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15 思い立ったが吉日
しおりを挟む「じゃーん、ジョルジュみたいにしてみたよ。」
「すごいです、その付け毛ならば、絶対にレイラン様だとは誰にもわかりません!」
私は先日街へ出たときに購入したウィッグと新しい眼鏡をかけ、洋装に着替えた。念のため、リンちゃんにも付け毛と眼鏡を装着する。
「よし、行こうか。」
「はい。」
……と、意気込んだはいいものの……どっち? あっち? こっち? え?
「リンちゃん、つかぬ事を伺いますが、出口はどっちかな?」
「……。」
リンちゃんは、私を見つめて、“え、知らずにこんな変装までして出てきたんですか? ”っという表情を見せたあと、にっこり笑って、頼もしい言葉をくれた。
「私たちはあっちから来ましたので、来た道を戻るのはいかかでしょう!」
さすがは私の相棒。頼りになる。
リンちゃんに言われたとおり、来た道を戻っているつもりで忍者のごとく歩き続け、いくつかの簡易門をくぐり、開けた場所へと出ることが出来た。
しかし、また恐らくは後宮、もしくは隣接する敷地の中のように思える……なぜなら、地面の作りが同じだからだ。
「あ! 誰か来ました!」
リンちゃんが小さく叫んだので、私達は慌てて近くにあった池の側の大きな木の陰に隠れる。
数メートルほど先に、ふとっちょの男性が二人歩いていた。
私達は息を殺し、二人が通り過ぎるのを待つつもりだったのだが、大きな誤算が生じる。
なんと、腹を空かせた池の鯉たちが、私たちを見て口をあけて寄ってきてしまったのだ……おまけに、よほど空腹なのか、水が跳ねるほどに、大群で押し寄せている。
……ギャー! 気持ち悪いっ! 餌くらい与えておいてよね!
「おい、なんだ? 鯉が暴れてるぞ。」
「本当だ、お前見て来いよ。」
やはり、気付かれてしまった! まずいっ! ゲームオーバーか!?
「リンちゃん、走れる?」
「はい、走ります!」
「せーの、で行くよ……。」
と、心臓をバクバクさせながら、私はリンちゃんの手を握りしめ、木の陰からスターティングポーズをとる。
しかし……。
「おーい! ちょっとこっち手伝ってくれぇ!」
私達に、救世主が現れた。声だけの。
手伝いを求めて叫んでくれた人のおかげで、鯉の異変に気付いた二人は、そちらへ駆けていった。
「……っぷはぁ! あぁぁ~……もうだめかと思った……ね、リンちゃん……バレなくてよかったね。」
無意識に息を止めていた私は、一気に呼吸を再開する。
「……すごい脚の震えが止まりませんっ。ですがレイラン様、見つかったら私たちはどうなるのでしょう?」
「え? ただ連れ戻されるだけでしょ。大丈夫、きっと、罪に問われたりはないよ。もしそうなっても、リンちゃんの事は絶対に私が守るから、安心して。」
どうやって守ればいいかわからないけど、最悪、なんかすごい人っぽいお客さんにお願いしてみようか。ハオランの親とか、絶対すごい権力者っぽいし。
「……それにしても、ここの鯉達もかわいそうだね……こんな狭い池にこんなに沢山詰め込まれて……あげく、飢えてるなんて……。」
この池はまるで、後宮……そのものではないだろうか、と私は思った。たった一人の皇帝に対して、九人も妃が毎日何もせずにいがみ合ってるとか、まったく生産性ないよね。
「皇帝さんもさ、こんな不気味な池には入りたくないだろうよ……ねぇ、リンちゃ……っ?!」
「(んん!!)」
隣で一緒にしゃがんで池の鯉を見ていたリンちゃんの方を見ると、リンちゃんは男に口を押えられて、声を出せない状況にいた。
「そうだよね、私もそう思うよ。」
「っ?!」
「……ところで、お嬢さん方はどなたかな? どこから来たのかな?」
……お兄さんこそ、どなたかな? ここはどこかな?
にこにこと笑顔のお兄さんを前に、私達は、絶体絶命のピンチを迎えていた。
「えぇっと……こ、ここはどこでしょうか? 私達は先ほどキョンシー……っじゃなくて、ジュンシー様に連れられて後宮に来たばかりなのですが、道に迷ってしまって……えへへへ……。」
「……ジュンシーと?」
正直にジュンシーの名前を出すと、お兄さんは少し反応を示した。
どうやらこのお兄さん、ジュンシーの事を知っているようだ。よかった。いや、良くないけど、良かった。
「そうか、後宮に……では、お嬢さんが噂の“ゲテモノ専用遊女”かな?」
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……ん? でも待てよ……この声……この髪……。
……はっ!!!!
「あ! あのっ! 以前、街で酔っ払いに襲われてる女性を助けませんでしたか?」
「酔っ払いに襲われてる女性? ……ああ、そんなこともあったかもしれないね。その時にピアスをもらったんだった。そうだ、思い出したよ、ありがとう。」
え、何がありがとうなんだ? キャラが掴めない人だな。
「私、その時に助けていただいた女ですっ、その節はありがとうございました。」
「え、そうだったのか、驚いたな……でも見た目が全然違うね。」
「今は、カツラをかぶってますので! 本当は、黒髪です。」
ウィッグを取ると、ボサボサになるので、とりあえず今は外すことはしないでおく。
「……あのピアス……は付けていないんだね?」
お兄さんは、おもむろに私の耳に手を伸ばし、耳たぶに触れた。
「っ! (ビクンッ)」
お兄さんの指が触れただけだと言うのに、電気が走ったように身体が反応してしまう。
「あ、ごめんね、静電気が……痛かったでしょ。」
……なんだ、静電気か。
「ところで、お嬢さん達はどこへ行こうとして、迷子になったのかな? 遠くなければ案内するよ。」
「本当ですか?! 外です! この敷地の外! 私達、街に戻るんです!」
一緒にどうですか? そのまま、一晩いかがですか? と誘いたい気分である。
「……外……? 来たばかりではなかったかな?」
「はい、来たばかりなんですけど、話が違うんで帰ろうと思って!」
思い出したら、またイライラしてきた。
「ジュンシーはなんと?」
「やだなっ、ジュンシー様に話して帰らせてくれるわけないじゃないですかっ! あの人が悪の根源なのに。」
「っふふ、悪の根源とはまた……ジュンシーが聞いたら悲しむよ。」
駄目だ、この人のやんわりした雰囲気好き。癒される……笑顔も素敵……。
「このままお嬢さん達を街に送ったら、ジュンシーに叱られそうだから、ひとまずは後宮に戻ろうか。送るよ。確か、十番妃の所に滞在するんだったかな?」
がーん……この人もジュンシーの回し者だったか……ガックシ……。
でも……この人がいるなら、もう少し、ここにいてもいいかな、と思ってしまう自分がいた。
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