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第二章

21 もう1人の兄 R18

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 ほどなくして、リュシアンのいう通り、アルベール王子とジュリエットがエスティリアを訪れた。
 ……私の愛しのブルーノ兄様を伴って。
 
 
 
 その日、私とアルドはエスティリア王宮の転移門の前で、アルベール王子とジュリエットを出迎え、そのまま城の一室でつかの間の時間を過ごすことに。
 
 
 リュシアンが言っていた、ジュリエットの報告というのも、やはり第一子を妊娠したというもので、無事に生まれるように私にお腹を撫でてもらいたかったのだという。
 
 いや……私の手はそんなにいいものじゃないのですけどね……。
 
 なんとなく私だけじゃ弱い気がしたので、“エスティリアの君主”である我が夫にも撫でさせた。
 
 普通はこれを目的に訪問したっていいだろうに、君主の撫で撫でがおまけだなんて、さすがはヒーローとヒロインの子、贅沢な赤ん坊だよまったく。
 
 
 
 
 さらには、どうやらジュリエットは妊娠がわかってすぐに私のところへ来たようで、まだまだ油断禁物の月齢だとのこと……どんだけ私の事が好きなんだ……。

 
 っという事で、私はせっかくなので得意の異世界うんちくを披露し、妊娠超初期の注意事項などを伝授してあげることに。
 
 私の注意事項は、意外とこの世界では知られていない内容だったようで、アルベール王子は半信半疑、ジュリエットは興味津々に聞いていた。
 
 原作者がこの世界の妊娠出産をとんでもなくオリジナリティ溢れるものに設定していなければ、役に立つと思う。


 それにしても、ジュリエットの嬉しそうな顔を見ていると、私は自分が本来悪役として生まれたキャラであるにも関わらず、ヒロインと仲良くし、それどころか、親友ポジションにまで上り詰めているこの状況について、物語的にいいのだろうか、とたまに不安になる事がある。

 アルベール王子とジュリエットは本当に、ヒーローとヒロインとして数々の困難に立ち向かい、東西南北4ヵ国の難問を解決し、あちこちで愛されるキャラになるのだろうか?


 この2人……今、めちゃめちゃ平和じゃないですか? 数々の困難にも……立ち向かっていませんよね?

 まぁ、原作で、ヒーローとヒロインに数々の困難を与えていたのは何を隠そう、エイミーだからねぇ……。

 見て話しを聞く限り、エイミーの代わりになるような悪役も登場していないみたいだし、2人は各国の難問も解決しに行く様子もない……。


 ……はて……大丈夫かしら? 

 エイミーに憑依したばかりの時は、死刑回避が最優先で、正直ストーリーなんてどうでも良かったけど、ここに来て、護衛5レンジャー達との出会いもあり、彼等の祖国である西と北の王国の問題を解決するのは誰? と、いう考えが芽生えてきている。

 神獣の件もあるし……。

 まぁ、私が心配したところでどうにもならないんだけどさ。





 
 その後、アルベール王子とジュリエットはそのままエスティリアの王宮でカトリーヌ嬢と王女様との時間を希望している、とのことで、私達は別れたのであった。
 
 ジュリエットは早速、カトリーヌ嬢と妊婦トークや、赤ちゃんトークがしたいのだろう、ローザ様に見つからないといいが。
 
 
 
 
 
 
 そしてその後、私に会いに来てくれたのは……。
 
 
 
 
「ブルーノ兄様っ! ……(ギュゥゥゥッ!!)」

 
 既婚の妻にとって、夫以外のイケメンと堂々と触れ合う機会があるとすれば、それはまさに家族とだけだろう……。

 なんだ家族かよ、そう思ったあなた……。

 私の……いや、エイミーの家族は、皆、顔面偏差値高めの超絶イケメンばかりなのっ!
 
