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26.地の果まで③あらすじとツッコミ・後半

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 つづきどす。

***

 どうしようもなく、姉弟は再び志賀氏を頼る。すると志賀氏は、園川氏の家へ、麟一を書生としたらどうだ、と提案する。そして世間の風に吹かれるのもいい、と直子と緑は話を決めてしまう。
 そして麟一は園川家へと出向く。
 一方緑は、学校で久しぶりに敏子と話をする。彼女は入学試験の騒ぎをきいて「男に生まれなくてよかった」と言う。緑は逆である。

 日曜に、四谷の教会に行く緑。そこでも敏子を見かける。そしてその日、説教壇に登ったのは、神学校生の坂田だった。彼は意気揚々と常の神父たちと違う新思想を取り入れた話をする。だが、もちろん、その新式な説教には、反発する声が上がる。緑はその反発に対する坂田の様子を面白く見守る。坂田は神経質なほどに自分の思想と主張を曲げない。やがて調停者が出る。そして旧来の思想に対し涙ぐむ人々に、緑は「なんて安価で愚劣な思想」と吹き出したい思いにかられる。
 敏子が礼拝後も緑の前へ現れる。そして坂田のことを、「緑さんの兄さんみたい」と評する。そして敏子は坂田のことを「場所柄もわきまえない乱暴」と言う。自分のように心寂しいものが集い、心を慰める場所が教会である、と考える敏子は、そういう所に嵐を起こした坂田には好感情は持っていないようだった。緑は坂田の言うことは正しいと感じたので、敏子に反発する。
 敏子はその二人の全く違った考え方を、「だけどそれが真実ではない」と自分も緑も否定する。が、緑は、敏子が間違っている、貴族的なわがまま病の患者だ、私は現実に生きる娘だ、と主張する。意見は合わない。これからも合わないだろう。だが、自分にとって、敏子が一番親しめる友達だと思う、と言う。
 敏子と別れてから、坂田が緑に追いつく。一緒に帰る緑。怪しくときめく胸。だが、同時に、住所を教えてしまった、という軽々しい行為に恥じるのだった。
 やがて、坂田から手紙がくる。神学校の研究雑誌をとってくれないか、とのすすめだった。緑はけろりとする反面、がっかりする。

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 この辺りは「四谷パプテスト教会史」を語る時に結構引用されてるんですね。
 さんこう社から出ている古谷圭一『近代日本の戦争と教会』は一章割いて、「当時の教会の様子を描いている」こみの作品を取り上げてるくらい。

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 その頃、麟一は、園川の屋敷で憧れだったピアノに触れる。彼は、もともと、「ガリガリの粗暴な武士道主義の中学教育」よりも、「さわやかな美しい異国の楽器」の方がよっぽど魅力があったのだ。それをかげから見ていたひとがいた。この家の、出戻りの令嬢、関子だった。彼女はあわてる彼をおさえ、もっと弾くように、と言う。
 庭の手入れを一生懸命して、疲れた身体を休めながら、あの破いた楽譜の小曲を歌っていたら、緑がやってきた。だが、彼女は会うと必ずと言っていいほど、彼を励まし、諌めるから、やっとのびのびした気持ちになれた心はふたたびぺしゃんこになってしまうのである。そして、また苦しい勉強をしよう、と暗いぼんやりとした気持ちになるのである。
 と、関子が買い物のお供を頼む。彼女は喜んで麟一に麦わら帽を買ってやる。と、街で間宮に出会い、はやされる。麟一は、関子とカフェーへ行き、夢心地になる。

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 麟一くんは書生となって園川家に住み込み。そこで出戻り年上美人の関子さんに誘惑されるんだけど、まだこの時点では振り回されるだけで、どうしていいか判らない。

