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四章
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数日経った夕刻、糸川美紀は朝比奈がバイトしているカフェバー『ゼア・イズ』の扉を開けた。その姿を見付けた朝比奈は、マスターに許可を得て店の奥にある休憩用の個室に美紀を案内した。
「姉貴の代わりに来たんだよね。俺の依頼に簡単に同意したと思われたくなかったのかな」
美紀に席を勧め自分もその前に腰を下ろした。
「いいえ、麗子先生は、今請け負っている案件が多すぎて、時間が取れなかったのだと思うわよ。それでも、随分時間を割いて2人の議員の調査されていたのよ」
麗子の気持ちを察して言い返した。
「はいはい、感謝しております。それで、2人の調査はどうだったんだ」
朝比奈と美紀はある事件で出会い、恋人同士の関係となり姉である法律事務所で働いていたのだった。
「まず、殺害された大池議員は、地元の名古屋産業大学の経済学部を卒業後、一旦はトヨミ自動車に入社して経理部で課長の役職まで勤めていたけれど、退職して父親の公設秘書になり4年前に県会議員に初当選して、今は先々月の選挙で2期目となり活躍が期待されているとのこと。いずれは、父親の地盤を継いで国会議員になるのは間違いないと言われている。ただ、2世議員には珍しく、父親の権威を利用して驕ることもなく、人格も穏やかで周りの人達からも好かれている人物の様で、殺害される様な人物ではないと驚く意見が多かったみたい」
その時、マスターが賄いの味噌煮込みうどんを持って現れて、テーブルに置くと無言で去っていった。
「ああっ、今夜の賄いだから気にしないで食べてよ。2人の経歴は高橋刑事と川瀬刑事から聞いたけれど、2人の関係はどうだったのか調べはついているのか」
朝比奈は早速うどんを手にして、中央にあった半熟卵を崩してうどんと絡ませてから口へ運んだ。
「えーと、同じ民自党の議員で同じく2期目の同期と言うことで、初めは仲良くしていたそうだけど、父親が民自党内では違う派閥であり、先回の総裁選挙では戦いあって2位と3位で、決選投票では3位の大池議員の派閥票が、今の今田首相に流れて総裁になれなかったこともあり、噂では今は犬猿の仲とも言われいているそうだわ。その影響で、2人も仲も良くはできなくなったみたいね」
美紀は書類のベージを捲って答えた。
「もし、2人が愛し合っていたのなら、ロミオとジュリエットって感じだったのかな」
ホテルの部屋へ花束を持って現れた川野議員の姿を頭に浮かべた。
「まぁ、川野議員の父親は妻と離婚していて既に亡くなっているので、今は川野家側で反対する人は居ないとは言うものの、それまでは恋愛なんて御法度の2人だった訳で、困難があればある程燃え上がるものなんじゃない。派閥の関係などあって今でも2人が愛し合うのはタブーであり、その愛が実ることがないと悲観して無理心中だったんじゃないの」
美紀もうどんを手に取った。
「無理心中か・・・・・でも、心中するにしても、愛している人を絞殺できるかな」
首を傾げた。
「あっ、もしかして、大池議員が川野議員を裏切って他の人へ走ってしまって、可愛さ余って憎さが百倍ってこともあるでしょ」
得意気に言い放った。
「そんな険悪の関係になっていたら部屋に入れるとは思わないけどね。それに、川野議員は薔薇の花束を持っていったんだよな。ただ、2人が付き合っていたとして、当然他の人間はそれを知らなかったとなるから、犯人が川野議員でなければ大池議員があのホテルのあの部屋に宿泊していたことを知っていた人物になるよな」
箸を止めて考え込んだ。
「あのね、川野議員は殺意を持っていたけれど、大池議員はその殺意を知らなかったから部屋に入れたんでしょ。結局、犯人は川野議員で、その後自殺したという警察の考えは間違いないってことだよね。優作は判断の何処に違和感を感じているの」
書類から目を移し朝比奈の顔を見詰めた。
「探偵の感かな」
首を傾げて微笑んだ。
「いつから探偵になったの」
呆れ顔で言葉を返した。
「あのさ、川野議員は大池議員への殺意を持っていたが、大池議員は気付かれていないと思い部屋に招き入れ、リビングまで行き襲われ絞殺されたことになるよね。でも、気付かれていないとしたら、ちょっと不可思議なことがあるんだ。大池議員と川野議員が恋人同士だったとして、川野議員が殺意を持つ程自分を恨んでいると知っていたら、当然部屋に招き入れたりはしないだろう。つまり、有り得るのは、美紀の言うように大池議員は恋人としての川野議員を招き入れたことになるだろ」
自分にも言い聞かせる様にゆっくりと語った。
「そうよ、そしてリビングで襲われて絞殺されたのでしょ」
朝比奈が不可思議に思うことが分からなかった。
「もし、川野議員のことを信じていて、愛していたとするとテーブルに残されていた薔薇の花束の理由が理解できないんだよ」
立ち上がると2人分の水を持って戻った。
「あの時事務所で優作が話してくれた、12月12日がダズンローズデーで、男性から恋人の女性に12本の薔薇を贈ることよね。でも、部屋に招き入れてもらう為に、川野議員が用意したのでしょ」
コップを受け取りテーブルに置いた。
「ダズンローズデーには続きがあって、12本の薔薇を贈られた女性はその男性を愛している証拠に、もらった花束の中から一番綺麗だと思う薔薇を男性の胸元に飾り、1つのプレゼントを愛する人と共有するんだ。しかし、部屋のテーブルには12本の薔薇が残されていたんだ。あの夜すれ違った男性は背広姿だった、それは監視カメラでも確認されているから、大池議員は川野議員には薔薇の花を返さなかった。つまり、大池議員は川野議員のことを愛してはいなかったことになる。すると、矛盾が生じてしまうんだ」
朝比奈は勢いよくうどんを吸い上げた。
「そんなの簡単なことよ。私は勿論麗子先生だってダズンローズデーのことは知らなかったのだから、大池議員だって只の薔薇の花束のプレゼントだと思ったんじゃないのかな。もし、12月12日に優作が私に12本の薔薇をくれたとしても、薔薇を一輪返すことはなかったと思うよ」
朝比奈の変なこんなこだわりにはついていけなかった。
「本当に知らなかったのだろうか?」
一応美紀の言葉を聞き入れようとはしていた。
「あのさ、今なら12月12日でなくても12本の薔薇を贈ってくれたら、スーツや背広を着てなくても、優作にはその中の1本を速攻で返すけどね」