 ああ、私ったら幸せ者……。
 
 
 私は、ここぞとばかりにアルドとは種類の違うイケメンを補充する。
 
 
 
 あ、でも異性としてはアルドが一番ですからね、それは誤解しないでくださいね。
 
 
 
「エイミー、元気そうじゃないか」
 
「ええ、元気よ、お兄様はどうしてタキシードに着替えてるの? (超カッコいいんだけど、どうしたらいい? 鼻血出そう)」
 
 
「ああ、これから街の教会で、この国の騎士仲間の結婚式があるんだよ、王太子殿下のはからいで一緒に転移門を通らせていただいたんだ」
 
 なるほどっ! お兄様は、二人の護衛として来たわけじゃなかったのか! でもさすがに転移の時は騎士服で来たって事ね。
 
 転移門の使用には、すごぉくお金がかかるのだが、王族と一緒であれば無料になるのだ。

 兄様も一応はファリナッチ公爵家の長男なので、家にはお金はたっぷりあるが、まだ爵位を継いでいないので自由に出来るお金は自分の給料くらいなのかもしれない。

 
 アルベール王子、優しいじゃないか。
 
 
「お兄様、タキシード姿、とても素敵ですぅ~! エイミーをもっとぎゅってしてくださいっ!」
 





 
 でへへへっ、ブルーノ兄さまは、顎鬚の素敵なワイルドイケメン。

 アルノーに次ぐ、私の推し兄弟なのだが、とても忙しい人なので、シュドティリアにいた頃はなかなか会えなかったのである。
 こうして久しぶりに見ると、やっぱりかっこいい。
 
 もしかすると、ユノンの時の実年齢に近い年齢なので、余計好きなのかもしれない。
 
 
 私の超絶ぶりっ子姿を目にしたアルドと護衛5レンジャーは、各々が信じられないモノでも見るかのような表情をしている。
 
 とはいえ、別にどう思われようが気にしない、イケメンは正義なのだから!
 まして、兄弟だし、どうなるアレでもないから別におかしい事ではないでしょ?

 私はブルーノ兄様の腕にしがみつき、これでもかと言わんばかりに甘える。
 

「お兄様、エイミーも一緒にその結婚式を見に行ってもいいですか? せっかくお兄様に会えたのに、もうお別れだなんて寂しすぎます……(シュン)」
 

「こらこらエイミー、まだそんな事言ってるのか? お前、そんなに俺の事好きだったか? 困った奴だな……もう結婚したんだから、ブラコンは卒業しろよ」
 

 
 卒業?! 無理無理無理っ! 絶対に嫌!
 
「嫌です! ブルーノ兄様ってば、どうしてそんなひどいことおっしゃるんですか……エイミー悲しいです(ぐすん)」
 
 
『『ブフッ!』』
 
 
 直後、小さく吹き出し笑う声が聞こえてきた。

 確かに、私もさすがにちょっとぶりっ子が過ぎるかとも思ったが!


(おい、誰だ、今吹き出して笑ったやつっ! 前に出ろっ、レイとビルだな? 後で覚えてろよ)
  
 
「(小声)……それにエイミー……なんでか知らないが、お前の旦那がものすごい怖い顔で俺を睨んでいるんだが、気のせいか? 気のせいだよな? ……なんだよあのおっかねぇ魔力はっ! エイミー、早く俺から離れろっほらっ! 離れろってっ!」
 

 
 ブルーノ兄様は、アルドの威圧感に鳥肌を立てて警戒していた。
 さすがわ騎士、危機察知能力が高めである。
 
(……っチ)
 
 確かに、アルドをチラ見すれば、またもやイライラして魔力をお漏らししていた。

 アルドめ、兄様にまでやきもちを妬くとは……どんだけエイミーに関して心が狭いんだ……ま、それだけ愛されてるって事ですけれど……疲れませんかね……。

 
 と、私は呑気に考えていた。
 
 
「それはいいとして……兄様、結婚式で新婦側のおかしな令嬢に引っかからないでくださいね……エイミー、何するかわかりません……(その女に……)」
 
 ッハ!

