57 / 140
第二章
第五話 シュレインのダンジョン第一階層
しおりを挟む
階段を下りた先に見えてきたのは、開け放たれた大きくて重厚感のある扉だった。
その両隣には、鎧姿の見張りらしき男性が2人居る。
「ん~雰囲気があるなぁ……」
伝聞で知ってはいたものの、いざこうやってこの目でダンジョンの入り口を見てみると、何とも言えない威圧感のようなものを感じる。大きな怪物が、口を開けて待っているような……そんな感じだ。
「なあ、ダンジョン内で変わったことは無いか?」
ゲイリックさんが1歩前に出ると、見張りの男性に気さくに声をかける。
見張りの男性は「ふむ……」と考えるような仕草をした後、口を開いた。
「昨日の夕方頃だったかな。第七階層で中規模の魔物の宴が起き、多数の死者が出たらしい。まだ不安定かもしれないから、そこへ行くのであれば気を付けた方が良い」
「おう、そうか。ありがとな!」
丁寧に事を教えてくれた男性に、ゲイリックさんはそう言って感謝の言葉を述べた。
なるほど。ダンジョンの状態か……
ちょっとそれは盲点だったかも。
平時のダンジョンなら大丈夫だが、偶に起こる異常事態の中には、今の俺では対処の難しい物もある。ダンジョン内では空間転移に必要な魔力量も多くなると聞くし……
あ、因みに魔物の宴って言うのは、ダンジョン内で魔物が大量発生することを指す。中規模となると、物にもよるが、大体100体ぐらいだろうか?
そんなことを思ってたら、ゲイリックさんが俺たちの方に向き直り、口を開いた。
「これから潜るぞ。先頭は俺とシン。その後ろにニーナとアルトが続き、最後尾がルイだ。それじゃ、行くぞ」
そうして、俺たちは言われた通りの隊列を組むと、ダンジョンの中へ足を踏み入れるのであった。
「……ここがダンジョンか」
ボソリと、誰にも聞こえない声で俺は呟く。
世界最高峰の広さを誇り、今だ底が見えていないシュレインのダンジョン――その第一階層は、ぱっと見普通の洞窟だ。
道幅は7メートル程で、高さは5メートル程。左右にある壁の高い所には、国が設置した持続性重視の魔石灯が等間隔で設置されているのが見える。
あの明かりは第三十階層の壁まで取り付けられており、あれのお陰で探索者の死亡率は大きく減少したのだ。
ただし、第三十階層よりも深い階層は危険すぎるという理由で、取り付けられていない。まあ、仕方ないな。
もっとも。そんな深くまで潜る予定は今の所ない為、暫くは無縁の話であるが。
そんなことを思いながらも、注意深く辺りを探索していると、ずっとリュックサックの中で寛いでいたネムがひょこっと顔を覗かせた。そして、俺の肩に乗っかってくる。
「きゅきゅ?」
「ああ、お目覚めかな? ここはダンジョンだよ」
そう言って、俺はネムを優しく撫でる。
すると、ネムは心地よさそうに体を震わせた。
うん。可愛い。
そうしてダンジョン探索中であるというのに癒されていると、横を歩くゲイリックさんから声をかけられた。
「何か気配するな~と思ってたけど、やっぱ従魔だったか。にしても、良く懐いているなぁ」
「まあ、この子との付き合いは結構長いから」
ざっと4年。厳しい実家生活を支えてくれた、俺の最初にして最高の仲間だ。
もう相思相愛(?)と言っても過言では無いな!