嫌味を込めて言い放った。
「1本だけ返してもらってもね・・・・・・・それで、他に2人に関しての情報について分かったことはないのか」
薔薇についてはスルーして事件についての話に踏み込んだ。
「優作に言われて麗子先生は、できるだけの情報を集めようとされたけど、調べる途中で警察の発表があり、その発表に矛盾も違和感も感じなくて、途中で収集を止められてしまったのよ」
呆れ顔で答えた。
「そうか・・・・じゃ仕方ないな」
そう呟くように言うと、ポケットからスマホを取り出した。
『あっ、先日はお世話になりました。先日亡くなった2人の議員についてお聞きしたいのですが・・・・・・・分かりました、よろしくお願いします』
足立編集長に連絡を取って通話を終えた。
「美紀、この後時間はあるか」
スマホをポケットに収めると微笑みながら尋ねた。
「ええっ、特に予定は無いけど・・・・・・・」
その微笑みに嫌な予感が頭を過ぎった。
「それは良かった。悪いけど、俺に代わってここでの仕事2時間程お願いできないかな。マスターには話しておくから」
朝比奈はそう言うと、慌ててうどんを口へと詰め込んで呆気に取られている美紀を部屋に残して店を出ると、大学館の名古屋支社へと向かうことにした。大学館は朝比奈のバイト先である『ゼア・イズ』と同じ区内に在り、歩いても20分程度で行ける距離ではあったが、一刻でも早く到着したいとの思いでマスター所有の自転車を借りることにした。
「先輩、急な話で申し訳ありません」
10分程でオフィス街に建つ大学館の自社ビルへ着くと、駐輪場に自転車を止めて早速受付に声を掛けて編集部へと進むと、足立の姿を見付けて声を掛けた。
「えっ、もう着いたのか早かったな」
足立は小会議室へ案内した。
「アルバイト中だったので、彼女の美紀に代わってもらって飛んで来ましたよ。兎に角急いで確認したいことがあったものですから」
朝比奈は、足立と2人席に着くと美紀との会話について簡潔に話した。
「ああっ、その事件については、切っ掛けが講演があったホテルでの殺人事件だったから、社内でも各編集長クラスが集まって話し合ったけれど、お前が話してくれた様に大池議員を川野議員が殺害して、自宅で服毒自殺を行ったとして警察では被疑者死亡で処理したんだよな。社内での報告では、2人は高校時代から親しく付き合っていたのだけれど、父親同士が犬猿の仲になった為に事実上は別れることになったのだけど、どうやら関係は続いていた様で、川野議員の父親が亡くなったことで、障害が無くなり結婚をすることになったのだと考えられる。だけど、その関係がこじれて、つまり大池議員の不貞が原因で殺害に至ったのではないかと、事実確認を調べているみたいだな」
用意してあった資料を見ながら答えた。
「そこまでの話は姉からも聞いていました。しかし、そういう議員間の関係については、警察よりも先輩達雑誌記者の方が得意だと思いますがどうなんでしょう。実際2人が付き合っていたのは間違いないと思いますが、大池議員が川野議員以外の男性と付き合っていた事実は掴めていないのですか」
警察の見解を理解しながら一歩踏み込んで尋ねた。
「それなんだが、2人が付き合っていたことでさえ、亡くなったことで口止めされていた人間から漏れてきたもので、大池議員は父親の影響もあり選挙区ではトップ当選で、県会議員の中でも特に女性からの評判が良く、そんな不貞行為をすれば直ぐに票に影響するのは分かっているはずだし、念の為に関係者などに話を聞いてみたそうだけど、川野議員以外に男性の影は浮かんでは来なかった。だから、警察が考えている大池議員の不貞に川野議員が殺害に至ったという動機には納得していないよ」
ページを捲って答えた。
「やはりそうですか。僕も2人の恋愛に関しては間違いないと思います。勿論、大池議員の不貞行為も存在していないでしょう。すると他に殺害動機が存在することになりますね。それについて何か思い当たることは無いのですか」
姉と同じで警察からの発表に納得して、それ以上の取材をしていないのであろうと推測されたが、それでも期待を込めて尋ねた。
「まぁ、殺害動機に関して、俺なりに色々と考えてみたのだけれど、1つだけ気になったことがあるんだ」
「えっ、何ですか」
興味を示して身を乗り出した。
「直接関係はないかもしれないけれど、2人が亡くなったことで県会議員の議席数の勢力が変わってくるんだよ。今、愛知県会議員の議席数は102議席で、先々月行われた愛知県議員選挙では、愛知新鮮の会が50人、民自党愛知県議員団が28人、愛知主民党が15人、公信党愛知県議団5人、無所属4人の当選が決まった。その結果、愛知県内での与党は今も新鮮の会なのだが、現職議員の不祥事などで県民の反感を受けて、今回の選挙では68議席から大幅に減らし、過半数をも割る事になってしまった。その為、議会の運営は無所属や他の党の理解を得られなければ議案を通す事ができなくなってしまった。ところが現実として、県会議員は当選者の辞職、もしくは死亡した場合は、選挙後3ヶ月以内であれば繰り上げ当選となるんだ。それで、2人の選挙区を調べてみると、2人の選挙区とも次点の候補者は新鮮の会に所属していたんだ。つまり、繰り上げで与党である新鮮の会の議員が2人増えて52人、野党の民自党の議員が2人減って26人になり、過半数を確保し他の党の反発が出ても法案を通す事ができるんだ。まぁ、流石にその為に殺人を行うなんて、ちょっと飛躍過ぎた想像だとは思うけどな」
一応資料を朝比奈に渡した。
「県知事の村上洋文は新鮮の会の副代表なんですよね。8年前に初当選して、今年の選挙でも選ばれて2期目。良い面でも悪い面でもマスコミを騒がせている人物で、先輩にセッティングしてもらって何度か取材させてもらったことがありました。確かその時は、知多半島にゴミ廃棄物を埋め立てる人工島を作る計画について取材したんですよ。その時も、県議会は過半数を占めていて、与党である民自党や公信党の猛反対にもかかわらず、最後は与党新鮮の会が強行裁決に持ち込んで、当時の予算として約100億円での工事予算が計上され、受注した島根建設からは前年と比較して5倍以上の政治資金が新鮮の会に送られていたことが発覚して話題になったこともありました。まぁ、いつもの事ではありますが、建設業者の選定は正規の手続きによるもので、忖度は無かったとして逃げ切られましたけど、政治の闇は深いですね」
