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3 姉との対峙
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姉の部屋をノックすると、ひどくうるさそうに「だれよ」とうめく様な声がした。
「入ります」
答えを待たず、私は扉を開けた。
カーテンが閉まった部屋。
すえたような臭いが部屋中に籠もっている。
「誰が入っていいって言ったのよ」
そう低い声で、姉が寝台からのそ、と起き上がる気配がする。
私はつかつかと窓の方へと歩いていき、さっとカーテンを開けた。
「何をするのよ! 大して寝てないんだから寝させてよ! ……え、ゾーヤ?」
「おはようございますお姉様。このテーブルの上にある包みは一体何ですか」
「はあ? 私のものに決まってるじゃないの! わざわざ人の部屋に勝手に入って何やってるのよ!」
そう言ってのそ、と寝床を這い出てこちらへやって来ようとする。
だがその巨体は、彼女の思いとは裏腹に、なかなか動こうとはしない。
「そうですわね。それだけぶくぶくと太った身体で、あの店まで馬車を走らせて荒らし回ったなら、そりゃあお疲れにもなるでしょう」
ふうふうとまだ半分寝ている身体でこちらにやってくる前に、私は袋の中身を見た。
「これは何ですかお姉様」
嗚呼! と背後からやってきた母が悲鳴を上げた。
判ってはいたことだろうに、それでも。
「うるさいわ…… うちから出した資金で出した店のものだし? 私が持ってって何か悪いっていうの?」
「残念ながら、あの店の権利はもうこの家とは分離していますし、私は既に初期資金を返却しています。つまり貴女とは一切関係ありません」
「生意気な」
そう言いながら、袋の置いてあったテーブルにぴた、と手のひらを押しつけた。
私はその瞬間を狙って声を上げた。
「今です。お入りくださいませ!」
姉の部屋には一気に私と母以外の来訪者が飛び込んできた。
扉の後ろで私達の会話は聞いていたことだろう。
義兄と父が姉を取り押さえてくれる。
「セラヴィト様、テーブルに姉は両手をしっかり押しつけました。指紋を採るには最適です」
「ご協力ありがとうございます」
第二捜査員達が即座に採取用の道具を取り出した。
一方で、無造作にベッドサイドに放り出していた鍵も見つけてくれた。
「これはお店のものですか?」
「はい、私のものはこちらに」
同一のものであることはすぐに認められた。
酷く力を入れて押さえつけながら、父は姉に向かって悲痛な声でつぶやいた。
「……何ってことだ。お前がそんなことするとは…… 惣領娘として恥ずかしいことを!」
「何よ! お父様もいつもあれの肩を持って! そもそもいつまでも結婚もせずに、好き勝手やってるゾーヤが悪いんじゃないの! 小さい頃から身体が弱いって皆にちやほやされるし、今だって、好き勝手やって、お父様の持ってくる縁談も次々断って!」
「そ、それは」
父はそこに関しては言いよどんだ。
確かに私は父の持ってくる縁談も断り、男嫌いのまま仕事中心に楽しく暮らしている。
父はその点については何も言えないのだろう。
だが。
「何言ってるんですか!」
つかつかと歩いてきた母がその時、ぴしゃ、と大きく音を立てて姉の頬をひっぱたいた。
「お母様?……」
「お前は…… お前がそれを言う資格はありません!」
私ははっとしてお母様の側に駆け寄り、その口を止めようとした。
だがお母様はそれを制止し、まずお父様の方を向いた。
「貴方、この子が昔病弱だったのは確かですが、それはほんの四~五歳までですわ」
「だが、十四の時に唐突に病気になって、別荘で静養させた時、お前がついていったのは事実だし……」
「その理由を作ったのは誰か、ということですよ!」
母は姉の髪を引っ張って自身の方を向かせた。
「ゾーヤがあの時身体を壊したきっかけを作ったのは誰だと思っているの!」
「入ります」
答えを待たず、私は扉を開けた。
カーテンが閉まった部屋。
すえたような臭いが部屋中に籠もっている。
「誰が入っていいって言ったのよ」
そう低い声で、姉が寝台からのそ、と起き上がる気配がする。
私はつかつかと窓の方へと歩いていき、さっとカーテンを開けた。
「何をするのよ! 大して寝てないんだから寝させてよ! ……え、ゾーヤ?」
「おはようございますお姉様。このテーブルの上にある包みは一体何ですか」
「はあ? 私のものに決まってるじゃないの! わざわざ人の部屋に勝手に入って何やってるのよ!」
そう言ってのそ、と寝床を這い出てこちらへやって来ようとする。
だがその巨体は、彼女の思いとは裏腹に、なかなか動こうとはしない。
「そうですわね。それだけぶくぶくと太った身体で、あの店まで馬車を走らせて荒らし回ったなら、そりゃあお疲れにもなるでしょう」
ふうふうとまだ半分寝ている身体でこちらにやってくる前に、私は袋の中身を見た。
「これは何ですかお姉様」
嗚呼! と背後からやってきた母が悲鳴を上げた。
判ってはいたことだろうに、それでも。
「うるさいわ…… うちから出した資金で出した店のものだし? 私が持ってって何か悪いっていうの?」
「残念ながら、あの店の権利はもうこの家とは分離していますし、私は既に初期資金を返却しています。つまり貴女とは一切関係ありません」
「生意気な」
そう言いながら、袋の置いてあったテーブルにぴた、と手のひらを押しつけた。
私はその瞬間を狙って声を上げた。
「今です。お入りくださいませ!」
姉の部屋には一気に私と母以外の来訪者が飛び込んできた。
扉の後ろで私達の会話は聞いていたことだろう。
義兄と父が姉を取り押さえてくれる。
「セラヴィト様、テーブルに姉は両手をしっかり押しつけました。指紋を採るには最適です」
「ご協力ありがとうございます」
第二捜査員達が即座に採取用の道具を取り出した。
一方で、無造作にベッドサイドに放り出していた鍵も見つけてくれた。
「これはお店のものですか?」
「はい、私のものはこちらに」
同一のものであることはすぐに認められた。
酷く力を入れて押さえつけながら、父は姉に向かって悲痛な声でつぶやいた。
「……何ってことだ。お前がそんなことするとは…… 惣領娘として恥ずかしいことを!」
「何よ! お父様もいつもあれの肩を持って! そもそもいつまでも結婚もせずに、好き勝手やってるゾーヤが悪いんじゃないの! 小さい頃から身体が弱いって皆にちやほやされるし、今だって、好き勝手やって、お父様の持ってくる縁談も次々断って!」
「そ、それは」
父はそこに関しては言いよどんだ。
確かに私は父の持ってくる縁談も断り、男嫌いのまま仕事中心に楽しく暮らしている。
父はその点については何も言えないのだろう。
だが。
「何言ってるんですか!」
つかつかと歩いてきた母がその時、ぴしゃ、と大きく音を立てて姉の頬をひっぱたいた。
「お母様?……」
「お前は…… お前がそれを言う資格はありません!」
私ははっとしてお母様の側に駆け寄り、その口を止めようとした。
だがお母様はそれを制止し、まずお父様の方を向いた。
「貴方、この子が昔病弱だったのは確かですが、それはほんの四~五歳までですわ」
「だが、十四の時に唐突に病気になって、別荘で静養させた時、お前がついていったのは事実だし……」
「その理由を作ったのは誰か、ということですよ!」
母は姉の髪を引っ張って自身の方を向かせた。
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