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33 ソウハはヘイカ

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「お前、見慣れない顔だな。何の用だ。」
 
 宮廷に入るための門に到着すると、門を出入りする人々をチェックしているらしい警備の男性に止められた。
 
 
「すみません、こちらの軍部の方にご購入頂いたお酒の代金を頂きに……っ」
 
「っ! お前、名は?! “レイラン”か? “レイラン”だな?!」
 
 話しの途中で、慌てた様子で後ろから別の男が現れ、人の両肩を掴み、揺すぶったかと思えば、失礼にも私の身体を上から下まで見て言った。
 
「お前だろ、“酒代の集金に来る、貧相な身体のレイランという女”は!」
 
「……は?」
 
 ムカつく。初対面で開口一番が“貧相”だとぉ?
 ……メタボボディのあんたには言われたくないんだけど。
 
「はい、私が貧相な身体のレイランですが、何か!」
 
 
 
 私の睨みをきかせた表情にも全く気がつく様子のないその男は、何故か私を待っていた、とばかりに宮廷の中へとすんなり案内してくれた。
 
「今日この時間は、軍部の皆様は会議室にいらっしゃらるはずだ。お前の事は、ウンラン殿から直々に、俺が! 直接! まっすぐにウンラン殿の元へ! 案内するように! とご指示を受けているから、案内してやる。」
 
「……。」
 
 なんだかわからないけど、確かなのは、この男、面倒くさい奴だ。
 
 ウンランに直々に頼まれたから、なんだというのか。ウンランはアイドルか何かなのか?
 
 ……ウケる。ツンデレラってば、職場ではアイドルなの?
 
 
 それにしても……やっぱりこうなるのか。
 門で、名乗ってもないのに、名前を呼ばれた時から嫌な予感はしていたけど……。
 ウンランはどうしても私に文句の一つも言いたいらしい。
 
「いやぁ、ウンラン殿がお前が貧相だと教えて下さっていたから、すぐにわかってよかった、お前を取りこぼしてしまっていたら、大目玉だったんだぞ俺は。お前が貧相でよかったよ。いや、本当に貧相でありがとな。」
 
 ……こいつ……貧相って三回言ったぞ。顔覚えたからな、今度会ったら覚悟しとけよな。もう二度と会う事もないだろうけど!

 それより、ソンリェンが見当たらないけど、どこ行った?
 門を通るあたりからいない気もする……まぁ、いいか、忍者だから帰る時に適当にどっかから現れるよね。
 無言だから、いてもいなくても一緒だし。



 
 そして私はウンランのいる部屋の前へと案内され、バカなその男は会議中にその扉を叩き、中からウンランを呼び出した。

 ……嘘だろおい、たかが、酒代の集金で会議中の人呼び出すか? ……ウンランの指示だろうか。なんだろう、ここまでくると、執念を感じるな。
 だからと言って、ウンランめ……私の、身体大好きなくせして貧相だなんて……確かに貧相だけど! 貧相だけどさ! せめて痩せてる、とかでよくないか?

 と、一人で憤りを感じていると、中からウンランが出てきた。
 
 ……う、やっぱりなんか顔怖い……ウンランまだ怒ってんの? それとも、やっぱり仕事中に呼び出されたから?
 つまり元凶はこのバカな男のせいか。
 
 
 しかし、支払いを巡り、何やら会議室の中でごちゃごちゃと始まってしまったようだ。
 
 ……ソンリェンと泊まりは嫌だから、日帰りで帰りたいんだけどなぁ……。誰でもいいから、一番早く支払いが終わる方法で、お頼み申す。


 最終的に、ウンランがでっかいため息をついて、私を会議室の中に案内した。

 え、中で支払い?!