***

 緑はある日、教会の牧師の家へ呼ばれる。牧師夫人は、坂田が緑を妻に欲しいと願っている、と聞かされる。だが、緑は、その坂田の出した「妻に求める条件」を聞いて、腹立たしくなる。彼が冷血な利己主義者だと気付いて、一瞬でも惹かれた自分が恥ずかしくなる。そして今は、弟のためにも、結婚する気はないから、と断る。
 その沈んだ心持ちからか、いつもならけなしてしまう敏子の考えにも、簡単には笑えない。漂泊の身をうらやましいと考える敏子に何となく感心すらするが、自分はやはり弟が…と考えると、結婚も恋も自分自身も捨てて、一つの目的のために機械となればいい、と思いきる。

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 この辺りはフェミで取り上げられやすいんだけど、縁談が来た緑さん、「ものの様に選ばれるなんぞ」と断る訳だ。

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 夏になって、間宮が以前麟一が関子とカフェーへ行ったことを緑に話す。
 この園川家に矢野という紳士が出入りするようになった。彼は関子を後妻としたいと関子の継母であり、現在の園川家の夫人である順子に頼み込む。彼女は二人の子の継母として、世間にも恥ずかしくないように、と出戻りの娘の心配をして再縁口を考えていたのである。だが、関子は全く耳を貸さない。麟一に一生懸命ピアノを教えている。
 この関子の上には、長男の良高がいるが、彼は身体が弱い。私立大学で農業を修めたあと、伊豆に山や農地を買って、そこに永住のつもりで住宅を建て、美しい若夫人と静かな生活をしている。
 久しぶりに家へ帰るが、麟一は、以前間宮が緑に告げ口したことをたずねられ、困惑する。その相手が当家の令嬢ということは判って、一応の安心はする。そして、そのすぐ後、麟一は、関子やその異母妹と異母弟のお供わして伊豆へ出向く。そして、その車中で、自分に向ける関子のまなざしに気付く。

 兄の良高の妻、千代子は、冷たい蝋人形のような美しい人だった。だが、その中に、麟一は、母のような聖らかで静かな優しい愛情をこの人に感じた。時には妖婦めいた関子と対称的である。この人、内輪どうしの集いにも、自分から身を引くようなところがあった。いつも寂しそうだった。そしてとうとう、自分は寂しいんだ、と千代子には告白してしまう。姉たちとは違った自分の気性のことなど、素直に話してしまう。
 千代子は、「寂しいと思うのは、我侭な心て゜しょうか」と言う。そんな彼女の言葉は麟一の心に染み通る。そして、関子がその様子を見ている。

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 関子さんの同母兄の奥さんの千代子さん登場。麟一くんはこの人には「不在の母」を恋うような感情を持つ訳だ。うまがあったと言えばそれだけなんだが。

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 一方、直子は宇都宮へと出向く。せめて叔母には会いたい、と。そして隆吉夫婦のの考えていた計画を知る。幼なじみで慕っている麟一を、娘・お絹に添わせたかった、と。直子は驚く。
 そのことを帰ってから浩二と緑に話すが、また緑は「人種改良説」云々と反発する。が、その自分の口調の中に、あの坂田と同じものを感じ、心寂しいものを感じる。
 浩二の会社で労働争議が起こり、もしかしたら自分は会社をやめるかもしれない、だが、なんとしても直子と、姉弟は養ってみせる、と重々しく言う。結果として、労働争議には勝利し、給料の上がる転勤話が出る。それが北海道だと言う。直子は浩二についていくことにする。浩二は麟一の学資くらい送る、と約束する。緑は感謝感激して泣き崩れる。

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 おねーちゃんは常識人なんで苦労する。だけどダンナがいいひとなんで救われる。

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 伊豆で関子は病気がちになる。そして、千代子と仲良くなる。自分のかつての結婚生活の不幸を彼女に話し、麟一に恋している自分を、23で始めて恋を知った自分を告白する。千代子は、自分は人妻であり、これからさき、そういうことはかなわぬが、関子はこれからがあるから、と勇気づける。
 そして関子は変わる。派手好きのはしゃいでいる人が落ち着いて寂しげになった。そして、兄良高も、その変わった妹のために、再縁の話を断固として反対した。その甲斐あって、矢野氏との話は立ち消えた。

