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第三章

第十六話 知らない天井だ!

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 瞼越しに、光を感じる。
 背中から伝わる、柔らかな感触。

「……ん……?」

 俺はそっと目を覚ました。
 するとそこは――知らない天井だった。

「んっと」

 俺はかけられていた柔らかな布団をどけながら、よっこらせと上半身を起こした。
 そして、辺りを見渡す。

「……病室って感じか」

 周りには空っぽのベッドが数個置かれており、見るからに病室だ。
 人は居ないが、外に気配をいくつか感じる。

「……ああ、ちゃんと左腕、くっついてるな」

 女神エリアスと話していた時の俺には無かった左腕だが、今はちゃんとくっついている。どうやら、ちゃんと治療してくれたみたいだな。

「きゅきゅきゅ!」

 直後、ベッドの下から1匹のスライムが飛び出て来たかと思えば、俺に突撃してきた。
 突然の事に「何事だ!?」と咄嗟に身構えてしまったが、それがネムであると理解すると、直ぐに胸元へ受け入れる。

「きゅきゅきゅ!!!」

「すまん。心配させたな」

 泣き喚く様に声を上げるネムを優しく包み込むようにして撫でながら、俺はそう言って謝罪する。
 あの時は、出たら危ないと、ずっと地面に転がしてあったリュックサックの中に入れてたんだよな。
 あ、てか何気にリュックサックもちゃんと回収しててくれたのか。
 ナイス。
 すると、部屋のドアがガチャリと開き、神官らしき女性が入って来る。

「やはり、お目覚めになられていましたか。傷の方は、一通りこちらで治癒しておきましたので、ご安心ください」

 そして、俺を見るなりそう言って礼儀正しく頭を下げる。

「そうか、ありがとう」

「いえ。レイン殿下の恩人とあらば、この程度苦労の内に入りません」

 俺の礼に、彼女はそう言って謙遜する。
 なるほど。意識を失う前にさらっと聞いてはいたが、どうやら俺はレイン殿下の恩人という形で、ここに連れてこられたようだ。
 俺含め僅か2人しかいない直属の部下だと知られれば、割と大惨事になる為、この対応は本当にありがたい。

「そうか。それで、俺はもう動けるという事でいいのか?」

「はい。ですが、何分切断面が酷かったもので、数日はこちらで経過観察をした方がよろしいでしょう」

 まあ、あんな馬鹿デカい大剣にスパッとやられた後に、追加で相当ダメージを受けたからな。
 あの時はそれどころじゃ無くて気づかなかったが、相当酷い状況だったのは、容易に想像できる。

「では、シン様が目覚められましたと、レイン殿下にはこちらからお伝えしておきます。あと、後ほどお食事もご用意いたしますね」

「ああ、ありがとう」

 立ち去る彼女に、俺は再び礼を言うのであった。
 その後、別の人が持ってきてくれた食事を食べ、左腕の診察もした所で、あの人がやって来た。

「シン。心配したよ」

「ああ。本当にな」

 そう言って、病室に入って来るのはレイン殿下と護衛のファルス伯爵子息。
 2人は元気そうな俺を見て、ほっと息を吐きながら、ベッドの横までやって来る。

「この忙しい時に、まさかレイン殿下が直々に来られるとは思いもしませんでした」

「確かに忙しいが、一通り各所に命令は出し終えている。だから、こうして来ることが出来た。それに、私が見ている限りでは一番の功労者であるシンの見舞いに行かないなど、王族の名折れだ」

 俺の言葉に、レイン殿下は堂々とそう言ってのけた。
 これだから、こっちも進んで手を貸したくなるんだなぁ……。

「ああ。それにしても、いきなり連絡が来た時はビビったぞ。いつも平然としているお前が、あんな緊迫した声で言ったんだ」

「本当だよ。そして、行ってみればまさかイグニスと互角の戦いをした敵幹部2人と、15分以上も戦い続けてたなんてね。本当に、無事でよかったよ」

 ああ、結構持ちこたえていたんだな。
 あの条件下で、俺にしてはよくやった方なんじゃないかなと思う。

「そうですか。思ったよりも、やれてましたね」

「ああ。それにしても、何故あそこに居たんだ? シンが直接あそこへ行く理由が、私には思いつかなくてな……」

 すると、レイン殿下からそんな問いが投げかけられた。
 俺はその問いに答えようとして――口ごもる。
 ヤバい。これだけ心配してくれた2人に、直接戦ってみたいという理由で幹部と戦って、ヘマしただなんて言いたくない……。
 どうしよ。
 すると、流石は王太子と言うべきか――はたまた”万能感知”を持ってるからか、レイン殿下は「ん?」と途端に訝しんだ。

「何か、やましい事でもあるのかな?」

 そして、いきなり図星を突く。
 やべ。これ言わない方がマズいやつだ。
 そう、直感で判断した俺は、観念したかのようにレイン殿下へ事情を細かく説明する。
 若干言い訳感が出てしまったが、それは致し方なしということで……
 すると、ファルスは呆れたようにこめかみを押さえた。
 そして、レイン殿下は――

「シン。まあ、敵幹部をそれで倒せたのなら、とやかく言うつもりは無い。

 ただ――

「最高戦力の一角を動かすには、それなりの理由が必要なんだ。その事を、しっかりと念頭に収めていて欲しい」

 そんなレイン殿下の言葉に。
 俺は頷く事しか出来ないのであった。
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