 中に入ると、奥の方にフェイロンを見つけた。フェイロンの隣には空席があったので、きっとウンランの席だろう。
 そしてお誕生日席にいたのは……。


「っソ! ……ゴホン……」

 ……あ、そうだ、名前は二人の時だけよ、って言われてたんだった。なら、普段はなんて呼べばいいんだろ。


 お誕生日席にいたのは、ソウハだった。
 目を閉じれば一番にその笑顔が浮かぶ、私の……好きな人。

 やっぱりソウハも軍部の人だったから、あの日いたのか。


 ソウハは私を見て、いつものようにニコニコしている。


「陛下、お連れしました。」

 ……ヘイカ? ……そう、ヘイカって名前なのね。よし。ウンランが言うんだから間違いないよね。

 それにしても……仕事中でもニコニコしてんだなソウハ。
 可愛い……ああ、かっこよき……抱きつきたい。

「いくらかな?」

「あ……35万ピエンです。」

「わかったよ。数えてもらうから待ってね。……ウンラン、数えてくれ。」

「……かしこまりました。」


 ソウハはウンランに紙幣を渡した。

 ……ソウハは軍部のお金を管理してる人なのかな? 経理は忙しいそうだな……。

 ウンランが数えている間に、ソウハは私をじっと見て、チョイチョイッと小さく手招きするので、腰をおり、耳を近づける。

 そして耳元に彼のセクシーないい声が響いた。



「(小声)……私の猫は“待て”が出来ずに、会いに来てしまったのかな。」

「……っな! (小声)ち、違います! これは不可抗力です!」

 やだ! 本当に違うのに! 誤解してほしくない。
 待てない女じゃないから私! 私、待つわ!

「(小声)だが会えて嬉しいよレイラン。仕事中に会えるなんて思わなかったから、なんだか浮かれてしまうな。」

「……。」

 はぅぅっ! ソウハ、それ駄目、ギュッてしたい! ギュッて!
 こんな所でハートの矢を打ち込まないで!

「(小声)名前……ここでは私も“ヘイカ様”って呼べばいいですか?」

 と、私が尋ねると……。

「……ッブハ! ハハハ! ……」

 と、ソウハが突然吹き出して笑った。

 お金を数えている途中のウンランも、何事かと手を止めて見ていたので、きっとまた数え直しだろう。

「(小声)……そうだね、皆の前では“ヘイカ”の方でお願いしようかな。様はいらないよ、皆、様なんてつけないから、レイランも呼び捨て・・・・でいい。……ああ、本当に可愛いなレイラン、今すぐに抱きしめて口吻くちづけたいよ。」

 ブスッ。また一本ハートの矢が刺さる。

「(小声)……私も……そうしてほしい……です。」

 きゃっ! 私ってば何言ってんの!

 でも、耳元であんなセリフ囁かれたら、場所が違えば絶対に濡れちゃってた。正直、今もヤバい。

「(小声)レイラン、近いうちに会いに行けると思うから、準備して待っていてくれるかな。」


 ……準備? ……ってなんの? ……。

 っは! ああ! ……やだぁ、私ってば。

 する・・場所ね! 大丈夫、私の部屋は角部屋で隣も夜勤でいないから! ……それとも下着かな? ……帰りに新しいの買って帰るか?

 って……。私ってば何考えてんの! 馬鹿め!

 ……でも、一応……一応聞いておこうかな。


「(小声)あの……っスケスケがいいですか? それとも紐? あ、レースかな?」

 と、私がソウハに下着の好みを尋ねると、 ソウハは、また笑った。

「っははは!」

 本当に笑顔が素敵……。一生見ていられる。

「(小声)レイラン、君という猫は……なんて可愛いんだ。そうだな……何もいらないよ。」

 ……おっふ……ノーブラノーパンですか! それはそれはまた……。

「(小声)……わかりました。私ももう我慢できなそうなので、早く来てくださいね……。」

「(小声)わかった。我慢できなくなった猫が悪さをしないように、早めに行くようにしよう。」

 ……我慢できなくなった猫が悪さ……?
 他の男と寝るの心配をしてくれているのだろうか……。
 そんな事をいうなんて、もしやソウハも私と同じ気持ちでいてくれてるのかな。

 だとしたら、嬉しいな。

 私は思わず笑みが溢れた。



「っヘイカ! 数え終わりました、丁度35万、ございましたので、支払いをさせて頂きます。」

「うん。お嬢さん、待たせて悪かったね。気を付けて帰るんだよ。」

「はいヘイカ・・・。お気遣いありがとうございます。」



 私は一礼して、会議室を出た。


 
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