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21.屋根裏の二処女①あらすじ・その3
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更に続きどす。
***
「第四篇」
やがて屋根裏の部屋で、章子と秋津さんは一緒に生活するようになる。二つの部屋を二人で使うようになる。
片方を書斎にし、昼間はそちらで過ごし、夜は寝室にした方で休む。
ある日、林檎の会を開くことになった。余ったお皿のために章子はバタを彫刻する。
この日集まったのは、工藤さんと矢野さん、お静さん、佐々川さん、太田さん、森さんの六人であった。それぞれがそれぞれの個性を持っている。
秋津さんは章子を連れてよく夜の街をそぞろ歩く。それにやがて工藤さんが加わる。寄席に入った三人。章子はそこで見かける男達にしみじみと幻滅する。
煙草に辟易していた工藤さんは、「大型の扇子は持っていないから」と小座布団をぱたぱたさせる。さすがに煙草はその姿をひそめる。寄席自体はおもしろかった。
冬に入って、街へ出たとき、秋津さんは黒い絹の手袋を1ダース買う。皆へのプレゼントとして。そして友達たちと「黒い手袋党」ということにする。
またある日、その集団で、工藤さんの誘いでN氏の個人展覧会に行く。そのN氏に対して、いつもと違う、普通の女のひとに見られる仕草をとる工藤さんに章子は驚く。
展覧会の後、皆工藤さんに対して敬意を見せるような批評をする。
黒い手袋党でクリスマスをすることになった。その日秋津さんを訪ねてきた美しい女性がいた。彼女は秋津さんあてに可愛らしい人形を贈って姿を消す。
秋津さんは名乗らぬその客のことを章子にたずね、その正体が判ると、章子の前では初めて涙した。
「第五篇」
新年が来た。秋津さんは故郷が遠い(北海道)なので帰らない。章子は郡会議員の伯父の家へと帰っていった。従姉妹の相手などをして日々を過ごすが、屋根裏の秋津さんのことを考えると胸がいっぱいになってしまう。熱病患者のようにしてペンを動かし、手紙を書くが、読み返し、狼狽し、字を次々と塗りつぶす。ただ一つ、「貴女を愛します」という言葉以外。だが、その一つすら彼女はやがて塗りつぶす。
故郷を離れ、屋根裏へと帰るのが章子はたまらなくうれしかった。ところが帰ってみると秋津さんの姿がない。外出したのだと舎監は言う。
卓の上にある人形を見て、不安になる。そして秋津さんの書棚の上にあった電報の「独り、待つ」の言葉に激しく動揺する。
そして彼女は自分を現在苦しめている激しい感情が嫉妬であることを知る。
工藤さんはその電報の主を知っていた。現在は伴男爵の夫人となっている「旧姓呉尾きぬ」さんであること。その彼女が夫君の留守に秋津さんを呼び寄せたのだということ。それを知って章子はますます苦しむ。
秋津さんは翌日帰ってくる。その姿に章子はただ喜ぶ。
やがて工藤さんが悪性の感冒(インフルエンザ)にかかったと矢野さんが告げた。章子は工藤さんが病気のため、意識不明のため、あの伴夫人に嫉妬する自分の 様子を誰にも喋られずに済む、とほっとする。だが、そのほっとする自分に思い当たり、身の毛がよだつ思いをする。やがてそのまま工藤さんは亡くなる。
葬儀のあと、小さな洋食屋で「女」そのもののような店の女給を見てうんざりとするが、客の一人の兵士の、ライスカレーを二皿みごとに食べて帰った姿に、生命の一つの現れがあった、とすがすがしい思いをする。
ある時から、秋津さんに手紙が良く来るようになる。手紙は伴夫人からだった。読むたびに秋津さんが暗い表情になっていくのに章子は不安になる。だが自分にはどうすることもできないのが判る。そしてそれは章子にとってひどく苦痛なことでもあった。
やがて、手紙のことは普段は気にもとめないような秋津さんが自分で手紙を漁りに行くようになる。章子はその様子を見て苦しむ。 ある時、章子は伴夫人が秋 津さんに贈った人形を手にし、いきなり畳の上に投げつけ、にらみつける。そして人形の腕をねじあげる。と、それはぽきりと折れてしまった。
秋津さんを失ったという思いは、章子を落胆させる。勉強にも身が入らず、再試験を命じられる。試験はなんとかなったが、自分が生命のない泥人形になったような日々がそこにはあった。
ある日、矢野さんが来たが、屋根裏の二つの部屋からどちらも返答が得られないので、あきらめて降りていってしまった。
次ぎにお静さんが登ってきた。彼女は遠慮なしに部屋に入ってきた。章子は彼女のずうずうしさが嫌いである。その嫌いなひとが秋津さんのものを取りに来た。それに気付くと、章子の頭に血が登った。
隣の部屋で籐椅子の上で静かに寝ている秋津さんに毛布と羽根枕を捧げて立っているお静さんの頬をなぐる。
お静さんは泣きながらそれを舎監に告げに行く。
章子は秋津さんを打ちつつ哀願する。私を顧みて、私は貴女なしでは生きていけない…
*
> 章子は非常に咽喉に渇を覚えた――自身の頬がくわつくわつと火のやうにほてつて、咽喉がかわいて苦しかつた――弱い弱い暴君は苦しげに喘いだ――章子は秋津さんを打ちつゝ哀願した――私を顧り見てください――私は貴女なしで生きられません――もう一度、もう一度あはれ、いまひとたび、いま、、ひとたび――私を私をかへり見てください――とあらゆる哀願の泪と共に、烈しく烈しく火の如く、かく烈しく喘ぎつゝ愛する者を打ちつゝけた。
あゝ誰かするに跪まづかずして、拳を振らうぞ!
