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第一章

第三十一話 少し経ち

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 冒険者になってから、2週間経った。
 だいぶ冒険者生活にも慣れてきたし、収入も安定し始めていた。
 そして、ここ最近は貯金も出来るようになっているっていうね。
 でも、まだ安心できない。冒険者にとって、骨折程度の怪我は割と日常茶飯事。
 そんな骨折等を確実に直すためには、そこそこ高価な回復薬を買うか、治癒院で金を払って頼むしかないんだよねー。
 しかもそれ、結構高い。治癒院でも銀貨1枚は余裕で取られるし、回復薬に至ってはその倍の銀貨2枚は取られるのだ。
 ん? 俺はどうなのかって?
 はっはっは。俺が怪我なんてする訳が……ある。
 うん。小さな怪我は毎日あるが、その都度回復ヒールで治しているので、問題はない。
 だけど……1回だけ腕を骨折しちゃったんだよね。で、即空間転移ワープで街に戻って、治癒院へ行き、治してもらった。
 え? 骨折した理由?
 ふっ 聞いて驚け。
 なんと! 落っこちたんだ!
 ……まあ、細かい話は俺の名誉を守る為にも端折らせてもらうが、木の上からダイナミック斬撃をオークにお見舞いしたら、衝撃を受け流すのミスって……ボキッてやった。
 それだけだ。

「……よし。今日こそは骨折しないように頑張るぞ!」

 森の中で、昨日の失態を思い浮かべてしまった俺は、ぐっと腕に力を入れると、そう意気込む。

「きゅきゅきゅ!」

 ネムから声援を貰った。
 うん。頑張るよ。絶対に、二度と……は無理だろうけど、なるべく骨折しないように気を付ける。

「さ、て……魔物はどこかな~」

 俺はいつものように片目だけを他のスライムの視覚に移して、魔物を探す。
 ここ最近、使用頻度がめちゃくちゃ多いせいで、だいぶ練度が上がった気がする。
 やはり、屋敷での練習よりも、魔物がいつ出てくるか分からない。森の中でやった方が、気持ち的問題で、練度が上がりやすかったりするのかな?

「ふ~む……お、発見!」

 いつものように、僅か数秒で魔物を発見した俺はそこへ向かって走り出す。

「……ふぅ……どうだ……?」

 木陰に身を潜めた俺は、今日も片目だけ視線をそのスライムに移しながら、もう片方の目でチラリと前方を見やる。
 すると、そこにはゴブリンの集団が。数は……7匹だ。

「よし……やるか」

 そう呟くと同時に、俺は木陰から跳び出すと、ゴブリンたちを急襲する。
 前は空間転移ワープで奇襲してたんだけど、別にゴブリンぐらいだったら、あんなことしなくてもよくね?って思ったんだよね。
 で、試してみたら案の定……余裕でした。

「はっ! はあっ!」

 剣を振り、3体のゴブリンを死へ追いやる。
 今思うと、この2週間で1番成長したのは剣術のような気がする。

「ギャギャ!」

「はあっ!」

 だって、俺は屋敷にいた時はずっと1人で鍛錬していたんだから。
 理由は勿論、相手がいないから。
 あの屋敷で、俺の相手になってくれる奴なんて――いなかった。

「はあっ!」

 いくら前世で剣道をやってたとは言え、相手がいなければあまり成長できない。
 だから俺は、型の練習をしまくった。
 屋敷にいるうちは、強さよりも、どう動けばいいのかを体に叩き込む。

「はあっ!」

「ギャアァ!」

 そして、屋敷を出た後に実践をしまくって、それを完全なものにする。
 それが、俺の考えだった。

「はああっ!」

「ギャアアアアァ!」

 ま、どうやらその考えは正しかったようだ。
 と言う訳で無事、ゴブリンを討伐することに成功した。

「ふぅ。来てくれ」

 討伐し終えた俺は即座にスライムたちを召喚する。
 そして、そこそこ強めの溶解液を持つ変異種スライムに右胸周辺を溶かさせ、魔石を露出させる。
 その後、普通のスライムが魔石を引っ張り出し、綺麗にすると、革袋の中に入れる。

「うん。ありがとう」

 俺はゴブリンの右耳を手際よく切り取りながら、献身的なスライムたちに礼を言う。
 因みに、スライムたちへの報酬は、ゴブリンの死体だ。この子たち、割となんでも食べるからね。

「よっこらせっと」

 俺は革袋をリュックサックに詰め、立ち上がると、剣に付着した血を振り払った。

「これでよしっと。それじゃ、次の場所に行くか」

 そう呟くと、俺は再び片目の視覚を移し始めた。
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