「え? 従魔?」
「あ、剣士はサブでそっちが本業って感じ?」
ニーナさんとアルトさんは気づいていなかったようで、不思議そうに問いかけてくる。
「ああ。とは言っても、従魔はサポート見たいな感じで、普通に剣主体で戦うよ」
従魔に期待されたら困ったことになると思った俺は、あくまでも剣士であることを強く主張する。剣だけでも、Dランク冒険者を名乗るに値するぐらいの実力は持っている訳だし。
そんなことを思っていると、最後尾でずっと黙っていたルイさんが口を開いた。
「前方の右の穴から魔物の気配。数は6。気配からして、全員ゴブリン。ただし、1体強いの……ゴブリンソルジャーが居る」
その言葉を聞き、俺たちは瞬時に気を引き締める。
ゴブリンが相手とは言え、油断をするべきではない。
そんなことを思っていたら、右の穴からぞろぞろとゴブリンが姿を現した。
5匹は、棍棒を持ったゴブリン。だが、最後の1匹は鉄の剣を持ち、おまけに革の防具を身に着けている。
「来たか……よし。シン君、ちょっとやって来い。実力を見させてくれ」
なるほど。第一階層で出てくるようなそこまで強くない魔物を使って、俺の実力を確かめておこうってことか。
確かにこいつら相手に5人で挑むのは、過剰戦力もいい所だし、それよりも背後からの奇襲とかに気を付けるべきだよな。
そう思うと、俺はムートンさんから貰った剣を抜く。
そして、地を蹴った。
「はあっ!」
先手必勝。
俺は瞬時に彼我の距離をつめると――一閃。
それだけで、2匹のゴブリンの首が宙を舞う。
「ギャギャギャ!!!」
「ギャア!!」
残る4体が武器を振り上げて襲い掛かってくるが、空間把握を駆使した適切な間合い管理を行うことによって華麗に躱し、逆に奴らが攻撃したことで生んでしまった隙を突いて討伐していく。
そうして、ものの10秒足らずで、残るのはゴブリンソルジャーのみとなった。
「グギャギャギャ!!!!」
鉄の剣を振り上げ、突貫してくるゴブリンソルジャー。
その攻撃を、俺は魔鋼の剣で受け流すと、すれ違いざまに腕を振るい、奴の首を斬り落とした。
こうして危なげなく、ダンジョン探索における初戦を終えるのであった。
その両隣には、鎧姿の見張りらしき男性が2人居る。
「ん~雰囲気があるなぁ……」
伝聞で知ってはいたものの、いざこうやってこの目でダンジョンの入り口を見てみると、何とも言えない威圧感のようなものを感じる。大きな怪物が、口を開けて待っているような……そんな感じだ。
「なあ、ダンジョン内で変わったことは無いか?」
ゲイリックさんが1歩前に出ると、見張りの男性に気さくに声をかける。
見張りの男性は「ふむ……」と考えるような仕草をした後、口を開いた。
「昨日の夕方頃だったかな。第七階層で中規模の魔物の宴が起き、多数の死者が出たらしい。まだ不安定かもしれないから、そこへ行くのであれば気を付けた方が良い」
「おう、そうか。ありがとな!」
丁寧に事を教えてくれた男性に、ゲイリックさんはそう言って感謝の言葉を述べた。
なるほど。ダンジョンの状態か……
ちょっとそれは盲点だったかも。
平時のダンジョンなら大丈夫だが、偶に起こる異常事態の中には、今の俺では対処の難しい物もある。ダンジョン内では空間転移に必要な魔力量も多くなると聞くし……
あ、因みに魔物の宴って言うのは、ダンジョン内で魔物が大量発生することを指す。中規模となると、物にもよるが、大体100体ぐらいだろうか?
そんなことを思ってたら、ゲイリックさんが俺たちの方に向き直り、口を開いた。
「これから潜るぞ。先頭は俺とシン。その後ろにニーナとアルトが続き、最後尾がルイだ。それじゃ、行くぞ」
そうして、俺たちは言われた通りの隊列を組むと、ダンジョンの中へ足を踏み入れるのであった。
「……ここがダンジョンか」
ボソリと、誰にも聞こえない声で俺は呟く。
世界最高峰の広さを誇り、今だ底が見えていないシュレインのダンジョン――その第一階層は、ぱっと見普通の洞窟だ。
道幅は7メートル程で、高さは5メートル程。左右にある壁の高い所には、国が設置した持続性重視の魔石灯が等間隔で設置されているのが見える。
あの明かりは第三十階層の壁まで取り付けられており、あれのお陰で探索者の死亡率は大きく減少したのだ。
ただし、第三十階層よりも深い階層は危険すぎるという理由で、取り付けられていない。まあ、仕方ないな。
もっとも。そんな深くまで潜る予定は今の所ない為、暫くは無縁の話であるが。
そんなことを思いながらも、注意深く辺りを探索していると、ずっとリュックサックの中で寛いでいたネムがひょこっと顔を覗かせた。そして、俺の肩に乗っかってくる。
「きゅきゅ?」
「ああ、お目覚めかな? ここはダンジョンだよ」
そう言って、俺はネムを優しく撫でる。
すると、ネムは心地よさそうに体を震わせた。
うん。可愛い。
そうしてダンジョン探索中であるというのに癒されていると、横を歩くゲイリックさんから声をかけられた。
「何か気配するな~と思ってたけど、やっぱ従魔だったか。にしても、良く懐いているなぁ」
「まあ、この子との付き合いは結構長いから」
ざっと4年。厳しい実家生活を支えてくれた、俺の最初にして最高の仲間だ。
もう相思相愛(?)と言っても過言では無いな!
