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第三章

第十三話 最強幹部2人vsシン(え、絶望過ぎね?)

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「ぐっ――起動ブート!」

 それに対し、俺は今しがた詠唱し、待機ストックしていた空間障壁スペーショナル・シールドを遅延起動する事で、放たれた空間破壊の魔法――空間破壊スペーショナル・ブレイクを受け流す。

「あははっ 痛いなぁ、これ。酸?」

「猛毒散布に加えて酸を急所である首に遠隔で出現させる……といった所か。随分と殺意が高い」

 空間破壊スペーショナル・ブレイクによって毒煙も消え、ほぼ無傷の2人が姿を現す。
 あーマジか。今の空間破壊スペーショナル・ブレイクで、グーラ巻き込まれて無いんかい。
 あの一瞬で、すぐ隣に居るグーラを巻き込まないように空間破壊スペーショナル・ブレイクを放つとか、想像以上の技量だな。

「後どんぐらい稼げばいいのかなぁ……」

 そんな事をぼやきながら、俺は咄嗟に自身の服裾に戻した変異種スライムに意識を割きながら、思案する。
 見た感じ、変異種スライムの溶解液は効くんだな。ただ、ちょっと効きが悪い。
 何度もやれば絡繰りを見抜かれて、対処されてしまうだろうから、これで倒すのはちょっと無茶だな。
 大量スライムによる数の暴力戦法も、空間を破壊できるネイアの前ではほぼ無力だし……

「まあ、そろそろ――死ね!」

 直後、漆黒の大剣を両手で構えたグーラが、周囲に漆黒の大剣を3本浮かせながら突撃していた。
 速い――!

「ぐううううっ!!!」

 俺は咄嗟に迎撃し、受け流す――が、その次の瞬間、まるで示し合わせたかのように3本の漆黒の大剣が、それぞれ別方向から俺の頭や腹、足を穿たんと突き出て来た。

「がっ……!」

 急所は何とか外したが、それでも避けきることは不可能だった。
 横腹を深く斬り裂かれ、左腕は――斬り飛ばされた。

「っ――はあっ!」

 だが、ここで怯んではいけない。怯んでしまえば、それはそのまま死に直結する。
 むしろ、この状況は――チャンス。とどめの一撃で仕留め損ねたグーラを、ここで仕留める!
 そう思いながら、俺は右手の剣をグーラ目掛けて振り下ろす。

「だ~~め~~~!!!」

 だが、嗜虐的な笑みを浮かべるネイアが発動した転移魔法によって、グーラを間合いの外へ送られてしまった。
 普通なら、これで終わり。
 だがな。

「読んでたよ」

 直後、俺は拡張斬撃エクスペンド・ソードを発動させ、刀身を伸ばした。
 そしてそれは、転移直後で無防備となっているグーラを襲い――

「が、はっ……!」

 グーラの左胸を、深々と斬り裂いたのだ。

「ぐっ……マジ、かっ……」

「ちょ、グー君!?」

 左胸を押さえ、膝を付くグーラと、治癒すべく駆け寄るネイア。
 攻めるのなら今――なのだが。

「ぐっ……うっ……」

 俺自身も致命傷。早急に治癒しなければ直ぐに失血死するレベルだったせいで、動けなかったのだ。
 だが、時間は確実に稼げている。
 俺という手札の重要性は、レイン殿下なら良く分かっている筈だから、助けも直ぐに来ると信じたい。
 そう思いながら、俺はマスターポーションで右脇腹の傷を治癒し、更に左腕の切断面を止血する。
 流石に左腕欠損の治癒は、これじゃ不可能だ。止血だけして、後は回復術師に任せるとしよう。

「ふぅ――召喚。起動ブート

 そして、爆速で治癒を終わらせると、俺は即座にスライムを2匹、2人の服裾に召喚。そして、そこからゼロ距離で待機ストックさせていたもう1つの魔法――劣化版の空間切断スペーショナル・スラッシュを放った。
 直後、今度は無詠唱で転移魔法を使って正面から近づき、剣を振り下ろす。

