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第二章

第三十話 初仕事

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 レイン・フォン・フェリシール・グラシア視点

 無事シン君との会談を終えた私は、ファルスと共に急ぎ王城へと戻っていた。
 ミルスの幻影魔法を駆使したやり方で、無事を終えて帰還した私は、直ぐに自室へと戻る。

「ふぅ……秘密裏の会談は、色々と神経を使うね」

 そう言いながら、私はシン君から預かったスライムを手に取る。
 体長は8センチ程――平均よりも小さい。彼が気を遣ってくれたのかな?

「さて。このスライムはファルスの従魔って事にしておこうか。それが一番丸く収まる」

「だな。戦闘力皆無なスライムなら、それで通るだろ」

 私の言葉に、ファルスはそう言って肩を竦めた。
 その後、「さて……」とファルスが深く息を吐くと、口を開く。

「にしても……あの少年、結構肝座ってるな。9歳で王太子様と会談して、平気であんなに吹っ掛けてくるとか正気じゃないぜ……」

「まあ、珍しいね。だけど、厚顔無恥……という訳では無かっただろう?」

「まあな。道理は通している感じだった」

 私の言葉に、ファルスは肩を竦めて頷いた。
 確かに、シン君は9歳らしからぬ精神力を持っており、私相手でも臆せず自分の意見を言ってくれた。立場のせいで、他者の本音を聞くことがあまり出来ない私からしてみれば、嬉しい事だ。

「後は、ちょっと警戒心高すぎだろ。背後取った瞬間、あそこまで身構えられるとか完全に想定外だわ。王太子との会談だぞ、会談。他に考えることあるだろ……」

 どうやら色々と想定外だったようで、ファルスの愚痴が止まらない。
 私はまあまあとファルスを宥めながら、自分の意見を口にする。

「彼はフィーレル侯爵家で、5歳の頃からずっと虐げられてきたはずだ。我々王侯貴族に対して、あまりいい感情は持っていないだろう」

「あ~そう言えばそういう報告あったな。なら、あそこで会談を拒否されなかっただけでも、良い方か」

「まあ、そうだね……。さて、では早速彼に仕事を渡すとしよう」

 雑談を終え、私は仕事の話に移る。すると、それに伴いファルスの表情もやや真面目なものへと変わった。

「分かった。それで、何の仕事を?」

「ああ。丁度今問題になっている、中立派の調査だ。貴族に探りを入れるのは難しいからね」

 私の言葉に、ファルスはなるほどと納得する。
 中立派の貴族が、下手な行動に出る事は少ないと踏んでいるが――フィーレル侯爵家が没落した事で、揺れている彼らに付け入ろうとする勢力は、いくつもあるはず。
 そんないくつもの貴族を調査するような難題に、彼は適任だろう。
 なにせ、誰にも悟らせずに公爵家を始めとした数多の屋敷に侵入し、果てには王城の会議室にまで侵入したのだから。

「やれやれ。そんな事が出来るテイマーか……流石に王国最高峰のテイマーとして、僅かながら嫉妬してしまうな」

「しかも、彼の階級はファルスよりも下であるから余計に……だろう?」

 そう。驚くべき事に、彼の”テイム”がF級である事は――私の感覚からして、嘘では無い。つまり、これは純粋な技量による差……という事になる。
 なら、ファルスが嫉妬してしまうのも無理は無い。ファルスにも、それ相応の自負があるのだから。

「だけど、従魔の魔物を含めた戦闘力なら、流石にファルスに軍配が上がるだろう。ファルスはどちらかと言えば、戦闘よりだろう?」

「まあな。でないと、他から文句を言われる」

 ファルスはそう言って、げんなりと肩を落とした。

「そうだね。では、仕事を伝えるとしよう。彼なら、まだ王都に居るだろうからね」

 そう言って、私はシン君から受け取ったスライムをじっと見つめると、彼と繋げるよう頼むのであった。

 ◇ ◇ ◇

 レイン殿下との会談を終えた俺は、”精霊の泉亭”で絶賛3杯目の紅茶を嗜んでいた。
 いやーこれ結構美味いんだよ。
 折角来たんだし、どうせならもう少しゆっくりしていかないと。

