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第二章

第五話 シュレインのダンジョン第一階層

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 階段を下りた先に見えてきたのは、開け放たれた大きくて重厚感のある扉だった。
 その両隣には、鎧姿の見張りらしき男性が2人居る。

「ん~雰囲気があるなぁ……」

 伝聞で知ってはいたものの、いざこうやってこの目でダンジョンの入り口を見てみると、何とも言えない威圧感のようなものを感じる。大きな怪物が、口を開けて待っているような……そんな感じだ。

「なあ、ダンジョン内で変わったことは無いか?」

 ゲイリックさんが1歩前に出ると、見張りの男性に気さくに声をかける。
 見張りの男性は「ふむ……」と考えるような仕草をした後、口を開いた。

「昨日の夕方頃だったかな。第七階層で中規模の魔物の宴モンスターパーティーが起き、多数の死者が出たらしい。まだ不安定かもしれないから、そこへ行くのであれば気を付けた方が良い」

「おう、そうか。ありがとな!」

 丁寧に事を教えてくれた男性に、ゲイリックさんはそう言って感謝の言葉を述べた。
 なるほど。ダンジョンの状態か……
 ちょっとそれは盲点だったかも。
 平時のダンジョンなら大丈夫だが、偶に起こる異常事態の中には、今の俺では対処の難しい物もある。ダンジョン内では空間転移ワープに必要な魔力量も多くなると聞くし……
 あ、因みに魔物の宴モンスターパーティーって言うのは、ダンジョン内で魔物が大量発生することを指す。中規模となると、物にもよるが、大体100体ぐらいだろうか?
 そんなことを思ってたら、ゲイリックさんが俺たちの方に向き直り、口を開いた。

「これから潜るぞ。先頭は俺とシン。その後ろにニーナとアルトが続き、最後尾がルイだ。それじゃ、行くぞ」

 そうして、俺たちは言われた通りの隊列を組むと、ダンジョンの中へ足を踏み入れるのであった。

「……ここがダンジョンか」

 ボソリと、誰にも聞こえない声で俺は呟く。
 世界最高峰の広さを誇り、今だ底が見えていないシュレインのダンジョン――その第一階層は、ぱっと見普通の洞窟だ。
 道幅は7メートル程で、高さは5メートル程。左右にある壁の高い所には、国が設置した持続性重視の魔石灯が等間隔で設置されているのが見える。
 あの明かりは第三十階層の壁まで取り付けられており、あれのお陰で探索者の死亡率は大きく減少したのだ。
 ただし、第三十階層よりも深い階層は危険すぎるという理由で、取り付けられていない。まあ、仕方ないな。
 もっとも。そんな深くまで潜る予定は今の所ない為、暫くは無縁の話であるが。
 そんなことを思いながらも、注意深く辺りを探索していると、ずっとリュックサックの中で寛いでいたネムがひょこっと顔を覗かせた。そして、俺の肩に乗っかってくる。

「きゅきゅ?」

「ああ、お目覚めかな? ここはダンジョンだよ」

 そう言って、俺はネムを優しく撫でる。
 すると、ネムは心地よさそうに体を震わせた。
 うん。可愛い。
 そうしてダンジョン探索中であるというのに癒されていると、横を歩くゲイリックさんから声をかけられた。

「何か気配するな~と思ってたけど、やっぱ従魔だったか。にしても、良く懐いているなぁ」

「まあ、この子との付き合いは結構長いから」

 ざっと4年。厳しい実家生活を支えてくれた、俺の最初にして最高の仲間だ。
 もう相思相愛(?)と言っても過言では無いな!

「え? 従魔?」

「あ、剣士はサブでそっちテイマーが本業って感じ?」

 ニーナさんとアルトさんは気づいていなかったようで、不思議そうに問いかけてくる。

「ああ。とは言っても、従魔はサポート見たいな感じで、普通に剣主体で戦うよ」

 従魔に期待されたら困ったことになると思った俺は、あくまでも剣士であることを強く主張する。剣だけでも、Dランク冒険者を名乗るに値するぐらいの実力は持っている訳だし。
 そんなことを思っていると、最後尾でずっと黙っていたルイさんが口を開いた。

「前方の右の穴から魔物の気配。数は6。気配からして、全員ゴブリン。ただし、1体強いの……ゴブリンソルジャーが居る」

 その言葉を聞き、俺たちは瞬時に気を引き締める。
 ゴブリンが相手とは言え、油断をするべきではない。
 そんなことを思っていたら、右の穴からぞろぞろとゴブリンが姿を現した。
 5匹は、棍棒を持ったゴブリン。だが、最後の1匹は鉄の剣を持ち、おまけに革の防具を身に着けている。

「来たか……よし。シン君、ちょっとやって来い。実力を見させてくれ」

 なるほど。第一階層で出てくるようなそこまで強くない魔物を使って、俺の実力を確かめておこうってことか。
 確かにこいつら相手に5人で挑むのは、過剰戦力もいい所だし、それよりも背後からの奇襲とかに気を付けるべきだよな。
 そう思うと、俺はムートンさんから貰った剣を抜く。
 そして、地を蹴った。

「はあっ!」

 先手必勝。
 俺は瞬時に彼我の距離をつめると――一閃。
 それだけで、2匹のゴブリンの首が宙を舞う。

「ギャギャギャ!!!」

「ギャア!!」

 残る4体が武器を振り上げて襲い掛かってくるが、空間把握スペーショナルを駆使した適切な間合い管理を行うことによって華麗に躱し、逆に奴らが攻撃したことで生んでしまった隙を突いて討伐していく。
 そうして、ものの10秒足らずで、残るのはゴブリンソルジャーのみとなった。

「グギャギャギャ!!!!」

 鉄の剣を振り上げ、突貫してくるゴブリンソルジャー。
 その攻撃を、俺は魔鋼の剣で受け流すと、すれ違いざまに腕を振るい、奴の首を斬り落とした。
 こうして危なげなく、ダンジョン探索における初戦を終えるのであった。
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