 おっと……危ない危ない、一瞬、悪役エイミーが垣間見えたぞ……こういう事か……推しに対して、とんでもない執着を見せるんだねエイミー、君は……。
 

 
 
 こうして、つかの間の推し活、ブルーノ兄様との逢瀬はあっという間に終了してしまうのであった。
 
 
(あ~、かっこよかった、満足満足っ)
 
 
 
 
 ○○●●
 
 
 
(アルド視点)
 
 
 
 1カメ『お兄様、タキシード姿、とても素敵ですぅ~! エイミーをもっとぎゅってしてくださいっ!』
 
 2カメ『お兄様、エイミーも一緒にその結婚式を見に行ってもいいですか? せっかくお兄様に会えたのに、もうお別れだなんて寂しすぎます……(シュン)』
 
 3カメ『嫌です! ブルーノ兄様ってば、どうしてそんなひどいことおっしゃるんですか……エイミー悲しいです(ぐすん)』
 
 
 私の……私のエイミーが……まるで別人のようだ……。
 
 一体誰だアレは……?
 
 
 いや、私の妻、エイミーだ。
 
 
 
 なぜだ? 相手は血のつながった兄だろう? 
 
 それなのに何故、あんなにも、恋する乙女のような顔をして、まるで媚びるような態度をとっているのだ?
 
 
 
 
 
 
 
 ……いや、違うな……ユノン・・・にとっては、血つながりなどないただの男だ。
 
 
 
 
 私はそれに気付いた瞬間、湧き出る怒りに魔力を抑える事が出来なかった。
 
 
「レ、レジェンド?! どうされたのですかっお相手はエイミー様のお兄様でございますよ?!」
 
 私の背後に控えているビルとレイが私の漏れ出る魔力に驚き焦りだしている。
 
 彼等は、私が妻の兄に対してまでも嫉妬し魔力を漏らす小さい男だと思っているに違いない……いいさ、別に小さい男だと思われたっていい。
 
 
 
 気に入らないものは気に入らない。
 
 
 
 
 
 エイミー……私がユノンの感情に気付かないとでも思ったのか? 夫の前で、堂々と浮気・・だなんて……どうやら君には少しお仕置きが必要なようだ……。
 
 
 
 
 
 私はエイミーが心から寂しげに兄を見送った直後、少し強引に彼女の手を引いた。
 
 
「っえ!? アルド何っ!? うそっ怒ってるの?! レイ、どうなってるの?!」
 
「エイミー様っ! レジェンドは本気も本気でご立腹です! 今夜は頑張ってくださいね! あ、明日はローザ様の会ですので、ほどほどにぃ~」
 
 
 エイミーは側にいたレイに、私の行動の理由を尋ねるが、レイは冗談交じりに、おどけた様子で答えている。
 
 だがそうか、明日は義姉上の所へ行く日か、つまり共に城へ行く日……だが、そんなことは今関係ない、エイミーにはたっぷりお仕置きして、しっかりと反省してもらう必要があるのだから。
 
 
 
 
 私はそのままエイミーを寝室へ引っ張りこむと、少し乱暴に彼女をベッドに突き飛ばした。
 
「っきゃ!」
 
 こんな状況でも可愛らしい声をあげるエイミーに、私の心はさらに乱される。
 
 
「アルド? ねぇ、どうしたの? ブルーノ兄様のこと? べたべたしてたから? ねぇ、どうしてそんなに怒ってるの? なんか言ってよ……怖いよ……」
 
 エイミーが私に怯えている……あのエイミーが……。
 
 
((ゴクリ)……興奮する……)
 