***

 ここで関子さんどーも麟一くんに本気になってしまう。初恋だそーだ。
 で、千代子さんはそれを応援することに。
 で、関子さんが変わって~麟一くんがだんだんそんな関子さんに惹かれていく~ということなんだとは思うのだけど、

> かくて、麟一の前に新に生れて現はれたかの如き、関子は前と異なる美しい印象を、そのうら若い青年の胸に焼きつけずにどうしてあらうものぞ。
 けれども、麟一は牧場を追はれた仔羊のやうに、己の行く道を知り得なかつた。己の取る術を持ち得なんだ。
 たゞ彼は迷うて悩んで、そして止み難い憧憬の思ひに悶えるのだつた。

 ……これはつまり、だんだん好きになってくにつれて、身体がもだもだしだすということでしょーか(笑)。
 まあ気持ちがもだもだするは判る。だがなー。

***

 浩二夫妻は北海道へ旅だった。園川家の方からは、千代子の申し出によって、麟一をまだ書生として止めておくことになった。そして麟一は千代子の口から、関子の自分に対する思いと、最近の変化を聞く。そして彼は関子のために変わろうと決心する。千代子はそれを見守る決意をし、東京の屋敷に残る。

***

 さてこの辺りの描写がいまひとつわからん。
 千代子さんが関子さんの思いを麟一くんに伝えたのは、どーやら「そして、貴方のお心は、――関様の忍従の衣の中に包まれた、火のやうな、あの思ひを受けて下さつたのでしたわね、あの、関様が今日、関様が今日――」という台詞から、何やら二人の間にあったようだし、その後「貧しくとも立派な一人の男子になります」と麟一くん宣言し、千代子さんからは、お金持ちにも高位高官にもならなくていい、人間として立派になって欲しい、と言われるんだけど。
「適当な修業をなさつて、貴方が社会に一人の良人として、立ち得る暁まで(……)善良なる純潔なる一人の紳士と貴方がおなりになる日まで」見守る、というんですが。
 ……それって叔父さんが示した将来と大して変わらないよね。
 でまあ、麟一くんは千代子さんと魂の双子的なんで、感動。だけどそこにまた嵐が。

***

 冬、緑が血相を変えて園川家へ乗り込み、弟を返せ、と怒鳴り込む。志賀氏から、彼女が受け取った手紙には、麟一がこの家で関子や千代子の愛玩物にされている、というものだった。関子も千代子も半狂乱の緑を静めようとする。緑は「悪魔」「毒婦」と二人をののしる。千代子は麟一にも自ら選び取る運命がある、という。緑は姉の手で弟の輝く運命を築く、と主張する。
 その騒ぎの中、自分がいるからいけない、と手紙を残して麟一は失踪する。死をもって償う、と。
 緑ははだしのまま、屋敷を飛び出し、雨の中、狂ったように走る。巡査が怪しんで捕まえる。周囲の人々は狂気女だ、という。そこへたまたま通りかかった敏子が彼女を助ける。

***

 再び緑さん暴走。
 ここでも「悪魔」だの「毒婦」だの相手を罵倒して、弟に対しては「大事な大事な私の生命として守り育て行きたい」だの言うし、極めつけが、

>「麟一は、たとへ、どのやうな意志があらうとも、それが何です。私は彼のために、自分の青春も生涯も皆犠牲にして捧げたのです。麟一を人生の路傍で枯れはてる雑草にはしたくない、したくない、貴女方から引き離して、私はもう一度私の力で立派にして見せます、麟一を私は連れて行かねばなりません」

 こうなると誰のための麟一くんですか、と言いたくなってくる。だから千代子さんはそれに対抗して「彼の意志を」と告げるけど、弟も弟なので、何というか。それで裸足で飛び出すっていうのも……
 ホントにちょうど敏子さん出てきたからよかったものの、そら確かに狂気女と見られてもなあ。
 依存症の根源を持ち去られた後の抜け殻、にしばらくはなる訳だ。