左の顳かみを叩きながら過去の情景を思い出していた。
「そうそう、その人工島である華洲なんだけど、2030年に開催予定の世界万国博覧会の開催国を選ぶBIE総会に、愛地球博から25年ぶりに愛知県が立候補する予定だと、新鮮の党は選挙公約にも打ち出して戦うことにした。まぁ、その万博の誘致に対しては、前回の愛知万博は予定の入場者数を上回って黒字になり、その後の経済効果もあって大成功だったので、期待を込めて新鮮の会を応援しようと思う県民も多数いたかもしれないが、その開催地の会場として新鮮の会は人工島の華洲を予定していた為に、廃棄物の人工島で地盤も軟弱であり、トンネルを掘り地下鉄を通すとは言っているが、現状は交通手段としては片側2車線の橋が1本だけ。そんな人工島で本当に万博が開催できるのかとの不安面を指摘する意見も多く、新鮮の会は議員数を大幅に減らしてまさかの過半数割れしまったけど、知事を筆頭に各議員も選挙公約に示したからには、県民に対して約束を守る為には、野党や無所属の議員の理解を得なければ遂行できない状態になっているんだ。ただ、与党の3党は万博誘致に対しては反対の立場であり、無所属の議員も県民の顔色を伺うことになった」
大学館では、ゴミ廃棄物処理の為の人工島華洲について特集記事を掲載する予定になっていて、足立もある程度の情報を得ていた。
「僕も当時色々と取材しましたので、人工島については知っているつもりですが、本当にあの洲に万博を誘致するつもりなのですか。確か、地盤の硬さを表すN値は5KNくらいしかなく、表現すればマヨネーズの上に地盤が乗っかっている状態です。一般の住宅では20KN、マンションなどの高層建築物に至っては50KNは必要とされますから、パビリオンを建てようとすれば杭を打つ必要があるでしょうが、人工島ですからそれも難しいと思いますよ。それに、ゴミや色々な廃棄物が地面の下に埋まっている訳ですから、メタンガスや一酸化炭素、それに硫化水素だって発生する可能性もあるでしょう。そんな危険な場所で世界に何を発信するつもりですかね。もう1つ気になるのは、先程先輩が言われたように洲へのアクセスが悪いと言うことです。どれ程の入場者を予定しているのか知りませんが、現行の片側2車線の道路だけでは自動車での会場入りは不可能だろうし、バスでのピストン運行をするとしても相当の台数のバスが必要になるし、各地で不足しているバスの運転手を開催期間だけ集めるのも困難だと思います。もう1つの交通手段が地下鉄とのことですが、当然海面下を掘り進めての対応になると思いますが、地震や台風などの自然災害で水没した場合、その海水を排出するにはポンプを使わなければならなくなるし、交通に加えて電気・ガス・下水関係のインフラの設備に莫大な費用が必要になりますよね。万博閉会後はそれらはどうなるのですか、元々ゴミ処理場ですから愛知万博の様に、公園や施設として利用する訳にはいかないでしょう」
頭に描きながら次々と疑問が湧いてきた。
「流石、朝比奈だな。ここだけの話なんだが、万博閉会後はは全て更地にするとなっていて、その跡地に外国資本のカジノ施設を誘致する計画が裏で動いている様なのだ。つまり、カジノ施設のインフラが必要で、万博の成功の有無は関係なくて、インフラが設備できれば赤字が出ても仕方ないと思っているんだ」
足立は朝比奈に顔を近づけて声のトーンを下げて告げた。
「そういう裏事情があったんだな。先輩の事件に対する推理、意外と的を得ているかもしれませんよ。知事と県会議員の新鮮の会は、万博の誘致による愛知を中心にする文化の発展や経済効果を選挙公約にした以上、万博の誘致は絶対に達成しなければならない必須項目な訳です。選挙では過半数は割らないだろうと言う、状況を把握できない希望的観測的な予想で、そんな公約を出した為にとんでもない状況が発生したのですよね。僕も個人的に調べてみたのですが、亡くなった2人の議員はゴミ処理場である人工島の華洲のことをよくご存知で、万博の誘致なんてとんでもないとまともな考えの持ち主で、自分の所属する民自党は勿論、他の野党や無所属の議員に声を掛け精力的に反対運動をされていたようですよ」
興味津々と足立の言葉を聞いて、言葉にはしなかったが『面白くなってきたじゃない』という表情が読み取れた。
「おいおい、お前のその口ぶりじゃ、2人が政治がらみで殺害されたみたいじゃないか。川野議員が大池議員を殺害して自殺したことには間違いないんだぞ」
朝比奈の昔から見慣れた表情ではあったが、その背筋が凍る思いに慌てて反発した。
「先輩、警察や検察が完全なものであれば、冤罪という言葉は存在ないし再審請求なんて起こされることは無いですよ。自分達の経験や前例だけに頼りっきりで、例外的な事例を認めようとしない姿勢が、悪を見逃すことになるんですよ」
今度は鋭い視線で足立の顔を見た。
「あの、確認しておきたいのだが、まさかお前は警察の発表に疑問を持っているんじゃないよな」
朝比奈の言葉に流石に驚いて尋ねた。
「ええっ、そのまま鵜呑みはしていませんよ。一番大きな点は、先程から話している殺害動機がはっきりしないということ。ホテルの殺害については、川野議員が付き合っていた大池議員に告白しようとしていたのにも関わらず、どうして衝動的ではなく計画的に絞殺しなければならなかったのか。もし、監視カメラなどで身元が分かり自殺したのならわからなくもないですが、ホテルではそんな素振りも見せず監視カメラも意識していたのに、直ぐにホテルではなく自宅で自殺を図った意味が理解できない。自宅では一応遺書は残していたものの、手書きではなくパソコンに書き込まれていたこと。まぁ、自殺現場を見たわけではありませんが、服毒であれば他人によって殺害することも十分可能です。それらが全て解決しなければ、警察の報告は受け入れられませんね」
少年の様な純粋な目を輝かせて答えた。
「おいおい、ちょっと待てよ。確かに動機については解明されてはいないが、警察の事件の報告については矛盾点などもないし納得出来る説明だと思うぞ。何かお前の指摘する点は重箱の隅をつつくようなもので、事件の根底を揺るがすことにはならない気がする」
足立はただ殺害の動機に関係しているのかと思い、2人の議員の立場や現状について話しただけで、警察の捜査については否定していなかったので朝比奈の言葉に驚いていた。
