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21 爆発する王妃となだめる国王
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「ああもう止めて!」
王妃の声がその場の空気を切り裂いた。
「止めて止めて止めて! お前達が何であろうと、ラグネイデの忘れ形見であろうと、とんなこと私にはどうでもいい!
この女が! この女が私の息子を! たった一人の息子を殺したことについて、どうして、誰も責めないの?」
「王妃殿下」
ああとうとう爆発したな、とアンネリアは奇妙に冷静に思った。
「辺境伯令嬢!
貴女は確かに私どもの国を左右する力がありますわ。
だけど、この、どれだけ貴女から見て、帝国から見て、この国から見て、不出来であろうと、私のたった一人の息子を失わせたことに対して、どうして誰も、何も、弁護の一つも無いというの!?
それだけのことをした?
どんなところにでもあるでしょう!
王位争いがあるならば、その相手に対して何かしらの企みをすることは。
ええ、それだけでなく、あの子が他の子と違う心の持ち主で、人を人と見てないとしても、為政者ならそれはそれで皆平等に見ることができるのだから、上手く、侍従、其方達が気をつけていれば、大丈夫だったはずではないの?
何も、殺す必要は無かったのじゃないの!」
王妃はその場に突っ伏せて、大きな声で泣き出した。
「王妃よ。それでも、あの場で言ってはいけないことをあれは言おうとしたのだ」
「冗談で済ませれば良かったではないですか!」
「それがあれの心の問題だったというのだ。
あれが一度口にするということは、あれにとっての『予定』になってしまっていたということだ。
今日この日止めても、きっと何処かでそうした。
かつてのチェリ王国の様に、言った王子自体が狂わされていた時とは違う。
それならば王子は道具に過ぎない。
だがあれ自身は辺境伯令嬢との婚約、という意味が判っていた。
判った上で『それは間違っている』と感じてしまったのだ。
その上でハリエットを選びたかったのだとすれば、我が国は帝国に叛意ありと見なされても仕方が無かった
……それこそ悔やんでも悔やみきれないが、アルマならそれは言わなかったろう。
いや、アルマが王太子だったならば、そもそも令嬢が送られてくる事態にはならなかったろう。
あれがラグネイデとアルマを殺した時点で、既に帝国はいつか警告を与えるつもりだったのだ。
悪かったとしたら、王妃、それは儂だ」
「貴方――」
「あれの心の問題を、直視せずにそのまま王太子に据えてしまったこと。
それが儂の罪だ。
ハリエットは私怨から――しかもその私怨の大本があれのしでかしたことだ――ではあるが、確かにこの国の間違いをぎりぎりで止めてくれたのだ。
無論、父親としては、認めたくはないが――」
王妃の声がその場の空気を切り裂いた。
「止めて止めて止めて! お前達が何であろうと、ラグネイデの忘れ形見であろうと、とんなこと私にはどうでもいい!
この女が! この女が私の息子を! たった一人の息子を殺したことについて、どうして、誰も責めないの?」
「王妃殿下」
ああとうとう爆発したな、とアンネリアは奇妙に冷静に思った。
「辺境伯令嬢!
貴女は確かに私どもの国を左右する力がありますわ。
だけど、この、どれだけ貴女から見て、帝国から見て、この国から見て、不出来であろうと、私のたった一人の息子を失わせたことに対して、どうして誰も、何も、弁護の一つも無いというの!?
それだけのことをした?
どんなところにでもあるでしょう!
王位争いがあるならば、その相手に対して何かしらの企みをすることは。
ええ、それだけでなく、あの子が他の子と違う心の持ち主で、人を人と見てないとしても、為政者ならそれはそれで皆平等に見ることができるのだから、上手く、侍従、其方達が気をつけていれば、大丈夫だったはずではないの?
何も、殺す必要は無かったのじゃないの!」
王妃はその場に突っ伏せて、大きな声で泣き出した。
「王妃よ。それでも、あの場で言ってはいけないことをあれは言おうとしたのだ」
「冗談で済ませれば良かったではないですか!」
「それがあれの心の問題だったというのだ。
あれが一度口にするということは、あれにとっての『予定』になってしまっていたということだ。
今日この日止めても、きっと何処かでそうした。
かつてのチェリ王国の様に、言った王子自体が狂わされていた時とは違う。
それならば王子は道具に過ぎない。
だがあれ自身は辺境伯令嬢との婚約、という意味が判っていた。
判った上で『それは間違っている』と感じてしまったのだ。
その上でハリエットを選びたかったのだとすれば、我が国は帝国に叛意ありと見なされても仕方が無かった
……それこそ悔やんでも悔やみきれないが、アルマならそれは言わなかったろう。
いや、アルマが王太子だったならば、そもそも令嬢が送られてくる事態にはならなかったろう。
あれがラグネイデとアルマを殺した時点で、既に帝国はいつか警告を与えるつもりだったのだ。
悪かったとしたら、王妃、それは儂だ」
「貴方――」
「あれの心の問題を、直視せずにそのまま王太子に据えてしまったこと。
それが儂の罪だ。
ハリエットは私怨から――しかもその私怨の大本があれのしでかしたことだ――ではあるが、確かにこの国の間違いをぎりぎりで止めてくれたのだ。
無論、父親としては、認めたくはないが――」
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