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第一章

第十六話 冒険者登録

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 フィーレル家から勘当され、屋敷から追い出された俺は、ダンジョン都市、シュレインの街並みを眺めながら、のんびりと歩いていた。
 行き交う人々で賑わい、活気がある。

「なんだか解放感があるな」

 俺は清々しい思いでそう言う。
 まるで檻から解き放たれた鳥のようだ。
 ただ、檻から出たら出たで新たな問題も発生する。
 それは……金だ。
 今までは曲がりなりにもフィーレル家の人間であったが為に、何もしなくても生活できたし、欲しいものもある程度は手に入った。
 だが、これからは違う。
 自分で稼ぎ、その金で生活しなければならないのだ。
 既に稼ぐ方法は考えてある。というか、これで稼ぎたいがために、今まで鍛錬を積んできたのだ。
 それは……冒険者だ。
 冒険者とは、簡単に言えば人々の生活を脅かす魔物を倒し、それで金を貰って生活している人たちのことだ。他にも魔物が出る地域での薬草採取や護衛、ちょっとした手伝いなど、細かく見ればやることは多岐にわたる。
 そんな冒険者に総じて必要なのは強さだ。強くなければ、直ぐに死ぬ。何せ、冒険者という職業は、殉職率が万年トップなのだ。だがそれでも、一攫千金が狙いやすい職業として、そこそこ人気の職業になっている。あと、冒険者になるだけなら簡単なのもポイントが高い。

「んじゃ、冒険者ギルドに行くか」

 早速冒険者ギルドに行って冒険者登録をする。その後は簡単そうな依頼をこなして、宿を見つけよう。
 一先ずの予定が決まった俺は、冒険者ギルドに向かって走り出した。

 10分程で冒険者ギルドに辿り着いた俺は両開きの扉を開け、中に入る。
 冒険者ギルドはスライムを通して何度も見てはいるのだが、いざこうやって来てみると、なんだか感慨深いものを感じる。
 酒場には昼間っから酒を飲んでるおっさん冒険者。良い依頼はあらかた取られ、不人気な依頼しか残っていない依頼が貼られた掲示板。そして正面奥にはかなり空いている受付。

「うん。やっぱり10時過ぎると結構空いてるな」

 俺は物珍しそうに辺りを見回しながら、てくてくと奥に向かって歩き続ける。
 そして、受付に着いた俺は冒険者登録をするべく、受付嬢に声をかけた。

「冒険者登録をしにきました」

 俺はハッキリとした声でそう言った。すると、受付嬢が口を開く。

「分かりました。では、こちらの紙に記入をお願いします。書けるところのみお書きください。あ、代筆は必要ですか?」

 受付嬢は丁寧な口調でそう言いながら、1枚の紙と鉛筆を俺の前に出すと、言い忘れたとでも言うように、そう問いかけて来た。
 ああ、そういやこの国……と言うよりこの世界は現代日本みたいに教育があまり行き届いていないんだったな。文字を読めはするけど書けない人は意外といるのだとか。
 俺はフィーレル家長男として、5歳まではちゃんと教育を受けていたので、問題はないけどね。

「いや、代筆は必要ない」

 そう言って代筆を断ると、俺は鉛筆を手に取り、用紙を見る。
 そこには名前、祝福ギフト名、祝福ギフトの階級、魔法適正、主な戦い方の5つを書く欄があった。
 名前はシン……っと。魔法適正は……空間属性、光属性、闇属性……っと。
 で、主な戦い方か。
 ん~……あまり手の内は晒したくないし、普通に剣でいいか。
 ここで求められていることって、どちらかと言えば戦えるかどうかを知ることだからね。まともに戦えない人を冒険者にするのは流石に駄目なのだ。
 それで、問題は祝福ギフトだ。
 流石にここを馬鹿正直に”テイム”、”F級”と書こうものなら、一発でアウトになる可能性が割とある。それぐらい、祝福ギフトというのはこの世界で重要視されているのだ。
 まあ、F級と書かないのは確定として、”テイム”はどうするか……
 いや、迷うぐらいなら書かない方がいいな。
 そう思い、俺はその2つの欄は書かずに鉛筆と共に受付嬢に返す。

「ん……祝福ギフトについては書かなくてもよろしいのですか?」

 受付嬢はその2つの欄が書かれていないことを訝り、そう問いかける。
 まあ確かに、祝福ギフトについて書かない人は見たこと無いな。
 ここに置いたスライムから受付も見ていた俺から見れば、その疑問は至極全うだと思った。
 だが……

「ああ。手の内はなるべく隠したいしな。直ぐにバレるかもしれないが、まあそん時はそん時だ」

 俺は肩をすくめると、おどけたような口調でそう言う。
 貴族の時はこんな風に感情を露わにするなんて真似はあまり出来なかったからな~
 なんだか前世の俺に戻ったような感じだ。

「分かりました。見たところ、問題もなさそうですし、冒険者カードを発行しましょう」

 受付嬢はそう言うと、受付の下から名刺サイズのカードを取り出した。証明に照らされ、銅色に光っている。
 すると、受付嬢はそのカードにペンで俺の名前を書いていく。そして、その下に”Fランク”と書くと、俺の前に差し出した。
 俺はそれを受け取ると、ポケットの中に入れる。

「今お渡しした物が冒険者カードになります。冒険者はSからFの7段階に分けられており、シンさんは現在1番下のFランクです。ランクが上がる基準は冒険者ギルドが独自に定めており、詳細は言えませんが、幅広く依頼をこなすことが重要とだけお伝えします」

 なるほどなるほど。
 まあ、ランクについては知ってたけど、そのランクを上げるにはそれが重要なのか……
 意外とこういうのを律儀にやってくのが近道だったりするので、取りあえずはその通りにやってみるとしよう。

「依頼はあちらにある掲示板から依頼書を剥がし、こちらへ持ってくることで受けたことになります。ただし、中には違約金が発生する依頼もございますので、ご注意ください。あと、依頼にはゴブリン討伐などの常設の依頼もあり、こちらは違約金も発生しませんし、依頼書をこちらへ持ってこなくても結構です。というか、持ってこないでください」

 最後の言葉だけ何か必死そうだったな。
 前例が大量にあるのだろうか?
 まあ、言われたからにはそりゃ持ってこないよ。受付嬢に白い目で見られたくないし。

「そして、知っての通りここにはシュレインのダンジョンがございますが、あそこに入れるのは安全上Dランク以上からとなっておりますので、ご注意ください」

 あーそうそう。
 ダンジョンって、Dランクにならないと入れないんだよね。
 異世界名物の1つでもあるし、さっさとランクを上げて入らないと。
 俺は空間転移ワープが使えるから、いざとなったら結構簡単に逃げられるんだよね。
 ただし、魔力が残っている時に限る。

「それでは、説明は以上となります。分からないことがございましたら、気軽にお声がけください。それでは、頑張ってください」

「分かりました」

 俺はニコリと笑って頷くと、踵を返して歩き出した。
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