「まぁ、仮定の話ですが、まず川野議員が自殺を疑って見ることにします。つまり、自殺ではなく誰かに殺害されたとすると、大池議員の殺害を認めている川野議員の遺書は偽装となり、当然川野議員が大池議員殺害の犯人ではなくなるのですよ。つまり、川野議員が大池議員を殺害して自殺したというシナリオを書いた人物が、2人の議員を殺害することが今回の事件の目的だった。そう、先輩の想像した繰り上げ当選によって野党の議席を奪い、愛知に万博を誘致することが動機だったとすれば、しっくりするし納得もできるんですよね」
真剣な表情で言い放った。
「馬鹿も休み休み言えよ。そんなことで、2人もの人間を殺害する訳ないだろう」
朝比奈の表情とは反対に、呆れ顔で言い返した。
「切羽詰った政治家、金と権力を手に入れた人間は、何をするのか分かりませんよ。今話題になっている県知事も、おねだりや部下が遅刻したり20m歩かされたくらいで怒鳴った知事の事を告発した部長を、嘘八百を広めたと懲戒処分にして自殺に追い込んだ事件もありましたよ。自分が一番で他人の命は何とも思わない人間ばかりですよ。まぁ、僕は実際に自殺現場を見た訳ではありませんが、恐らく所轄の刑事は遺書もあり自殺と決め付けたから、細かいところまで調べていないでしょうが、例えば僕なら遺書を打ち込んであった、書斎のパソコンのキーボードに本人の指紋が残っているか調べてみますよ。本人の指紋が残っていれば納得はしますが、指紋が残されていなかったり消えている部分があれば、偽装の可能性は高くなりますよね。それから、亡くなる時に他の人間が居たとすればその形跡が何処かに残っているかもしれません」
水を得た魚の様に生き生きとした表情で自信を持って答えた。
「もし、朝比奈の推理が当たっているとすると、犯人は大池議員を絞殺した後に慌てて川野議員の自宅に向かい、毒殺してパソコンに遺書を残したことになるよな。そうすると、その時間に必ず川野議員が自宅に居なければならない。川野議員が既にホテルに向かっていたとしたら、朝比奈の推理は成立しないだろう。それに、川野議員でなければ大池議員は部屋には入れなかったんじゃないのか」
少し考えて事件を頭の中でもう一度整理して尋ねた。
「今のところ、物的証拠はありませんから僕の想像なのですが、今回の事件は殺害された順番を変えることで、他の人間でも可能となるのですよ。犯人は、川野議員の自宅を訪れて、隙を見て川野議員の飲み物に毒物を混入させて毒殺した。そして、その場の自分の痕跡を消して、書斎にあったパソコンに遺書を残して急いでホテルへ向かい、恐らく川野議員が用意していた薔薇の花を使って誤魔化して部屋に入り、大池議員を絞殺したとすれば辻褄は合いますよ」
その時の様子を頭に描きながら答えた。
「朝比奈の発想は面白いが、大池議員の方が先に死亡しているとの報告があり、時系列で考えればその推理は無理じゃないのか」
警察の捜査について異論を唱えたい朝比奈の気持ちは分からなくはないが、流石に事件に対しては専門家には対抗できないと思っていた。
「死亡推定時刻によると、川野議員の方が大池議員よりも2時間程後になっていましたが、所轄は現場の状況より自殺と判断していましたから、詳しく室内を捜査してはいないと思います。例えば、室内のクーラーの温度を極端に下げておけば、死亡推定時刻を遅らせることは可能ですよ。まぁ、殺人事件であれば司法解剖などで詳しく調べられたでしょうが、初めから自殺と決め付けていたのですからね。僕なら、川野議員の自宅を調べて、まずはエアコンの設定温度の確認をしますけど」
足立の気持ちを察して丁寧に説明した。
「そっ、そのことは、警察に教えたのか」
意外な返答に驚いていた。
「えっ、既に警察は結論を出したのですよ。ですから、警察の判断が間違っていたというど素人の意見を受け入れるはずはないでしょう」
「でも、確か友達が愛知県警の刑事だし、お姉さんは有名な弁護士なんだろ。話してもいいんじゃないのか」
2人の顔を思い出しながら尋ねた。
「ああっ、大神と麗子姉に話して2人の議員について調べて教えてはくれたけど、警察の判断に異論はないと思ったのでしょうね、事件は刑事に任せておけとか、探偵の真似事はやめときなさいと、それ以上のことは調べてもらえなかったので、先輩を頼ってきたという訳ですよ」
残念そうに肩を落とした。
「俺に何をさせるつもりなんだ」
嫌な予感で体が震えた。
「もし僕の話を信じて、今回の事件に疑問を持っていただけたのなら、もう少し2人の議員の取材をしていただき、できれば特集記事として掲載していただければ、警察も動かざるを得なくなると思います」
「ちょっと待てよ。警察に喧嘩を売れってことなのか」
勘弁してくれよとばかりに顔を左右に振った。
「いいえ、問題を提起するだけで、例えば『2人の議員を良く知っている人物Aさんが、川野議員が大池議員を殺害する訳がない。事件があった日、川野議員の自宅を訪れた人を見たという証言もあり、警察が自殺と判断したのは本当に正しかったのだろうか』なんて記事でどうでしょう。内容としては、先程僕が話した疑惑を載せて頂ければ、読者も疑惑を持ってくれるのではないでしょうか」
警察の重い腰を上げさせるには、マスコミを利用するのが一番だと感じていた。
「とは言ってもなぁ・・・・・・・・」
二の足を踏む足立は言葉に詰まった。
「僕の推理では、大池議員の部屋に残された薔薇の花束は、川野議員が用意したものだと思います。今回の事件は複数犯の犯行ではなく、川野議員を殺害した犯人がその自宅にあった花束を持って、大池議員が待つホテルへ川野議員になりすまして訪れ犯行に及んだと思っています。犯人がホテルへ向かう途中で購入したのであれば仕方ないですが、僕が犯人ならばもし仮に警察の中に薔薇の花束に注意を払って、その出処を確認して身元が分かってしまうこともある。そんな危険性を払ってまで印象に残る薔薇の花束を購入するとは考えられません。まずは、川野議員の自宅近辺で生花を配達している花屋を調べていただき、配達員が確認できたら写真等で川野議員本人だったのか、そして何時に配達したのかを確認してもらえますか。そうすれば少なくとも、大池議員の部屋に残された薔薇の花束は、川野議員が用意したものであることは確定することになり、殺害する目的でホテルへ向かった川野議員が、わざわざ薔薇の花束を用意するという矛盾が生じます。先輩が川野議員の立場だったらそんなことしますか」
困惑している足立に追い討ちを掛けた。