 
 私は自身のシャツを脱ぎ捨て、エイミーのドレスの胸元を無理やり引き下ろし、少し乱暴にフックを外す……そのまま引きちぎる勢いで彼女のドレスを脱がせた。
 
「ねぇ、アルド、お願い、なんか言って!」
 
「……」
 
 怯える彼女の表情が、さらに私の興奮を誘う。
 
 
「……エイミー、確かにブルーノ義兄上はエイミーと血のつながった兄だ……兄に嫉妬するなんてどうかしている、そう思っているのだろう?」
 
「……っそ、そうだよ……」
 
 
 私はエイミーの両手を彼女の頭上で拘束し、一糸まとわぬ姿の彼女の身体にゆっくりと舌を這わせる。
 
 
「エイミー、私をなめるな、と言ったはずだな? ……私が気付かないとでも思ったのか? エイミーにとっては兄でも、ユノンにとってはただの男だろ? なぁ? 違うか?」
 
「っ……あ……」
 
 
 エイミーは、バレた、と言った表情を見せた後、自分の置かれた状況に、さらなる恐怖を感じたのか、いっそう私に怯え始める。
 
「君は、あんな顎鬚が好みなのか? ん? 少し悪い感じの男が好みなのか? ……君は私の顔が好きなのではなかったのか?」
 
 私は言葉でエイミーを追い詰めながら、彼女の感じる部分をわざと攻める。
 
「っあぁっ! ……んやぁっ! ……ぁ、ぁ、ぁあっ」
 
 
 拘束に使用していた片手が煩わしくなり、魔法で拘束することにし、私はエイミーの身体をとことん快楽に落とすことにした。
 
 エイミーがあまりにも私を見て怯えた表情をするので、そんな彼女の表情に、私は何故か興奮してしまう……。
 
 彼女を傷付けるつもりはない……しかし、何をするかわからなくなる程に自分の中に芽生える高揚感が、恐ろしい。
 
 
 私はエイミーに目隠しをし、少しでも恐怖を和らげることにした。
 
 
 しかし、目隠しをされたエイミーは、それ以降、私の愛撫に対する反応がよりいっそう激しくなり、まるで狂ったようによがり始めたのである。
 
 
「エイミー? 私にこんなにも酷いことをされているというのに、どうしてこんなに濡らしているんだ? ……シーツまで湿っているではないか……もしかして、君は……喜んでいるのか?」
 
 
「ひゃ……んっ……あ……」
 
 
 こうした言葉にも、エイミーは嬉しそうな反応見せ、中をキュッと締め、さらにトロトロにする。
 
 その時エイミーは、私の指を一本だけ下で咥えている状況だったのだが、彼女は明らかにいつもと違った。
 
 
 もしかしてエイミーは、辱められることを好むのだろうか……? だとしたら、これはお仕置きではなく、ご褒美なのでは?
 
 
 そう考えた私は、エイミーの濡れた秘部に舌を這わせ、突起部分をひと舐めする……そして躊躇することなく1本だった指を3本に増やし、彼女の感じる場所をトンッと一度だけ触れる。
 
 
「ぁあっ! んっぁっ……」
 
 
 だがそれだけで止めにして、私は指も舌も、それ以上彼女の求めるような動きをしてやらなかった。
 
 
 私の指を食い千切らんばかりにヒクヒクと中をうねらせるエイミーは……追加の刺激を待っていたようだが、何もせず指先すらも動かさない私に、彼女は痺れをきらしたのか、自分で腰を揺らし始める。
 
