上 下
120 / 168
辺境伯令嬢の婚約者は早く事件を解決したい

17 宴であまり食べられなかったので

しおりを挟む
 さて宴から戻ってみると、到着した時には綺麗に飾られていた離れが見事に我々仕様になっていた。
 離れと言えども広さだけなら辺境伯領の館とさして変わらない。
 ただ向こうが三階建てであるのに対し、こちらは張り出しに広さを取った二階建てだった。
 「表」に連れて行くと言った人数には充分すぎるな広さだ。
 そして既にそこで宴に出なかった彼等は庭で食事をしていた。

「ただいまー」

 うへぇ、という顔をしてバルバラは持ち込んできた焚き火用の台を使って肉を焼いている男達に手を挙げた。

「お帰りなさいお嬢」
「ぱーてぃとやらは如何でしたかー」
「疲れた」

 そう言いつつ、あちこちに置かれた半切りの丸太椅子にどすん、と腰掛けた。
 広い庭のあちこちに、近くの林で切り倒してきた木で作った椅子が置かれている。
 テーブルはまだ製作最中らしい。
 十人程度の彼等では半日かそこらではさすがにそこまでできなかった様だ。

「木の質が違うんすよ」
「確かに、柔らかそうだな」

 串刺しのあぶった肉を渡されたバルバラは座って触った感想を言う。
 ちなみにこの焚き火台は持ち込みだ。
 もともと雪の中でも火が点けられる様にと冬の俺達の作業の常備品だ。
 帝都に出向く際にも、天候に関わらず焚き火ができるというのはありがたいものだし。
 それがこういうところで役立つとは。

「さすがにこの綺麗に整えてある芝生の上では可哀想だと思いましてねえ」
「確かにそれは言えてるな。花もあちこちにあるし」

 がっ、と大口を開けてバルバラは肉に食いつく。
 よほどパーティでろくに食べられなかったのが堪えているのだろう。
 ともかくあの場では王女達に質問攻めされだった。
 そしてなかなか美味そうだ、と思う皿があってもどうも食べたいから持ち込んで、というのが言いづらい雰囲気だったのだ。

「あの姫さん達も、終わってからまともな食事するんだろうなあ」
「らしいですぜ。食材を持ってきてくれた厨房の連中がそう言ってましたし」

 何でも、獲物を林に狩りに行こうとしたら、慌てて食材を持ってきてくれたそうだ。

「そんなことをしなくとも!」

ということらしい。
 まあおかげで、普段は滅多に食べられない新鮮な野菜が沢山貰えたそうで、今もこの焚き火台の上に渡してある網の上には、串刺しにしたタマネギやにんじん、それにトウモロコシと言ったものが良い匂いを立てている。

「トウモロコシ美味いぞ!」
「こんなに甘いのができるんですな。うちでは甘くならないから馬の餌にしてますがねえ」
「その辺り詳しく聞いておいてくれ」
「了解っす」

 皆美味いものには目が無い。
 どのくらい居るのか判らないが、できるだけ向こうに戻った時に活用できそうな種類の野菜について知っておこう、という興味には満ちあふれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね

いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。 しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。 覚悟して下さいませ王子様! 転生者嘗めないで下さいね。 追記 すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。 モフモフも、追加させて頂きます。 よろしくお願いいたします。 カクヨム様でも連載を始めました。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

戦場の聖女と星の呪い〜魔女裁判で処刑寸前だったのに国の危機を救います〜

いぬがみとうま
ファンタジー
異世界に転生した研修医である主人公フィリアは、魔女裁判にかけられ断罪回避をしなければ命がない。 魔女の嫌疑を晴らすために意地悪な上官の下、奮闘する毎日。その結果、なぜか、フィリアは国を救う聖女へと成長いく。

処理中です...