〈完結〉暇を持て余す19世紀英国のご婦人方が夫の留守に集まったけどとうとう話題も尽きたので「怖い話」をそれぞれ持ち寄って語り出した結果。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
上 下
9 / 50

8 郵政省高官トートルズ氏の夫人パメラが語る②

しおりを挟む
「そのことは決して口外してはいけないよ」

 そう執事はメイドに言うのね。
 ああ何か執事は知っていて、それはきっと悲しい事情なのだな、幽霊ではないのだな、とメイドはその時思ったの。
 それからもずっと、手紙は来続けたのね。メイドも何も言わず奥様に渡し続けたの。
 そのうち時も移り、奥様が病床につく様になったのね。
 すると彼女は言うの。

「ああもうきっとあのひとからの手紙は来ないんだわ」

 そこでメイドは気付いたのね。
 掃除がてらに探してみたら、古い便せんと封筒が沢山出てきたの。
 そして本当に古い手紙も。
 そう、彼女は自分自身に対して、昔のラブレターを書き写して自分に送っていたのよ。
 執事もそれを知っていて、奥様のしたい様にさせてやってほしい、と思っていた訳。
 彼もまた、ご夫妻を若い頃からずっと見守ってきた訳だから。
 奥様は意識してか無意識か判らないけど、旦那様の筆跡を真似て、内容も全く写して、そして他の手紙に紛れ込ませて出していたの。
 渡すのは気になっていたからできるだけいつも受け取っていたそのメイドだけど、出すのは常に入れ替わり立ち替わりだったから、判らなかった訳よ。
 そしてその手紙が来なくなってから、奥様は次第に弱っていった訳。
 ああどうしたものか、とメイドもやはりその時点では既に結構な年月勤めていて、奥様にもの凄く肩入れしていたのね。
 そんな時に、奥様宛の手紙が届いたの。
 ただ、メイドは首を傾げたのね。今までの古い封筒でないことに。
 でもとにかく奥様に手紙を届けた訳。すると奥様はそれまで力なく横たわっていたのが、ゆっくりとだけど身体を起こして、手紙を手に取ったの。
 そして中を開けてみると。
 みるみるうちに奥様の目に涙が。
 そういうことがしばらく続いて、奥様の容体がある程度良くなった訳。
 とは言っても、それは一時的なもので、やはりもうそう長くはない、と医者にも言われていたのね。
 実際どれだけ手紙が来ても、奥様の容体はだんだんその頃からまた弱ってきて、また起き上がれない日々が続いた訳。
 だからメイドも心配して執事に相談するんだけど、執事もまた、ずいぶんと疲れた様子で。

「身体を壊しているのではありませんか?」
「自分も歳だからね」

 そして奥様より先に執事が亡くなってしまった訳。
 長く家を取り仕切ってくれた執事の死に、奥様もずいぶん気落ちして。
 結局それから割と早くに亡くなってしまったの。
 そうしたら、しばらくして奥様の親戚という者がやってきて、遺言書を探す訳。ところがそれが見つからない。
 その後弁護士が来て、どうも奥様は跡取りに恵まれなかったから、自分の資産は使用人への賃金退職金、そしてあとは施設に寄付をする様にしたというのね。
 でもそんな様子全く無かったと思ったのに、と言ったら。

「それは旦那様のご指示だ、と奥様は言われました」
「それは昔のこと?」
「いえ、最近だとか」

 どうなのかしら。
 やっぱり後から来だした手紙は幽霊の旦那様からだったのかしら。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/3/15:『きんこ』の章を追加。2025/3/22の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/14:『かげぼうし』の章を追加。2025/3/21の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/13:『かゆみ』の章を追加。2025/3/20の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/12:『あくむをみるへや』の章を追加。2025/3/19の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/11:『まぐかっぷ』の章を追加。2025/3/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/10:『ころがるゆび』の章を追加。2025/3/17の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/9:『かおのなるき』の章を追加。2025/3/16の朝8時頃より公開開始予定。

『怪蒐師』――不気味な雇い主。おぞましいアルバイト現場。だが本当に怖いのは――

うろこ道
ホラー
第8回ホラー・ミステリー小説大賞にエントリーしています。 面白いと思っていただけたらご投票をお待ちしております! 『階段をのぼるだけで一万円』 大学二年生の間宮は、同じ学部にも関わらず一度も話したことすらない三ツ橋に怪しげなアルバイトを紹介される。 三ツ橋に連れて行かれたテナントビルの事務所で出迎えたのは、イスルギと名乗る男だった。 男は言った。 ーー君の「階段をのぼるという体験」を買いたいんだ。 ーーもちろん、ただの階段じゃない。 イスルギは怪異の体験を売り買いする奇妙な男だった。 《目次》 第一話「十三階段」 第二話「忌み地」 第三話「凶宅」 第四話「呪詛箱」 第五話「肉人さん」 第六話「悪夢」 最終話「触穢」 ※他サイトでも公開しています。

朧《おぼろ》怪談【恐怖体験見聞録】

その子四十路
ホラー
しょっちゅう死にかけているせいか、作者はときどき、奇妙な体験をする。 幽霊・妖怪・オカルト・ヒトコワ・不思議な話…… 日常に潜む、胸をざわめかせる怪異── 作者の実体験と、体験者から取材した実話をもとに執筆した怪談短編集。

怪異の忘れ物

木全伸治
ホラー
千近くあったショートショートを下記の理由により、ツギクル、ノベルアップ+、カクヨムなどに分散させました。 現在、残った作品で第8回ホラー・ミステリー小説大賞に参加し、それに合わせて、誤字脱字の修正を行っています。結果発表が出るまでは、最後まで推敲を続ける予定。 さて、Webコンテンツより出版申請いただいた 「怪異の忘れ物」につきまして、 審議にお時間をいただいてしまい、申し訳ありませんでした。 ご返信が遅くなりましたことをお詫びいたします。 さて、御著につきまして編集部にて出版化を検討してまいりましたが、 出版化は難しいという結論に至りました。 私どもはこのような結論となりましたが、 当然、出版社により見解は異なります。 是非、他の出版社などに挑戦され、 「怪異の忘れ物」の出版化を 実現されることをお祈りしております。 以上ご連絡申し上げます。 アルファポリス編集部 というお返事をいただいたので、本作品は、一気に削除はしませんが、順次、別の投稿サイトに移行することとします。 まだ、お読みのないお話がある方は、取り急ぎ読んでいただけると助かります。 www.youtube.com/@sinzikimata 私、俺、どこかの誰かが体験する怪奇なお話。バットエンド多め。少し不思議な物語もあり。ショートショート集。 ※タイトルに【音読済】とついている作品は音声読み上げソフトで読み上げてX(旧ツイッター)やYouTubeに順次上げています。 百物語、九回分。【2024/09/08順次削除中】 「小説家になろう」やエブリスタなどに投稿していた作品をまとめて、九百以上に及ぶ怪異の世界へ。不定期更新中。まだまだ増えるぞ。予告なく削除、修正があるかもしれませんのでご了承ください。 いつか、茶風林さんが、主催されていた「大人が楽しむ朗読会」の怪し会みたいに、自分の作品を声優さんに朗読してもらうのが夢。

処理中です...