 
「っ……アルド、どうして触れてくれないの……? お願い……触って……どうにかなっちゃう……」
 
 目隠しをして両手の自由のきかない彼女がくねくねと身体を疼かせ懇願する姿は、なんと淫靡なことか……。
 
 
「はぁ……エイミー、私は今、君にお仕置きしているんだが……喜ばれたら元もこうもないのだが……」
 
 
「お仕置き……だから触ってくれないの? ……ならすごく反省してるから、お願い……アルド……触って? ……」
 
 
 反省してるから触れ、とは……さすがエイミーだ、お仕置きをお仕置きだと思っていない。
 
 
「っ! まったく! ……君って奴はっ本当反省してるのか?」
 
 
 私は指を引き抜き、トロトロの彼女の中に昂った自身をひと思いに挿し入れた。
 
 
「っぁあっ! ……んん……っ凄い……アルド……おっきぃ……」
 
 喜びに震える彼女の小さな身体を私はぎゅっと抱きしめ、彼女の手の拘束魔法を解除し、手首にチュッと口付けた……。
 
 
 そして……ズンッと奥へと己を突き進める。
 
 
 同時に彼女の小さな蕾を親指で刺激すれば、中がキュッと締まり、彼女がいっそう感じている事が伺えた。
 
 
「エイミー、これがいいのか?」
 
 
「んぁっ! 駄目っ中と外一緒にしたっ……らっんんっ! ぁぁっ! イッちゃう……んんっぁっ! ……(ビクンビクンッ)」
 
 
 
 私にしがみつき、エイミーは深く果てたようだった。
 
 彼女が果て、中で私のモノを締め上げている所に、私も自身の腰を動かすスピードをあげる。
 
 
「ああ……エイミーっ……っ!」
 
 彼女の中は本当に気持ちがいい、まるで生き物のように私を捉えて離そうとしない。
 
 
「っ! ……」
 
 
 私は一度果てた後、エイミーの身体をうつ伏せにして腰を持ち上げ、未だ収まる事のない己を後ろから一気に突き入れた。
 
 直後、悲鳴にも似た嬌声をあげるエイミーだったが、次第に私の動きに合わせ甘い喘ぎをもらす。
 
 
 
 後ろから見るエイミーの身体は、そのしなやかな腰つきと丸くカタチのいいヒップラインがなんとも美しく、これが私の物である事に喜びが湧いてくる。
 
 
 
 
「……エイミー? いいかい? 君の心も身体も血の1滴、吐く息ですら全て私の物だ……兄と言えど私の物を勝手に与えては駄目だぞ? (チュッ)」
 
 
 私はエイミーの耳元でそう囁き、抽挿を激しくする。
 
 
「ぁんっぁっぁっ……あ……っんん……! アルドっいいっ、気持ちぃいっ……やんっ……ぁあっ!」
 
「……聞いてないか……まぁいい、一緒にイこうエイミー……っ……っ!」
 
 
 
 
 
 こうして、私のお仕置きはエイミーにとってはちょっとした強制プレイ程度のものと終わってしまったのだった。
 
 
 (……次こそは……っ)
 
 
 
 
 
 
 
 (アルド視点end)
 
 
 
 
 
 
 ○○●●
 
 
 
 
 アルドに私の魂胆……家族内でお手軽にイケメンを補充しようとしていた事がバレていたとは驚いた。
 
 血のつながった兄弟だからいいだろう、と油断し、イケメンイケメンと……いや、兄様兄様と騒ぎすぎたかもしれない……。
 
 
 
 確かに、アルドの言う通り、エイミーの兄弟はユノンにとってはただの男である。
 
 
 (そら面白くないわな……ごめんなさいアルド……)
 
 今回ばかりは私も反省し、次からは目にも耳にも余るぶりっ子はやめる事にしたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 そして翌日の今日……私は重い腰と身体にムチを打って、再びローザ様に会いに行く。
 
 
 そして、またもや私達は馬車で城へ向かっていた……何故いちいち馬車なのだろうか、転移だって許可されているのに。
 
 
 
「アルド、昨日あんなにしたんだから、今日はパンツ履き替えずに登城させてくれるよね? (ニコリ)」
 
「……エイミー、それはフリ・・か? 参ったな……私も今日は大人しくしているつもりだったのだが……エイミーに頼まれてしまったら、叶えるしかないな……」
 
 
「っえ?! いやっ、あのっアルドさん?!」
 
 
 
 
 
