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夫であった侯爵は語る

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「両親が揃った家庭に育つのが正しいことだと思うのです」
「彼女の環境は決して双子が育つのに良くない。できるだけ早く真っ当な環境に置くべき」
「そもそも父親の名を言えない辺り、子供に良い影響を与えない」

 一つ一つはまあ判らなくはない主張だった。
 ただ気付いているだろうか? 
 マゼンタは自分自身、「両親が揃った家庭」に育っているのだ。
 それでいて、その母親との関係を上手く扱うことができないまま大人になっている。
 両親が揃っていたところで、そこにある感情が歪んでいるならば、いっそ無い方がいいことがあると私は思う。
 それに、今のこの時点では可愛いだけの子供であれ、エレーナの血を引く以上、ただの、マゼンタが望むような子供らしい子供、きちんとしたお手本にある様な成長をしていくとは思えない。

 エレーナの周囲の彼等は、私からしてみても決して普通ではない。
 が、エレーナととても相性が良い。
 彼等の絵を見、彫刻を見、ピアノや弦楽器の演奏を聴いて育つことがそんなに悪いこととは思えない。
 だがマゼンタはこの件については譲らなかった。

「お母様、お兄様」

 ある日エレーナは困ったように私と母に相談に来た。

「どうしたの? 双子ちゃんも……」
「お義姉様がお出かけということで、ちょっと」
「マゼンタがどうかしたのか?」
「ちょっとというか……」

 ふう、と妹にしては珍しく困った表情になった。

「兄さん、義姉さんはこの子達を欲しがってるって聞きましたけど」
「ああ、無理だとは言ってあるんだが」
「だけど」

 双子に何やらエレーナはうながした。

「あのね、おばちゃんがよくいうの。ほんとうのおかあさんはおばちゃんで、ママは綺麗なおばちゃんなんだからね、って言うの」
「おばちゃんはおばちゃんだよね、なんでそういうこというの?」

 母はぎょっとした顔になった。私もやってしまったか、という気持ちになった。

「……それは、ちょっとまずいわね……」
「ずいぶん繰り返すから、よっぽど可愛いのだろうと思っていたんだが……」
「お義姉さん、子供が欲しいのではないの? ちょっと歳がいってしまっているかもしれないけど、無理ではないでしょう?」
「いや、別に欲しくはないと言っていたんだ。むしろあまり好きではないと言っていた。……なんだが、何だろな、この子達に妙に懐いていてな……」
「この子達『に』」懐いている、兄さんにはそう思える? やっばり」
「ああ。どう刷り込もうとしたところで、そんなこと今さら無理だし、この子等にとってはお前が母親だ。お前の作業中は他の連中が遊んでくれているし、乳母もいるし、ちゃんとお前の生活はずっとちゃんとできているんだろ」
「ええ、私もそのつもりで色々やってるのよ。それに、この子達の父親も、できるだけのびのび育ててくれればいい、と言っているし。そもそも侯爵家を継ぐ子供にはできないというのに」

 そう、この点を言えない辺りが、おそらくは一番マゼンタに引っかかっていたのだろう。

「マゼンタはどうしても両親の揃った家庭で育てるべきだ、と言ってるんです」
「それこそ貴族の家庭では揃っていないことなんてよくあることだわ」

 エレーナは特に自分のその相手が相手だけに、マゼンタの言うことが理解できない、とばかりに首を横に振った。
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