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34 陛下、ご武運を
しおりを挟む(sideフェイロンとウンラン)
皇帝陛下もいる会議中にレイランが現れ、二人を会わせる事になるという突然の事態に、フェイロンは二人から目が離せなかった。
好いた男がこの国の皇帝陛下だという事実を知ってしまったレイランが、ショックを受けてしまうかもしれない、そうなれば自分が支えてやろう、とすら考えていた。
そしてそれはウンランも同じだ。
しかし……。
二人はいたって普通の様子で、それどころか何やら距離も近くコソコソと耳元で会話をしている。
それどころか皇帝陛下は爆笑し、その後も声をあげて笑っているではないか。
集金女の登場に、全く興味がなさそうにしていた他の高官達も、二人の意味深なやりとりに興味を持ち、ヒソヒソと話しをし始めている。
「おい……陛下は何故あんなにも近い距離で集金の女と話しをされているんだ? あの女が刺客であったら危険ではないか?」
「……本当だな、だが、いつもより楽しそうだぞ。」
「……いや、それにしても近すぎないか? お知り合いだったのだろうか?」
「……本当だな、どう見ても男女がイチャイチャしているようにしか見えんな。」
フェイロンもウンランも同じ事を感じた。
あれはもはや、好き合う二人にしか見えない。
しまいには……。
レイランは最後、とろけるような甘い笑顔を皇帝陛下に向けて見せていた。
レイランのあんな笑顔は一度も見たことがない、と、フェイロンとウンランは男としての敗北を感じつつも、やはり美しいレイランに、胸を鷲掴みにされていた。
そして決定打となったのが……。
『はいヘイカ。お気遣いありがとうございます。』
確かに、レイランはそう口にして帰って行った。
つまり……。
会議終了後……。
「ウンラン、レイランは陛下だとわかっていたのか? 二人は何を話していたんだ?」
二人のすぐ側で金を数えていたウンランなら、二人の会話が聞こえていたのではないかと思っていたフェイロンだが……。
「わからない……聞こえなかった。金を数えていたからな。だがあの様子だと、知っていた上であのような笑顔を……。それに、お前も聞いただろ、最後、レイランが“陛下”と口にしていた。」
「……聞いた。」
二人は盛大に勘違いしていたが、それも仕方あるまい。
レイランは馴染みのない世界で、馴染みのない様々な名前を耳にしていた事により、“陛下”を“ヘイカ”であると勘違いしてしまっていた。
ましてや、レイランの常識の中では、ただの軍部の会議にお国の頂点である皇族がいるわけがない、という思い込みもあった事だろう。
しかしそんな事は、爆笑していた皇帝陛下本人以外は、知る由もなかった。
(sideフェイロンとウンラン)fin..
○○●●
(sideジュンシー)
「へ、陛下……す、全ての……じゅ、準備が整いましてございます。ふ、風呂も間に合わせました!」
「本当かジュンシー! 頼んだ三日まで、あと五時間も残っているぞ、やはりジュンシーは頼りになる男だ。感謝しているよ。」
ニコニコ笑顔の陛下の笑顔が、今日はいっそうご機嫌そうに見える。
「陛下、今日は何か良い事でもございましたか? 私の不在の会議で何か……。」
私は陛下との約束(命令)の三日に間に合わせるために、自らもあちらこちらへと動きまわっていたため、今日の軍部の会議を欠席していた。
ウンラン殿からは特段の話もなかったようだが……。
「ジュンシーは目ざといな。そうなんだ。今日は楽しい事があった。」
「ほう、珍しいですな、また誰かが女子の話しでも出しましたかな?」
フェイロン殿とウンラン殿の時も、今ほどではないにしろ楽しんでいらっしゃっていたので、またそうかと思ったのだが……。
「狩りに行こうと思っていた猫が、自分から私の元にやってきたんだ。」
……ん? ああ、あの皇后陛下のペットにするために狙っておられた、猫のことか? ……。
「それはそれは手間が省けましたな。はて……猫はどこに?」
「帰した。」
……は? せっかく捕まえた猫をまた逃がしたのか?
「きっともう大丈夫だ。あの子はもう、私から逃げないだろう……でも早く迎えに行ってあげないと、いじけて悪さをするかもしれない。……知らぬオス猫にちょっかいをかけられても嫌だからね。」
陛下は変わらずニコニコと笑顔でそうおっしゃっていたのだが……なんだか悪寒がしたのは何故か。
「は、ははは! なんだか、すでに陛下の方が猫にご執心のように聞こえますな! ははは!」
私が半分冗談、半分本音でそう言えば、陛下はほんの少しさみしげな笑みを浮かべ、粒やいた。
「……そうだよジュンシー。今ではもう、猫がいないと駄目なのは私の方だ。夜もまともに眠れぬ。」
……っ陛下は……そんなにも皇帝というお立場がお辛く……いいや、もしや孤独を感じられていたのだろうか。
アニマルセラピーが必要になるほどに……?
そんな状態になるまで、陛下の不眠にすら気付く事が出来ないとは、私は……私は……側近失格だ。
「陛下! 私はっ私はっ陛下の側近として、心より猫殿を歓迎致しますぞ! すぐにでも迎えに行ってあげて下さいませ!」
猫よ、すぐにでも陛下の御心を癒し救ってやってくれ!
「そうか! 歓迎してくれるのかジュンシーよ! お前がそう言ってくれると心強い。わかった、私はこれから迎えに行ってくる。」
「はい、寝床を整えお待ち申し上げております。」
猫よ……逃げたりしたらただじゃ置かないぞ。
……だが、念の為、代わりの猫を用意しておいた方がいいだろうか?
「そうだジュンシー、猫の世話係として、以前頼んでおいた者を明日までに連れてきておいてくれ! では行ってくる。」
「承知いたしました。お気をつけて!」
……陛下、ご武運を。
(sideジュンシー)fin..
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