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16 クリスマスクルーズ
しおりを挟む「おはよう! 父さん母さん、弟よ!」
早朝7時、自宅へと戻った亜久里はダイニングに座り朝食をとる自分の家族に対し、それはそれは上機嫌に挨拶をした。
「「「……おはよう……?」……?」……?」
いつも何を考えているかわかりにくい長男の、どこか浮ついた様子に一同は困惑する。
「兄さん、今帰ってきたの? 朝帰り? まさか今までずっと恵那さんといたの?」
「まぁ! 本当なの? 亜久里!? でかしたわ!」
「……恵那さんとは誰だい?」
亜里真の言葉に、母親は何故か喜び、父親は知らぬ名前に首をかしげた。
「父さん、母さん、亜里真……俺は正式に恵那さんと結婚を前提に付き合う事になったよ、今度、父さんにも紹介する」
亜久里は胸を張り、家族に恵那との交際を報告した。
「本当に?! それ本当なの兄さん! 早とちりとかってオチじゃないよね?!」
「まぁ! まぁ! まぁ! 亜久里があんな素敵な方と……! あの可愛い双子ちゃんが私の孫になるのね! アデル先生は家族になるのね! なんて素晴らしいの! 結婚式は国内? 海外? 結納は? 仲人はぁ……古臭いからいらないわよねっ」
「……なぁ、何故母さんはこんなに興奮しているんだ? 私だけのけ者の気分だ、早く紹介してくれ、どんな方なんだ?」
これまでにないほどに、ピーチクパーチクと盛り上がりを見せた、柳家のクリスマスの朝だった。
○○●●
「……兄よ……教えてくれ……何をいつ、どうやって恵那さんと付き合う事になったんだ?」
亜里真は、クリスマスパーティーの時の二人の様子から、多少は亜久里と恵那の空気感が和らいできていたように感じはしたが、最初のデートの話を聞く限り、亜久里が恵那と付き合えるのは、まだまだ先の話……遠い道のりだとばかり考えていたのである。
それだけでなく、中学生のような自分の兄であれば、自分の方が先に恵那とより親しくなれるだろう、とすら考えていたのだ。
「……弟よ……対話だよ、対話……俺と恵那は話をしたんだ、沢山な」
亜久里は車の中での会話、イルミネーションの並木道での会話、江藤の店での会話を思い出しながら、亜里真に話した。
「恵那、だぁ? もう呼びすてなの、それに対話ぁ? ……寝たの?」
「亜里真、お前はそれしか興味がないのか……もちろんだとも、柳のホテルのスイートをイブの当日に無理矢理開けてもらったよ……俺とした事がなんとも無計画で支配人に迷惑をかけてしまった……が、最高の夜と朝だった……」
顔には出してはいないが、亜久里からはピンク色の幸せオーラが漂っているのを感じ、亜里真は一歩出遅れたと感じた。
とはいえ、恋愛に無頓着だった兄の初恋が実り、恋人が出来た事は喜ばしい事だった。
「兄さん……(童貞)ご卒業、おめでとうございます」
「あぁ、ありがとう弟よ……初めてではあったが、完璧だったはずだ」
「はぁ、いいなぁ兄さん……俺は結局昨日は一人で家にいたよ……佐久間家のクリスマスパーティーに参加してなかったら、めちゃめちゃ寂しいイブだった……(グスン)」
「ん? 詩織とは会わなかったのか?」
「……急患とか何とかって、またドタキャンだよ」
「……そうかクリスマスイブとはいえ、医療現場は大変なんだな……」
亜久里は、寂しそうな亜里真の様子に、少し浮かれすぎていた自分を反省した。
「っと、言う事でさ、兄さん、今日は俺とお出かけしようぜ!」
「何っ? ずいぶん久しぶりだが、急にどうしたんだ」
「いいだろ? パァっと金を使いたい気分なんだよ!」
「……仕方ないな、わかったよ」
こうして、双子の兄弟はクリスマスの街に繰り出すのだった。
○○●●
一方その頃、佐久間家では……。
「ママ、パパ、論、鈴、話しがあるの」
「「なぁにぃエナさん!」」
「「……」」
朝食の支度を終え、家族全員が席につくと恵那が話しを始めた。
何の話だかわかっていない双子に対し、母親アデルは何となく察しており、インフルエンザから回復した父将臣も、嫌な予感(悪寒ではない)を感じつつ、恵那の話しを黙って聞く。
「えぇ、この度、柳 亜久里さんと、結婚を前提にお付き合いを始める事になりました!」
勢いに任せ、簡潔に伝える。
「「……ぇえ?! アグリさんとエナさん、結婚するの?! お城でドレス着て、チュウするの!?」」
双子は結婚という単語に大興奮。
「恵那……おめでとう、良かったわ、貴女が一歩を踏み出してくれて……亜久里くんに感謝だわ」
「恵那さん……お付き合いはとてもいいことですが、結婚はそんなに焦らなくてもいいんじゃないですか?」
「うん、パパの言う通り、これからゆっくり亜久里さんとの時間を大切にして、彼の事を知っていくつもり……論、鈴……これからは、アリマお兄ちゃんじゃなくて、アグリさんがおウチに来たり、一緒にお出かけする事が多くなるけど、今までどおり、仲良くしてね……でも、嫌な事は嫌だと言う事、私やアグリさんに遠慮はしないでね、約束っ」
