上 下
13 / 17

13 タメリクス侯爵夫人サムウェラ(3)

しおりを挟む
「そこまで調べがついていた訳」

 え、とティムスとマリエはサムウェラを見る。

「このひとは、児童人身売買に関わっているのよ。
 最近のこの子供達の保護の流れの中でね」
「人聞きが悪い。
 そっちとどれだけ違うというの? 
 親も家も無い、道ばたで死んでいくしか無い子供達に、住処を与えるという意味ではそう変わらないのではなくって?」
「そこから逃げ出した子が病院に保護されたのよ」

 ぴく、とサムウェラの眉が動いた。

「そう」
「見つけたのは、街角で幻覚に苦しめらてふらふらしていたところを馬車にひっかけられたからよ。
 街では事故にあった身寄りのなさげな子供は病院に連れてくる様に、と告げてあるわ。
 謝礼をするとも」
「馬鹿じゃないの。
 それ目当てに自分で傷つけたり腕わ折ったりしてくる子供も居るでしょうに」
「それならそれでいいわ。
 ケガは保護する名目でもあるのだから。
 ともかくその子は病院で目覚めた時、まだ幻覚症状が抜けてなかった。
 調べてみたら、アルカロイド系の薬物が使われていたわ」
「それで? 
 だからと言ってすぐに私に結びつく?」
「その子供がね、外に咲いていたエンジェルトランペットを酷く怖がったのよ。
 しばらくして落ち着いてから、その理由を聞いてみたわ。
 そうしたら、自分が捕まっていた家には、沢山それが咲いていて、首を垂れた様な花が、いつか自分が吊される姿じゃないか、っていう幻覚にすり替わってしまったんですって」

 エンジェルトランペットは、その名の通り、空から天使がハレルヤとラッパを吹く姿に似ていることから名か点けられている。
 白や黄色、オレンジの花が、重く大きく下向きに広がっているものである。

「あれは美しいけど、幻覚症状を起こす成分で一杯ということを貴女は知っていたでしょう?」
「それが? どうして?」
「貴女昔から、そういう花が好きだったわよね。そう、そっちのテーブルに挿したジギタリス」

 そう言って指すルージュに、自分のテーブルだったマリエがびく、とした。

「ああ、ジギタリスは心臓の薬にもなるから、それはそれでいいのよ。
 でもまあそういう類が、沢山貴女の実家にはあったわね。
 確か使用人が、花壇から紛れたスノーフレークの葉をニラと、スイセンの根を玉葱と間違えて食べて大変なことになったとか言っていなかったかしら? 
 それも貴女、結構な笑顔で」

 ひっ、とティムスは息を呑む。

「記憶力が良いのね、
 昔と貴女、そういうところはまるで変わらない。
 だからこそ今でも女学者侯爵夫人と呼ばれるのよ」
「答えて、楽しかったの?」
「楽しかったと言えば貴女は喜んでくれるのかしら?」

 サムウェラは唇の端をきゅっと上げて笑んだ。

「いいじゃない。
 ちょっとばかり、私の方が損したのだから」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この世界はラボラトリイ~自分が居なくとも世間からずれた感覚の後輩が幸せになって欲しい。

江戸川ばた散歩
青春
事故で死んだはずの倉瀬は、何処か判らない場所でそこの「管理人」に呼び止められる。 ずっと世話をしてきた妹の様な存在であるトモミに何事か起きたから行くべき場所に行けないのだと。 世間とずれた感覚を持つトモミと彼の今までとそれから、そして。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

〈完結〉夫を亡くした男爵夫人、実家のたかり根性の貧乏伯爵家に復讐する

江戸川ばた散歩
恋愛
東の果ての国の赴任先で夫が病気と聞き、大陸横断鉄道の二等列車に乗り込もうとするメイリン・エドワーズ大使夫人。駅の受付で個室が取れない中、男爵夫人アイリーン・ブルックスに同室を申し込まれる。彼女は先頃夫である男爵を亡くしたばかりだった。一週間がところかかる長い列車の旅の中、メイリンはアイリーンの、新聞沙汰にもなった一連の話を聞くこととなる。

間違いなく君だったよ

江戸川ばた散歩
恋愛
「君」は静かの海で待っていた。私のことを。私に殺されるために。 カクヨムの企画で書いた短編ですが、こちらにも。

〈完結〉ここは私のお家です。出て行くのはそちらでしょう。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」マニュレット・マゴベイド男爵令嬢は、男爵家の婿である父から追い出される。 そもそも男爵の娘であった母の婿であった父は結婚後ほとんど寄りつかず、愛人のもとに行っており、マニュレットと同じ歳のアリシアという娘を儲けていた。 母の死後、屋根裏部屋に住まわされ、使用人の暮らしを余儀なくされていたマニュレット。 アリシアの社交界デビューのためのドレスの仕上げで起こった事故をきっかけに、責任を押しつけられ、ついに父親から家を追い出される。 だがそれが、この「館」を母親から受け継いだマニュレットの反逆のはじまりだった。

(完結)離婚された侯爵夫人ですが、一体悪かったのは誰なんでしょう?

江戸川ばた散歩
恋愛
セブンス侯爵夫人マゼンタは夫から離婚を哀願され、そのまま別居となる。 どうしてこうなってしまったのだろうか。彼女は自分の過去を振り返り、そこに至った経緯を思う。 没落貴族として家庭教師だった過去、義理の家族の暖かさ、そして義妹の可愛らしすぎる双子の子供に自分を見失ってしまう中で、何が悪かったのか別邸で考えることとなる。 視点を他のキャラから見たものも続きます。

処理中です...