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第一章

第二十話 あ、そういやこいつもテイムできるな

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 距離としては大体200メートル程だったことで、ものの数分でそこに辿り着いた俺は、木々の間に身を潜めながら、スライム越しにゴブリンの動きをじっと見つめる。

「ゲゲッ」

「ギャギャ!」

 棍棒を片手に持つ、人型の魔物――ゴブリンは、そこで何やら雑談をしているようだった。
 何言ってるのかは全く分からないが……
 ま、それは置いといて、さっさと倒――ん、ちょっと待て。
 俺は”F級”の”テイム”を持っている。
 つまり、あそこにいるゴブリンもテイム出来るんじゃね?

「今までスライムしかテイムしてこなかったせいで、すっかり忘れてたな……」

 自身が持つ”テイム”に置いて、結構肝心なことを失念していたことに頭を掻きながらため息をつくと、俺はミスリルの剣に手をかける。

「流石にあいつら相手に正面から”テイム”を使うのは不安だし、5匹は倒して、1匹は……空間転移ワープからの首裏に思いっきり手刀を叩き込む……で良いかな?」

 気絶させられる自信は全然ないが、流石にそうすれば一時的に怯みはするだろう。
 そう思った俺はミスリルの剣を抜くと、無詠唱で空間転移ワープを使い、ゴブリンたちの直ぐ後ろに転移する。
 ある程度慣れてくれば、目に見える範囲であれば転移座標記録ワープ・レコードで座標を記録せずとも転移できるし、相当慣れれば、詠唱を省略したり、無詠唱にしたりもできる。
 そんな感じでゴブリンたちの背後を取った俺は横なぎに剣を振る。
 すると、剣の軌道上にいたゴブリンの首をしっかりと捕らえ――斬り落とした。
 更に、その先にいたゴブリンの首もはねる。

「……ッ!」

 初めて命を奪う感覚に、思わず身の毛がよだつ。
 だが、残り4匹のゴブリンの姿を見て気を取りなすと、即座に詠唱を紡ぐ。

「魔力よ。光り輝く矢となれ!」

 直後、俺の目の前に現れた魔法陣から3本の光る矢が放たれ、異変に気付き、振り返るゴブリンの頭部を穿たんと襲い掛かる。

「ギャギャ!」

「ギャア!」

 ゴブリンは咄嗟に迎撃しようとするが、その状況から間に合うはずもなく、顔面に思いっきり突き刺さる。

「ギャギャアア!!」

「ギャアアァ!」

 顔面に矢を1本受けただけでは流石に死なない。
 だが、激痛の余り冷静さを失ったゴブリンは、剣をハチャメチャに振り回す。
 それが仲間であるはずのゴブリンを斬り裂き、命を奪う。
 あ、このままだと残すつもりだったゴブリンも死んでしまう。
 そう思った俺は即座に地を蹴ると、剣を振り、狂乱するゴブリンたちの背中を斬り裂く。

「ギャ……ギャア!」

 残す予定だったゴブリンは仲間が瞬殺されたのを見るや否や、背を向けて走り出した。

「ちょ、待て!」

 逃がすわけにはいかない。
 俺は再び地を蹴ると、ゴブリンに追い付き、その首に思いっきり手刀を叩き込む。

「ギャ!」

 そんな叫び声と共にゴブリンは前に崩れ落ちた。
 だが、当てる場所が駄目だったのか、まだ意識はあるようだ。

「動くなよ。”テイム”」

 俺は動かれないよう、倒れるゴブリンの背中に片足を乗せると、”テイム”を使う。
 はたから見れば結構酷い光景だが……これしか方法が無かったんだ。
 すまない。
 それで、肝心の”テイム”なのだが……