「「はぁ~っい! 約束! 指切りげんまん~! (キャハハッ)」」
ちゃんと理解しているのかいないのか、双子は嬉しそうに元気いっぱいに手をあげた。
佐久間家に、一足早く、春の風が吹き込んだようだった。
○○●●
朝食を終えた佐久間家の一行は、毎年恒例のクリスマスクルーズに出かけるのだった。
いつもより少しお洒落をして、父将臣の運転する7人乗りの大きめの輸入車に乗り、港へと向かう。
クルーズ船の乗り場には、父将臣の両親が待っている。
恵那の祖父母であり、双子の曾祖父母だ。
「父さん、母さん、久しぶりですね、身体は大丈夫ですか?」
「えぇ、バッチリよ」
父将臣が母親を抱き寄せ、曾祖父は両手で双子を抱き締め、頭を撫でる。
「お祖父ちゃんお祖母ちゃん久しぶり、元気そうで良かった」
「あらあら恵那、また一段と綺麗になって……自慢の孫に、早く素敵な相手を見つけてあげたいわ……やっぱり、論と鈴にも父親がいたほうがいいもの……」
始まった……
恵那の曾祖父母は孫である恵那を心配するがあまり、顔を見るたび見合いをさせようとしてくるのだ。
「お義母様、実は恵那にはお付き合いを始めた素敵な相手がいるのっ」
「あらっアデルさん、それは本当なの? ……大丈夫? きちんとした方?」
「ええ、きちんとした家のとても紳士的な方よ……双子の事も可愛がってくれているし、何よりもとても美男子だから、きっとお義母様も気に入るわ(ニッコリ)」
「そう、アデルさんがそう言うなら、会える日を楽しみにしているわ」
恵那は心の中で母に感謝し、一行はクルーズ船へと乗船した。
○○●●
「なぁ亜里真……こんな所に連れてきて、一体何するつもりだ?」
「何って……クリスマスクルーズだよ兄さん!」
「何が楽しくて兄弟でクリスマスクルーズに……?」
「いいだろっ! 詩織の為に予約してたのに、またドタキャンされたんだよ! ナイトプールもあるし、今日は酒に女に……カジノで豪遊しようぜ!」
「……酒とカジノは百歩譲るとして、女は頂けないぞ」
「はいはい! 安心して! 自分だけスッキリした顔の兄さんには、女なんて寄ってこないよ!」
恋人に何度も約束をすっぽかされて、亜里真が自棄になるのも仕方ない、と思い、亜久里は渋々付き合う事にするのだった。
「兄さん、久しぶりに二人で泳ぎに行く?」
部屋につくなり、じっとしていられない質の亜里真が亜久里をプールに誘う。
「そうだな、今の時間なら空いてるだろうし、行くか」
昔は良く、同じ水泳教室で兄弟で競い合っていた……将来は水泳選手か、などと言われるほどに、柳兄弟はなかなかの腕前なのである。
支度を整えクルーズ船のプールへと行くと、予想通り人はそんなに多くはなかった。
幸い、ファミリープールの方に数組の家族連れが来ているのみだったため、亜久里と亜里真は準備運動を行った後、競泳用プールにコースロープを張り、水泳キャップにゴーグルを装着、飛び込み台にスタンバイし、本気で競い合うことにしたのだった。
久々に本気で泳ぎ、一本目の勝負は指先の差で亜久里が勝利すると、負けず嫌いの亜里真はもう一本! と再び亜久里に勝負を挑んだ。
亜久里は、仕方ない、次は負けてやるかと勝負を受けることにする。
「その勝負、受けてやろう……でも少し休んでからな」
「ああ! 次は負けないからっ!」
プールサイドで水分をとり、リラックスしながら隣のファミリープールの親子連れに目をやる。
「ねぇ兄さん見て、あの母親……めっちゃスタイルいいな、超エロイ身体してる~モデルかなんかかな?」
子供と遊ぶビキニ姿の若い女性を見て、亜里真がことを口にするも。
「お前は、本当に最低な奴だな言い方に気をつけろ、仮にも企業のトップに立とうとする人間の言葉じゃないぞ……だが、本当だな、実に美しいプロポーションだ……まるで恵那さんのように白く美しい肌だ……あの引き締まった丸いヒップラインもまるで恵那さん本人のようだ……」
趣旨は違えど、亜里真の事を言えない亜久里なのだった。
「兄さぁ~ん、今は恵那さんのこと忘れろよ、俺と遊びに来てんだからさぁ~」
「ああ、すまない……」
そんな会話をしていると、二人の視線に気づいたのか、ファミリープールにいる母親が、亜久里達の方を振り返った。
「っ!」
「……? ん? あれ? ……兄さん、あれ恵那さんに似て……あっおい!! どこ行くんだよ!」
亜久里の視力は両目ともに1.5だ、見間違えるはずはなかった。
亜里真を置き去りにし、亜久里はファミリープールへと急いだ。
「っ恵那!」
「……っえぇ?! 亜久里さん?! どうしてここに?!」
「「あれぇ~アグリさんだぁ! あ! 見て、アリマお兄ちゃんもこっちに来るぅ!」」
こうして彼らは再会するのだった。
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