***

 残された千代子は、せめて関子のために、と伊豆の夫へ電報を打ち、呼び寄せる。そして志賀に話を聞こう、と居所を聞くと、彼は知り合いの豪農の娘の結婚式へ行っているという。どうやら相手は坂田らしい。
 呼び寄せられた良高は、関子のためにも、と決心をする。そして、父親と、継母に、自分はこの家の財産は受け取れない、異母弟妹にやってくれ、と言う。彼は新しくやり直す気だった。そしてその心にうたれた父親は、伊豆の山と土地、関子には、彼女の実母の残した郵船会社の株を持っていってくれ、と頼む。
 そしてその変わろうとする夫に、千代子は感激し、再び愛を誓う。
 そこへ通りかかった志賀に、良高は、麟一は引き取る旨を述べる。麟一のことを悪く言う志賀に、良高は自分の決意を述べる。そして千代子の言葉、その二つにさすがの志賀も参る。
 敏子は緑の世話をしながら、昨夜の緑の姿を見て、自分も何かせずにいられない、と告白し、二人は一緒にやっていこう、と誓い合う。

***

 ここで千代子さん宅のターン。
 それまで形ばかりの夫婦だった二人が、この事件をきっかけに心も通じ合う、というエピ。
 そんだけど、まあこのおぼっちゃんにしても、「一個の人間として、弱くとも小さくとも地の上に立つて、働くつもりです」「真に人類の一人として生きていたいのです」……で余技だった畑仕事で食って行こう、という決心なんだけど…… それでこんだけのもの送られたたらなあ…… 所詮は、という感もなあ。

***

 麟一を皆して探すが、一向に見つからない。緑も、伊豆の人々も心配する。
 北海道の直子は、産後で、身体の調子を悪くしていた。生まれた子どもは元気である。だが、ついに、危篤状態となってしまった。
 緑が呼び寄せられる。宇都宮の家にも連絡が行く。そしてようやく隆吉の心が解ける。と、いうか、もともと頑固ものゆえも周囲が気を使っていただけで、隆吉は、お秀を連れて、北海道へとんでいく。
 緑は二等車をとったが、かつて三等車で向かった姉のことを思うと、ゆうゆうと乗っている気にもなれず、三等車へうつる。
 そして、彼らが来る間もなく、直子は亡くなった。隆吉も緑も、皆それまでのことを謝り合う。
 伊豆の良高のもとに、あの間宮から麟一の行方が届く。だが、それと同時に金の無心もしてきたが、良高はその十倍の金を出してもいい、と喜ぶ。
 そして緑のもとにも、敏子から麟一の無事を告げる電報が届く。緑はようやく、麟一の将来は麟一にまかせよう、という気になる。
 そして彼女は姉の遺骨を抱いて連絡船に乗るのだった。

***

 で「善良な姉の死によって全てまるくおさまる」ラスト。
 ワシがここで気にくわないのは、緑がここで叔父さんに一言の「あの時はすみませんでした」的な言葉を吐かないことなんたよなあ。謝るのは一方的に叔父さんだけなんだよ。異母弟である直子さんのダンナに謝るのはいい。だけど叔父さんは「あんた達」の中に緑を入れなくちゃいけない義理は無い。
 で、遺骨を抱いて帰途につく時、やっと「弟の好きにさせてやろう」と思ったりするけど、果たして本心からそう思っているのかは判らない。何てその部分は唐突に出てくるし、彼女の心情も出て来ていない。
 直子の死で気持ちが変わったなら、そこんとこ書き込んでくれないと未消化。

 そこでまあ、投稿時の吉屋が、投稿規程の「仮名」にヒロインの名を使ったことを思い出すんだよな。
 このドグマの強さといい、頭に血が上る辺りといい、「男に生まれたかった」だの、男ら選ばれるのはごめん、だの吉屋の分身的意味合いは非常に強い。
 で、その緑は「謝らない」。この辺りが非常に気になる。というか、吉屋自身が叔父さんに代表される「世間」に対して謝りたくないんじゃねーか、と思った訳だ。

 しかしやっぱりこの緑さんとんでもねえわ。 
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