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第二章
第四話 炎狼の牙
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想定外の提案をされた俺は、目を見開く――が、直ぐに冷静になると、思案する。
ん~これ以上食い下がったら、他の冒険者たちにも注目を浴びて、面倒なことになりそうだ。
でもまあ、俺はあくまでも情報でしかダンジョンのことを知らない訳だし、実際に何度も潜っている彼らだからこそ分かることが色々と知れそうだ。
舐めてかかって死んだら割とシャレにならないし。
ただ、捨て駒にされる可能性や、途中で俺の物資狙いで襲ってくる可能性も十分に考えられる為、警戒は十分にしておくとしよう。
もっとも。俺の目には、彼は相当な善人のように見えるけどね。
貴族の子供として生き、更に長く人の悪意を見て来たからこそ、そこら辺の能力は高いという自負がある。
「……分かった。是非、同行させてください」
そう言って、俺は彼の申し出に頷くのであった。
そんな俺を見て、男性は良かったと息を吐く。
「ああ、それでいい。てわけで……お前ら。今回だけ1人増えることになったぞ」
そう言って、彼は後ろで一部始終を見ていた仲間らしき人に向かって言う。
そんな彼を見て、男女3人はやれやれと言った様子で口を開く。
「リーダーのことだから、子供をあのまま行かせるつもりは無いとは思っていたが……」
「上に送り返すんじゃなくて、子供の気持ちを鑑みて、一緒に連れて行くのがリーダーらしいね」
「うん。激しく同意」
どうやらパーティーメンバーも、俺が同行することに否定的という訳ではなさそうだ。
「はははっ。すまんな。流石に見捨てられなくてな。取りあえず、自己紹介をしておくか」
仲間たちの言葉に、男性は頭を掻きながらそう言うと、再び俺の方に向き直る。
「”炎狼の牙”のリーダーをやっているBランク冒険者で、斧使いのゲイリックだ」
そう言って、男性――ゲイリックはにっと笑みを浮かべる。
すると、そんなリーダーの後に続いて、他3人もそれぞれ自己紹介をしていく。
「私はニーナ。Cランクで、無属性魔法師よ」
長い灰色の髪を持つ、ローブ姿の若い女性――ニーナは、やや硬めの口調で言う。
「俺はアルト。Cランクの弓術師だ。よろしく」
長身痩躯で茶髪の若い男性――アルトは、ニーナとは反対に軽い口調で言う。
「お、俺はルイ。Cランクで……斥候だよ」
ぼさっとした黒髪の若い男性――ルイは、若干挙動不審になりながらも言う。
そうして皆の自己紹介が終わったタイミングで、俺も自己紹介をすることにした。
「俺の名前はシン。Dランクの剣士だ」
そう言って、俺は軽く頭を下げる。
「よし。自己紹介も終わったことだし、最終確認をするか――」
「待って」
ゲイリックさんの言葉を遮ったニーナさんは、俺の前まで歩いて来ると口を開く。
「この子って本当にDランクなの? ちょっと冒険者カードを見せてよ」
そう言ってニーナさんは俺に冒険者カードの提示を求めてくる。
まあ、当然っちゃ当然の反応だよね~
「いいよ。ほら」
そう言って、俺はリュックサックから冒険者カードを取り出すと、目の前に掲げた。
それを、ニーナさんは食い入るようにじっと見つめる。
「ん……本当みたいね。う、疑って悪かったわ。でも、迷惑かけたら承知しないわよ」
かなり疑っておいて、本当だと分かった途端、気まずそうにニーナは顔を背けた。そして、忠告とばかりにそう言う。
迷惑かけられることを恐れているんだったら、同行するつもりは無いよ……と、言おうと思ったが、流石にそれを言うのはマズいと思い、口を噤む。
「へ~結構上位の祝福を貰ってるのかな?」
「うん。多分」
1歩下がった所から、様子を見ていた2人は、口を揃えてそう言った。
「ま~そう言う訳で、ダンジョンに入れるランクだから、問題は無いぞ。じゃ、脱線しちまったが、最終確認だ」
こちらの会話が終わったタイミングで、ゲイリックさんが口を開く。
「取りあえず、ポーションはちゃんとあるな」
「うん。万が一の魔法石も準備してある」
「あ、食料も7日分。ちゃんとあるよ」
「こっちも、予備は十分あるわ」
皆それぞれ、手持ちのリュックサックの口を開いて、荷物の確認をする。
俺はどうすれば良いのかな~と思っていたら、そんな俺の心を読んだかのようにゲイリックさんが口を開いた。
「シン君。君のリュックサックの中身はどんな感じだ?」
「ああ。食料7日分、中級のポーションが3本、中級の魔力回復薬が4本、革袋6枚、その他諸々」
言われた通り、俺はリュックサックの中身を伝える。
因みに、その他諸々はただの生活用品だ。荷物を置いとける場所が無いから、こうやって持って来ていたんだよね。
宿は1か月単位で取っているから、部屋に置いといても良いのだが……盗まれる可能性が地味にある……っていうね。
やっぱりこの世界は治安が悪い。まあ、日本が良すぎたって言うのもあるだろうが……
「なるほど。思ってたよりもあるな。あ、そういや聞くの忘れてたが、どんぐらい滞在できる? それによって変えなきゃならんのだが……」
「食料が尽きる前に帰れれば、いくらでも……だな」
ゲイリックさんの言葉に、俺はそう返す。
つまり、7日間は滞在できるよ~ということだ。
「分かった。そりゃこちらとしても都合がいい。んじゃ、準備も終わったことだし、先へ行くぞ!」
「そうね」
「お~!」
「う、うん」
「分かった」
