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第三章 エルフの里

第七話 クリスと…

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「ああ、それはな。私の孫、クリスティーナだ」

「……へ?」

 そう言われた瞬間、俺は思わず気の抜けた声を出してしまった。

「い、いや、あの……家宝……ですけど……」

 確かに家族からしてみれば、クリスは家宝のようなものだろう。だが、それを俺に渡すとは一体……あ
 俺はこの時、トリエストさんが何を言っているのか察した。

「あの……それってつまり……」

「ああ、クリスの夫になってほしいんだ。それは、クリスも望んでいるしな」

 そう聞いて、俺はクリスをちらりと見た。すると、クリスは顔を真っ赤にさせながら、下を向いていた。見た感じ、嫌がっている様子はない。むしろ嬉しそうだった。

(あ~これ、断れないし、断りたくないやつだ)

 ここで断ったら、すっごい気まずい雰囲気になる。それに、そもそもクリスのような元の世界では見ないほどの美女と結婚出来ると言われて、断るなんてことをするはずがない。そんな断るようなことをするのは、全世界の非リアから、「絶好のチャンスを逃すとか、お前正気か?」と言われてしまう。
 それに、今の俺には家族がいないので、誰かに許可を取らなくてはならないわけでもない。だったらもう、答えは一つしかないのだ。

「は、はい。う、受けさせていただきます」

 俺は、顔を真っ赤にさせながら、頭を下げた。

「おお、ありがとう。もし、受けてくれなかったらクリスはどうなってたことか……今朝だって私に相談してきたよね?」

「う、それは言わないのが優しさってものでしょ!」

 クリスは顔を真っ赤にさせながら、トリエストさんの肩をバシバシと叩いていた。

「つーか、いいのか? 結婚相手は世界樹が生んだハイエルフって言うのが暗黙の了解みたいになってたんじゃないの?」

 レインは、腕を組みながらそう言った。

「別にそう言う慣習があるわけではないからな。私やドーラが恋を抱いた相手が、世界樹が生んだハイエルフだからと言って、お前たちまでそうしなくてもいいんだぞ」

 トリエストさんは、レインさんの質問にそう答えた。

「ん? いったい何の話をしているのですか?」

 世界樹がハイエルフを生むとは一体どういうことなのだろうかと疑問に思っていると、クリスが口を開いた。

「あれ? 世界樹がハイエルフを生み出したってことは言ったと思ったんだけどなぁ……」

 クリスの言葉を聞いて、俺が脳内を整理した。

「……あ、確かに言ってたな」

 エルフの里に入った時に、クリスからそう言われていたことを思い出した。あの時は、世界樹に夢中になっていたせいで、聞き流してしまっていたが、よくよく考えてみれば凄いことだ。

「世界樹からハイエルフが生まれる原理が分からん……」

 俺は腕を組みながら、「うーん」と唸った。

「それについては、私も詳しくは分からないな。まあ、”人は何故生まれたのか?”や、”世界の始まりとは何なのか?”の答えが見つからないのと同じようなものだな」

 トリエストさんは、誰もが一度は思ったことのある疑問を例に出して、説明してくれた。

「なるほど……と言うか、皆さんの家系ってどうなっているんですか?」

「え~っとな……まず、私とディーネがほぼ同じ時期に世界樹から生まれ、暫くしてから結婚した。そして、私たちの間に生まれた子供がドーラだ。その後、ドーラは再び世界樹から生まれたエルザと結婚した。そして、その二人から生まれたのがクリス、マリア、レインというわけだ。あ、因みに世界樹から生まれたハイエルフは、最初から大人なんだ」

「……凄いな……ただ、それって遺伝子とか……あの、健康の面って大丈夫ですか?」

 元をたどれば全て世界樹になっているので、俺は元の世界で、聞いたことのある近親婚の危険性を考えた。そしたら、トリエストさんが、「世界樹から生まれる時は、地面や空気中に流れる魔力を吸収して作られるから、そういう面では完全に他人なんだよね」と言った。世界樹と言うのは、そういうことも考えていたのだろうか。

「なるほど……でも、本当に俺が、皆さんの家系に入り込んでいいんですか?」

 何万年もの間、ずっとハイエルフのみの家系に、俺が入り込むのは、なんだか気が引けてしまう。すると、ドーラさんが笑いながら、俺の肩を叩いた。

「やれやれ、別にこれは伝統とかじゃないって言っただろ。それに、もしこれが伝統だったとしても、それがクリスやお前を不幸にするのなら、なくしてしまえばいいだけだからな」

「そ、そうですか……ただ、流石に伝統はなくしちゃダメだろ……」

 元の世界でも、伝統を守ろうと努力していた人たちがいたことを思い出した俺は、そう言った。

「まあ、確かにその伝統が人々を幸せにするものならいいだろう。だが、不幸にするものならいらないだろ? 伝統をいやいや守るだなんて、誰も望んでいないことだ」

「まあ、そうですね」

 俺は、ドーラさんの言葉に、そう頷いた。
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