 ……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「エイミー様とレジェンドは盛りのついた獣達よりも我慢がきかないのではないでしょうか? あんなに(馬車を)揺らしていたら、外から見ていてわかる人にはわかっちゃいますからね(ニヤニヤ)」
 
 
 またもやレイにからかわれる。
 
「うるさいっ! また痴漢野郎がでたのよ! 通勤馬車は危険がいっぱい……」
 
 本当、どこの世界も朝の通勤って危険なのね……。
 
 
 
 
 さて、気を取り直して……今日は、ローザ様とキュンキュンするような恋バナをしてみようと思っている。
 
 リュシアンに一芝居断られてしまったので、代替案を考えなければならなかったのだが、アルドに邪魔されて考えられなかったのである。
 
 なので、仕方あるまい……出来るかはわからないがレイとロンと4人で女子会を開催するのだ。
 
 
 
 しかし、私達を出迎えたローザ様はどうやら前回と雰囲気が違い、とても口数少なく、どこかぼーっとしたり物思いにふけているような素振りをみせていた。
 
 まるで、恋する乙女のように……。
 
 
 どうやらチームグラデーション(髪の毛の色)の私達3人は、ローザ様の様子に、同じ事を感じたようで、視線を合わせ頷き合う。
 
 
「ローザ様、今日はどうされたのですか? 頬を染め、ため息ばかり……なんだか恋に悩む乙女のように淑やかでいらっしゃる」
 
 レイが優しい声で問いかける。
 
 
「あら……ごめんなさい……(二コリ)……はぁ……」
 
 
 ローザ様は、レイの問いかけにも心此処にあらず、気の抜けた返事しかしない。
 
 
 むむっ……そう簡単には口を割らないか……ましてや恋煩いのような状態であればなおの事、自分の世界に入っているのだろう、そこに入れてもらうのは至難の業。
 
 こうなれば、こちらとて奥の手である。
 
 
 
「(小声)……よし、ロン! 貴方の出番よっ! ほんのちょっと、愉快な気分にして差し上げて!」
 
「(小声)……イエス、サー……」
 
 
 ロンの魔法の発動は一見してまったくわからない、ただ、今回は周囲に甘い香りが漂っている気がするな……。
 
 
 
「(小声)……おいっロンっ! バっカお前、ローザ様だけだよ! それじゃエイミー様までっ!」
 
「(小声)……あ、間違えた……」
 
「(小声)……え?! 何っ!? 何を間違えた?!」
 
 
 突然焦りだしたレイの様子からするに、どうやらロンは私にまで愉快な気分を味あわせてくれたようである……。
 
 ロンが間違えるなんて珍しい事もあるんだな……。
 
 
 そんなことを考えてると……ありゃりゃ……なんだか愉快な気分に……なってきたかもしれない……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ローザ様、ズバリお聞きしますが、もしやどなたかに恋をされているのでは?」
 
 愉快な気分になっている私は、怖いものなしで単刀直入にズケズケと聞いてしまう。
 
 
「え?! エイミーさん、どうしてわかっちゃったの?! ヤダっ……」
 
 
 先ほどよりは少し口が軽くなった様子のローザ様は、頬を染め、酔っているような感じに愉快なご様子……もとい、それは私も同じ状態である。
 
 愉快な気分の私と、ローザ様の反応を面白がっているレイは、さらに詳しく聞き出すべく、言葉巧みにローザ様に詰め寄る。
 
 
「さぁローザ様っ、ここには私達だけ……他には誰も聞いてはおりません……秘密は守られます……一体、どの殿方なのですか? ローザ様のような高貴な御方のハートを撃ち抜いたシンデレラボーイは?」
 
 
 悪魔のささやきか胡散臭い占い師のようなレイの言葉に、吹き出しそうになるが、グッとこらえる……レイの笑顔が悪い笑顔になっている。
 
 
「違うの、違うのよっ撃ち抜いただなんてそんなっ……ただ……昨日、初恋の相手にそっくりな方にお会いして……思い出してしまっただけなの……」
 
 
「「初恋の相手?! ……ですか?」」
 
 
 
 
 なななっ! ヤバいぞ、確かにローザ様には恋愛脳を取り戻して貰おうとは考えていたが、初恋の相手(に似た人物)と再会だって?!
 
