~っ。大問題が発生した。というのも、メインコンセプトである「地球の料理が食べられる店」という部分に暗雲が立ち込めてきたのである。
トゥーリアンってば、食に関しては保守的だったんだ。いや、ビックリ。
ほとんどの人が、挑戦しない、工夫しない、(知らないものは)存在しない。──と、まあこんな感じ。
どこに行っても似たようなメニューしかないので、
「外国の料理を食べられる店ってある?」とホテルのコンシェルジュに聞いてみたら、貿易港の近くなら、船乗りを相手にした外国料理の店があるはずだと教えてくれた。しかし、
「ですが、地元の美味しい料理がたくさんあるのに、わざわざよその国の料理を召し上がったりなさらなくてもよろしいのでは?」
と、きたもんだ。そういう彼は、心底不思議だ、あなたがなぜそんなことを言うのか分からない、って顔をしていた。俺のほうこそ、なぜそんなことを言われるのか分からん。
と、いうようなこともあって俺のコンセプトはピンチなのだ。店をオープンすることはできるけど、スピード閉店しそうな予感しかない。そんなの、何の意味もないじゃないか。
と、いう訳で。コンセプトを修正。「地球の料理『が』食べられる店」ではなく、「地球の料理『も』食べられる店」にした。この『が』と『も』の差は大きい。
町に来てから、早くも一か月半が経過している。ユニライズホテル滞在期間も、残り半分を切った。滞在期間を延長することはできるが、その場合の宿泊費は自腹である。
自腹で、このホテルに滞在し続けるのはちょっと……快適なだけあって、お高い。今後のことを考えたら、懐に優しくないので、滞在期間が終了したら、別の宿に移るつもりだ。近々、移住局へ次の滞在先を相談しに行く。
コンセプトを修正したので、店のメニューとして出せるよう、地元飯を作れるようにならなくては。調理師ギルドでレシピは教えてもらえるけど、それはあくまで基本。ここから工夫をしなくては、他の店に負けてしまう。
というわけで、コネ作りだけでなく、その店の味付け的なども学ぶべく、本格的に就職活動を始めたわけだが……思いのほか難航している。
俺が開きたいと思っている店の雰囲気に近い店に就職したいと思うのだが、ギルドに紹介してもらった店は、どこもピンとこない。ここでもいいんだけど~とか、悪くないんだけど~、という感じ。決め手にかけるのだ。
どうしたものか。
どうせ、二~三年のことだし、割り切って面接を受けに行くか? そんなことを思いながら歩いていたとき、ふと美味しそうな良い匂いがした。
スンスンと鼻を鳴らして、ふらふらと匂いのする方へ。このおふくろの味って感じがする良い匂いは、タリーの台所っていう小さな食堂から漂ってくるようだった。
「こんな店あったんだ」
町の賑わいからはちょっと外れたところにあるから、気づかなかった。窓から店の外を覗くと、数人の客が座っている。お昼時だということもあって、俺はこの店に入ることにした。
店のドアを開けると、カランカランとベルの音。同時に、店内にいた客の視線が俺に集中する。え? なに? 貸し切りかなんかだった? 俺がかたまっていると、
「なんだ、テメエ。見ねえ顔だな」
俺よりは年がいってそうな、オーバーオールのマッチョが登場。頭に角が二本あることと、後ろでゆらゆら揺れてる尻尾の形から、牛族の人かなあ? とあたりをつける。他の客は、もう我関せず、という感じだ。
何なんだ、この店。明らかに店員ではない、オーバーオールマッチョは、俺を値踏みするようにジロジロ見たあと、
「この店ははじめてか?」
「えぇ、まあ」
「そうか。なら、適当に空いてる席に座れよ。今、この店は一人でやってるからよ、何もかもが遅ぇんだ」
なんか、嫌な感じ。このマッチョ、なんでこんな言い方をするんだ? 空いてる席は、確かにあるけど、食器が下げられてないし。どうしたもんかなと思う俺の横で、
「おい! オルレア! 客が来たぞー」
副音声で、さっさと来い、ノロマって聞こえたように思うのは、俺だけか? 厨房から「分かってる~」という返事があったが……う~ん、なんだかなあ。
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