星をくれたあなたと、ここで会いたい 〜原価30円のコーヒーは、優しく薫る〜

6.

「──まだ、速水くんのLINE、ブロックしてんの？」

後期の授業が始まった。速水くんとのことは、事情を知る亜樹にしか話していなかった。

「……速水くんから聞いたの？」
「最近速水くんとシフト入ること多いから」

苦笑い混じりに亜樹は隣に座った。英語の講義が始まるまでまだ10分以上あった。もうすぐ国語科も花音も集まるだろう。

「もう、配慮して貰わなくても大丈夫だけどね」

あれから店長に直接謝った。どんなシフトでも私は大丈夫です、と告げていた。お金を頂いて働いている以上、プライベートに難ありでも、それはお店にもお客にも関係ない。

「結局あれは、元カノと元サヤしてたわけじゃなかったんでしょ？」
「聞いたんだ」
「あの状況に立ち会った私がガミガミ言わずにいられると思う？」
「ですよね」

何を聞いたんだろう。結局彼と話すことから逃げてきたから、私の知らない事実があるのかもしれない。聞きたいような、聞きたくないような。

「めっちゃ余計なお世話だけどさ。ひとつだけ。いい？」
「うん」

亜樹の言葉なら。聞こうか。ちゃんと。

「今でもブロック解除できないぐらい好きならさ。後悔しないように動いた方がいいよ。速水くんはまだ、桃歌の手の届くところにいるんだから」

え。まだって、何？彼は、どこかに行ってしまうの？

「亜樹、まだって……」
「ああ、速水くんがどっか行っちゃうわけじゃなくて」

少し慌てた亜樹は、ふっと寂しそうな顔をした。

「私がすごく好きだった人は、もう、どこにいるのかわかんないから」