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tentations[トンタシオン 〜誘惑〜] 8
しおりを挟む「社外秘のことだから……言えることは限られるんだけど」
満紘は意を決した表情で私に向かい合った。
「長くなるかも。座ろうか」
ローテーブルの前に座るよう促された。私が座ると、満紘も隣に座った。
「まず、俺が梨愛に何か危害を加えることなんて、ある訳がない。そこは信じて欲しい」
「私だって満紘を信じてた。でもあんな会話聞いたら」
懇願するような目をする彼の顔は必死さが見えた。でもここは私も本音を言わないといけない。
「私、仕事を辞めてまでして満紘について行くかどうかの分岐点にいるの。なのに、こんな怖い話が出てくるなんて……」
鼻の奥がツンとする。泣かずに話し合いたいのに。涙で説得するとか、そんなの嫌。
「そ、う……だよな」
「私の人生に、大きく関わることなの」
「うん、そうだよな。悪かった。出来れば梨愛を心配させたくなくて」
「逆効果だよ」
涙目のまま、満紘の整った顔をキッと見上げた。咄嗟に手で口を覆って目を逸らされた。
「何で目、逸らすの?」
「だって梨愛が……可愛過ぎるから」
「へ?」
真剣な話の最中ですけど⁉︎
「梨愛がこんなに可愛いのに俺が薬品臭いから抱き締めたいけど抱き締められない」
拗ねたように不機嫌になるこの人は、事の重大さをわかっているのだろうか?
「産業スパイの話、だったな。俺の会社の取引先のとある製薬会社に──ここからは他言不要でお願いしたいんだけど。その製薬会社に産業スパイが入り込んでいるんじゃないかって話があるんだ。ここしばらく、俺と一ノ瀬さんはその調査をしていた」
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