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45 悪役令嬢現る

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『まぁ! 見てくださいませお父様……なんと貧相なお身体なのかしら……皇帝陛下もご自身の見た目を気にされるがあまり、このような女性をお選びにならざるをえなかったなんて、お可哀想に……』
 
『……っ?!』
 
 
 




 
 
 
 私の存在が公表されてから、生活は一変した。
 
 宮廷内で見慣れない顔を見かけることが増えたことは言うまでもなく、これまでは私に見向きもしなかった年配のおじさんや野心に満ち溢れたようなギラギラした人が、やたらと話しかけてくるようになった。
 
 期待していた、“お前などふさわしくないわ! ”とか“皇帝を身体で篭絡したあばずれ”などという叱咤もなく、皆なぜか好意的なのだ。
 
 みんな、どれだけ病気になってシュウ家に見殺しにされるのが怖いのだろうか……シュウ家はそんな人達じゃないのに。
 
 とはいえ、いちいちその相手をするのも面倒なので、ほとぼりが冷めるまでは、あまり部屋から出ない事にした。
 
 部屋から出ずとも、ハオランは来るので退屈はしないし、覚えることも沢山あるのでいいや。……と思っていられたのもたったの一週間だった。
 


「リンちゅあん、退屈ぜよ。」
 
「そうですね、ずっとお部屋に籠りっきりですからね。シュウ家ご実家にでも行かれますか? 丁度、落ち着いたら会いに来てと、文が届いておりましたよ。」
 
「うーん……そうだね、お義母さんに聞きたい事もあったからそうしようかな。」
 
 
 私は一週間ぶりのお出かけに、少しおめかしをしてもらい、リンちゃんと一緒に部屋を出た。
 
 そして……その途中に……その女性は現れたのだ。
 
 
 特大のわがままボディをひっさげ、うちわで顔を半分隠すその女性は、父親らしき人と歩いており、私を見つけるや否やわざとらしく近づいてきて、言い放ったのだ。
 
 
「まぁ! 見てくださいませお父様……なんと貧相なお身体なのかしら……皇帝陛下もご自身の見た目を気にされるがあまり、このような女性をお選びにならざるをえなかったなんて、お可哀想に……」
 
「……っ?!」
 
 突然の事に、私は歩みを止めた。
 するとリンちゃんがこそっと教えてくれる。
 
「(小声)……レイラン様、以前後宮にいらっしゃった、第二番妃だった御方です。」
 
 ……ほほぉ! つまり、陛下に追い出された人ね! 私にそんなことを言うという事は、今更、皇后の座が惜しくなったのだろうか?
 
 それにしても……。
 
 待ってました! こういうの! やっぱり、宮廷ものはこうでなくっちゃね!
 
「あのような者がこの国の皇后とは、些か心配だのぉ、あのような貧相な身体で、皇子を産めるのだろうか。魅音(ミオン)の方がよほど美しく皇后にふさわしい。」
 
 おぉ! お父上もなかなかおっしゃいますな!
 
 


「ごきげんよう、何かおっしゃいましたか?」
 
 私は陛下の真似をして、外ではどんな時もニコニコしていることにしていた。ちなみ、私もうちわで顔を半分隠している。
 
「ええ、言いましたわ。貴女がシュウ家の姫でらっしゃるのかしら?」
 
 さっきはシュウ家のシの字も出てなかっただろうよ。嘘つきめ。
 
「ええ。」
 
「……っそ、それだけかしら?」
 
 え? それだけって何?! もっと、言葉のバトルがしたいという事?
 
「ええ。」
 
「っ……私は以前、皇帝陛下の第二番妃でしたの。後宮内でとてもいい部屋を与えられておりましたわ。」
 
 ジュンシーが与えたんでしょ、その父ちゃんの立ち位置に応じて。
 私の笑顔の塩対応にもめげず、まだ話を続けようとするわがままボディちゃんことミオンに、私は少し楽しくなってきた。
 
「さようで。」
 
「……っ! 貴女、皇帝陛下が怖くはありませんの? そこまでして、何が目的なのかしら? 皇后という立場は、貴女のような貧相な方には不相応だとは思わなくって?」
 
 よしよし、いいよいいよ、もっと頂戴! 悪役令嬢ミオン! 私が泣いちゃうくらいの酷い言葉ください!
 でも、ご要望のとおり、私も言い返すね!
 
「目的? 私は陛下をお慕いしているだけです。むしろ、皇后という立場を望んだわけではありません。欲しいなら、貴女に差し上げますよ。」
 
 と、私がニッコリして言い返すと、ミオンとその父親は目を丸くしていた。
 
「あ、ですが、困りましたね……陛下は私を愛してくださっていますから、寵愛をうけるのも、皇子の母親になるのも、きっと私だけになりますね。つまり、貴女に皇后の座を差し上げた所で、ただのお飾りですが……それでもよろしいでしょうか?」
 
 と、再びニッコリと悪役令嬢さながらに嫌味たっぷりに言い添えれば……。
 

「し、信じられませんわ……この私に向かってなんという無礼な事を……ああ、でもそうだわ。シュウ家のご夫妻も同じようなものでしたわね、お父様?」

 いや、貴女こそ何様なんでしょうか、この私って、一体、どの私? 追い出された元第二番妃のくせに。
 
「ああ、蛙の子は蛙とはよく言ったものだ。男の趣味まで似るとはな、よくできている。」
 
「……。」
 
 私の事はいくら言ってもいいけど、シュウ家の義両親の事を言われるのは少し頭に来ますね。
 それに、さっきから陛下の見た目の事色々言ってるけど、不敬だぞ。
 話してるとイライラするから、離脱しよう。

 
「私、急いでおりますのでこれで失礼いたします。……お二人とも、病気や怪我にはくれぐれもお気をつけくださいね。」
 
 と、ニッコリ笑顔で、ちょっとシュウ家の関係者目線で言ってみる。
 シュウ家の人間がこんなことを言えば、脅しととられてしまうかもしれないが、この二人にはいい薬だろう。
 
「っな、それは脅しかっ! 私が病気だとでも?!」

「っ! お父様突然どうされましたのっ?!」
 
 どうやら、私の言葉に過剰に反応する所を見るに、父親の方は病気に心当たりがあるようだ。
 まぁ、どっからどう見ても、100キロオーバーのメタボボディだもんね。
 

 この世界の人は皆太り過ぎ。皆んな皆んな、生活習慣病まっしぐらだ。
 いつか陛下に言おう……本当に国を豊かにしたいなら、健康で文化的な最低限の生活を送りながら、皆が長生きできるようになるといいんじゃないかな。って。


 しかしその後、ミオンとその父親は今日の会話を噂にして広め、結果、“お飾りの皇后”でもいい、という女性が現れてしまった。

 それはなんと、私の生徒にもなってくれた元第一番妃のリンファさんだったのである。


 リンファさんの父親はお金と権力を合わせ持ち、さらには相当な野心家でもあるとのことで、ジュンシーは面倒な事になった、と頭を悩ませていた。

 もちろん、余計な事を言った私は、ジュンシーにものすごく叱られ、解決するまでは謹慎だと言い渡されてしまう。



 そしてそれは、私とリンファさんのどちらがこの国の皇后に相応しいかを決めたらいい、と言う話にまで進展してしまうのだった。

 もちろん最終的に決めるのは陛下ではあるが、つまり一種の余興みたいな感じだろう。


 しかし、余興とはいえ、注目を集めている事には変わりないわけで……私は何故かリンファさんと皇后の座を巡り争う事になってしまうのだった。


 ぁあ…とんでもなく面倒くさい…。


 
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