「え? 従魔?」
「あ、剣士はサブでそっちが本業って感じ?」
ニーナさんとアルトさんは気づいていなかったようで、不思議そうに問いかけてくる。
「ああ。とは言っても、従魔はサポート見たいな感じで、普通に剣主体で戦うよ」
従魔に期待されたら困ったことになると思った俺は、あくまでも剣士であることを強く主張する。剣だけでも、Dランク冒険者を名乗るに値するぐらいの実力は持っている訳だし。
そんなことを思っていると、最後尾でずっと黙っていたルイさんが口を開いた。
「前方の右の穴から魔物の気配。数は6。気配からして、全員ゴブリン。ただし、1体強いの……ゴブリンソルジャーが居る」
その言葉を聞き、俺たちは瞬時に気を引き締める。
ゴブリンが相手とは言え、油断をするべきではない。
そんなことを思っていたら、右の穴からぞろぞろとゴブリンが姿を現した。
5匹は、棍棒を持ったゴブリン。だが、最後の1匹は鉄の剣を持ち、おまけに革の防具を身に着けている。
「来たか……よし。シン君、ちょっとやって来い。実力を見させてくれ」
なるほど。第一階層で出てくるようなそこまで強くない魔物を使って、俺の実力を確かめておこうってことか。
確かにこいつら相手に5人で挑むのは、過剰戦力もいい所だし、それよりも背後からの奇襲とかに気を付けるべきだよな。
そう思うと、俺はムートンさんから貰った剣を抜く。
そして、地を蹴った。
「はあっ!」
先手必勝。
俺は瞬時に彼我の距離をつめると――一閃。
それだけで、2匹のゴブリンの首が宙を舞う。
「ギャギャギャ!!!」
「ギャア!!」
残る4体が武器を振り上げて襲い掛かってくるが、空間把握を駆使した適切な間合い管理を行うことによって華麗に躱し、逆に奴らが攻撃したことで生んでしまった隙を突いて討伐していく。
そうして、ものの10秒足らずで、残るのはゴブリンソルジャーのみとなった。
「グギャギャギャ!!!!」
鉄の剣を振り上げ、突貫してくるゴブリンソルジャー。
その攻撃を、俺は魔鋼の剣で受け流すと、すれ違いざまに腕を振るい、奴の首を斬り落とした。
こうして危なげなく、ダンジョン探索における初戦を終えるのであった。
642
お気に入りに追加
1,225
あなたにおすすめの小説
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
捨てられ従魔とゆる暮らし
KUZUME
ファンタジー
旧題:捨てられ従魔の保護施設!
冒険者として、運送業者として、日々の生活に職業として溶け込む従魔術師。
けれど、世間では様々な理由で飼育しきれなくなった従魔を身勝手に放置していく問題に悩まされていた。
そんな時、従魔術師達の間である噂が流れる。
クリノリン王国、南の田舎地方──の、ルルビ村の東の外れ。
一風変わった造りの家には、とある変わった従魔術師が酔狂にも捨てられた従魔を引き取って暮らしているという。
─魔物を飼うなら最後まで責任持て!
─正しい知識と計画性!
─うちは、便利屋じゃなぁぁぁい!
今日もルルビ村の東の外れの家では、とある従魔術師の叫びと多種多様な魔物達の鳴き声がぎゃあぎゃあと元気良く響き渡る。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる