上 下
34 / 51

34 陛下、ご武運を

しおりを挟む

 
(sideフェイロンとウンラン)
 
 
 皇帝陛下もいる会議中にレイランが現れ、二人を会わせる事になるという突然の事態に、フェイロンは二人から目が離せなかった。

 好いた男がこの国の皇帝陛下だという事実を知ってしまったレイランが、ショックを受けてしまうかもしれない、そうなれば自分が支えてやろう、とすら考えていた。
 
 そしてそれはウンランも同じだ。
 
 
 しかし……。
 
 
 二人はいたって普通の様子で、それどころか何やら距離も近くコソコソと耳元で会話をしている。
 
 それどころか皇帝陛下は爆笑し、その後も声をあげて笑っているではないか。
 
 集金女の登場に、全く興味がなさそうにしていた他の高官達も、二人の意味深なやりとりに興味を持ち、ヒソヒソと話しをし始めている。


「おい……陛下は何故あんなにも近い距離で集金の女と話しをされているんだ? あの女が刺客であったら危険ではないか?」
「……本当だな、だが、いつもより楽しそうだぞ。」

「……いや、それにしても近すぎないか? お知り合いだったのだろうか?」
「……本当だな、どう見ても男女がイチャイチャしているようにしか見えんな。」


 フェイロンもウンランも同じ事を感じた。
 あれはもはや、好き合う二人にしか見えない。


 しまいには……。
 
 レイランは最後、とろけるような甘い笑顔を皇帝陛下に向けて見せていた。

 レイランのあんな笑顔は一度も見たことがない、と、フェイロンとウンランは男としての敗北を感じつつも、やはり美しいレイランに、胸を鷲掴みにされていた。

 
 
 そして決定打となったのが……。
 

『はいヘイカ・・・。お気遣いありがとうございます。』

 確かに、レイランはそう口にして帰って行った。

 つまり……。








 会議終了後……。


「ウンラン、レイランは陛下だとわかっていたのか? 二人は何を話していたんだ?」

 二人のすぐ側で金を数えていたウンランなら、二人の会話が聞こえていたのではないかと思っていたフェイロンだが……。

「わからない……聞こえなかった。金を数えていたからな。だがあの様子だと、知っていた上であのような笑顔を……。それに、お前も聞いただろ、最後、レイランが“陛下”と口にしていた。」

「……聞いた。」




 二人は盛大に勘違いしていたが、それも仕方あるまい。

 レイランは馴染みのない世界で、馴染みのない様々な名前を耳にしていた事により、“陛下”を“ヘイカ”であると勘違いしてしまっていた。

 ましてや、レイランの常識の中では、ただの軍部の会議にお国の頂点である皇族がいるわけがない、という思い込みもあった事だろう。


 しかしそんな事は、爆笑していた皇帝陛下本人以外は、知る由もなかった。



(sideフェイロンとウンラン)fin..



 ○○●●


(sideジュンシー)


「へ、陛下……す、全ての……じゅ、準備が整いましてございます。ふ、風呂も間に合わせました!」

「本当かジュンシー! 頼んだ三日まで、あと五時間も残っているぞ、やはりジュンシーは頼りになる男だ。感謝しているよ。」

 ニコニコ笑顔の陛下の笑顔が、今日はいっそうご機嫌そうに見える。

「陛下、今日は何か良い事でもございましたか? 私の不在の会議で何か……。」

 私は陛下との約束(命令)の三日に間に合わせるために、自らもあちらこちらへと動きまわっていたため、今日の軍部の会議を欠席していた。

 ウンラン殿からは特段の話もなかったようだが……。


「ジュンシーは目ざといな。そうなんだ。今日は楽しい事があった。」

「ほう、珍しいですな、また誰かが女子おなごの話しでも出しましたかな?」

 フェイロン殿とウンラン殿の時も、今ほどではないにしろ楽しんでいらっしゃっていたので、またそうかと思ったのだが……。


「狩りに行こうと思っていた猫が、自分から私の元にやってきたんだ。」

 ……ん? ああ、あの皇后陛下のペットにするために狙っておられた、猫のことか? ……。

「それはそれは手間が省けましたな。はて……猫はどこに?」

「帰した。」

 ……は? せっかく捕まえた猫をまた逃がしたのか?

「きっともう大丈夫だ。あの子はもう、私から逃げないだろう……でも早く迎えに行ってあげないと、いじけて悪さをするかもしれない。……知らぬオス猫にちょっかいをかけられても嫌だからね。」

 陛下は変わらずニコニコと笑顔でそうおっしゃっていたのだが……なんだか悪寒がしたのは何故か。

「は、ははは! なんだか、すでに陛下の方が猫にご執心のように聞こえますな! ははは!」

 私が半分冗談、半分本音でそう言えば、陛下はほんの少しさみしげな笑みを浮かべ、粒やいた。

「……そうだよジュンシー。今ではもう、猫がいないと駄目なのは私の方だ。夜もまともに眠れぬ。」



 ……っ陛下は……そんなにも皇帝というお立場がお辛く……いいや、もしや孤独を感じられていたのだろうか。
 アニマルセラピーが必要になるほどに……?
 そんな状態になるまで、陛下の不眠にすら気付く事が出来ないとは、私は……私は……側近失格だ。


「陛下! 私はっ私はっ陛下の側近として、心より猫殿を歓迎致しますぞ! すぐにでも迎えに行ってあげて下さいませ!」

 猫よ、すぐにでも陛下の御心を癒し救ってやってくれ!


「そうか! 歓迎してくれるのかジュンシーよ! お前がそう言ってくれると心強い。わかった、私はこれから迎えに行ってくる。」

「はい、寝床を整えお待ち申し上げております。」


 猫よ……逃げたりしたらただじゃ置かないぞ。

 ……だが、念の為、代わりの猫を用意しておいた方がいいだろうか?



「そうだジュンシー、猫の世話係として、以前頼んでおいた者を明日までに連れてきておいてくれ! では行ってくる。」

「承知いたしました。お気をつけて!」



 
 ……陛下、ご武運を。
 



 (sideジュンシー)fin..
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私、異世界で監禁されました!?

星宮歌
恋愛
ただただ、苦しかった。 暴力をふるわれ、いじめられる毎日。それでも過ぎていく日常。けれど、ある日、いじめっ子グループに突き飛ばされ、トラックに轢かれたことで全てが変わる。 『ここ、どこ?』 声にならない声、見たこともない豪奢な部屋。混乱する私にもたらされるのは、幸せか、不幸せか。 今、全ての歯車が動き出す。 片翼シリーズ第一弾の作品です。 続編は『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』ですので、そちらもどうぞ! 溺愛は結構後半です。 なろうでも公開してます。

生意気ユカちゃん♂わからせ調教

おさかな
BL
大学デビューした元陰キャの湯川晶は、女装写真を使ってマッチングアプリで女性のふりをして悪戯をしていた。そんなことを繰り返しているうち、騙していた男たちに身バレしてとあるヤリ部屋に強制連行されてしまう…… +++++ 凌○モノなのでひどい言葉や表現が多数あります。暴力はスパンキング程度。無理やり/おくすりプレイ/快楽堕ち/羞恥 などなど

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

先生、牛乳足りないので母乳ください!なーんて…【小説版】

及川雨音
BL
天然な先生が公開チクニーでトロ顔母乳噴射して生徒が理性ブチ切れる話。 複数ショタ攻め× 天然先生両性具有総受け 【注意事項】 *おっぱい・女性器・母乳・搾乳・授乳・無自覚チクニー

想いを音に

雨茶野リリィ
青春
monogataryにて投稿している作品です。 そちらもご覧下さると幸いです。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈 
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

転生乙女(30)は打ち切りを回避すべく奔走する

よるは ねる(準備中2月中に復活予定)
恋愛
――(推しが)淫行で逮捕されました。先生の次回作にご期待下さい。 大好きな漫画が、屈辱的なラストで打ち切りとなってしまい憤慨した七瀬みつ。立ち読みしながら悔しさで唇を噛みしめているところ、コンビニに車がご来店!そのまま帰らぬ人となってしまったみつだったが、気が付けば打ち切り漫画の世界に転生していた!みつは打ち切りを回避すべく、立ち上がった――…!

美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!

エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。 間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。

処理中です...