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 ――それで……何がどうなって、こうなった?


 …よし、順番に思い出してみよう。
 今日は午後から、吉崎さんとカップルを装ってケーキバイキングに行って、二人でスイーツしこたま堪能して。
 そこを出たら、近場にある有名スイーツ店とか素見しつつ一緒に巡って、これ食べたいあれ美味しそう、なんて言い合ってきゃいきゃい騒いで。
 日も暮れてきてから、目に付いたレストランに入って夕ごはん食べて。ついでに、そのお店で売っていたケーキを幾つかお持ち帰り用に買って。
 せっかくだからデザートにコレ一緒に食べよう、なんて誘われて、レストランを出たその足で、吉崎さんのお宅へお邪魔しにいって。


 ――で、こんな事態になっているワケか……。


「あ、あの、吉崎さん……」
「なに?」
「えっと、デザート、は……」
「もちろん冷蔵庫。明日くらいまでなら、置いておいても傷まないだろ」
「いや、そういうことではなく……」
 室内に通され『適当に座ってて』と言われて腰かけたソファの上、その座面には今、なぜか私のお尻ではなく背中が押し付けられており。
 最初はちゃんと座っていた筈なのだが、持ち帰ってきたケーキをキッチンへと持って行った吉崎さんが、手ブラで戻って来て隣に座ったかと思えば、いきなり私を抱き寄せてきて……で、唐突にキスされた。
 あまりに突然のこと過ぎて、は? って頭が真っ白になってしまって。
 そうやって固まっているうちに、気が付くと私はソファの上に押し倒されていたのである。
「心配しなくても、ケーキは後からちゃんと食べさせてあげるよ。――まずは俺のデザート食わせて」
「ちょ…ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいっ……!」
 どこか身の危険を感じ、制止すべく出そうとした私の言葉は、しかし彼の唇で塞がれてしまった。
 開いた唇から、ぬるりとした感触が入り込んできて、ねっとりと私の口内を這い回る。
 最後にカレシと別れてからもう何年経ったっけ? というくらい、ほとんど忘れかけていた刺激に翻弄されて、息継ぎすら上手く出来ない。
 身体から力が脱けてぐったりとなってから、ようやく唇を離してくれた吉崎さんが、高い位置から私を見下ろす。楽しそうな表情で、にやりと唇を緩ませながら。
「どうして、こんなこと……」
 快感による涙目を拭うことも出来ずに、ただ茫然と口に出した。
 その問いに、事も無げに彼は答えてくれる。
「惚れた、って言っただろ」
「は……?」
「君に惚れた、君が好きだ、こんな俺を馬鹿にしないどころか笑って受け容れてくれる女性は初めてだ、手放せる筈もない、って……俺、言ったよな? ケーキバイキングで」
 言われてみれば、そんな言葉を聞いたような気もするが……あくまで、カレシカノジョのフリをしている最中のこと、それも“ごっこ”でのことだろうと思い込んでいたのだが……、
「君の返事は、確かこうだったな。――『私も、一緒にスイーツ巡りしてくれる吉崎さんが大好きですよ』」
「それは、その場のノリっていうか何ていうか……!」
「ノリだろうが何だろうが、言質は取った。後は君がその気になるまで、気長に頑張ることにするよ。――というわけで、まずはカラダから、な」
「それ、なんか違くない……!?」
「何も違わない。これだって、お互いを解り合うための手段の一つだ」
 それもなんか違くない!? と、上げかけた声が再びキスで塞がれた。
 ――もう……! なんでこんなに気持ちいいのよ……!
 本気で嫌がって抵抗できない自分が恨めしい。てか、そもそも私、吉崎さんのこと嫌いじゃないし。むしろ、タイプだと云っても過言ではないし。生理的嫌悪感なんて無いに等しいのに、抵抗なんて出来るはずも無いのよハナっから。
 結局、気持ちいい方へと流されてしまうしか出来ない。私も所詮はオンナだもん、男前には弱いんだ仕方ない。
「――あ、やぁん、そこ、だめっ……」
「だめじゃないだろ。ここまで感じやすい、って……妬けるな、どんな男に仕込まれた?」
「そんなんじゃ、ない、しっ……」
 キスでとろっとろにされている間に、気付けば服も脱がされていて、明るい電灯の下で素肌を曝している自分が恥ずかしくて堪らない。感じやすくなっているとしたら、その所為だ。
 ホックを外されたブラがずり上げられ、剥き身の乳房が彼の大きな手と長い指で弄ばれている様が、視界に映らないように顔を背ける。
 そうすることで晒してしまった項にすかさず舌が這わされて……もう、どうにかなってしまいそうだ。
 至るところを這い回る指と舌に翻弄されて、快感で脳味噌まででろでろに蕩けさせられる。
 そうして、ついに最後の砦を暴かれた時には、もうはしたないくらいにそこは潤い、それの訪れを待ち侘びていた。
 やっと繋がれて、なのに、もどかしいくらいにゆっくりと揺らされると、気が狂いそうになる。
 お願い、それじゃ足りないの、もっと欲しい、刺激が足りない、もっと強く揺さぶって、もっと、もっと、奥まで突いて、いっぱいいっぱい、ぐちゃぐちゃにして―――!


 そこから先の記憶は、もはや途切れ途切れにしか覚えていない。
 気が付けば翌日の朝だった。







 その後の私と吉崎さんの関係は……うん、ご想像にお任せします……。
 また、これを経て、一つ私は学習した。――スイーツ男子は全くもって甘くはない、ということを。






〈終〉
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