しかし、章子は拳をあげて、しかし哀願した、あはれ、世にも痛ましく悲しき狂おしき哀願!
*
舎監は章子に退寮を命じた。ぐずぐずしているとどんな恐ろしいことがおこるか判らないと章子は震えながら荷物をまとめる。そこへ、秋津さんがやってくる。 そして自分と一緒に行くという。伴夫人のことを心配している章子に秋津さんは、伴夫人からの手紙を見せる。「一緒に死のう」という夫人の言葉に心動かされ もしたのだが、やはり章子のことが思いきれなかったと言う。
自我のために、恋愛のできなかった夫人は、死ぬことで強い自我を表そうとしていた。そしてまた章子は自分にも自我があることに気付く。そして秋津さんは「自我を持った強い女として一緒に生きよう」と言う。
そして彼女達は二人して屋根裏に別れを告げる。
***
で、詳しくはまた②以降なんですが。
ともかくこの主人公章子の秋津さん以外への閉鎖性の息苦しさったらありゃしない……
なんですが、一応これ、プロデビュー作「地の果まで」と同時期に書いた、「やや理想化された私小説的なもの」なんですよね。
秋津さんはモデルはいても理想化された女性。
ただ章子はなあ……
つづくっ。
***
「第四篇」
やがて屋根裏の部屋で、章子と秋津さんは一緒に生活するようになる。二つの部屋を二人で使うようになる。
片方を書斎にし、昼間はそちらで過ごし、夜は寝室にした方で休む。
ある日、林檎の会を開くことになった。余ったお皿のために章子はバタを彫刻する。
この日集まったのは、工藤さんと矢野さん、お静さん、佐々川さん、太田さん、森さんの六人であった。それぞれがそれぞれの個性を持っている。
秋津さんは章子を連れてよく夜の街をそぞろ歩く。それにやがて工藤さんが加わる。寄席に入った三人。章子はそこで見かける男達にしみじみと幻滅する。
煙草に辟易していた工藤さんは、「大型の扇子は持っていないから」と小座布団をぱたぱたさせる。さすがに煙草はその姿をひそめる。寄席自体はおもしろかった。
冬に入って、街へ出たとき、秋津さんは黒い絹の手袋を1ダース買う。皆へのプレゼントとして。そして友達たちと「黒い手袋党」ということにする。
またある日、その集団で、工藤さんの誘いでN氏の個人展覧会に行く。そのN氏に対して、いつもと違う、普通の女のひとに見られる仕草をとる工藤さんに章子は驚く。
展覧会の後、皆工藤さんに対して敬意を見せるような批評をする。
黒い手袋党でクリスマスをすることになった。その日秋津さんを訪ねてきた美しい女性がいた。彼女は秋津さんあてに可愛らしい人形を贈って姿を消す。
秋津さんは名乗らぬその客のことを章子にたずね、その正体が判ると、章子の前では初めて涙した。
「第五篇」
新年が来た。秋津さんは故郷が遠い(北海道)なので帰らない。章子は郡会議員の伯父の家へと帰っていった。従姉妹の相手などをして日々を過ごすが、屋根裏の秋津さんのことを考えると胸がいっぱいになってしまう。熱病患者のようにしてペンを動かし、手紙を書くが、読み返し、狼狽し、字を次々と塗りつぶす。ただ一つ、「貴女を愛します」という言葉以外。だが、その一つすら彼女はやがて塗りつぶす。
故郷を離れ、屋根裏へと帰るのが章子はたまらなくうれしかった。ところが帰ってみると秋津さんの姿がない。外出したのだと舎監は言う。
卓の上にある人形を見て、不安になる。そして秋津さんの書棚の上にあった電報の「独り、待つ」の言葉に激しく動揺する。
そして彼女は自分を現在苦しめている激しい感情が嫉妬であることを知る。
工藤さんはその電報の主を知っていた。現在は伴男爵の夫人となっている「旧姓呉尾きぬ」さんであること。その彼女が夫君の留守に秋津さんを呼び寄せたのだということ。それを知って章子はますます苦しむ。
秋津さんは翌日帰ってくる。その姿に章子はただ喜ぶ。
