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しおりを挟むその問いを投げた途端。
まさに火が点いたかの如く、ハルマの頬がぶわっと赤く染まる。おまけに、“何でそれ知ってるの?”とでも言いたげな表情になって、口をぱくぱくと開け閉めしながら唇をわななかせている。
やはり、さきほどの告白は、彼の意図していないところから無意識に発されていた言葉だったらしい。それほどに動揺していたんだろう。
だが、だからこそ真実であることを、それは雄弁に語っている。
「驚いたな……」
「ごめん……男からそんなふうに思われても、気持ち悪いだけだよな……」
「いや、別段そういった感情は無い」
「え……?」
いったん項垂れかけていた頭が、弾かれたように持ち上がる。
改まったように、今一度まっすぐに彼の視線を捕まえて、俺はそれを答えた。
「気持ち悪いどころか、むしろ今、満更でも無い気分だ。ハルマから想われていることが、素直に嬉しいと思うぞ」
「…………」
「俺の方にしたって、衝動的にああいう行動に及んでしまうくらいには、オマエのことは好ましく思えていたワケだし……てことは、どういうことだ? 俺もホモなのか? だからオマエを好きだ、ということになるのか?」
「それオレに訊かれても……」
「じゃあ……もう一回、確かめてみればいいか」
呟くように言いながら、おもむろに押し付けていたハルマの身体を、抱え込むように引っ張り寄せた。
「え、なに……?」
彼に問う隙すら与えず、すかさず卓袱台から引き剥がし、畳の上に転がす。
と同時に、問答無用でキスをした。
仰向けでビクリと震えるハルマの肩のあたりを、押さえ付けるようにして逃がさない。そうして心ゆくまで、その唇と舌の柔らかさと、そして口内のバニラ味を、存分に味わう。くちゅくちゅとした、はしたない水音に煽られるかのように、より深く溺れたいと乞う想いが暴走する。
それは、まぎれもない情欲に他ならなかった。
「――もう……何が何やら、展開が早すぎて頭が付いてけない……」
まさに、息も絶え絶え、といった体でそんな呟きを洩らしたハルマに向かい、俺は何事でもない風に応えてやる。
「おおかた、悪戯好きな妖精に惚れ薬でも盛られたんだろ」
*
真夏の熱帯夜に見る夢は、どうやら一夜限りでは醒めないようだ。
暑さに浮かされて始まったような関係でも、意外に冷めはしないものだな。ぬるま湯に浸かっている日々も、存外、悪くはない。
そうそう、件のショータとそのカノジョについてだが。
俺たちが『夏の夜の夢』作戦を敢行するまでもなく、早々に『春の夜の夢のごとし』と散ってしまった、――とだけは、一応報告しておこうか。
〈終〉
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