「わっ、分かった。少し取材を掛けてみて、警察の発表に疑問点や判断間違いがある事実が出てきたら、スクープ記事として掲載することにするよ。それでいいんだな」
仕方なく言い返すと、朝比奈は嬉しそうに頷いた。
「姉貴の代わりに来たんだよね。俺の依頼に簡単に同意したと思われたくなかったのかな」
美紀に席を勧め自分もその前に腰を下ろした。
「いいえ、麗子先生は、今請け負っている案件が多すぎて、時間が取れなかったのだと思うわよ。それでも、随分時間を割いて2人の議員の調査されていたのよ」
麗子の気持ちを察して言い返した。
「はいはい、感謝しております。それで、2人の調査はどうだったんだ」
朝比奈と美紀はある事件で出会い、恋人同士の関係となり姉である法律事務所で働いていたのだった。
「まず、殺害された大池議員は、地元の名古屋産業大学の経済学部を卒業後、一旦はトヨミ自動車に入社して経理部で課長の役職まで勤めていたけれど、退職して父親の公設秘書になり4年前に県会議員に初当選して、今は先々月の選挙で2期目となり活躍が期待されているとのこと。いずれは、父親の地盤を継いで国会議員になるのは間違いないと言われている。ただ、2世議員には珍しく、父親の権威を利用して驕ることもなく、人格も穏やかで周りの人達からも好かれている人物の様で、殺害される様な人物ではないと驚く意見が多かったみたい」
その時、マスターが賄いの味噌煮込みうどんを持って現れて、テーブルに置くと無言で去っていった。
「ああっ、今夜の賄いだから気にしないで食べてよ。2人の経歴は高橋刑事と川瀬刑事から聞いたけれど、2人の関係はどうだったのか調べはついているのか」
朝比奈は早速うどんを手にして、中央にあった半熟卵を崩してうどんと絡ませてから口へ運んだ。
「えーと、同じ民自党の議員で同じく2期目の同期と言うことで、初めは仲良くしていたそうだけど、父親が民自党内では違う派閥であり、先回の総裁選挙では戦いあって2位と3位で、決選投票では3位の大池議員の派閥票が、今の今田首相に流れて総裁になれなかったこともあり、噂では今は犬猿の仲とも言われいているそうだわ。その影響で、2人も仲も良くはできなくなったみたいね」
美紀は書類のベージを捲って答えた。
「もし、2人が愛し合っていたのなら、ロミオとジュリエットって感じだったのかな」
ホテルの部屋へ花束を持って現れた川野議員の姿を頭に浮かべた。
「まぁ、川野議員の父親は妻と離婚していて既に亡くなっているので、今は川野家側で反対する人は居ないとは言うものの、それまでは恋愛なんて御法度の2人だった訳で、困難があればある程燃え上がるものなんじゃない。派閥の関係などあって今でも2人が愛し合うのはタブーであり、その愛が実ることがないと悲観して無理心中だったんじゃないの」
美紀もうどんを手に取った。
「無理心中か・・・・・でも、心中するにしても、愛している人を絞殺できるかな」
首を傾げた。
「あっ、もしかして、大池議員が川野議員を裏切って他の人へ走ってしまって、可愛さ余って憎さが百倍ってこともあるでしょ」
得意気に言い放った。
「そんな険悪の関係になっていたら部屋に入れるとは思わないけどね。それに、川野議員は薔薇の花束を持っていったんだよな。ただ、2人が付き合っていたとして、当然他の人間はそれを知らなかったとなるから、犯人が川野議員でなければ大池議員があのホテルのあの部屋に宿泊していたことを知っていた人物になるよな」
箸を止めて考え込んだ。
「あのね、川野議員は殺意を持っていたけれど、大池議員はその殺意を知らなかったから部屋に入れたんでしょ。結局、犯人は川野議員で、その後自殺したという警察の考えは間違いないってことだよね。優作は判断の何処に違和感を感じているの」
書類から目を移し朝比奈の顔を見詰めた。
「探偵の感かな」
首を傾げて微笑んだ。
「いつから探偵になったの」
呆れ顔で言葉を返した。
「あのさ、川野議員は大池議員への殺意を持っていたが、大池議員は気付かれていないと思い部屋に招き入れ、リビングまで行き襲われ絞殺されたことになるよね。でも、気付かれていないとしたら、ちょっと不可思議なことがあるんだ。大池議員と川野議員が恋人同士だったとして、川野議員が殺意を持つ程自分を恨んでいると知っていたら、当然部屋に招き入れたりはしないだろう。つまり、有り得るのは、美紀の言うように大池議員は恋人としての川野議員を招き入れたことになるだろ」
自分にも言い聞かせる様にゆっくりと語った。
「そうよ、そしてリビングで襲われて絞殺されたのでしょ」
朝比奈が不可思議に思うことが分からなかった。
「もし、川野議員のことを信じていて、愛していたとするとテーブルに残されていた薔薇の花束の理由が理解できないんだよ」
立ち上がると2人分の水を持って戻った。
「あの時事務所で優作が話してくれた、12月12日がダズンローズデーで、男性から恋人の女性に12本の薔薇を贈ることよね。でも、部屋に招き入れてもらう為に、川野議員が用意したのでしょ」
コップを受け取りテーブルに置いた。
「ダズンローズデーには続きがあって、12本の薔薇を贈られた女性はその男性を愛している証拠に、もらった花束の中から一番綺麗だと思う薔薇を男性の胸元に飾り、1つのプレゼントを愛する人と共有するんだ。しかし、部屋のテーブルには12本の薔薇が残されていたんだ。あの夜すれ違った男性は背広姿だった、それは監視カメラでも確認されているから、大池議員は川野議員には薔薇の花を返さなかった。つまり、大池議員は川野議員のことを愛してはいなかったことになる。すると、矛盾が生じてしまうんだ」
朝比奈は勢いよくうどんを吸い上げた。
「そんなの簡単なことよ。私は勿論麗子先生だってダズンローズデーのことは知らなかったのだから、大池議員だって只の薔薇の花束のプレゼントだと思ったんじゃないのかな。もし、12月12日に優作が私に12本の薔薇をくれたとしても、薔薇を一輪返すことはなかったと思うよ」
朝比奈の変なこんなこだわりにはついていけなかった。
「本当に知らなかったのだろうか?」
一応美紀の言葉を聞き入れようとはしていた。
「あのさ、今なら12月12日でなくても12本の薔薇を贈ってくれたら、スーツや背広を着てなくても、優作にはその中の1本を速攻で返すけどね」
嫌味を込めて言い放った。
「1本だけ返してもらってもね・・・・・・・それで、他に2人に関しての情報について分かったことはないのか」
薔薇についてはスルーして事件についての話に踏み込んだ。