こうして、なんやかんやでパーティーを組むことになった俺は、”炎狼の牙”の面々と共に、下へと続く階段を降るのであった。
ん~これ以上食い下がったら、他の冒険者たちにも注目を浴びて、面倒なことになりそうだ。
でもまあ、俺はあくまでも情報でしかダンジョンのことを知らない訳だし、実際に何度も潜っている彼らだからこそ分かることが色々と知れそうだ。
舐めてかかって死んだら割とシャレにならないし。
ただ、捨て駒にされる可能性や、途中で俺の物資狙いで襲ってくる可能性も十分に考えられる為、警戒は十分にしておくとしよう。
もっとも。俺の目には、彼は相当な善人のように見えるけどね。
貴族の子供として生き、更に長く人の悪意を見て来たからこそ、そこら辺の能力は高いという自負がある。
「……分かった。是非、同行させてください」
そう言って、俺は彼の申し出に頷くのであった。
そんな俺を見て、男性は良かったと息を吐く。
「ああ、それでいい。てわけで……お前ら。今回だけ1人増えることになったぞ」
そう言って、彼は後ろで一部始終を見ていた仲間らしき人に向かって言う。
そんな彼を見て、男女3人はやれやれと言った様子で口を開く。
「リーダーのことだから、子供をあのまま行かせるつもりは無いとは思っていたが……」
「上に送り返すんじゃなくて、子供の気持ちを鑑みて、一緒に連れて行くのがリーダーらしいね」
「うん。激しく同意」
どうやらパーティーメンバーも、俺が同行することに否定的という訳ではなさそうだ。
「はははっ。すまんな。流石に見捨てられなくてな。取りあえず、自己紹介をしておくか」
仲間たちの言葉に、男性は頭を掻きながらそう言うと、再び俺の方に向き直る。
「”炎狼の牙”のリーダーをやっているBランク冒険者で、斧使いのゲイリックだ」
そう言って、男性――ゲイリックはにっと笑みを浮かべる。
すると、そんなリーダーの後に続いて、他3人もそれぞれ自己紹介をしていく。
「私はニーナ。Cランクで、無属性魔法師よ」
長い灰色の髪を持つ、ローブ姿の若い女性――ニーナは、やや硬めの口調で言う。
「俺はアルト。Cランクの弓術師だ。よろしく」
長身痩躯で茶髪の若い男性――アルトは、ニーナとは反対に軽い口調で言う。
「お、俺はルイ。Cランクで……斥候だよ」
ぼさっとした黒髪の若い男性――ルイは、若干挙動不審になりながらも言う。
そうして皆の自己紹介が終わったタイミングで、俺も自己紹介をすることにした。
「俺の名前はシン。Dランクの剣士だ」
そう言って、俺は軽く頭を下げる。
「よし。自己紹介も終わったことだし、最終確認をするか――」
「待って」
ゲイリックさんの言葉を遮ったニーナさんは、俺の前まで歩いて来ると口を開く。
「この子って本当にDランクなの? ちょっと冒険者カードを見せてよ」
そう言ってニーナさんは俺に冒険者カードの提示を求めてくる。
まあ、当然っちゃ当然の反応だよね~
「いいよ。ほら」
そう言って、俺はリュックサックから冒険者カードを取り出すと、目の前に掲げた。
それを、ニーナさんは食い入るようにじっと見つめる。
「ん……本当みたいね。う、疑って悪かったわ。でも、迷惑かけたら承知しないわよ」
かなり疑っておいて、本当だと分かった途端、気まずそうにニーナは顔を背けた。そして、忠告とばかりにそう言う。
迷惑かけられることを恐れているんだったら、同行するつもりは無いよ……と、言おうと思ったが、流石にそれを言うのはマズいと思い、口を噤む。
「へ~結構上位の祝福を貰ってるのかな?」
「うん。多分」
1歩下がった所から、様子を見ていた2人は、口を揃えてそう言った。
「ま~そう言う訳で、ダンジョンに入れるランクだから、問題は無いぞ。じゃ、脱線しちまったが、最終確認だ」
こちらの会話が終わったタイミングで、ゲイリックさんが口を開く。
「取りあえず、ポーションはちゃんとあるな」
「うん。万が一の魔法石も準備してある」
「あ、食料も7日分。ちゃんとあるよ」
「こっちも、予備は十分あるわ」
皆それぞれ、手持ちのリュックサックの口を開いて、荷物の確認をする。
俺はどうすれば良いのかな~と思っていたら、そんな俺の心を読んだかのようにゲイリックさんが口を開いた。
「シン君。君のリュックサックの中身はどんな感じだ?」
「ああ。食料7日分、中級のポーションが3本、中級の魔力回復薬が4本、革袋6枚、その他諸々」
言われた通り、俺はリュックサックの中身を伝える。
因みに、その他諸々はただの生活用品だ。荷物を置いとける場所が無いから、こうやって持って来ていたんだよね。
宿は1か月単位で取っているから、部屋に置いといても良いのだが……盗まれる可能性が地味にある……っていうね。
やっぱりこの世界は治安が悪い。まあ、日本が良すぎたって言うのもあるだろうが……
「なるほど。思ってたよりもあるな。あ、そういや聞くの忘れてたが、どんぐらい滞在できる? それによって変えなきゃならんのだが……」
「食料が尽きる前に帰れれば、いくらでも……だな」
ゲイリックさんの言葉に、俺はそう返す。
つまり、7日間は滞在できるよ~ということだ。
「分かった。そりゃこちらとしても都合がいい。んじゃ、準備も終わったことだし、先へ行くぞ!」
「そうね」
「お~!」
「う、うん」
「分かった」
こうして、なんやかんやでパーティーを組むことになった俺は、”炎狼の牙”の面々と共に、下へと続く階段を降るのであった。
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