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第9章 様々な困難
41話
しおりを挟むキヨは二十歳になった、
そして念願の一人暮らしを実現させていた。
家事もろくにした事がないキヨに一人暮らしさせることを、両親はなかなか認めてくれなかった、
しかし、
時々実家に顔を見せに来る、
いざとなったら徒歩で実家に来れるぐらいの
近い場所で家を探す、
というのを条件に、
一人暮らしを認めて貰えた。
一人暮らしが始まってからのキヨの生活は快適だった、
自分の好きなタイミングでテレビをつけられる、電気をつけられる、エアコンをつけられる。
自炊などしなくてコンビニ飯ばかりになるかと思われていたが、
意外なことにキヨは料理にハマり、
本を買っては色々な料理を作って楽しんでいた、
料理以外の家事も問題なかった、
毎日同じ作業を同じようにこなす家事は
キヨに向いていた、
キヨはそういうルーティン的な作業は得意だった。
特に何の問題もなく、一人暮らしはスタートできた、
しかし問題もあった、
キヨは時給の高い仕事を選んだつもりだったが、
生活していくには少し物足りない、
気を抜けばカツカツになってしまう、
キヨは更に時給の高い仕事を探し、転職した。
しかし、キヨは仕事選びを間違ってしまった。
キヨが新しく勤めた会社は、
小さな倉庫、
前回働いていたのも倉庫で、
お客さん等と接する必要がなく、
黙々と作業をしていればいい倉庫内作業はキヨにピッタリだった、
そのため今回も倉庫内作業にしたのだが、
キヨは失敗した。
前回の倉庫は
従業員が100人を超える大型倉庫、
1人1人に口頭で指示をする時間は無く、
指示は専ら、ホワイトボードを使った
文字による指示だった、
しかし今回は小型の倉庫、
従業員は少なく、その分1人あたりの仕事量も多かった、
時給が高いのも納得の忙しさ、
指示は全て口頭、
ここで暫く隠れていた
キヨのとある特性が再び顔を出した。
聞き取れない。
指示は全て口頭、
忙しなく走り回る先輩達から放たれる言葉は
凄く早口で
キヨにはなかなか聞き取れない、
倉庫内は常に機械の音で溢れていて、
先輩達の声がキヨの耳に届くのを邪魔する、
しかし指示を聞き逃すわけにはいかない、
キヨは必死に口を読んだ、
早口なので、全ては読めない、
でも、一文字だけでもいい、
ほんの少しの単語だけでも拾えれば…
必死にキヨは口を読んだ。
「駒井さん聞いて~!昨日の夜%@#*~が熱くて♂φ&々~で@◎☆〒#ちゃってさー!」
仕事の指示を聞き取るより困難な事がキヨにはあった、
それは何気ない雑談だ。
仕事の指示は
出てくる単語も限られており、
場の雰囲気、口の動き、聞き取れた他の単語
それらの情報があれば、
以外と問題なく理解することができた、
しかし雑談は違う、
なんの話が出てくるか分からない、
口を読んで、内容を把握できるときもあれば、
全く分からないままの時もある、
「え?何ですか?すいません聞こえませんでした」
仕事中と違い余裕があるので聞き返す事はできる、
しかし1回が限界だろう、
何度も何度も聞き返していると、
相手ももういいやとなってしまう、
一度聞き返し、それでも聞き取れなかった場合は、
「あはは…そうなんですねぇ…」
相手の表情を真似し、それっぽい反応をする、
それしかできない、
それでなんとか誤魔化していた。
常に耳に気合いを入れ、
目を見開き口を必死に読み、
頭を常にフル回転させ、話の流れを読む、
仕事開始から終了まで、
ずっとこの状態をキープしなければいけないキヨ、
とても疲れた。
何故皆聞き取れるのだろう、
あんなに早口なのに、
あんなに倉庫内はうるさいのに、
何故みんな、
問題なく会話が出来ているのだろう。
「人間は、自分の耳に入ってくる音を
無意識に選別できるらしいですよ」
仕事が終わり、
キヨはヨルに相談した、
場所はキヨが一度死のうとした橋、
あの場所は
キヨとヨルの"いつもの場所"になっていた。
「選別……?」
「無意識に不要な音を取り除いて
必要な声だけ聞き取れるらしいです、
僕達サンコ星人は聴覚が優れてるので
余計な物音までしっかり拾ってしまうんですよ、だから人の声がかき消されるんです」
「……そうなんだ……
人間って器用だね…………」
長所と思われていたサンコ星人のずば抜けた聴力、
しかしそれは地球では短所となった。
「…そもそも地球はうるさすぎるよ…」
様々な音に溢れる地球、
キヨはそっと耳を塞いだ、
周りの音が小さくなり、
とても快適だった。
サンコ星はこんな感じだったな…。
キヨは遠く離れたふるさとの星を
懐かしむように空を仰いだ。
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