「優作に言われて麗子先生は、できるだけの情報を集めようとされたけど、調べる途中で警察の発表があり、その発表に矛盾も違和感も感じなくて、途中で収集を止められてしまったのよ」
呆れ顔で答えた。
「そうか・・・・じゃ仕方ないな」
そう呟くように言うと、ポケットからスマホを取り出した。
『あっ、先日はお世話になりました。先日亡くなった2人の議員についてお聞きしたいのですが・・・・・・・分かりました、よろしくお願いします』
足立編集長に連絡を取って通話を終えた。
「美紀、この後時間はあるか」
スマホをポケットに収めると微笑みながら尋ねた。
「ええっ、特に予定は無いけど・・・・・・・」
その微笑みに嫌な予感が頭を過ぎった。
「それは良かった。悪いけど、俺に代わってここでの仕事2時間程お願いできないかな。マスターには話しておくから」
朝比奈はそう言うと、慌ててうどんを口へと詰め込んで呆気に取られている美紀を部屋に残して店を出ると、大学館の名古屋支社へと向かうことにした。大学館は朝比奈のバイト先である『ゼア・イズ』と同じ区内に在り、歩いても20分程度で行ける距離ではあったが、一刻でも早く到着したいとの思いでマスター所有の自転車を借りることにした。
「先輩、急な話で申し訳ありません」
10分程でオフィス街に建つ大学館の自社ビルへ着くと、駐輪場に自転車を止めて早速受付に声を掛けて編集部へと進むと、足立の姿を見付けて声を掛けた。
「えっ、もう着いたのか早かったな」
足立は小会議室へ案内した。
「アルバイト中だったので、彼女の美紀に代わってもらって飛んで来ましたよ。兎に角急いで確認したいことがあったものですから」
朝比奈は、足立と2人席に着くと美紀との会話について簡潔に話した。
「ああっ、その事件については、切っ掛けが講演があったホテルでの殺人事件だったから、社内でも各編集長クラスが集まって話し合ったけれど、お前が話してくれた様に大池議員を川野議員が殺害して、自宅で服毒自殺を行ったとして警察では被疑者死亡で処理したんだよな。社内での報告では、2人は高校時代から親しく付き合っていたのだけれど、父親同士が犬猿の仲になった為に事実上は別れることになったのだけど、どうやら関係は続いていた様で、川野議員の父親が亡くなったことで、障害が無くなり結婚をすることになったのだと考えられる。だけど、その関係がこじれて、つまり大池議員の不貞が原因で殺害に至ったのではないかと、事実確認を調べているみたいだな」
用意してあった資料を見ながら答えた。
「そこまでの話は姉からも聞いていました。しかし、そういう議員間の関係については、警察よりも先輩達雑誌記者の方が得意だと思いますがどうなんでしょう。実際2人が付き合っていたのは間違いないと思いますが、大池議員が川野議員以外の男性と付き合っていた事実は掴めていないのですか」
警察の見解を理解しながら一歩踏み込んで尋ねた。
「それなんだが、2人が付き合っていたことでさえ、亡くなったことで口止めされていた人間から漏れてきたもので、大池議員は父親の影響もあり選挙区ではトップ当選で、県会議員の中でも特に女性からの評判が良く、そんな不貞行為をすれば直ぐに票に影響するのは分かっているはずだし、念の為に関係者などに話を聞いてみたそうだけど、川野議員以外に男性の影は浮かんでは来なかった。だから、警察が考えている大池議員の不貞に川野議員が殺害に至ったという動機には納得していないよ」
ページを捲って答えた。
「やはりそうですか。僕も2人の恋愛に関しては間違いないと思います。勿論、大池議員の不貞行為も存在していないでしょう。すると他に殺害動機が存在することになりますね。それについて何か思い当たることは無いのですか」
姉と同じで警察からの発表に納得して、それ以上の取材をしていないのであろうと推測されたが、それでも期待を込めて尋ねた。
「まぁ、殺害動機に関して、俺なりに色々と考えてみたのだけれど、1つだけ気になったことがあるんだ」
「えっ、何ですか」
興味を示して身を乗り出した。
「直接関係はないかもしれないけれど、2人が亡くなったことで県会議員の議席数の勢力が変わってくるんだよ。今、愛知県会議員の議席数は102議席で、先々月行われた愛知県議員選挙では、愛知新鮮の会が50人、民自党愛知県議員団が28人、愛知主民党が15人、公信党愛知県議団5人、無所属4人の当選が決まった。その結果、愛知県内での与党は今も新鮮の会なのだが、現職議員の不祥事などで県民の反感を受けて、今回の選挙では68議席から大幅に減らし、過半数をも割る事になってしまった。その為、議会の運営は無所属や他の党の理解を得られなければ議案を通す事ができなくなってしまった。ところが現実として、県会議員は当選者の辞職、もしくは死亡した場合は、選挙後3ヶ月以内であれば繰り上げ当選となるんだ。それで、2人の選挙区を調べてみると、2人の選挙区とも次点の候補者は新鮮の会に所属していたんだ。つまり、繰り上げで与党である新鮮の会の議員が2人増えて52人、野党の民自党の議員が2人減って26人になり、過半数を確保し他の党の反発が出ても法案を通す事ができるんだ。まぁ、流石にその為に殺人を行うなんて、ちょっと飛躍過ぎた想像だとは思うけどな」
一応資料を朝比奈に渡した。
「県知事の村上洋文は新鮮の会の副代表なんですよね。8年前に初当選して、今年の選挙でも選ばれて2期目。良い面でも悪い面でもマスコミを騒がせている人物で、先輩にセッティングしてもらって何度か取材させてもらったことがありました。確かその時は、知多半島にゴミ廃棄物を埋め立てる人工島を作る計画について取材したんですよ。その時も、県議会は過半数を占めていて、与党である民自党や公信党の猛反対にもかかわらず、最後は与党新鮮の会が強行裁決に持ち込んで、当時の予算として約100億円での工事予算が計上され、受注した島根建設からは前年と比較して5倍以上の政治資金が新鮮の会に送られていたことが発覚して話題になったこともありました。まぁ、いつもの事ではありますが、建設業者の選定は正規の手続きによるもので、忖度は無かったとして逃げ切られましたけど、政治の闇は深いですね」
左の顳かみを叩きながら過去の情景を思い出していた。
