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*7 クァンベトゥーリア観光 ~パラソル市場~ *
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聞くと見るとでは大違いっていうのは、本当のことだった。
妊夫を目の当たりにして、男でも出産できるという話が事実だったと理解した。正直、半信半疑だったんだよな。
でもまあ、妊娠なんて、今の俺には関係のない話だ。それより、漁港だ、漁港。
俺は、地元民に倣って通りを横断し、漁港の方へ向かった。移住局の前は、馬車用の駐車場みたいな場所になっているが、とりあえず無視。関係者以外お断り、の看板とか見えないし。
何か言われたら、その時だ。今日、この町に来たばっかりの観光客なんです、スミマセンとでもいえば、何とかなるだろう。多分。
「おい、兄ちゃん。こんなところをウロウロして、何やってんだ?」
「うわ!? あぁ、すみません。漁港を見学したいな~って思って」
後ろからぶっきらぼうに声をかけられ、びっくりした。振り返ると、なめし革のような肌の色をしたムキムキの男が、不審そうにこちらを見ている。
「ん? そのデケエ鞄……あんた、観光客か」
いかにも漁師です! って雰囲気の彼は、俺の鞄に気が付いて、表情を緩めた。俺の鞄は、大容量のボストンバッグだ。斜め掛けもできるタイプの物で、デザインも気に入っている。
「観光客ならよ、見学くらい、好きにして行けって言いたいところなンだけどよ。悪ィな、もうすぐ昼の陸揚げが始まるンで邪魔ンなるからよ、遠慮してもらえねえか」
「昼の……って、あの沖に見える船が帰ってくるんですか?」
「ああ、そうだ。あそこに島が見えンだろ? あの島にダンジョンがあるンだが、あそこに行くには干潮の時に歩いて行くか、船で行くしかねンだ」
「へえ……なるほど。行きはともかく、帰りは船の方が便利なのかな?」
俺がつぶやくと、漁師? が「その通りよ」と腕組みをし、ドヤ顔でうなずく。
「ここらの漁師は朝の漁が終わると、軽く一休みしてから、あの島に行くンだ。で、契約してるクランの探索者から戦利品を預かって、港に運ぶ仕事をしてンのさ」
戦利品だけ運ぶ時もあれば、探索者も一緒に運ぶこともあるらしい。沖のダンジョンでは、魚介類(と言っても魔物)も採れるそうで、それは漁業組合の競りにかけられることもあるそうだ。
そのため、これから漁港は忙しくなるらしく、観光客にウロチョロされるのは困るとのことである。そりゃそうだ。しかし、これからどうしようかな?
「行き先に困ってンなら、あそこにあるパラソル市場に行ってみるのはどうだ?」
「パラソル市場? って、ああ、あのカラフルな……」
彼が指さしたのは、漁港に背中を向けている今の俺から見て左やや後ろ。赤や青、緑、黄色といった鮮やかな色がいっぱい並んでいるところだ。まるで真夏の海水浴場みたいだが、そうではなく、青空市場的なところなんだとか。観光スポットでもあるそうで、
「最近じゃ、日用品や食料以外にも、観光客用の雑貨とかもあるらしいぞ。特に、ボトルってぇ、持ち運びに便利なモンにカヒエやジュースを入れンのが流行ってるンだとよ」
「そうなんですね。ありがとうございます。早速行ってみます」
「おう。気をつけてな。楽しンでこいよ、シュオ!」
「シュオ! あなたも楽しい一日を」
「おう!」
俺が「楽しい一日を」って言ったから、漁師? は一瞬きょとんとした表情になった。でも、すぐにニッカ~っと特大の笑顔を見せてくれた。うん、笑顔は最強だ。
地元の人と短いふれあいを楽しんだ俺は、異世界すげえって、ちょっと興奮してた。
家での扱いが酷かったせいか、俺ってコミュニケーションが苦手だったんだよ。
だから、新司のままだったら、最初に声をかけられた時点で「すみません」って謝って、逃げてたと思う。でも、俺は逃げなかった! それどころか、会話を楽しむことができたんだ! これって、すごい進歩だと思わないか?!
俺はもう、原田新司じゃない。スバル・フィルドに生まれ変わったんだ! 嬉しい!
くふくふと一人笑いながら歩いていると、次から次へと幌馬車やら荷馬車が入って来た。
俺に気づいた御者が、なんだコイツ? という顔をするので、
「シュオ! すみません、観光客です。今からパラソル市場に行くところで」
俺のほうから声をかける。もちろん、笑顔だ。すると、御者は納得顔で
「シュオ! 昼時だから、美味いもん、たらふく食っていけよ!」とか
「シュオ! フロインのバンズサンドがオススメだよ!」
なんてフレンドリーに答えてくれた。みんな親切である。その一方で、仕入れた魚を馬車に積む準備も怠らない。手慣れたもんだな。っていうか、水の道? 空中に?
「あの、これ、なんですか?」
「ん? ああ、これか。馬車に積んだ水槽まで、この水の道の中を魚に泳がせて運ぶんだよ」
「は~……すごいですね」なんてファンタジー!