「破壊、破壊、破壊いいいい!!!!!」

「飛べ!」

 グーラは心臓がある左胸を深く斬り裂かれている事で、俺よりもほんの僅かに治癒に時間が掛かっていた。だが、それでも阿吽の呼吸で対処される。
 グーラが漆黒の大剣を飛ばして、正面から来た俺を迎撃する。そしてネイアは空間破壊スペーショナル・ブレイクで、俺の空間切断スペーショナル・スラッシュを迎撃し、更に俺自身にも攻撃を加えて来た。

「ぐっ」

 咄嗟に飛ばされた大剣だったが故に、それは右腕だけでも捌けた。だが、続けて来た空間破壊スペーショナル・ブレイクは無理だった。

「がはっ……!」

 こちらも寸での所で空間を揺らして被害を押さえるも、全身を殴打されたかのような痛みに襲われ、俺はあえなく膝を付いて倒れ込む。
 だが、ここで俺は咄嗟にスライムと視覚を共有すると、懐に忍ばせていた魔法石を砕いた。

「ぐっ!」

「なあっ!?」

 直後、2人の背中から爆炎が上がる。
 俺が保有する魔法石の中では最高火力――この戦闘に置ける切り札のようなものだ。
 その後、俺はスライムを自身の下へ避難させると、マスターポーションを全身に被り、びしょ濡れになりながら治癒すると、立ち上がった。

「くっ……」

 立ち眩みがする。
 血を流し過ぎたか。
 増血剤が欲しい所ではあるが、この世界には無いんだよ。その便利グッズ。

「やれやれ。本当に巧いな。俺とネイアの方がずっと格上なのに、押しきれない」

「は~流石にしぶといよ君ぃ? あーお前の臓物を早くぶちまけたいなああああ!!!??」

 グーラが展開した闇系統の防護魔法によって、それはあえなく防がれていた。
 そして、戦闘によってハイになってるっぽいネイアが、めっちゃ怖い笑みを浮かべながら叫び散らす。

「もう、いい加減死ね!」

 直後、出現する10本の漆黒の大剣。
 それらは、一斉に俺目掛けて多方面から放たれる。
 威力や強度は先程のものより弱いが――9歳児の貧弱ボディでは、どっちも変わらんな。

「空間よ、斬れ。斬れ。斬れ」

 そして、そこから更に続く空間切断スペーショナル・スラッシュ
 その撃ち方、消費魔力半端ないと思うんだけど……くそっ 化け物が!

「はっ! はっ! はあああっ!」

 それに対し、俺は無詠唱の空間転移ワープを駆使して、必死に避ける。
 だが、ネイアのせいで使いづらい。
 でも、幸い俺の方が技量は上だから空間転移ワープ使えるけど、下だった場合、絶望的な魔力の差も相まって一切使う事が出来ず、一方的にフルボッコにされてたぞ……

「ぐっ ま、ずっ……」

 ヤバい。相手のペースに持ってかれてしまった。
 魔力量も残り僅か。
 そして――

「はぁ、は、ぁ……」

 激戦の末、俺は壁を背に、満身創痍の状態で座り込んでいた。
 そして、対するグーラとネイアには多少のかすり傷はあるものの、それといった問題は無く、俺の前に立っている。

「よく粘ったな。敵ながら褒めてやる」

「はっ……そう、か」

 を確信した俺は、グーラの言葉を鼻で笑う。
 そして、唇を震わせて最後の時間稼ぎを行った。

「それで、結局、お前、ら、は……なにが、目的、だっ?」

 そんな俺の問いに。
 嗜虐的な笑みを浮かべるネイアが答えた。

「あははっ 冥途の土産に教えてあげる! それはねー……ぷっ やっぱ教えてあ~げないっ!」

 答え――という名の嘲笑を見せると、俺目掛けてネイアは剣を振り下ろす。
 狙いは右腕。完全に俺を無力化するつもりか。
 だがな――俺はんだよ。

「時間稼ぎに……な」

 その直後。

「っ!? ネイア!」

「なっ――」

 キン!

 左方向から凄まじい速度で突貫してきた男の剣が、ネイアの剣を弾き飛ばすのであった。
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