「げ、1回じゃ無理だな」

 繋がりそうな気配はあるものの、1回だけでは”テイム”出来なかった。
 今までやって来たスライムが1回で成功したのは、スライムが弱かったっていうのもあるのだろうけど、1番の理由はスライム越しになってたお陰で、全く警戒されていなかったからだと思う。
 ”テイム”というのは、警戒されていない方が成功しやすい。そして、スライムは別にスライムを見たところで警戒なんてしない。
 つまりはそう言うことだ。
 だったらゴブリンは、空間転移ワープでいきなりゴブリンの背後に移動して即座に”テイム”を使えばいいのではないか?ってなるのだろうが……
 それは失敗した時がちょっと怖いからね。
 最初は対象を弱らせたり屈服させたりするという、時間はかかるが確実な方を選ぶのが俺クオリティーなのさ。

「じゃ、2回目やるか。”テイム”仲間になろうよ」

 今度は初めて”テイム”を使った時のように、優しく語り掛けるように言う。
 足蹴にしながら仲間になろうよとか、サイコパスもいいとこだけどな……
 とまあそんなことはさておき、3回目!

「仲間になろう。”テイム”」

 すると、ゴブリンとの間に繋がりが出来た。
 お、成功か。
 にしてもここまで状況を整えたのに、ゴブリンでさえ3回もやらないとテイム出来ないなんて……
 多分空間転移ワープを使った方法でも同じだっただろうな。
 ここに来て、俺の”テイム”がF級たる所以が垣間見える。
 まあ、ともかく成功したのは確かだ。
 俺は足を退けると、早速ゴブリンに命令を下す。

「ゴブリン。立ち上がってくれ」

 すると、ゴブリンは普通に立ち上がった。
 顔には感情があまり見られず、まるで操り人形のようだ。

「ん~……テイムしたはいいものの、意外と使い道がないな……」

 確かに、スライムよりもゴブリンの方がずっと強い。
 だが、ゴブリンを1匹テイムする間に、スライムは最大で数百匹とテイム出来る。
 それに、普通のスライムなら確かにゴブリンよりも弱いが、変異種となると話は別だ。
 変異種とは、その名の通り通常とは違う特徴を持つ個体のことで、前に俺が使った体長2センチのスライムがそれにあたる。
 だが、俺は他にも色々持っており、中にはゴブリンよりも殺傷能力の高い奴がいる。
 代表的なのは、通常の何倍も強力な溶解液を持つスライムだろう。中にはものの数秒で骨を露出させるヤバイ奴もいたんだよなぁ……
 え? 何でそんな細かいことを知ってるのかって?
 そりゃあ試したからに決まってるだろ。
 誰にと言われたら、路地裏にいた誘拐犯と答えておこう。
 で、話を戻すのだが、じゃあゴブリンに変異種はいないのかって聞かれれば、当然いる。
 だが、F級の”テイム”でテイム出来るような甘い奴らじゃないんだ。色々と異常な俺の”テイム”だが、基礎的な部分は普通のF級と変わらないし……
 とまあそんな感じで、結論! テイムするならゴブリンよりもスライムの方が断然いい!

「……このゴブリン。どうしよ?」

 特に何も考えずにテイムし、よくよく考えてみたら使い道が全然ないことに気付いてしまった。
 それにゴブリンって、嫌われている魔物ランキングで常に1、2を争う程嫌われている魔物なんだよね。
 だって、こいつによる被害って、結構多いんだよ。
 確かに弱いけど、基本集団で襲ってくるから、一般人なら当然勝てない訳だし、冒険者でも駆け出しの新人パーティーが舐めてかかって半壊させられるだなんてのもよく聞く話だ。
 そして何より……見た目が悪い。
 それくらい嫌われている魔物なんだから、当然人前で使える訳も無く……

「やっべぇ。使い道どころか、持っているだけで地雷感が出て来たぞ……」

 俺は思わず頭を抱える。
 いやぁ……じゃあ、この森に放置……したところでいずれ冒険者に討伐されるだけだな。
 ゴブリンって、スライムみたいに隠れることが出来ないからね。
 うん。しゃーない。
 余り気が進まないけど、こいつらの所業を考えたらむしろ妥当な判断だろう。

「悪いな」

 そう呟くと共に、俺は剣を振り、ゴブリンの首を斬り落とした。
 ゴブリンは鮮血を散らして地面に崩れ落ち、死んだ。
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