この魔法のおかげで、内陸にも新鮮な魚を運ぶことができるんだ、と業者の人はドヤ顔で教えてくれた。うん、これはドヤ顔になるわ。すごすぎる。
余談だが、さっきから頻繁に使っている「シュオ」という言葉。この町の人たちの挨拶の言葉だそうだ。意外にすんなりと出てくるのは、生まれ変わり効果だろうか。
妊夫を目の当たりにして、男でも出産できるという話が事実だったと理解した。正直、半信半疑だったんだよな。
でもまあ、妊娠なんて、今の俺には関係のない話だ。それより、漁港だ、漁港。
俺は、地元民に倣って通りを横断し、漁港の方へ向かった。移住局の前は、馬車用の駐車場みたいな場所になっているが、とりあえず無視。関係者以外お断り、の看板とか見えないし。
何か言われたら、その時だ。今日、この町に来たばっかりの観光客なんです、スミマセンとでもいえば、何とかなるだろう。多分。
「おい、兄ちゃん。こんなところをウロウロして、何やってんだ?」
「うわ!? あぁ、すみません。漁港を見学したいな~って思って」
後ろからぶっきらぼうに声をかけられ、びっくりした。振り返ると、なめし革のような肌の色をしたムキムキの男が、不審そうにこちらを見ている。
「ん? そのデケエ鞄……あんた、観光客か」
いかにも漁師です! って雰囲気の彼は、俺の鞄に気が付いて、表情を緩めた。俺の鞄は、大容量のボストンバッグだ。斜め掛けもできるタイプの物で、デザインも気に入っている。
「観光客ならよ、見学くらい、好きにして行けって言いたいところなンだけどよ。悪ィな、もうすぐ昼の陸揚げが始まるンで邪魔ンなるからよ、遠慮してもらえねえか」
「昼の……って、あの沖に見える船が帰ってくるんですか?」
「ああ、そうだ。あそこに島が見えンだろ? あの島にダンジョンがあるンだが、あそこに行くには干潮の時に歩いて行くか、船で行くしかねンだ」
「へえ……なるほど。行きはともかく、帰りは船の方が便利なのかな?」
俺がつぶやくと、漁師? が「その通りよ」と腕組みをし、ドヤ顔でうなずく。
「ここらの漁師は朝の漁が終わると、軽く一休みしてから、あの島に行くンだ。で、契約してるクランの探索者から戦利品を預かって、港に運ぶ仕事をしてンのさ」
戦利品だけ運ぶ時もあれば、探索者も一緒に運ぶこともあるらしい。沖のダンジョンでは、魚介類(と言っても魔物)も採れるそうで、それは漁業組合の競りにかけられることもあるそうだ。
そのため、これから漁港は忙しくなるらしく、観光客にウロチョロされるのは困るとのことである。そりゃそうだ。しかし、これからどうしようかな?
「行き先に困ってンなら、あそこにあるパラソル市場に行ってみるのはどうだ?」
「パラソル市場? って、ああ、あのカラフルな……」
彼が指さしたのは、漁港に背中を向けている今の俺から見て左やや後ろ。赤や青、緑、黄色といった鮮やかな色がいっぱい並んでいるところだ。まるで真夏の海水浴場みたいだが、そうではなく、青空市場的なところなんだとか。観光スポットでもあるそうで、
「最近じゃ、日用品や食料以外にも、観光客用の雑貨とかもあるらしいぞ。特に、ボトルってぇ、持ち運びに便利なモンにカヒエやジュースを入れンのが流行ってるンだとよ」
「そうなんですね。ありがとうございます。早速行ってみます」
「おう。気をつけてな。楽しンでこいよ、シュオ!」
「シュオ! あなたも楽しい一日を」
「おう!」
俺が「楽しい一日を」って言ったから、漁師? は一瞬きょとんとした表情になった。でも、すぐにニッカ~っと特大の笑顔を見せてくれた。うん、笑顔は最強だ。
地元の人と短いふれあいを楽しんだ俺は、異世界すげえって、ちょっと興奮してた。
家での扱いが酷かったせいか、俺ってコミュニケーションが苦手だったんだよ。
だから、新司のままだったら、最初に声をかけられた時点で「すみません」って謝って、逃げてたと思う。でも、俺は逃げなかった! それどころか、会話を楽しむことができたんだ! これって、すごい進歩だと思わないか?!
俺はもう、原田新司じゃない。スバル・フィルドに生まれ変わったんだ! 嬉しい!
くふくふと一人笑いながら歩いていると、次から次へと幌馬車やら荷馬車が入って来た。
俺に気づいた御者が、なんだコイツ? という顔をするので、
「シュオ! すみません、観光客です。今からパラソル市場に行くところで」
俺のほうから声をかける。もちろん、笑顔だ。すると、御者は納得顔で
「シュオ! 昼時だから、美味いもん、たらふく食っていけよ!」とか
「シュオ! フロインのバンズサンドがオススメだよ!」
なんてフレンドリーに答えてくれた。みんな親切である。その一方で、仕入れた魚を馬車に積む準備も怠らない。手慣れたもんだな。っていうか、水の道? 空中に?
「あの、これ、なんですか?」
「ん? ああ、これか。馬車に積んだ水槽まで、この水の道の中を魚に泳がせて運ぶんだよ」
「は~……すごいですね」なんてファンタジー!
この魔法のおかげで、内陸にも新鮮な魚を運ぶことができるんだ、と業者の人はドヤ顔で教えてくれた。うん、これはドヤ顔になるわ。すごすぎる。
余談だが、さっきから頻繁に使っている「シュオ」という言葉。この町の人たちの挨拶の言葉だそうだ。意外にすんなりと出てくるのは、生まれ変わり効果だろうか。
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