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14.地学部に行ってみた。
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しかし星ねえ。
ふむ、とぎしぎしと音がする長い木の廊下を歩きながら、どうも奴の印象と釣り合わないこの単語を繰り返してみる。
まあ確かに奴がろまんちすとであっても、それはそれで構わない訳だが。
腕組みをしながら、ぎしぎしと音を立てる廊下を図書室の方へ歩いて行く。放課後は、特に何の課外活動もしていないあたしは時間があると言えばあるのだ。
課外活動―――
そう言えば、奴はどんな課外活動をしているのだろう。
運動が好きな奴は、運動系の課外部に属して、それこそ夜になるまで汗を流している。
体育館とか武道場は野郎達の声と汗と熱気でむんむんとしている。特に今の季節は、風下には絶対回りたくはない!
一方、正課以上の勉強を深めたいと思う者は、文化系の課外部に属する。
高橋は確か、技術部だった。車の内燃機関とか、ガソリン以外の、国産の豊富に採れる燃料ではどうか、とかそんな実験をしているらしい。
松崎は、運動部らしい。さっき運動場で野球をしているのを見かけた。金網ごしに若葉がいるのだろうか。何かずいぶんとはりきっていた。
あたしはふと思い立って、地学部の方へ足を伸ばしてみた。
*
がらりと戸を開けると、そこには誰もいなかった。
決して大きな教室ではない。どちらかというと、技術部とかと比べて、冷遇されているのじゃないか、と思えるくらいに、設備は少なかった。
ただ、それでも天体望遠鏡の大きなものは一つ、窓際に置かれていた。
部屋そのものはよく掃除がされている。誰かがちゃんとひんぱんに訪れているらしい。
いや、カバンがある。一つだけ。
「あ? 森岡?」
コップを手に入ってきたのは、やっぱり遠山だった。あたしの姿を認めるなり、露骨に顔をしかめた。このやろ。
「何の用だよ」
「遠山くんって、地学部だったんだ。ふーん」
「悪いか」
「悪いなんて誰も言ってないわよ。ちょっと意外だったけど」
「別に俺が何を好きでもお前には関係ないだろ」
「そーよ、関係ないわよ」
でもね、とあたしはポケットに手を突っ込む。
「これはどお?」
関係ない、というように一瞬ちら、と目をくれた彼は、慌てて今度は身体ごとこっちに向けた。
「お前これ、どうしたんだよ」
「拾ったのよ」
彼は急にうろたえると、自分のカバンを引っぱり出し、中身を確認して、ほっとした顔になる。
だけどその次の瞬間、今度はひどく怖い顔になった。表情のころころ変わる奴だ。
「おい森岡、それどうしたんだよ、一体、本当のこと言えよ」
「だから拾ったんだってば。なぁに、そんなやましいことでもあるの?」
「俺は別に」
「あの子の、東永村で拾ったのよ」
「車で…… 出かけたのか?」
そう、とあたしはあっさり答える。
「行ってきたら、役場とかもうめちゃくちゃで。その部屋に落っこちていたのが、これ。絹雲母って言うんだって。って、あんたはもう知ってるんだよね」
「……」
「あたしが聞きたいのよ。あんたはあんたの持ってる絹雲母を一体どこで手に入れたの?」
「どこでって」
「だって、これは地下深くでないと採掘できない鉱石よ。それに精製したものよ。今じゃまずあり得ないはずのね」
「ああ、そういうことを阿部センも言ってたな」
「それにあんたは東永村には行ってない。あんたは日曜日以外、行く時がないけれど、欠席だけはしてないじゃない。だったら、どこ?」
「お前に関係あるかよ」
遠山は目をそらす。あたしはぐい、と一歩彼の方へ踏み出す。
「あるわよ。部外者だけどね。それでも若葉と知り合っちゃったし、あの子が泣くのは嫌だわ。それじゃあいけないっていうの?」
強気に出る。下手に出るのは嫌いなのだ。
「何か、あんたはあの村について知ってるんじゃないの?」
「言いがかりだ」
「だって滅多に採れないものよ。精製したものよ。だったらあんたが東永村と関係ないって思う方がむずかしいじゃない」
「……それは」
「あたしはね」
とどめ。
「ただ知りたいのよ。東永村と関係ない、どこでこれを手に入れたの?」
「お前が知ってどうするんだよ」
「少なくとも、若葉の手助けになるわ」
それは確かだ。あたし自身には、それ以外の感情はない。あとは「仕事」だ。
「判ったよ。だけど俺だって、それがどこから来たのかは、知らないんだ」
じっ、とあたしは遠山をにらむ。それを見て彼は露骨に嫌そうな顔をした。
「だから、俺が直接拾った訳じゃないんだよ!」
「じゃあ誰が拾ったっていうの?」
「親父さ」
「親父さん?」
「奴の服から落ちた包みの中に入ってたんだ」
遠山の親父。管区の副知事。
「返そうか、と思ったけれど、何か変な薬だったら嫌だ、とか思って、阿部センに見てもらった。……そうしたら、薬じゃなくて、……鉱物だった。それだけだよ」
薬。
なるほど、確かに薬と言われれば、そう見えないものもない。
未精製の裏の世界に出回る「薬」は結構こんな風にぽろぽろ崩れるかたまりだったりする。
「でもよく『薬』だなんて思ったわね。この学校の生徒でそんなこと思える奴がいるなんて」
「お前こそ、何だよ」
あたしはにっと笑う。
「ただの越境生よ」
ふむ、とぎしぎしと音がする長い木の廊下を歩きながら、どうも奴の印象と釣り合わないこの単語を繰り返してみる。
まあ確かに奴がろまんちすとであっても、それはそれで構わない訳だが。
腕組みをしながら、ぎしぎしと音を立てる廊下を図書室の方へ歩いて行く。放課後は、特に何の課外活動もしていないあたしは時間があると言えばあるのだ。
課外活動―――
そう言えば、奴はどんな課外活動をしているのだろう。
運動が好きな奴は、運動系の課外部に属して、それこそ夜になるまで汗を流している。
体育館とか武道場は野郎達の声と汗と熱気でむんむんとしている。特に今の季節は、風下には絶対回りたくはない!
一方、正課以上の勉強を深めたいと思う者は、文化系の課外部に属する。
高橋は確か、技術部だった。車の内燃機関とか、ガソリン以外の、国産の豊富に採れる燃料ではどうか、とかそんな実験をしているらしい。
松崎は、運動部らしい。さっき運動場で野球をしているのを見かけた。金網ごしに若葉がいるのだろうか。何かずいぶんとはりきっていた。
あたしはふと思い立って、地学部の方へ足を伸ばしてみた。
*
がらりと戸を開けると、そこには誰もいなかった。
決して大きな教室ではない。どちらかというと、技術部とかと比べて、冷遇されているのじゃないか、と思えるくらいに、設備は少なかった。
ただ、それでも天体望遠鏡の大きなものは一つ、窓際に置かれていた。
部屋そのものはよく掃除がされている。誰かがちゃんとひんぱんに訪れているらしい。
いや、カバンがある。一つだけ。
「あ? 森岡?」
コップを手に入ってきたのは、やっぱり遠山だった。あたしの姿を認めるなり、露骨に顔をしかめた。このやろ。
「何の用だよ」
「遠山くんって、地学部だったんだ。ふーん」
「悪いか」
「悪いなんて誰も言ってないわよ。ちょっと意外だったけど」
「別に俺が何を好きでもお前には関係ないだろ」
「そーよ、関係ないわよ」
でもね、とあたしはポケットに手を突っ込む。
「これはどお?」
関係ない、というように一瞬ちら、と目をくれた彼は、慌てて今度は身体ごとこっちに向けた。
「お前これ、どうしたんだよ」
「拾ったのよ」
彼は急にうろたえると、自分のカバンを引っぱり出し、中身を確認して、ほっとした顔になる。
だけどその次の瞬間、今度はひどく怖い顔になった。表情のころころ変わる奴だ。
「おい森岡、それどうしたんだよ、一体、本当のこと言えよ」
「だから拾ったんだってば。なぁに、そんなやましいことでもあるの?」
「俺は別に」
「あの子の、東永村で拾ったのよ」
「車で…… 出かけたのか?」
そう、とあたしはあっさり答える。
「行ってきたら、役場とかもうめちゃくちゃで。その部屋に落っこちていたのが、これ。絹雲母って言うんだって。って、あんたはもう知ってるんだよね」
「……」
「あたしが聞きたいのよ。あんたはあんたの持ってる絹雲母を一体どこで手に入れたの?」
「どこでって」
「だって、これは地下深くでないと採掘できない鉱石よ。それに精製したものよ。今じゃまずあり得ないはずのね」
「ああ、そういうことを阿部センも言ってたな」
「それにあんたは東永村には行ってない。あんたは日曜日以外、行く時がないけれど、欠席だけはしてないじゃない。だったら、どこ?」
「お前に関係あるかよ」
遠山は目をそらす。あたしはぐい、と一歩彼の方へ踏み出す。
「あるわよ。部外者だけどね。それでも若葉と知り合っちゃったし、あの子が泣くのは嫌だわ。それじゃあいけないっていうの?」
強気に出る。下手に出るのは嫌いなのだ。
「何か、あんたはあの村について知ってるんじゃないの?」
「言いがかりだ」
「だって滅多に採れないものよ。精製したものよ。だったらあんたが東永村と関係ないって思う方がむずかしいじゃない」
「……それは」
「あたしはね」
とどめ。
「ただ知りたいのよ。東永村と関係ない、どこでこれを手に入れたの?」
「お前が知ってどうするんだよ」
「少なくとも、若葉の手助けになるわ」
それは確かだ。あたし自身には、それ以外の感情はない。あとは「仕事」だ。
「判ったよ。だけど俺だって、それがどこから来たのかは、知らないんだ」
じっ、とあたしは遠山をにらむ。それを見て彼は露骨に嫌そうな顔をした。
「だから、俺が直接拾った訳じゃないんだよ!」
「じゃあ誰が拾ったっていうの?」
「親父さ」
「親父さん?」
「奴の服から落ちた包みの中に入ってたんだ」
遠山の親父。管区の副知事。
「返そうか、と思ったけれど、何か変な薬だったら嫌だ、とか思って、阿部センに見てもらった。……そうしたら、薬じゃなくて、……鉱物だった。それだけだよ」
薬。
なるほど、確かに薬と言われれば、そう見えないものもない。
未精製の裏の世界に出回る「薬」は結構こんな風にぽろぽろ崩れるかたまりだったりする。
「でもよく『薬』だなんて思ったわね。この学校の生徒でそんなこと思える奴がいるなんて」
「お前こそ、何だよ」
あたしはにっと笑う。
「ただの越境生よ」
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