「そうそう、その人工島である華洲なんだけど、2030年に開催予定の世界万国博覧会の開催国を選ぶBIE総会に、愛地球博から25年ぶりに愛知県が立候補する予定だと、新鮮の党は選挙公約にも打ち出して戦うことにした。まぁ、その万博の誘致に対しては、前回の愛知万博は予定の入場者数を上回って黒字になり、その後の経済効果もあって大成功だったので、期待を込めて新鮮の会を応援しようと思う県民も多数いたかもしれないが、その開催地の会場として新鮮の会は人工島の華洲を予定していた為に、廃棄物の人工島で地盤も軟弱であり、トンネルを掘り地下鉄を通すとは言っているが、現状は交通手段としては片側2車線の橋が1本だけ。そんな人工島で本当に万博が開催できるのかとの不安面を指摘する意見も多く、新鮮の会は議員数を大幅に減らしてまさかの過半数割れしまったけど、知事を筆頭に各議員も選挙公約に示したからには、県民に対して約束を守る為には、野党や無所属の議員の理解を得なければ遂行できない状態になっているんだ。ただ、与党の3党は万博誘致に対しては反対の立場であり、無所属の議員も県民の顔色を伺うことになった」
大学館では、ゴミ廃棄物処理の為の人工島華洲について特集記事を掲載する予定になっていて、足立もある程度の情報を得ていた。
「僕も当時色々と取材しましたので、人工島については知っているつもりですが、本当にあの洲に万博を誘致するつもりなのですか。確か、地盤の硬さを表すN値は5KNくらいしかなく、表現すればマヨネーズの上に地盤が乗っかっている状態です。一般の住宅では20KN、マンションなどの高層建築物に至っては50KNは必要とされますから、パビリオンを建てようとすれば杭を打つ必要があるでしょうが、人工島ですからそれも難しいと思いますよ。それに、ゴミや色々な廃棄物が地面の下に埋まっている訳ですから、メタンガスや一酸化炭素、それに硫化水素だって発生する可能性もあるでしょう。そんな危険な場所で世界に何を発信するつもりですかね。もう1つ気になるのは、先程先輩が言われたように洲へのアクセスが悪いと言うことです。どれ程の入場者を予定しているのか知りませんが、現行の片側2車線の道路だけでは自動車での会場入りは不可能だろうし、バスでのピストン運行をするとしても相当の台数のバスが必要になるし、各地で不足しているバスの運転手を開催期間だけ集めるのも困難だと思います。もう1つの交通手段が地下鉄とのことですが、当然海面下を掘り進めての対応になると思いますが、地震や台風などの自然災害で水没した場合、その海水を排出するにはポンプを使わなければならなくなるし、交通に加えて電気・ガス・下水関係のインフラの設備に莫大な費用が必要になりますよね。万博閉会後はそれらはどうなるのですか、元々ゴミ処理場ですから愛知万博の様に、公園や施設として利用する訳にはいかないでしょう」
頭に描きながら次々と疑問が湧いてきた。
「流石、朝比奈だな。ここだけの話なんだが、万博閉会後はは全て更地にするとなっていて、その跡地に外国資本のカジノ施設を誘致する計画が裏で動いている様なのだ。つまり、カジノ施設のインフラが必要で、万博の成功の有無は関係なくて、インフラが設備できれば赤字が出ても仕方ないと思っているんだ」
足立は朝比奈に顔を近づけて声のトーンを下げて告げた。
「そういう裏事情があったんだな。先輩の事件に対する推理、意外と的を得ているかもしれませんよ。知事と県会議員の新鮮の会は、万博の誘致による愛知を中心にする文化の発展や経済効果を選挙公約にした以上、万博の誘致は絶対に達成しなければならない必須項目な訳です。選挙では過半数は割らないだろうと言う、状況を把握できない希望的観測的な予想で、そんな公約を出した為にとんでもない状況が発生したのですよね。僕も個人的に調べてみたのですが、亡くなった2人の議員はゴミ処理場である人工島の華洲のことをよくご存知で、万博の誘致なんてとんでもないとまともな考えの持ち主で、自分の所属する民自党は勿論、他の野党や無所属の議員に声を掛け精力的に反対運動をされていたようですよ」
興味津々と足立の言葉を聞いて、言葉にはしなかったが『面白くなってきたじゃない』という表情が読み取れた。
「おいおい、お前のその口ぶりじゃ、2人が政治がらみで殺害されたみたいじゃないか。川野議員が大池議員を殺害して自殺したことには間違いないんだぞ」
朝比奈の昔から見慣れた表情ではあったが、その背筋が凍る思いに慌てて反発した。
「先輩、警察や検察が完全なものであれば、冤罪という言葉は存在ないし再審請求なんて起こされることは無いですよ。自分達の経験や前例だけに頼りっきりで、例外的な事例を認めようとしない姿勢が、悪を見逃すことになるんですよ」
今度は鋭い視線で足立の顔を見た。
「あの、確認しておきたいのだが、まさかお前は警察の発表に疑問を持っているんじゃないよな」
朝比奈の言葉に流石に驚いて尋ねた。
「ええっ、そのまま鵜呑みはしていませんよ。一番大きな点は、先程から話している殺害動機がはっきりしないということ。ホテルの殺害については、川野議員が付き合っていた大池議員に告白しようとしていたのにも関わらず、どうして衝動的ではなく計画的に絞殺しなければならなかったのか。もし、監視カメラなどで身元が分かり自殺したのならわからなくもないですが、ホテルではそんな素振りも見せず監視カメラも意識していたのに、直ぐにホテルではなく自宅で自殺を図った意味が理解できない。自宅では一応遺書は残していたものの、手書きではなくパソコンに書き込まれていたこと。まぁ、自殺現場を見たわけではありませんが、服毒であれば他人によって殺害することも十分可能です。それらが全て解決しなければ、警察の報告は受け入れられませんね」
少年の様な純粋な目を輝かせて答えた。
「おいおい、ちょっと待てよ。確かに動機については解明されてはいないが、警察の事件の報告については矛盾点などもないし納得出来る説明だと思うぞ。何かお前の指摘する点は重箱の隅をつつくようなもので、事件の根底を揺るがすことにはならない気がする」
足立はただ殺害の動機に関係しているのかと思い、2人の議員の立場や現状について話しただけで、警察の捜査については否定していなかったので朝比奈の言葉に驚いていた。
「まぁ、仮定の話ですが、まず川野議員が自殺を疑って見ることにします。つまり、自殺ではなく誰かに殺害されたとすると、大池議員の殺害を認めている川野議員の遺書は偽装となり、当然川野議員が大池議員殺害の犯人ではなくなるのですよ。つまり、川野議員が大池議員を殺害して自殺したというシナリオを書いた人物が、2人の議員を殺害することが今回の事件の目的だった。そう、先輩の想像した繰り上げ当選によって野党の議席を奪い、愛知に万博を誘致することが動機だったとすれば、しっくりするし納得もできるんですよね」