「それに、帰りの分もちゃんと用意してくれたからね~」

 そう言って片手で弄ぶのは、レイン殿下が別れ際に渡してくれた、帰りの分の魔法石。ちゃんと、シュレインの近くまで転移する用のやつだ。
 これだけで相当な金がかかっている。こりゃ、俺に期待してるって事でいいのかねぇ……

「誰かの下に就くのはあまり好きじゃ無いんだが……まあ、こういう俺の行動が一切縛られないやつならいっか……ん?」

 すると、突然スライムから連絡が入った。
 このスライムは……ああ、レイン殿下に渡したやつだ。
 さては、早速仕事して来いって事か……?
 いいだろう。やってやる!……出来るものに限るが。
 そんな事を思いながら、俺はそのスライムとの”繋がり”をより強化すると、誰にも聞こえない声で呟く。

「お呼びですか? レイン殿下」

 左目のみ視覚を移している俺は、眼前に佇むレイン殿下を見ながらそれっぽい挨拶をしてみた。すると、レイン殿下は毎度おなじみ王太子スマイルをしながら口を開く。

「ああ。早速で悪いが、仕事を頼みたいと思ってね。内容は、中立派全体の調査だ」

「ああ……なるほど。そういう事ですか」

 それだけで、俺は何となくレイン殿下のしたい事が分かった。
 恐らくこれは、フィーレル侯爵家が没落した事で、100パーセント揺れまくっている中立派が、変な事に手を出そうとしてないか調査しろって事だろう。
 俺はそうレイン殿下に聞いてみると、「概ね正解だ」と答えが返って来た。

「分かるのなら、話が早い。報酬は内容次第という事で……頼めるかな?」

「分かりました。やりましょう」

 別にそれぐらいなら出来る。既に大体の貴族屋敷にはスライムを潜入させてるし。
 そんな事を思いながら、俺は二つ返事で頷いた。すると、レイン殿下から追加の注文を受ける。

「あと、これは出来ればで良いのだが……”祝福ギフト無き理想郷”が関わっていたら、より念入りに調査して欲しい」

「”祝福ギフト無き理想郷”……ですか。分かりました。やりましょう」

 ”祝福ギフト無き理想郷”は、聞いた事がある。確か、俺みたいな低い階級の祝福ギフト持ちへの不当な差別を止めろー!って奴だろ。
 ただまあ……自分の無能を棚に上げて、何もかも全部祝福ギフトのせいにしている輩を初っ端に見かけたせいで、興味無くしたけど。

「報告は、このスライムを使って欲しい……と言いたい所だが、そちらから会話するとシン君の存在が明るみになる可能性が捨てきれないから、基本的にはこちらから、定期的に声を掛けるつもりだ。その際、報告する事が多ければ、羊皮紙に纏めてこちらが指定した場所に届けて欲しい」

「分かりました。では、早速やるとしましょう」

「ああ、頼んだ」

「では、失礼します」

 そう言って、俺は”繋がり”を切った。

「……なるほどね。まずはお手並み拝見と。にしても、高く買い過ぎじゃね?」

 今分かっている情報を言わないとか……もうそれ、言うだけ無駄とでも思われている感じだな。

「いやまあ……あんな事しでかしたからな~……」

 多数の上級貴族の屋敷――果ては王城への侵入。
 そして、フィーレル侯爵家の不正証拠投下。
 それらを踏まえてみれば、嫌でも分かる事だ。

「ま、やるか。どうせなら殿下が目を見開く程の成果を上げて、報酬で殿下の財布に悲鳴を上げさせてやる」

 にっしっし……と悪い笑みが零れる、俺なのであった。
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