 一体いつの間に?!
 
 
 恋愛脳が初期化されてしまうじゃないかっ……まずい、まずいぞ……王太子殿下、初恋の相手(に似た人物)が出てきちゃってますっ警戒してください! めちゃめちゃ手強い相手ですっ!
 
 
 
 それにしても、ローザ様の初恋の相手(に似た人物)って一体……。
 
 
 まさか相手もローザ様を? だとしたら、現時点で顔を見るだけで頭に来られている王太子殿下に勝ち目なし……。
 
 
 
「ローザ様、ローザ様の初恋のお相手とはさぞかし素敵な方なのでしょうね……よろしければ、私の初恋も聞いてくださいますか?」
 
「ええ、もちろんっ! エイミーさんの初恋だなんて、とても興味があるわっ」
 
 
 私はローザ様の信用をさらに得るため、まずは自分がさらけ出すことにする……エイミーの、だが。
 
 
 私は自分の脳内にある、アルベール王子への初恋をローザ様に語り、そして、初恋とは実らないものであり、急に冷めてしまう恐ろしい魔法のようなものである、と説くことにした。
 
 

 
 
「……こうして、私の初恋は、高熱に苦しみ目覚めると同時に跡形も無く消え去っておりました……とさ……」
 
「まぁそうだったの……でもそうよね……初恋とは儚いものよね……それで? エイミーさんのお相手はどんな方なの??」
 
 
 ……どんな方? まぁ、結局のところ、それが一番気になるよね。
 
 
 私は、へもへものへじ程度にしか記憶にないアルベール王子の顔と容姿について、愉快な気分の頭で必死に思い出そうとした。
 
 
「そうですね、金髪で…… (金髪だったよね? リュシアンと兄弟だもんね)」
 
「そうなのねっ私の初恋の方と一緒だわっ」
 
 
「グリーンの瞳で……(グリーンだったよね? リュシアンと兄弟だもんね)」
 
「まぁ、それも一緒!」
 
 
「シュッとしていて勉強が出来て……(たしか、そんな感じだった気が……)」
 
「そうなの! 背が高くて足が長くて身体も鍛えていらっしゃったわ……(ぽぽぽ)」
 
 
「学園のリーダー的存在で……(そう! 生徒会長やってた気がする!)」
 
「そうなのよっ! 彼ったら、生徒会長をしていて、誰にでも紳士的で優しくて、笑顔がとっても素敵で……男性なのにとてもいい香りがするのよっ! 男性からも女性からも憧れの存在だったわ……(ぽぽぽ)」
 
 
 
 ……え?
 
 
「ローザ様の初恋の御方と私の初恋の人は共通点が多いですね」
 
「……そうみたい(ニコニコ)」
 
「ちなみに、ローザ様って学園はどちらで?」
 
 




 なんとローザ様、母親がシュドティリアの出身で、私と同じ学園に通っていたのだという事が判明する。
 
「私ね、魔法が苦手で……エスティリアの学園ではついていけないと不安だったの……だから、シュドティリアのお母様の母校に3年間だけ留学していたのよ」
 
「ローザ様って、おいくつでしたっけ?」
 
「25になるわ」
 
 
 おっふ……なかなか上だったのね。
 
 ……当時のシュドティリアの学園の生徒会長……それはつまり……。
 

 
 
 
 
 誰?!
 
 
 
 そんなモブ過ぎるキャラ、原作にだって登場してないわ!
 
 でも、アルベール王子と容姿が似ているという事は、王族かそれに近い人物である可能性はある……。
 
 
 
 アルベール王子に兄はいないし……。
 
 
 と、ここで私はひらめいた……。
 
 (同世代のブルーノ兄様なら知ってるんじゃない?!)
 