やがて工藤さんが悪性の感冒(インフルエンザ)にかかったと矢野さんが告げた。章子は工藤さんが病気のため、意識不明のため、あの伴夫人に嫉妬する自分の 様子を誰にも喋られずに済む、とほっとする。だが、そのほっとする自分に思い当たり、身の毛がよだつ思いをする。やがてそのまま工藤さんは亡くなる。
葬儀のあと、小さな洋食屋で「女」そのもののような店の女給を見てうんざりとするが、客の一人の兵士の、ライスカレーを二皿みごとに食べて帰った姿に、生命の一つの現れがあった、とすがすがしい思いをする。
ある時から、秋津さんに手紙が良く来るようになる。手紙は伴夫人からだった。読むたびに秋津さんが暗い表情になっていくのに章子は不安になる。だが自分にはどうすることもできないのが判る。そしてそれは章子にとってひどく苦痛なことでもあった。
やがて、手紙のことは普段は気にもとめないような秋津さんが自分で手紙を漁りに行くようになる。章子はその様子を見て苦しむ。 ある時、章子は伴夫人が秋 津さんに贈った人形を手にし、いきなり畳の上に投げつけ、にらみつける。そして人形の腕をねじあげる。と、それはぽきりと折れてしまった。
秋津さんを失ったという思いは、章子を落胆させる。勉強にも身が入らず、再試験を命じられる。試験はなんとかなったが、自分が生命のない泥人形になったような日々がそこにはあった。
ある日、矢野さんが来たが、屋根裏の二つの部屋からどちらも返答が得られないので、あきらめて降りていってしまった。
次ぎにお静さんが登ってきた。彼女は遠慮なしに部屋に入ってきた。章子は彼女のずうずうしさが嫌いである。その嫌いなひとが秋津さんのものを取りに来た。それに気付くと、章子の頭に血が登った。
隣の部屋で籐椅子の上で静かに寝ている秋津さんに毛布と羽根枕を捧げて立っているお静さんの頬をなぐる。
お静さんは泣きながらそれを舎監に告げに行く。
章子は秋津さんを打ちつつ哀願する。私を顧みて、私は貴女なしでは生きていけない…
*
> 章子は非常に咽喉に渇を覚えた――自身の頬がくわつくわつと火のやうにほてつて、咽喉がかわいて苦しかつた――弱い弱い暴君は苦しげに喘いだ――章子は秋津さんを打ちつゝ哀願した――私を顧り見てください――私は貴女なしで生きられません――もう一度、もう一度あはれ、いまひとたび、いま、、ひとたび――私を私をかへり見てください――とあらゆる哀願の泪と共に、烈しく烈しく火の如く、かく烈しく喘ぎつゝ愛する者を打ちつゝけた。
あゝ誰かするに跪まづかずして、拳を振らうぞ!
しかし、章子は拳をあげて、しかし哀願した、あはれ、世にも痛ましく悲しき狂おしき哀願!
*
舎監は章子に退寮を命じた。ぐずぐずしているとどんな恐ろしいことがおこるか判らないと章子は震えながら荷物をまとめる。そこへ、秋津さんがやってくる。 そして自分と一緒に行くという。伴夫人のことを心配している章子に秋津さんは、伴夫人からの手紙を見せる。「一緒に死のう」という夫人の言葉に心動かされ もしたのだが、やはり章子のことが思いきれなかったと言う。
自我のために、恋愛のできなかった夫人は、死ぬことで強い自我を表そうとしていた。そしてまた章子は自分にも自我があることに気付く。そして秋津さんは「自我を持った強い女として一緒に生きよう」と言う。
そして彼女達は二人して屋根裏に別れを告げる。
***
で、詳しくはまた②以降なんですが。
ともかくこの主人公章子の秋津さん以外への閉鎖性の息苦しさったらありゃしない……
なんですが、一応これ、プロデビュー作「地の果まで」と同時期に書いた、「やや理想化された私小説的なもの」なんですよね。
秋津さんはモデルはいても理想化された女性。
ただ章子はなあ……
つづくっ。
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