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8 フットサム王子の資質

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「自分は侯爵家の三男。
 家を継ぐことも無い者ですので、歳も近く、家格もそれ相応なことから、第二王子フットサム様の遊び相手として十歳の時から宮中に出入りしておりました。
 その時教育係となっていた方から自分は言われました。
 フットサム王子は非常にこだわりの強い方なので、気をつけてお仕えする様に、と。
 後で知ったのですが、高位貴族の跡取り以外の子供のずいぶんな数が、遊び相手として入れ替わり立ち替わりしていたということです。
 そもそも自分が十歳でその声が掛けられるあたり、順番的には結構後だったと思います。
 大概遊び相手というの五、六歳辺りから居るものですが、当初の方々など勿論その頃には帰らさせれていて、その時居たのは、自分とそう変わらない、ある程度事情を察することができる歳になって入った者ばかりでした。
 フットサム王子のこだわりは、先ほどハリエット嬢の証言通り、『予定』、そして『思い込みの強さ』です。
 あの方は、たとえそれが一つ一つ紐解けば道理が通らないものでも、一度そう思い込んだ時には、道理自体を変えてでも自分の思い込みに合わせようという傾向がありました」
「例えば? 幼い頃だったら」

 アンネリアは問いかける。

「簡単なところでしたら、
『今日は読み書きと算術と音楽だよな』
『いえ今日は窮理学と算術と音楽で』
『そんな訳はない、今日は読み書きと~』
で、結局先生の方に予定を変えてもらうようなものです」
「その対応はまずかったな」
「今となってはそう思うのですが、そもそもそれは自分が来た時にはそうする様な体制になっておりました」
「と、いうことだが、王妃殿下、ご存じでしょうか?」

 う、と王妃の声が詰まる。

「……確かにあの子は多少我が儘なところがありましたが、そんな順番など、命ずれば変えられるものでしょう」
「いいえ、そういうことではないでしょう。これは私も感じていたことですから」「どういうことですの!」

 王妃は柳眉を釣り上げて声を張り上げる。

「私との約束があったとしても、フットサム王子は常に
『覚えていない』
『そんな約束は予定に無い』
を連発された。
 これは私という立場の相手に対し、宜しくない態度でしょう? 
 この国内でなら通じたでしょうが、あいにく私はここの宮廷においては異物だ。それも、王子より格上の存在として。
 王子が果たして私のことを格上の存在として意識していたかどうか。
 これはしばらく前の他国の話だが、少し前、誤った教育によって北東の辺境伯令嬢を格下と思い込まされ、結果的に廃嫡された王子も居た。
 その場合はそれでもまだ改めることができたから人としては良かったが、生まれついた性質を現実に近づける努力を怠る王族というのは宜しくないだろう?」

 ぐっ、と王妃は言葉を飲み込んだ。
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