 しかし、昨日の今日でブルーノ兄様の話しをだすのはアルドの手前、気が引ける……。


 
 それよりも、ならば昨日ローザ様が会ったという初恋の人に似た人というのは、ジュリエットと一緒にエスティリア王宮に来ていたアルベール王子では? とひらめく。
 
 何やってんだよあいつ、うろうろしてんじゃねーよ、余計な事しやがって……。
 
 でも、アルベール王子なら、つい最近も私の結婚式でこの国にも来ていると思うのだが……あれか、あの時はローザ様も色々あって不機嫌な時期だったから、周りが見えていなかったのかもしれない。

 それに、人間は前髪一つで別人に見えると言うしね。

 
 
 
 
 
 こうして……ちょっと想定外ではったが、ローザ様は今、恋愛脳に切り替わっている事が判明した。
 
 ここで王太子殿下がローザ様をキュンキュンさせられれば、惚れ直してもらえるのでは?
 
 
 

 
 よし、ローザ様にはこのまま恋愛脳を維持できるように、これからも定期的に恋バナをしに来ることにしよう……ついでに、こってこての純愛物の演劇でも一緒に見に行くのもいいだろう。
 
 
 
 
 そして……これから私がやるべきもう一つの大仕事、それは……アルドの兄、この国の王太子殿下と会うこと、である。
 













「……エイミーはどうかしたのか?」
 
 
 
 
 その日の帰りの馬車でのこと……やたらに愉快そうな私の様子を変に思ったのか、アルドがレイとロンに確認を取り始めた。
 
 
「なに? 私がどうかしたの?」
 
 
 
「レジェンド……僕が……」
 
「っ! なんでもないのアルド、何? 私なんか変?」
 
 
 ロンが自分のミスを雇用主に報告しようとしていたので、私はそれを隠蔽すべく阻止する。
 
 何故って? 意外とアルドは厳しいので、ロンの評価が下がってしまうかもしれないし、私に関することであれば余計に怒りだしかねない。
 
 
「(小声)……ロン、今日のはロンは悪くないよ、大丈夫、アルドには言わなくていいから」
 
「(小声)……でも……僕が間違えたから……エイミー様の顔、愉快……」
 
 ん? 私の顔が愉快だって?
 
 
「(小声)……とにかく、アルドは心配性だからさ、黙っておきましょう、ね」
 
「(小声)……まったく……エイミー様はすぐにロンを甘やかすんですからぁ……」
 
 
 
 目の前で繰り広げられるコソコソ話に、さすがのアルドも気分がよくなかったのか、ゴホン、と咳払いをした後、私に言った。
 
 
「エイミーは明らかに変だ!」
 
「どこが変なのよ!」
 
 
 私的には、すでにロンの魔法は解け、いたって普通なつもりである、頭もしっかりしている……それなのに、一体何が変だというのか。
 
 
 
 
「……顔だ!」
 
 
 
 ……は?
 
 
「アルド? 喧嘩売ってるの? 表出る? (ボキボキッ)」
 

 私は昭和のチンピラの喧嘩のごとく、指の関節をボキボキと鳴らす。
 
 
「あ、いやっだって変だろう! ずっと口角が上がっているではないか! 正直言って不気味だ! 目は笑っていないのに!」
 
 
「……」
 
 
 それだけ聞くと、確かに不気味だな……。
 
 私はチラッと馬車の窓に映る自分を確認する。
 
 




「……っひぃ!!」
 
 
 本当だった……超不気味。
 
 
 結局、アルドにすべて正直に話し、屋敷について他の護衛3人に爆笑される前に、ロンに直してもらうことにしたのだった。

 
 やっぱり、ロンの魔法は凄い……感情と表情と、脳を細部に分けて細かなところまでいじっているのだという事を、私は身をもって体験した一件となる……。
 
 
 
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