真剣な表情で言い放った。
「馬鹿も休み休み言えよ。そんなことで、2人もの人間を殺害する訳ないだろう」
朝比奈の表情とは反対に、呆れ顔で言い返した。
「切羽詰った政治家、金と権力を手に入れた人間は、何をするのか分かりませんよ。今話題になっている県知事も、おねだりや部下が遅刻したり20m歩かされたくらいで怒鳴った知事の事を告発した部長を、嘘八百を広めたと懲戒処分にして自殺に追い込んだ事件もありましたよ。自分が一番で他人の命は何とも思わない人間ばかりですよ。まぁ、僕は実際に自殺現場を見た訳ではありませんが、恐らく所轄の刑事は遺書もあり自殺と決め付けたから、細かいところまで調べていないでしょうが、例えば僕なら遺書を打ち込んであった、書斎のパソコンのキーボードに本人の指紋が残っているか調べてみますよ。本人の指紋が残っていれば納得はしますが、指紋が残されていなかったり消えている部分があれば、偽装の可能性は高くなりますよね。それから、亡くなる時に他の人間が居たとすればその形跡が何処かに残っているかもしれません」
水を得た魚の様に生き生きとした表情で自信を持って答えた。
「もし、朝比奈の推理が当たっているとすると、犯人は大池議員を絞殺した後に慌てて川野議員の自宅に向かい、毒殺してパソコンに遺書を残したことになるよな。そうすると、その時間に必ず川野議員が自宅に居なければならない。川野議員が既にホテルに向かっていたとしたら、朝比奈の推理は成立しないだろう。それに、川野議員でなければ大池議員は部屋には入れなかったんじゃないのか」
少し考えて事件を頭の中でもう一度整理して尋ねた。
「今のところ、物的証拠はありませんから僕の想像なのですが、今回の事件は殺害された順番を変えることで、他の人間でも可能となるのですよ。犯人は、川野議員の自宅を訪れて、隙を見て川野議員の飲み物に毒物を混入させて毒殺した。そして、その場の自分の痕跡を消して、書斎にあったパソコンに遺書を残して急いでホテルへ向かい、恐らく川野議員が用意していた薔薇の花を使って誤魔化して部屋に入り、大池議員を絞殺したとすれば辻褄は合いますよ」
その時の様子を頭に描きながら答えた。
「朝比奈の発想は面白いが、大池議員の方が先に死亡しているとの報告があり、時系列で考えればその推理は無理じゃないのか」
警察の捜査について異論を唱えたい朝比奈の気持ちは分からなくはないが、流石に事件に対しては専門家には対抗できないと思っていた。
「死亡推定時刻によると、川野議員の方が大池議員よりも2時間程後になっていましたが、所轄は現場の状況より自殺と判断していましたから、詳しく室内を捜査してはいないと思います。例えば、室内のクーラーの温度を極端に下げておけば、死亡推定時刻を遅らせることは可能ですよ。まぁ、殺人事件であれば司法解剖などで詳しく調べられたでしょうが、初めから自殺と決め付けていたのですからね。僕なら、川野議員の自宅を調べて、まずはエアコンの設定温度の確認をしますけど」
足立の気持ちを察して丁寧に説明した。
「そっ、そのことは、警察に教えたのか」
意外な返答に驚いていた。
「えっ、既に警察は結論を出したのですよ。ですから、警察の判断が間違っていたというど素人の意見を受け入れるはずはないでしょう」
「でも、確か友達が愛知県警の刑事だし、お姉さんは有名な弁護士なんだろ。話してもいいんじゃないのか」
2人の顔を思い出しながら尋ねた。
「ああっ、大神と麗子姉に話して2人の議員について調べて教えてはくれたけど、警察の判断に異論はないと思ったのでしょうね、事件は刑事に任せておけとか、探偵の真似事はやめときなさいと、それ以上のことは調べてもらえなかったので、先輩を頼ってきたという訳ですよ」
残念そうに肩を落とした。
「俺に何をさせるつもりなんだ」
嫌な予感で体が震えた。
「もし僕の話を信じて、今回の事件に疑問を持っていただけたのなら、もう少し2人の議員の取材をしていただき、できれば特集記事として掲載していただければ、警察も動かざるを得なくなると思います」
「ちょっと待てよ。警察に喧嘩を売れってことなのか」
勘弁してくれよとばかりに顔を左右に振った。
「いいえ、問題を提起するだけで、例えば『2人の議員を良く知っている人物Aさんが、川野議員が大池議員を殺害する訳がない。事件があった日、川野議員の自宅を訪れた人を見たという証言もあり、警察が自殺と判断したのは本当に正しかったのだろうか』なんて記事でどうでしょう。内容としては、先程僕が話した疑惑を載せて頂ければ、読者も疑惑を持ってくれるのではないでしょうか」
警察の重い腰を上げさせるには、マスコミを利用するのが一番だと感じていた。
「とは言ってもなぁ・・・・・・・・」
二の足を踏む足立は言葉に詰まった。
「僕の推理では、大池議員の部屋に残された薔薇の花束は、川野議員が用意したものだと思います。今回の事件は複数犯の犯行ではなく、川野議員を殺害した犯人がその自宅にあった花束を持って、大池議員が待つホテルへ川野議員になりすまして訪れ犯行に及んだと思っています。犯人がホテルへ向かう途中で購入したのであれば仕方ないですが、僕が犯人ならばもし仮に警察の中に薔薇の花束に注意を払って、その出処を確認して身元が分かってしまうこともある。そんな危険性を払ってまで印象に残る薔薇の花束を購入するとは考えられません。まずは、川野議員の自宅近辺で生花を配達している花屋を調べていただき、配達員が確認できたら写真等で川野議員本人だったのか、そして何時に配達したのかを確認してもらえますか。そうすれば少なくとも、大池議員の部屋に残された薔薇の花束は、川野議員が用意したものであることは確定することになり、殺害する目的でホテルへ向かった川野議員が、わざわざ薔薇の花束を用意するという矛盾が生じます。先輩が川野議員の立場だったらそんなことしますか」
困惑している足立に追い討ちを掛けた。
「わっ、分かった。少し取材を掛けてみて、警察の発表に疑問点や判断間違いがある事実が出てきたら、スクープ記事として掲載することにするよ。それでいいんだな」
仕方なく言い返すと、朝比奈は嬉しそうに頷いた。
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